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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第二百四十五話 決戦前夜

 ヒルさんの報告に、ボクは慌てて状況を確認する。

 確かにそろそろやってくるかもしれないとは思っていたが、いざとなるとどうにも覚悟ができない。

 しかしそれはそれとして、こちらも準備はまだ完了していなかった。


「アーヴィンさんは?」

「先日出発したばかりです。通信用のアイテムは持たせていますが、到着まであと一週間近くかかるでしょう」

「ならば……そうですね、ガイエルさんをそちらに差し向けますので、手伝ってもらいましょう」


 ガイエルさんが前線から抜けるのは痛いが、アーヴィンさんの役割も重要だ。しかも命の危険はボク達に匹敵するほどに高い。

 それにまだトラキチの解放も済んでいない。


「とにかく、ボク達はタルハンへ向かいます。村の防衛はアルドさんをメインに」

「承知しました。ではそのように」


 タモンの侵攻はボクじゃないと止められない。いや、ガイエルさんでも行けるかもしれないが、これは適材適所の配置の結果だ。

 ボクは背後でパワードスーツの調整をしていたセンリさんに声を掛ける。


「そっちはどうです?」

「命中精度の修正はすぐには出来そうにないかも。カザラくんに関節部を修正してもらえば、ちょっとはマシになるかも知れないけど、それには時間がかかりそう」

「タモン戦では使えそうにないですね」

「戦艦相手なら、そう細かい動きは必要に無さそうだし……って、自分で言っててなんか頭痛くなってきたわ」

「有り得ないシチュエーション過ぎますよね。まったく」


 時代は中世。剣有り、魔法有り、戦艦有りでパワードスーツ有り。

 そんなシチューションでの戦闘なんて、元の世界でも考えた事もなかった。


「それじゃタルハンへ行ってきます」

「はい、お気をつけて」


 ボクはセンリさんとアリューシャに合図して、再び迷宮へと向かう。

 これはアリューシャの転移魔法を一般人の目に触れないよう、隠し部屋で使用するためだ。

 屋敷内に飛んだボク達は、そのままレグルさんの元に訪れた。


「レグルさん、状況は?」

「来たか。今、南部沿岸地域の物見から連絡が入ってな。軍用艦四隻を主体にした合計十二隻の艦隊がこちらに向かってるらしい」

「十二隻ですか。艦隊の規模としてはそう多くないのですが……」


 そこにタモンの能力が入るとなると、話は変わる。

 奴の召喚がどのように行われるのかわからないが、軍艦十二隻に近代の軍艦が追加されることは間違いないだろう。


「こちらの戦力は?」

「軍用艦が八隻に輸送船が二十八隻。後徴用した民間商船が三十六」

「数は圧倒的なんですけどねぇ」


 軍艦を使用して制海権を取った後、街や沿岸部を制圧するために部隊を展開しないといけない。

 そのため、軍用艦以外にも上陸部隊をその倍以上随従させるのが、この世界の常識的な戦闘だ。

 タモンの場合、戦闘艦をその場で使えるので、十二隻はおそらく上陸後の戦力を運んできた輸送船か。


 どちらにせよ、近代艦とタルハンの帆船やガレー船が戦った場合、勝ち目はまったく存在しない。


「では予定通りに」

「いいのか? お前達だけが――」

「構いません。到着予定はいつになりそうです?」

「この速度を保てば、予定では明日の朝。船足はかなり早いな」


 大陸を周回する海流に乗って移動しているため、侵攻速度が速い。 


「住民の避難はどうなってます?」

「近隣の村に振り分けておいた。街に残ってるのは軍関係の人間ばかりだ」

「なら万が一があっても平気ですね」


 万が一……つまり、ボク達が敗北した場合の事だ。

 この戦力から見ると、恐らく敵は地上展開を考えていない。レグルさんのコアだけを標的とした派兵だろう。


「だとすれば……レグルさん、ボク達が負けた場合、コアを大人しく引き渡してください。マルティネスの身柄も」

「いいのか? コアが無くなれば街も維持できなくなるし……」

「マルティネスの命なんて、正直この際どうでもいいです。レグルさんがいなくなる方が問題だ」


 せっかくこの国はまともな人材が出てきているのだ。

 その筆頭たる彼がに無くなるのは、あとに続く者にとっても大きな痛手となる。

 ケンネルへの対抗勢力としても、マルティネスのような人材を排除できる人は必要だ。彼の命は最優先で護らなければならない。

 正直言うと、コアの方は補填する目星が、ボクにはある。


「ヤージュには最小限の人員で船団を展開するよう命じてある。明日の朝には沖に艦隊を展開できるはずだ」

「そうですか、よかった。餌は必要ですからね」


 艦隊すら展開せず、ボク達だけで突入したとなると、ボクの目論見が露見してしまう可能性があるからだ。


「ボク達は今夜、屋敷に詰めてますので、何かあったら即連絡を」

「おう。というかお前等に連絡しねぇと、こっちもどうしようもないからな」  


 こうしてボク達は、屋敷で決戦の準備に励む事になったのだ。





 屋敷の一室でボクとセンリさんは一緒にパワードスーツの開発を行っていた。

 彼女の装甲服の最大の難点は細かな機動や動作ができない点にある。それは今回のような大雑把な戦闘ではあまり意味はないかもしれない。

 それでもわずかな戦力の差が、生死を分けるかもしれない。できるだけの手は打っておきたい。


「関節部の細かい動きってどう制御してるんです?」

「細かい動作は私の動きをトレースして動かしてるの。ただ動きを拡大させてるから、どうしても雑になっちゃうのよね」

「元の世界では確かそこは電子制御してたりしますよね。そういうのはないんですか?」

「私のやってたゲームはスチームパンク系だからね。そこまでの技術力はないのよ」


 昔、動画投稿サイトで、肉体の動作をそのままトレースする人型搭乗機構を作っていたのを見た事がある。

 センリさんのパワードスーツは魔石等をベース動力にした、そういう機械に近い構造だ。

 筋力補助と飛行ユニット、光学兵器。それと重装甲。

 それを搭載できるだけでも、大きな戦力アップになっている。これ以上を望むのは難しいか? いや……


「そうだ、アレを使いましょう」

「アレ?」

「武装粘菌。スラちゃんに細かい部位の補助をお願いするんです」

「なによそれ……」


 メカメカしい機体にスライムを内蔵させ、精密な動きを補助させる。それがボクの思いついたアイデアだ。

 そのアイデアにセンリさんは渋い顔をして見せる。かつてのハウエルの惨状を思い出したのだろう。


「私、悶絶するのはちょっとイヤよ?」

「それはまぁ……スラちゃんも進化してますし?」

「それ、解決策になってないわよ!」


 センリさんは頭を抱えて悶えているが、スラちゃんだって無能じゃない。脳はないけど。

 いやむしろ、これ以上ないくらい便利で有能な子だ。

 あの失敗を元に人体構造を学習して、ボクで動く分には普通に負担は掛からなくなっている。

 問題はボクのレベルがセンリさんのそれより遥かに高く、身体能力の頑強さも参考にならない所にある事だ。

 こればっかりは、実際にやってみないと把握できない。


「じゃあ、あれです。関節の可動域に制限を付けるなんてのはどうでしょう? それ以上動けないなら、スラちゃんだって無理はできないはず」

「むむ、その手は有りかも?」


 ハウエルの時は完全にスラちゃんだけで外部装甲を補っていたので、関節構造の限界を超えた方向にまで曲がる事ができていた。

 そのせいで彼は使用後、限界を超えた機動を行い、筋肉痛と関節痛を併発し、血泡を吹く羽目になったのである。

 関節の機動範囲を限定しておけば、少なくとも関節痛は防げるだろう。

 筋肉痛の方は……センリさんの能力なら、きっと大丈夫。


「取りあえずもう時間はありませんので、関節部の改造とそこにスラちゃんを寄生させるシステムを、一夜漬けでやっつけちゃいましょう」

「時間無さすぎよね」

「仕方ないです。これでも相手はゆっくりした方じゃないですか?」


 その気になれば、ラドタルト陥落からノータイムで攻め上がってくる事もできたはず。

 恐らくは急な領土拡張による戦力不足が原因なのだろうけど、おかげでボク達も助かっている。

 今、時間は金よりも貴重なのだ。


「そう言えば、アリューシャが珍しく静かなんだけど……」


 先程から一言も発しない彼女を心配してボクが振り返ると、そこには理解できない言語について来るのを放棄して、ぐっすりと睡眠中の天使が存在した。

 あまりの無防備さに、襲ってくれと誘われているのだろうかと勘繰ってしまう。


「この子は……」

「ま、アリューシャちゃんには専門外の話だったからね」

「まぁいいです、それじゃ改造の方を――」


 センリさんとボクは、早速パワードスーツの改造に移る。

 ボクにはリンちゃんがいるけど、センリさんが海上で戦うためには、この機械は必須だ。

 水上を走る魔法もあるが、あの術は水を地面のように走れる魔法ではなく、水の表面張力を強化して、地面のように踏めるようになる魔法である事が判明していた。

 考えてみれば、水に一切沈まなくなると言う事は、水がコンクリートのように硬くなるのと同じだ。そんな状況で戦闘機動なんかすれば、確実に膝か足首を壊してしまう可能性もある。


 そういう訳で、水上歩行の魔法をボクに試した所、最初の一歩であっさり魔法を踏み抜いてしまったのだ。

 限界を超えるまで強化したボク達の筋力では、踏み込みの力を魔法が支えきれなくなってきていた。

 だからこそ、彼女のパワードスーツによる飛行能力は、戦場での足代わりに必要と言えた。


 こうして夜を徹しての改造が、決戦前夜に行われたのだった。




 朝靄のかかるタルハン沖合いで、ボク達は軍艦に乗っていた。

 一応大型の輸送船なので、リンちゃんも艦上で待機している。

 そのそばに待つボクは、両腕に通信用のマジックアイテムを固定し、いつでも連絡を受け取れるよう装備していた。


「まだ……来ませんね」

「時間的にはいつ来てもおかしくない」


 ここまでくると開き直るしかない。ボクはいまだ姿を現さない敵を、じりじりした感覚で待ちわびている。


「ユミル姉、本当に大丈夫?」

「ん、大丈夫。アリューシャも居るし」


 今回の戦闘では、アリューシャは前線にはついてこない。

 リンちゃんの後ろに一人乗る事はできるのだが、そこには交渉材料のマルティネスを載せる事になっている。

 それに敵の矢面に立つボクについてくると言う事は、即死する危険性を孕むと言う事である。

 そんな場所にアリューシャを連れて行く訳にはいかない。


「アリューシャの魔法は遠距離でもかけれるからね。ボクの命綱だから、しっかり頼むね」

「うん」


 返事にいつもの闊達さが感じられない。やはり心配の種は尽きないと言う所か。

 しかし彼女とて、完全に安全地帯にいる訳ではない。戦艦の砲撃は数十キロメートルという距離を飛翔する。 

 この世界の戦場の広さよりも遥かに長い距離を射程に収めるのだ。そしてアリューシャは、間違いなくその内側にいる。

 そのためにも、攻撃の目が彼女に向かないための餌が必要になる。それがボクとマルティネスなのだ。


「レグル様、来ました!」


 その時、艦隊で陣形を組み待ち構えているボク等に、物見からの報告が届けられた。

 時を同じくして、水平線の向こうから巨大な艦影が群れを成して迫ってくる。

 船足はこの世界の船よりもはるかに速い。


 初めて見る艦影に、一般兵士たちはどよめきを隠せなかった。


「なんだ、あの船は……」

「すべて鉄でできているのか? そんな物がなぜ水に浮かぶ?」

「あの上が平たい船はなんだ? バランス悪くないか?」


 全部が全部鉄でできている訳ではないが、この世界の基準から大きく外れた威容に驚きを隠せない。

 それがもうすぐ、自分達に襲い掛かってくる。そう考えただけでも、兵士達の足は竦む。


「さて、最後の決戦という奴を――始めますか!」


 ボクはそんな兵士を鼓舞すべく、必要以上の大声で、そう宣言したのだった。


本編終了まであと9話。エンディング含めてあと11話です。

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そんなシチューションでの戦闘なんて > いや、カオスフレアならあるんだ、そんなシチュエーションが。
[気になる点] 誤記:居なくなる その筆頭たる彼がに無くなるのは、あとに続く者にとっても大きな痛手となる。
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