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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第二十三話 お金の価値を学ぼう

 風呂から上がって悠々と小屋へと戻る。

 途中、粘土はアリューシャのインベントリーに仕舞っておき、彼女はボクが背負子(しょいこ)で背負うという亀の子の様な状態になっていたけど、今日はアリューシャが沢山頑張ってくれてたので良しとしよう。

 帰還の途中、迷宮に挑戦する冒険者達に出会った。

 リーダーっぽい人は二十歳過ぎくらいの、少々荒っぽそうな印象の人だ。


「おう、嬢ちゃん達。今帰りかい?」

「はい、お兄さん達もお疲れ様です」

「お、おつかれさま……」


 アリューシャはまだ人見知りのクセがあるみたいだけど、きちんと挨拶は出来た。

 頭を撫でてあげると、猫の様に目を細める。

 お兄さんも軽く手を上げてアリューシャに答えてあげてる。


「しっかし、噂にゃ聞いてたけど……キツイな、この迷宮は」

「そうです……ね?」


 うっかり『そうですか?』と言いそうになったので、急遽語尾を入れ替えた。

 高額アイテムや幼女を抱えている以上、あまり目立った真似はしたくない。


「大きな怪我はしてなさそうですけど?」

「まぁな。こう見えても、そこそこ場数は踏んでるんだ。チャージバード程度じゃ後れは取らねぇよ」

「それは頼もしいですね」


 ボクもチャージバード程度じゃ怖くないけど、ここはヨイショしておこう。

 食らえ、美少女(元男)の羨望の眼差しを!


「は、はは……それほどでも、ないけどなっ!」


 真っ赤になって頭を掻くリーダーさん。チョロいなぁ。

 ついでに入り口まで護衛してもらおう。その方が安全で楽だし。


「あの、良かったら入り口まで一緒に行きませんか? もう日が暮れる時間でしょうし」

「ああ、そうだな。俺達もそろそろ戻ろうと思ってたところなんだ。ついでだから一緒に行こう」

「ありがとうございますっ! ほら、アリューシャもお礼言って」

「うん? あり、がと」


 ボクの意図がつかめないアリューシャは、疑問符を頭に浮かべながらもお礼を言う。

 こうして初めて、他の冒険者と行動することになった。

 いや、アーヴィンさんたちとも行動してたけど、あの時はほとんどボクだけが戦闘してたし?




 途中でシャドウウルフの襲撃を受けた。

 そこで初めて他のパーティの戦闘というのを目にすることになる。

 前衛のリーダー達が前に出て敵を押さえ込み、後衛の魔術師達が魔法を詠唱する時間を稼ぐ。

 杖を振りかざし、長々と理解不能な言語を唱え、宙に魔法陣を描いていく。


 やはり、彼らの魔法を見る限り、ボク達のそれとは大きく違う。

 戦い方も攻撃ではなく防御を重視している。そりゃそうだ、この世界はゲームじゃない。死んだら終わりなんだから。

 後ろで眺めている限り、魔法の形態や戦闘の仕方も、ゲームでの常識とはかけ離れたものがあるようだ。この辺はゆっくりと学んでいく事にしよう。

 アーヴィンさんとの探索で、オートキャスト装備を使用して無くてよかった。あの時は武器も威力重視の物を使っていたから。


「あ、あぶなかった……」


 思わず口を付いて、本音が漏れる。

 もし、オートキャスト武器を使用してたら……また一悶着起きるところだっただろう。

 そんなボクの戦慄を何か勘違いしたのか、リーダーの人が気に掛けてくれた。


「大丈夫だ、俺達がちゃんと守ってやるって」

「あ、いえ、そうではなく――」

「この階層の敵なら充分倒せるさ。こう見えてアーヴィンたちより腕は上なんだぞ」


 そういえばアーヴィンさんも、タルハンの街ではかなり上位という話だったか?

 その上を行くなら、彼らはきっとトップクラスなんだろうな。だけどこれが基準とすると……

 ゲームではボクは大して強いキャラじゃなかった。ここではなんだか凄く強いように言われている。

 何か、違和感を覚える……ボクの強さってだけじゃなくて、もっと根本的な。


「ねぇ、ボクって……変かな?」


 そうアリューシャに訊ねてみると、『なにをいまさら?』と返されてしまった。

 彼女の最近の対応がちょっとぞんざいになってきた気がして、ちょっとショックを受けて帰途につくことになった。




 ボクたちはそのまま、組合に寄っていくことになった。

 ボクは試験の粘土を渡しに、リーダー達は回収した素材を売りに行くらしい。

 彼らがヒルさん相手に買取の手続きをしている間、ボクはアリューシャと実力について考察することにする。


「という訳で、実はボク達って強かったりする?」

「なにが『とゆーわけ』だかわかんないけど、ゆーねは強いって前から言ってるじゃない?」

「いや、ボクだけじゃなくって、アリューシャも」

「んぅ?」


 何を言っているのか判らないという風に肩をすくめる。

 まずい、このままでお姉さんとしての威厳が保てない。いくら知識はアリューシャ頼みとはいえ、バカにされたままはいけない。


「ほら、アリューシャはどうなのさ? 五歳児にしてはすっごく強いんじゃない?」

「わたし? うん、多分つよいよ。でもゆーねの方がもっとつよいの」

「……むぅ」


 どうも彼女も基準がボク基準になっていておかしくなってるかもしれない。

 そこへヒルさんから声が掛かった。


「お待たせしました。今日の首尾はどうでした? 見つかるまで報告に来る必要は無いですよ」

「あ、いえ。見つかったので持ってきました。ちょっと待ってください」

「はぁっ!?」


 アリューシャの椅子の陰に回りこみインベントリーを操作する。

 これで椅子の後ろに荷物を置いていたように見えるはず……多分。


「はい、これです」

「これは……」


 袋を開けてヒルさんが中身をチェックする。

 細かい粒子に、水分が含まれ粘りを帯びた土。間違いなく粘土のはずだ。


「確かに粘土ですね。建築に使えるかはアルドさんに聞かないと判りませんが、粘土があることは確かです……ふむ、ではこれで試験の合格を認めましょう」

「ありがとうございます!」

「ゆーね、やった!」


 喜びのあまり、思わず席を立った。苦労した甲斐があったというものだ。

 アリュシャと歓喜のハイタッチを交わす。


「全く、たった三日で見つけてくるとは……どこで見つけたんです?」

「あ、はい。お昼頃に地震があったでしょう? それで地割れが起きて六層に落ちちゃって……そこで見つけました」

「地割れ!? あ、でも迷宮ならば復元しますか……ともあれ、無事で何よりでした」

「ええ、本当に。あ、そうだ。六層にフロアボスっぽいのが居たんですよ。ベヒモス」

「ええぇぇ!?」


 ヒルさんは今度こそ本当に驚愕の声を上げた。

 その声に組合のロビーにいた人たちが振り返る。


「ベヒモス!? それって災厄級の魔獣ですよね? それが迷宮内に?」

「ええ、倒しましたけど?」

「倒したぁ!?」

「あ、これベヒモスの角です」

「あ、あぁぁぁ……」


 震える手で角を受け取り、呪文を唱える。

 詳細は判らないけど、様子から見て、どうやら鑑定系の魔法を使っているらしい。


「ま、間違いなくベヒモスの角ですね……」


 そのヒルさんの言葉にザワリとロビーがさざめく。

 確かに強かったけど、アイテムの準備さえしておけば倒せない敵じゃ……あ、いや。この世界ではそれでも強敵だったか。どうもゲーム基準の価値観が抜けない。


「この角も買い取りとかしてもらえますか?」

「ええ……いえダメです。本来なら喜んで買い取りたいところですが、今はまだこの支部にそれだけの資金がありません」

「ああ、そういえば……」


 まだ草原支部は出来たばかりだ。持ってきた予算だけで遣り繰りしないといけない。

 ベヒモスの角がどれほどの物か判らないけど、元のゲームでも結構な額で売れた記憶がある。

 まだ貿易の基礎すら出来ていないこの支部では、買い取れるだけの余力がないのだろう。


「まぁ、いいです。余裕が出来たら言ってください。残ってたら売りに来ますので」

「ええ、申し訳ありません。まさかいきなりこんな大物が出てくるとは思わなかったもので」

「そもそもボク達、貨幣の価値すらわかりませんしね?」

「えぇ!?」


 こちらに来て出会った人は数人しかいない。

 しかも取引は大概が物々交換のようなもの。これでは貨幣の基準を学べるはずもないのだ。

 なのでボクは、未だにこの世界の貨幣単位すら知らなかったりする。


「それは問題ですね……判りました、教えますから別室へどうぞ」

「あはは、お手数かけます……」


 ヒルさんはボクらを衝立(ついたて)で区切られた別室に案内し、カウンターを部下の一人に任せる。

 彼が連れてきた部下も数人しか居ないため、彼がカウンターから離れるのは大きな負担になるだろう。




 粗末な椅子とテーブルしか無い部屋に案内された。

 まぁそれも仕方の無い話。これらはボクが作ったものだし。

 ヒルさんはテーブルの上に数種の貨幣を並べていく。


「この世界の貨幣単位はギルと言います。これが基準になる一ギル銅貨ですね」


 一枚の小さな銅貨を摘み上げる。大きさは十円玉程度だろうか。

 次に穴開き銀貨を飛ばして、普通の銀貨を手に取った。大きさは五百円玉くらい。


「そしてこれが百ギル銀貨です。これ一枚で大体ちょっと奮発した昼食が食べられる程度でしょうかね」


 その基準で言うと、日本円にしたら千円程度なのか?

 とすると、一ギルは十円で間違いなさそうだ。

 そして穴開き金貨を飛ばして、更に大き目の金貨を手に取った。五百円玉より更に大きいサイズだ。


「で、こちらが一万ギル金貨。一般人の月給はこれが二、三枚というところですね」


 フム、金貨一枚が十万円というところかな?

 元の世界でも、記念金貨だとそれくらいしたかも知れない。


「合間にある穴の開いた貨幣は五十単位ですね。こっちは通常の貨幣より少し価値が落ちます。こちらが五十ギル銀貨。こっちは五千ギル金貨です」

「なるほど……いくつか国があるそうですけど、貨幣の価値はどこも同じなんですか?」

「ええ、金貨や銀貨の価値は統一されています。でないと、あちこちの金貨や銀貨で差が出たら流通に支障が出るので、国家間でも牽制しあってる状態ですからね」

「どこか安い金貨が出たら、その貨幣が使用されなくなってしまう……?」

「はい、そして貨幣の弱体化は国力の低下に直結します。なので、これらは各国が価値を均一にするように協定が結ばれています。そしてその監視を中立組織である『組合』が請け負ってもいます」


 各国の貨幣価値の監視も組合がやっているのか。もはや世界を牛耳っていると言ってもいいんじゃないのか、この組織……

 まぁとにかく、貨幣の単位は大体判った。価値も日本円に換算しやすいし、今後は問題ないだろう。


「ありがとうございます、勉強になりました」

「ありがとーございます」


 ボクと一緒にアリューシャも揃って頭を下げる。

 彼女は物理的な知識は豊富だが、こういう世事に関しては知識が無い。

 貨幣についてもほとんど知らなかったようだ。


「では、次に組合の加入手続きに入りましょうか。こちらをお読みください」


 ヒルさんは鞄から二枚の書類を広げ、こちらに手渡してくる。

 書かれた文字は……見慣れないものだった。

 だけど読める。ボクは日本語のつもりで話しているが、口から出るのは全く違う言語だ。

 この文字も全く違う文字なのに、日本語のように脳内に流れ込んでくる。まるで翻訳されているかのように。


「これは?」

「組合規則ですね。組合に加入する事で得る利益と不利益。義務と権利などです。そして迷宮に関する権利書がこちら」

「あ、はい」


 今度は書類の分厚い束をテーブルに広げる。

 どうも長い話になりそうだ……


後二話で一区切りになります。

次はまた明日。

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