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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第二十六話 井戸を掘ってみた

ここからが実質二章になります。

 組合に加入して、さらに一ヶ月が経過した。

 あれから方々の冒険者達が合流し、迷宮周辺はちょっとした開拓村の様相を成している。

 冒険者の数はおよそ五十人ほど、十パーティ程度になっていた。


 彼らの宿泊施設を作るためにアルドさん達は連日のように小屋を建てている。

 そして、彼らに食料を提供するために、ボクも食堂のような物を開く事になった。

 タルハンとの輸送が間に合わないため、迷宮から直接食材を調達しなければならないのだが、それが出来るのがボクしか居ないのだ。


 食堂と言っても、普通の店のように個別に料理を提供できる訳ではない。

 そもそも、そんな人手が全く足りていない。

 だから、食堂に入るときに銀貨一枚を徴収し、中で大鍋料理を自由に食べてもらうという方針にしてある。

 他にも牛肉や鶏肉のグリルなど、勝手に取って食べれる物を主体にした、ちょっとしたビュッフェ形式だ。

 味も種類も、専門の料理屋には全く及ばないが、保存食よりマシな物を腹いっぱい食べれるとあって、連日人で賑わっている。


「ゆーね! お鍋がもう空っぽ!」

「わ、判った、すぐ作るよ」

「ただいまー、あー! アリューシャちゃんだ! ぎゅーっしていい?」

「んきゃぁ!? ゆーね、たすけてぇ!」


 でっちあげた厨房のそばで、不意を突かれたアリューシャが女性冒険者に捕獲されている。

 彼女のプニプニほっぺは女性冒険者の癒しとなっているのだ。

 もちろん男性は触れる事ができない。さすがにセクハラ扱いされる。

 ボク、今女性でよかったよ。


「はぁい、アリューシャはお手伝い中なんで、解放してあげてくださいねー」

「えぇ! もうちょっとだけ……」

「だぁめなのー!」


 じたじた暴れて無事に脱出。

 そのままお水をテーブルに並べる作業を再開した。


「ここの料理は美味いし量もあるから文句はねぇんだが……酒が欲しいなぁ」

「あと女っ気もな。いや、可愛い子達ではあるんだけどよぉ」

「色気がねぇ……」

「つまみ出すぞ、そこぉ!」


 失敬な事をのたまう連中を、鍋のお玉でビシッと指し示す。

 ボク渾身のデザインであるユミルに向かってなんて事を!

 アリューシャに関しては仕方の無いところではあるが。


「やっぱ、お酒が無いのは問題あるよなぁ。こういう店だとさ」

「ゆーね、お酒飲む?」

「お酒は二十歳になってからだよ、アリューシャ」


 少なくともユミルは十代前半である。

 組合証の表記でも、年齢欄は十三と表示されていた。ボクの設定通りだ。


「酒造りは微妙な管理が必要なんで、ボクには無理だなぁ」

「何だ、じゃあ材料は持ってきてもらえるんか?」

「ん、アルドさん、ひょっとしてお酒作れたりする人ですか?」


 ひょっこりやってきたアルドさんは、片手に酒瓶を抱えている。

 これはタルハンの街から貿易で持ち込んだ物を買ったらしい。

 今この地で流通してる酒は、全て外から持ち込まれたものだ。


「どぶろくみたいなもんだがな。ドワーフの嗜みじゃ」

「それはいいですね、ここで売るんでぜひ作ってくれませんか? 材料は調達しますし、お金も支払いますよ?」


 ほとんど材料費を使用していないのに、毎夜銀貨三十枚、およそ三千ギル程度が懐に入ってくるのだ。日本円にして三万円くらいだろうか。

 酒を造る手間賃くらいなら惜しくない。


「フム、では米を――」

「ありません!」


 残念ながら、未だに迷宮で米が発見されたという話は聞かない。

 そもそもボク以外は、ようやく二層に到達したかという程度なのだ。ボク自身だって六層以下にはまだ潜っていない。


「しかたないの、じゃあ芋じゃ。ほら……朝、小屋の前で売っとる芋の菓子が有るじゃろ? あれの材料でよいわ」

「ああ、タロの芋ですね。それなら、まぁ……」


 ボク達は、朝は小屋の前でお弁当を冒険者達に売っている。

 と言っても凝った物ではない。

 芋を蒸かして、潰して、ベーコン、野草、干し果物を混ぜ込んだ三種の芋饅頭を販売している。

 これはそれぞれ個別に作り、三個一セットとして売っているのだ。

 ベーコンが入ったものは主食用。野草の入ったものは栄養バランスを考えて。そして果物入りはデザートとして食べてもらっている。

 男性にはベーコン入りが、女性には果物入りが評判で、個別に売ってくれと言われる事も多いのだが、そうすると野草入りだけが余ってしまう。

 ここであまり偏った食生活をして、ビタミン不足で脚気などになってもらうのも困るので、野草入りも強制的に食わせる意味でもセット販売にしている。


「それと建築用の粘土も足りん。持ってきてくれれば酒の手間賃くらいは負けてやるぞ?」

「あ、それはありがたいですね」


 粘土は六層の床にみっしりと敷き詰められていた。

 あの階層は全体が粘土でできているといっても、過言ではない。

 どうやら、ベヒモスが散々踏みしめて砂利が細粒化し、そこに地下水脈の水分が流れ込んで粘土化したらしい。


 それに六層には他にも便利な物が有った。

 ベヒモスのいた中央部屋から東にある部屋で、そこは噴水部屋になっていたのだ。

 やはり雄々しく屹立した男性像から水が噴き出していて、泉を作っていた。

 ここも、一層と同じくセーフティエリアらしく、モンスターがやってこないのだ。いや、この層全体がそうなのだろうか? ベヒモス以外の敵の姿を見かけない。

 ちなみに五層への階段は南にあり、七層への階段は北に有った。残る西の部屋にはアリューシャを封じていたような台座が一つ設置されていて、これは機会があれば説明することにしよう。


 そして、ボク達がもう一度六層に降りても、再度ベヒモスが出てくることは無かった。

 どうやら一度討伐されたら、二度と出てこないタイプの敵だったようだ。


「あとな、明日は井戸を掘ろうと思っとるんじゃ」

「井戸ですか? 確かにあれば便利ですけど」


 冒険者の数も増えて、この地には今七十人ほどの人が生活している。

 水源が噴水頼りというのも、そろそろ限界に来ていた。

 こころなしか噴水の彫像もやつれているような気がする。多分気のせいだけど。


「これだけ草が生えておるんじゃ、地下水脈は確実に有るだろうよ」

「それはボクも考えてましたけどね。ここ、雨とかあんまり降らないのに、草が枯れませんから」

「それで井戸を試掘してみようという話になってな。明日、組合の職員と掘ってみることにした」

「それはそれは……頑張ってください」


 アルドさんも大変だ。建築に酒造に井戸掘りか。

 意外と多彩な人だな。


「なにを他人事みたいに。お嬢も来いと言っとるんじゃ」

「えー……ボク、朝はお弁当販売とかあるんですよ?」

「そんなもん、職員を派遣してもらうわい。お嬢の馬鹿力が必要なんじゃ」

「ヒドイ言い様……」


 こんな華奢な美少女に向かって失礼な。

 いや、見た目以上にタフだけどさ。ステータス的に。

 そんな訳で、翌日に井戸掘りに向かうことになった。めんどくせー。




 翌朝、芋饅頭の販売手順を組合の女性職員に教えたあと、井戸掘りの現場に向かった。

 アリューシャも目を擦りながら付いてきてる。相変わらず朝は弱い子だ。


「おう、来たかお嬢」

「来ないと、お酒造ってくれないでしょ?」

「はっは、そういう事になったかも知れんな!」


 快活に笑って見せるが、その顔にはすでに汗が光っている。

 どうやら一足早く井戸掘りを開始していたらしい。

 すでに人の身長ほども掘り進んでいて、土砂の運び出しが大変そうだった。


「じゃろ? つまりお嬢には、あの土砂を上に運び出す作業をやってもらいたいんじゃ」

「それ一番大変な所じゃないですか」


 下に降りて穴を掘るだけなら、意外と苦労はしない。それだって軽い作業ではないけど。

 一番大変なのは土砂を運び出す作業だ。

 これは穴を掘れば掘るほどに大変になっていくので、精神的にかなり、キツイ。

 幸いにも、穴の上部には丈夫な滑車を取り付けてもらっているので、一人でも引っ張り上げることは可能だろうけど。

 滑車にはロープが結ばれていて、その先にはドラム缶のような大型の桶が付いている。


「親方。あれをボク一人で持ち上げろと?」

「人手が足りんのじゃ」

「そりゃ判りますけどね……手伝ってくださいよ?」

「当たり前じゃ」


 それから数時間、ひたすら穴掘りに従事した。

 お弟子さん達が穴を掘り、出た土をドラム缶に詰める。その土をボクと親方で引っ張り上げて、脇に積み上げていく。

 引き上げる土は一度に百キロを超える重量だったはずだが、人類の常識を遥かに超えるユミルの筋力値の前では、それほど障害にならなかった。


 ベヒモスを倒したことで一気に十レベル以上の成長を遂げたボクは、その成長ポイントの全てを筋力につぎ込んだ。

 スタイル的に、敏捷はカンストしているし、知力も一流レベルに有ったので、今度は筋力を上げてダメージの底上げを図ったのである。

 この結果、筋力の数値はほぼ倍増し、百まで引き上げることが出来た。これで知力と並んだことになる。

 やはり高レベルのレベルアップは、ポイントの伸びが凄まじい。

 この成長で、クニツナと呼ばれる武器の破壊力をかなり利用することが出来る様になった。

 このクニツナ、ミッドガルズ・オンラインにおいて最大の攻撃力を持っていて、あまりに下方修正されまくった魔導騎士の救済アイテムとまで言われていたのだ。

 ただし、最大限に活用できるのは筋力百二十を超える高筋力型なので、今までのユミルにはあまり恩恵がないアイテムだった。

 だがこれで、ようやくこの武器の真価をそれなりに発揮できる。


 それはともかく、筋力をかなり高位まで引き上げたおかげで、ドラム缶の土程度はまるで塵芥(ちりあくた)の様に引っ張り上げる事ができた。

 アルドさんはかなり呆れた表情をしていたけど、第一陣の人達にはすでにボクの異常性は知れ渡っているので、今更の事だ。

 ことさら言いふらす様な人達でもないので、人目が無い時は少しだけ遠慮しない事にしている。

 数時間掘った所で引き上げる土がじわりと湿りだしてきた。

 さらに一時間堀り、そろそろ昼休みに……と思った所で、一気に水が溢れ出す。


「やった、水が出たぞ!」

「これで飲み水にも困らなくなった!」

「まぁ、待て……まだ水の質が判って無いぞ」


 慎重論を唱える声も有ったが、それでも歓喜は隠しきれていない。

 今までは冒険者達に水を運んでもらっていたのだから、喜びもひとしおだろう。




 その後、お昼ご飯を食べている間に、井戸はすっかり水で満ちた。

 水質を調べてみたところ……と言っても、この世界では目で見て飲んで調べるしかない訳だが、飲用になんら問題が無いということが判明したので、周囲を石垣で囲って固めていく。

 こうして夕方にはすっかり共用井戸が完成する事となった。


 夕方、食堂の準備が遅れている事に失望した冒険者たちだったが、井戸が出来たと聞いて喜び勇んで水を飲みに行く。

 彼らはその場で服を脱ぎ(男性だけだったが)早速水浴びを始めて、女性陣の顰蹙を買っていた。

 そんな騒ぎの隙に、ボクは遅れていた食堂の準備を進める。

 家の地下室に保存した(事にしていた)羊や牛の肉をスライスして、香草で炒める。

 青いバナナに似た風味の果物と一緒に炒める事で、甘酸っぱいような青臭いような風味をつけておく。

 これはベトナムを始めとした東南アジアでは、わりとよくある料理法だそうだ。

 ただこの食材、煮ると灰汁が凄まじく出るので、手間をかけられない状況ではこういった炒め物にした方がいいだろう。

 さらに油を熱して、芋、野菜、バナナ、肉などを一気に揚げていく。

 本来てんぷらと言うのはファーストフードだったのだ。こういう状況にこそ真価を発揮する。

 これらを皿にデンと盛り、トングで各自取り分けてもらって、芋と一緒に食べてもらう。

 パンや米が欲しいけど、ここは仕方ない。


 そうして準備を終えた頃には、水浴びを終えてさっぱりした男性陣と、その醜態にプリプリ怒った女性陣が戻ってきた。

 こうして一日で一番忙しい時間帯が始まることになった。


週一ペースにしようかと思いましたが、せっかくGW中なので、この期間位は日刊維持してみようかと思います。

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