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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第三十二話 えっちなのはいけないと思います

 これでボクに手を出してくる人は居なくなったはずである。

 そう思っていた時期が、ボクにもありました。


 目の前には大量の花束。

 そして頭を下げた少年。

 ボクはというと素っ裸で、アリューシャの服を脱がせにかかって――


「――っ! この、出てけえぇぇぇぇ!」


 とにかく、面倒な闖入者を蹴り出す事にしました。




 時は三十分ほど前に遡る。

 アーヴィンさんとの立ち合いを終えたボクは、汗を流すべく自宅のお風呂を目指していた。

 昨日、アルドさんに風呂釜を作ってもらい、石鹸も試作したので試したい。


 小屋の裏に設置された浴室に行き、インベントリーから大量の水袋を解放して、風呂に水を貯める。

 いつもは聖火王の冠で【ファイアボール】をブチ込んで湯を沸かすのだけど、個人用の狭い浴槽でそれをやると、水が飛び散ってしまう。あれは広い泉でやるから可能だった荒業だ。

 そこで聖火王の冠そのものを湯に放り込んで沈めておく。

 この装備の炎は装備者以外には実際の炎として影響を与えるので、水に触れればお湯が沸く。

 しかも水に沈めた程度では消えないのは、ゲーム内で実証済みだ。

 なにせフィールド全体が海底と言うマップだってあるのだから。


 お湯を沸かしている間に、着替えとタオルの用意をしておく。

 糸や布といった資源は迷宮では採れないが、タルハンとの貿易で少数ながらこの開拓村に流入してきている。

 もちろん購入するのに困るほど、ボクの生活は困窮していない。


 全ての用意を終えてアリューシャと一緒に服を脱ぎ――そこでアリューシャの姿を見て噴き出した。

 彼女も普通のワンピースを着ていたのだが、首元の紐を緩めずに服を脱ごうとしたため、顎が引っかかって顔が巾着状態でウネウネ踊っていたのだ。


「ぶはははっ! アリューシャ、それは――ごめ、その動きやめて! お腹痛い」

「もー、ゆーね、たすけてよぅ」

「紐を緩めてから脱がないから」


 ボクはすでに服を脱ぎ終えていたので、アリューシャのお手伝いをする。

 一旦服を下げさせ、胸元の締め紐を解いく。


「ほら、アリューシャ。ばんざーい」

「ばんじゃーい」


 両手を上げた所で服をスポンと引っこ抜く。

 その時だ。玄関のドアが勢いよく開いたのは――


「ゆゆゆ、ユミルさん! 僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」

「ハァ――?」


 闖入者は大量の花束を突き出し、そう叫んだ。

 こうして冒頭のシーンへ戻る。うん、ボクは悪く無いね。




 クサレ闖入者のおかげでお風呂はまた延期である。

 沈めた冠を回収しておき、インベントリーにしまう。放置すると、熱湯ぐらぐらの状態になってしまうからだ。

 とりあえず服だけはやっつけで外見を整え……まぁ急いでいたのでパンツは履いていないが、客人を迎え入れる。

 一応悪気はあるわけじゃなさそうなので、歓迎せねばなるまい。

 古来より、吐哺握髪(とほあくはつ)――客が来たら、食事中であれば食べ物を吐き出し、洗髪中でも髪を絞って出迎えよと言うらしい。


 少し苦味のある草を乾燥させた、この地独特のお茶に ミルクを加えたものをカップに入れて差し出す。

 アリューシャのものにはミルクとスーリの実を一粒。これをスプーンで潰せば、即席でイチゴミルクが作れる。


「で、なんの用?」


 さすがに完全全裸状態を見られたとあっては、にこやかに対応できない。

 ここに来て初めてかも知れないくらい、不機嫌そうな声が出た。


「あ、あの……その……きょうはその、僕と――」

「付き合えっていうなら、そんな気は無いんで。帰ってもらえるかな?」

「そ、そんな!」

「そんなもなにも……当たり前でしょう!」


 バンとテーブルを一叩き。

 ミシリと罅が入ったけど、気にしない。

 でもアリューシャがビックリした後、なんだか泣きそうな顔をしているので少し落ち着こう。


「ゆーね、おこってる……?」

「怒ってないよ。ビックリしただけ」


 恐る恐るたずねてくる彼女の頭を抱いて、額にキス。

 それで泣きそうな顔は無くなった。これでよし、と。


「で、あなた――カロン君だったっけ?」

「覚えててくれたんですね!」


 パァッと顔を輝かせるカロン。その程度で喜んでどうする。

 万が一僕が告白受けてたら、即死したんじゃないか、コイツ。


「そりゃ、奇襲に対応できず気絶した挙句、目を覚ますなり押し倒した相手を忘れる訳ないでしょう」

「うぐっ! いや、あれは事故で――」

「知ってます」


 ツーンと顔を逸らし、あからさまに不機嫌な態度を見せてやる。

 よくアリューシャがやる、怒ってますアピールだ。

 これでボクの隔意を悟ってくれればいいんだけど――なぜ顔を赤らめる?

 しまった、アリューシャは天使、いや女神なんだから、真似たら魅力的に見えるのは当然か……!


「ハァ……まぁ、あなたも昨日出会ったばかりの相手と付き合うとか、ありえないって言うのは判りますね?」

「……ええ、まぁ。それでも僕はあなたに見惚れてしまったのです!」

「迷惑です」


 バッサリと一刀両断してやる。

 アリューシャ、そこでなぜ頬に両手を当てて身悶えているのかな?


「ゆーね、ゆーね。かわいそうだよ?」

「いいの。ボクにはアリューシャがいるんだから。アリューシャがお嫁に行くまで、ボクはずーっと一緒だからね!」

「ゆーね……わたしも!」



 ヒシッと彼女と抱き合い、絆を再確認する。

 もっともボクの天使をそこらの男に渡すつもりはない……アリューシャのお婿さんになるなら、最低でもボクより強い男でないとね。

 それに、ボクは元々男なのだ。男と付き合うとか論外なのである。

 なのでコヤツと付き合うつもりは欠片も無い。可哀想だが諦めてもらわなければならない。


「そういう訳で、最低でも後十年はボクは独身の予定です。諦めてください」

「待ちます!」

「結構です」


 なかなかにシブトイ。時間的なもので断るのは無理か。ならば……


「それにボクより弱い人と付き合うつもりもありませんので」

「弱い……そうか、それで今日アーヴィンさんと勝負したんですね!」

「違うし」


 何を言っているのだ、コイツは。


「確かに僕ではまだ勝てない……でもいつか、必ず、あなたを越えて見せますから。それまで待っていて下さい」

「嫌ですってば」

「ハッ、誰か心に決めた人でも――まさか、アーヴィンさん!?」

「違うってば」


 どうしよう、こいつ話が通じない。

 まぁ、これでアーヴィンさんが防波堤になってくれるなら、こっちは楽でいいかな?

 今日の一件といい、彼には迷惑掛けっぱなしなので、今夜はお酌くらい付き合ってあげるとしよう。


「僕、負けませんから!」

「はいはい……」


 ぐったりした気分で、面倒な来客を追い払う事にした。

 立ち上がってと扉を指差し、『早く出てけ』と合図する。そもそもボク達はまだお風呂の途中だったのだ。

 さすがにこれ以上居座るのは迷惑と察したのか、カロン君はトボトボと玄関に向かい扉を開けた。


「ひゃあっ!?」


 その時、勢いよく風が吹き込んできた。

 浴室の換気のため、裏の窓を開けていたので、風の通り道が出来ていたのだろう。

 その風にボクとアリューシャのスカートは勢いよく舞い上がった――そしてボクは、急遽外見を整えたために、下着類を着けていない。

 その悲鳴に咄嗟に振り返ったカロン君と視線が合う。いや、彼の視線はボクの下半身に向いていた。


「あ、あの……ボク見てませ――」

「さっさと出てけぇ!」


 こうして、彼は再度蹴り出される事になった。

 厄介な事になってきたなぁ。想像とは違う方向で。




 アリューシャとのふれあいの時間は、何かとストレスの多い今大草原においてボクの貴重な癒しの時間だ。

 お風呂のお湯を沸かしなおし、先にアリューシャの体を洗っておいて、湯船に浸からせる。

 彼女は子供なので、お風呂に入れるとすぐ飛び出そうとするのだ。

 逆にボクは日本人の性か、とても長湯になる。だからボクと一緒だとゆっくりと浸かってくれる。

 なのでいつもアリューシャの方が先にダウンしてしまうので、こうして先に温まらせておくのだ。

 そしてボクが身体を洗い終わると、入れ替わりにアリューシャが頭を洗って、その間少しクールダウンさせることができる。


「ゆーね、それなにー?」

「昨日作った石鹸。ちょっと試してみようと思ってね」

「わたしも! わたしもつかう!」

「ダメ、まだ試作品なんだよ。ひょっとしたら肌がかぶれるかも知れないでしょ?」


 大理石の粉を煮詰めた牛脂で煮固めたような、粗雑な品だ。肌に悪影響があったら目も当てられない。

 ボクなら色々頑丈なので、実験体には丁度いいのだ。

 組合証のステータス表示で判明したのだが、この世界の一般人とボクのHPの差はなんと五百倍にも及んでいるのだ。

 しかも自動回復付き。これはもう、覆しようのない差である。

 だから多少のかぶれ等は物ともしない……はず?


 軽くタオルに石鹸をこすり付けてみるけど……あまり泡立たない。

 そりゃ、現実世界の化粧石鹸ほどとまでは期待してなかったけど、これは悲しい。

 首を傾げつつタオルで身体を擦ってみるが、脂の(ぬめ)りが先に来て、正直あまり気持ちよくない。

 いや、ユミルのオイルプレイと考えればこれはこれで……やっぱ無いか。


「うーん、いまいち?」


 ただし、擂り潰した大理石の粉がスクラブ効果を発揮しているのか、それなりに肌は磨けている感触はある。

 でもこれは――


「刺激が強すぎるなぁ。女の子向けじゃないかも知れない」

「しっぱい?」

「うん……いや、男性向けにはいいかも知れないけど」


 それに獣くさい匂いがどうにも……やっぱり失敗作だ、これは。


「匂いも良くないし、失敗作かな? 植物油でも取れれば、そっちの方がいいかも」

「しょくぶつあぶらー? うーん……」


 アリューシャも湯船の端に顎を乗せて考え込む。

 なに、その小動物っぽいポーズは。子犬みたい。


「それにヨモギ混ぜちゃったらダメなの?」

「んー、どうだろう? それよりまたヨモギ?」

「えへへ、草のにおい、すきなの」


 そう言えばこの子、初めて岩の上でキャンプしてた時もそんな事言ってたっけ。


「あ、でもスーリの実も好きー」

「はいはい。あ、でも後付で匂い付けるのはアリかも知れないな」

「スーリ味のせっけん?」

「食べちゃダメー」


 サバイバル系食いしんぼ幼女を嗜めてから、お風呂を上がる事にした。

 石鹸についてはまた考えるとしよう。




 翌日。

 最近、商品が増えてきたので、売り場を食堂の一角に変更した。

 さすがに小屋の前では捌ききれなくなってきたのだ。

 後でアルドさんにお願いして小屋の改装もやってもらおうかな?

 とにかく、その食堂兼よろず屋に、一人の商人がやって来ていた。


「では、二百ギルでどうでしょう?」

「安すぎですよ、材料の事も考えてください。六百は貰わないと」

「勘弁してください、ここまで来てその価格では儲けが出ません。二百五十で」

「冒険者達も命がけなんですよ? 五百です」


 商人さんは執拗に値切り倒してくる。

 目当ての品は、チャージバードの羽を詰めたクッションだ。

 これは意外と評判がいい。

 なぜなら、チャージバード自体が迷宮や洞窟内部にしか生息していないため希少。

 さらに狩れる冒険者も中級以上であるため、素材自体があまり流通していない。


 だがこの鳥、羽毛の質が実に良いのだ。

 高速機動を行うため、羽は隅々まで軽く、そして柔軟。

 さらに戦闘生物であるため、外皮を守る羽毛は強靭さも兼ね備えている。

 つまり、クッションの中に入れておくと、通常よりもふわふわのクッションが出来上がり、しかもふんわり感が通常の物よりも遥かに長持ちするのだ。

 実際、アリューシャと作った最初の羽毛クッションはそろそろ四ヶ月が経過しようかと言うのに、いまだにふわふわである。

 毎日椅子に敷いて腰を掛けている事から考えても、驚異的な持続力である。


 これに三層に出現する怪力熊(パワーベア)の腹の毛皮をコーティングする事で、さらに肌触りもよく仕上げてある。

 この店では六百ギル――およそ六千円で取引しているが、納得の品質なのである。

 それを二百は、あまりに安すぎる。素材の買い取り費用にすら届いていない。


「在庫を纏めて買いますので、もう少しサービスしてもらえませんか? 四百でどうです?」

「…………まぁ、いいでしょう。今回だけですよ?」


 かなり苦渋の決断である。

 でもここまで来た苦労を水の泡にするのは、あまりに不憫だ。

 このクッションも他に例がない物だから、ひょっとすると暴利を貪っていたのかも知れないし、ここらで妥協しておこう。ギリギリ利益の出る範囲だし。

 その商人さんは小躍りしながら、クッションを買い取っていった。


 後日、ヒルさんに、タルハンの街でこのクッションが八百ギルで売られている事を聞いた。

 今後は値引きしてやるものかっ!


ユミルのHPはおよそ五万。一般的な冒険者が百ちょっと位です。

ROとSW2.0の数値差がそのまま採用されていると思ってください。

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― 新着の感想 ―
普通、真っ先に身に着けるのがぱんつじゃないのか?
[気になる点] 脱字:てい 一旦服を下げさせ、胸元の締め紐を解い・・く。 余字:と 立ち上がってと扉を指差し、『早く出てけ』と合図する。
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