表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
255/272

第二百五十三話 密約

 ダンジョンコアを増やす。

 そのアイデアを聞いた一同は、それこそハトが豆鉄砲を喰らったような顔をした。

 当然だろう、この世界で迷宮とは偶然の産物でしか発見できない、非常に希少な地形の一つだ。

 求めて見つかるほど簡単な話ではない。


 だがそれをあっさりと増やすとボクは口にした。それはもちろん、それなりの勝算があっての話だ。

 しかしボクという存在と縁遠いケンネル王とタモンは、その言葉が信じられない。


「増やすとはどういう事だ? 確かにコアが増えれば、組合一強の情勢は崩せるかもしれんが……」

「この草原のどこかに、新しい迷宮を発見したのか!?」

「いえ、全然?」

「ならどこで……僕は海中まで迷宮を捜したというのに――」

「海中? ああ、潜水艦も呼べるのですか。それを使われていたら、こっちも危なかったかもしれませんね」


 潜水艦でこっそり近付かれ、上陸戦を仕掛けられたら、ボクに防ぐ手立てはなかっただろう。

 無論、その発想に到ったからには対策を立てさせてもらうが。

 まぁしかし、今はその話ではない。


「今ある迷宮を探し出すんじゃありません。作るんですよ、ダンジョンコアを」

「作る? そんな方法があるのか!?」


 この発言にはケンネル王も取り乱した。

 無限に資源を生み出す迷宮を人工的に生み出せるとなると、組合の権勢を崩すどころの話ではない。

 それこそこの世界の経済が大きく崩壊するほどの出来事になる。


「多分、ですけどね」


 ボクはトラキチに振り返り、その脇に控えるラミとキーコに視線を向ける。


「ラミ、キーコ。君達は結構前に『コアは擬人化したら人間にできる事は大抵できる』って言ってたよね?」

「ん。言った」

「できる」

「じゃあさ、子供を作る……ってできる?」


 ダンジョンコアであるラミとキーコが人間と同じ事ができるなら『妊娠』という行為も可能なはずだ。


「無論、可能」

「むしろ虎視眈々と狙ってる」

「すでにますたーは『風前(ふーぜん)の灯火』なのです」

「準備は万端。すでに作成項目の中から避妊具も削除済み」

「狙われてるのかよ! ってか、削除するなよ!?」

「ニヤリ」

「ジュルリ」


 獲物認定されたトラキチが悲鳴を上げ、鼠をいたぶる猫のような目でラミとキーコが彼を見る。

 まぁ、リア充がリア獣になった所でボクには関係ない。爆発させたくはなるが。


「トラの意見は置いとくとして。その場合、生まれてくる子供は人間? それともダンジョンコア?」

「調整可能」

「合いの子だってできる」

「ぶっちゃけ、行為すら不要」

「わたし達は迷宮内に世界を作る。コアもまた世界の一部である以上、作成は可能。『そちら』の神話で神が神を生み出したように、コアもコアを生み出す事ができる」

「ただし元のコアより強いものはできない。それはわたし達の力を超えた存在を生み出すことになるから」

「行為要らないなら、それで作ってくれよぉ!?」

「やだ」

「拒否」


 これもまた、予想通りの答えである。

 ダンジョンコアとは神の卵。すなわち限定された範囲内……つまり迷宮において、世界その物を作り出す能力を持っている。

 そしてダンジョンコアも世界に存在する物質の一つである以上、コアが範囲内にコアを作るという充分にあり得ると考えていた。

 キーコの言っている『そちら』というのは、おそらくボク達が転移してきた元の世界の事だ。

 まぁ、出産という経路を辿らなくても作れるらしいが、そこはそれ、ノリとか雰囲気というモノである。


「よし、トラ。お前ラミとキーコを孕ませろ」

「お前も女の子なんだから、もう少し言葉に気を使ってェ!?」

「だが断る」


 一つ、合いの子と言うのが少し気になるが、ここは普通にコアだけでも構わない。

 それに彼女達二人も予想以上に乗り気なので、ここは問題ないだろう。

 トラキチの意見? 却下だ。


「た、確かにそれで増やせるのならぜひお願いしたい所ではあるが……」

「こんな事……こんな手段が……」


 盛大に冷や汗を流すケンネル王と、ブルブルと震えるタモン。

 この世の富はコアの奪い合い。その前提を崩されて、正常な思考が追い付いてこないのだろう。


「もちろん、生み出されたコアがすぐに生産に役立つレベルにあるとは限らない。それまではまぁ、こっそり育成してあげなさい」

「あ、あぁ……」

「そのための後ろ盾を、ケンネル王国にお願いしたい。それがあなたを拉致し、ここに連れてきたもう一つの理由」

「もう一つの、というと他にも?」

「それはもちろん、休戦を宣言させるためだよ。まったく面倒な」

「うぐっ、それは……」


 言葉を失うケンネル王。だがその暴走もわからないではない。

 人間勝ちが続くと、さらに欲が出る物だ。かつて戦争でも、その欲求に負けて泥沼に陥った事もある。

 無論、わからないでもないが、共感はできない。


「こんな騒動、金輪際ごめんいただきたいね。その罰も兼ねて、この計画には参加してもらうよ」

「それは……」

「成功すればそちらにも利益はある。断るというなら、通常通り賠償金を請求して破綻してもらうだけだ」


 戦時賠償は大抵国が破綻するほどの額を要求される。そしてそれを断る事が、敗戦国にはできない。

 ケンネル王国はドルーズ共和国に甚大な被害を与えている。これを補填するほどの財力は、本国には残されていないだろう。

 そもそもケンネルは組合に干されて、破綻寸前まで追いやられている。これに耐えきる事は、おそらくできない。

 ボクはさらにダメ押しを仕掛ける。


「それに、この後見は別にケンネルじゃなくてもいいんです。言いたい事、わかりますね?」


 コアの養殖。それが可能ならば、おそらく組合どころかこの世界の富を独占する事も可能になる。

 そこに一枚噛めるかどうかで、今後の勢力図に対する影響力も変わってくる。

 そしてここには、組合の職員とキルミーラの重鎮が存在している。さらには人間とは違う勢力、ドラゴンの長も。

 断れば話が他所に流れるだけ、


「断る筋合いじゃないか……承知した。ケンネルは今後全力でコア育成に協力することを約束する」

「それも、この先少なくとも三代。およそ百年の単位で」

「百――!? く、これも敗軍の定めか」


 この先組合に睨まれながら、バレないように迷宮を育てないといけない。そしてそれが組合に対抗できるようになるまで、それくらいの時間は必要だろう。

 その間、ケンネル王国は、組合に睨まれ続けることになる。


 それは胃に穴が開くなんてレベルじゃないストレスを、国王に与えることになるだろう。

 もしバレれば、組合に今度こそ潰される。そうなれば国民を含め、多数の被害者が出ることになる。

 矛先をずらしながら、それでいて組織を育てる後ろ盾。それは細い糸の上を綱渡りするような負担を強いるはずだ。それを彼の孫の代に到るまで続けてもらう。

 それでも彼にはそれを引き受けてもらう。それだけの事をしでかしたのだから。


「では後で書面を送りますので」

「おい、信用しないのか!?」

「できるはずがないでしょう? それに国家間のやり取りは証拠を残さないと、後が厄介なんですよ。口約束なんてないも同然にされる可能性もありますから」

「これだけ証人を集めておいて、まだ念を入れるのか」


 元の世界でも、そういうごちゃごちゃしたニュースはよく流れていた。

 そしてこれからが本番だ。


「そしてタモン。あなたはその新組織の長に収まっていただきたい」

「俺……いや、僕が?」


 うっかり自分の事を俺と呼ぶタモン。おそらく彼は元の世界では、自分の事をそう呼んでいたのだろう。

 取り繕う余裕がなくなってきたのはいい事だ。こちらのペースという証拠である。


「これから先、その組織が軌道に乗るまでどれだけ時間がかかるかわからない。なら初志を貫徹できる、寿命の長い人材が必要だ」

「それなら確かに私達が適任でしょうけど……それなら、私でもいいんじゃない?」


 センリさんがボクの意見に反論を述べる。

 確かにタモンを信用する事は、はっきり言ってできない。だが、だからこそ適任と言えるのだ。


「たしかに平和なやり取りを望むならば、タモンよりもアリューシャやセンリさんに任せた方がいいでしょうね。なんだったらボクが受け持っても構わない」

「だったら……」

「でもそれだと、組合の対抗組織にならない可能性があるんですよ」


 この組織は組合のライバルにならねばならない。ならば決して組合に媚びず、(へつら)わず、妥協しない人間でなければならない。

 ボクもセンリさんも、組合の人間と関わり過ぎている。隙あらば組合のシェアを奪いとる様な積極性が、失われていると言ってもいい。

 つまり、ライバル組織を指揮するには、甘えが出てしまうのだ。


「この組織はあくまで組合のライバル。組合が不正を行えばそれを是正し、場合によっては実力行使も辞さない。そんな真っ当な競争相手になってもらわないとならない。ボクやセンリさんがこれを率いれば、談合が生じてしまう可能性がある」

「そんな事は……無い、とは言えないわね」


 ボクも彼女も、情は深い方だ。容赦ない競争相手になるには、性格的に向いていない。


「タモン、ボクは君のした事を許せない。だからこそ、敵対組織に居てボクと敵対するといい。組合が腐ればそれを食い破り、取って代わる気概を見せて欲しい」

「決して慣れ合わないために、敢えて僕をライバル組織に配置させる、と?」

「そういう事。ボクと君はお互い許せない存在だ。だからこそ、未来永劫反目し合う。そこに慣れ合いは存在しない」

「だが、その場合……今回のような事が起きないとも限らないよ?」

「そうだね。その時はまた止めるだけだ。そしてボクが道を踏み外した時は、君がそれを止めろ」


 彼が変わったように、ボクも人が変わる可能性がある。

 その時、ボクを止める戦力を用意しておきたい。そういう意味ではボクと対極の能力を持つ彼は実に都合がいい。

 これから先、ボクとタモンはお互いを監視し、評価し合い、そして競い合う事になる。


「だがその場合、この大陸の二大組織が競い合う事になる。その戦禍は今回を超える事にならないか?」

「それも考えました。そこでもう一つの組織を作ってもらおうと思いまして」

「もう一つの組織?」


 組織が二つだけだと、全面戦争になって凄絶な消耗戦になる可能性がある。

 そこでもう一つ組織があれば、二対一の情勢を作る事ができ、戦力比に差が出て下手な事ができなくなる。

 古代中国から存在する理論だ。


「という訳でキーヤン」

「ん? なんだ?」

「商会を一つ、立ち上げてみないかい?」

「はぁ!?」


 お互いを監視し合う経済圏を三つ作る。そうすればこれから起こる経済の混乱も、互いに監視し合う事で身動きが取れなくなり、穏便に乗り切れるのではないか、と考えたのである。

 もちろん、彼等はダンジョンコアを持っていないので、資金力という面では大きく劣る事になる。

 だがキーヤンにはもう一つの大きな伝手が存在する。


「そう。確かドラゴンは……酒が好きだったよね?」

「うむ。我らは種族的に酒に目が無いのだ」


 ガイエルさんはボクの言葉を肯定する。そこで思いついたのだ、これは商売になると。


「ドラゴンの為の酒を調達し販売する。その役目をキーヤンに受け持ってもらいたい。ドラゴン相手なら、鱗とか爪とかでもお金になるし」

「確かに鱗や爪は武器の素材になるな」


 特にガイエルさんの鱗とか、冒険者が喉から手が出るほど欲しいに違いない。

 そして鱗は定期的に生え変わるらしい。これもまた、新しい資源と呼べるのではないだろうか。

 もちろん、その経済圏はダンジョンコアを持つ両組織よりは小さいだろうが、ドラゴンを後ろ盾に持つこの販路は、下手に手出しできないはずだ。


「キーヤン、嫁を貰ってる事だし、そろそろ腰を落ち着けるのも悪くないでしょ」

「いや、あれは――もういい」


 何かもの言いたげな表情のキーヤンは、諦めたような溜息を吐いて、話を打ち切った。


「異論はなさそうだね? これで二つの組織を新たに作り、大きくしていくことになる。これはもちろん、組合の上層部にとっては正直気分のいい物じゃない」

「そこで私が内部で妨害工作に動くと?」

「まぁ、ヒルさんにはそこまでしてもらうのは……あくまでユミル村の支部長ですし。あくまで彼等に便宜を図る程度でいいですよ」


 そもそもにして、ケンネル王国や古竜王が後ろ盾に着くのだ。多少組合が干渉しても、どうにかするだろう。


「これからここに居る人間で組合に喧嘩を売る。とは言え、本格的に組合と事を構える訳じゃない。組合に対抗できる組織を作るために暗躍するんだ。そのための密約を、ここで結んでもらいたい」

「我等はあまり人の権力争いにはかかわりたくはないのだがな」


 渋い表情をするガイエルさんに、ボクは呆れた声を返した。


「いまさら何を言ってるんですか。キルミーラに高等学園を設立して、剣や魔法の達人を養殖しておいて」

「うっ、それは……」

「しかもキーヤンやハウエルを実験台に、人間の弟子を育てる計画も立ててるんだって?」

「いや、それは……」

「それに安定して酒が飲めるようになるんですよ?」

「よし、引き受けた」


 あっさりとガイエルさんは手の平を返した。

 彼のこういう単純な所は、素直に好きだ。


 こうして細かい所は後で詰めないといけないだろうが、大雑把な協力体制を組み上げる事に成功した。

 これからこの大陸は、大きな騒動が起きていく事になるだろう。


前2作がただ倒せばいいだけのボスだったので、今回は倒さずに事を纏めるという点に挑戦してみました。

孕ませ勢に押し負けたわけじゃないんだからねっ!w


次で本編は終了になります。

その後2話ほど番外的なエピローグを入れて完結する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ