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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第二百二十九話 二度目のマクリーム


 北への遠征が決まった訳だが、ボクもアリューシャも学校がある。

 そうホイホイと休みを取って、北へ行く訳には行かないのだ。


 ルイザさんにマンドラゴラを聞いた日の翌日には、登校しないといけないため、遠征は一週間遅れとなる。

 その間、アリューシャは見てる方が可哀想になるくらい、粗食を貫いていた。

 ボクとしては元気に食べてくれるアリューシャが好きだったんだけど、いくらスタイルのためとはいえ、これは何か違うと思う。

 この日も、いつものように中庭で昼食を取っていたのだが、アリューシャの頑固さは相変わらずだった。


「アリューシャ。ほらこっちのアップルパイとかどう? ランデルさんに作ってもらったんだけど」

「いらない」


 いつもなら甘味と酸味の入り混じったスイーツに涎を垂らして飛びついてくるアリューシャが、プイと顔を背けて拒否の意思を示す。

 基本的に食べ物はきちんと完食する子なのに、残すなんてとても心配になる。


「無理はよくないよ? どうせ週末にはコーウェル王国へ遠征に出る訳だし」

「それまでに太っちゃったら、意味ないもん」

「むぅ、アリューシャも難しいお年頃になって来たなぁ。ひょっとして見せたい相手がいるとか?」

「うん」


 冗談混じりに茶化してみたら、なんと肯定の言葉が返ってきた。

 バカな。ボクのアリューシャに、ぼぉいふれんど、だと……?


「だ、誰なのかな? ひょっとしてエルドレット? それなら彼には死を覚悟してもらわないと……」

「ユミルお姉ちゃんだよ」

「え? あ、そう……か。うん、それは楽しみではあるんだけど……」


 ボクのためにつらい思いをしてまで痩せたいだなんて、なんだか間違ってるような気がしないでもない。

 ボクはふんわりしたアリューシャが好きなのだ。もちろん痩せててもボクの好意に変わりはないと断言できるが。

 現代日本のダイエット術に詳しいセンリさんに応援を要請したが、彼女もこの世界の食材には詳しくない。

 しかもかれこれ七年も、物理法則の違うこの世界に馴染んでいるのだ。

 その知識もかなり怪しいモノとなっていた。


「ドレッシングも無しにサラダをつついたって、美味しくないでしょ?」

「おいしいよ。ピーマンはいらないけど」

「あ、そこは好き嫌いを貫くんだ?」

「あれは美味しくないの。苦いし」


 アリューシャの味覚はまだまだお子様なようである。

 つまりダイエットなんて不要と言う証明かも知れないけど、彼女はこうと決めたらテコでも動かない。

 これも、昔からの性格である。


 そんなアリューシャを、どことなく怯えたような目で見るカルバートとエルドレット。

 不機嫌な女性が怖いというのは、どの世界でも共通な様だ。

 ちなみにテマ達は一緒にいると思う存分食べれないと言う事で、しばらくは学食に通う事にしたようだ。

 友達甲斐が無いと思うなかれ、彼等なりの気遣いの結果なのだから。





 そんな微妙に緊張感あふれる一週間を過ごし、ようやく週末が訪れた。

 ボク達は北のコーウェルへ遠征しに行かねばならないので、テマ達の世話はセンリさんにお願いしておいた。

 週末の迷宮探索は、彼等の貴重な収入源なので、休む訳には行かない。


 コーウェルに向かう面子はボクとアリューシャ、それにアーヴィンさんとルイザさんの四人である。

 彼等と組むのも実に久しぶりだ。


 遠征の時間が週末だけと限られているため、出発は学校が終わってすぐとなった。

 夜間の行軍になってしまうが、そこはリンちゃんの機動力に期待している。

 引っ越しの際に開発した輸送用の籠を吊るし、そこにアーヴィンさんとルイザさん、それにセイコととウララも乗せて、北へ飛ぶ。


 スレイプニール達まで連れてきたのは、目標とするマンドラゴラがどこに生えているのか判らないので、機動力を確保したかったからだ。

 ボクとアリューシャはリンちゃんに乗れば問題ないが、アーヴィンさん達の足が無いのでは時間切れになってしまう可能性も有る。

 黄昏時を轟々と風を切って飛翔しながら、ボクは吊り籠に押し込められたアーヴィンさん達に声を掛けた。


「寒くないですか、ルイザさん。ついでにアーヴィンさんも」

「大丈夫よ」

「俺はついでかよ!?」

「眠くなったら言ってくださいね? アリューシャが強制的に覚醒させますので」

「違う、それは優しさではなく拷問だ!」


 アリューシャの【リザレクション】は覚醒の魔法へと変化している。

 それは睡魔に敗北しても問答無用に叩き起こせる魔法と言う事でもあるのだ。

 もちろん、状態異常を治す魔法は別にちゃんとあるので、これを使うまでも無いのだが。


「任せて、アーヴィンおじさん!」

「任せらんねぇ! それとおじさんはヤメテ!」


 夜風に吹かれながらも意外とアーヴィンさんは元気そうだ。

 それもそのはずで、籠の中はセイコとウララも入っているので、風除けと、体温でほんのりと温かいのだ。

 決して、毛布で一緒にくるまっているルイザさんの温もりではない。おのれリア充め。


 一昔前のリンちゃんなら重さにふらつくだろう重量を積んで、一直線に北へと向かう。

 リンちゃんもここ最近で一気に成長しており、身体も一回り大きくなっている。

 そろそろタルハンの迷宮に入るのは厳しくなってきたくらいだ。

 それに比例して、彼女の飛翔力もまた増強された。この程度の荷物ならば、何の問題も無く輸送できるほどに。

 同時に飛翔速度もかなり向上していた。


 そうやってリンちゃんに多少負担を強いつつ、夕方から飛び続け、深夜になってようやく迷宮都市マクリームへと到着したのだった。





 コーウェル王国はその国柄上、外壁という物が存在しない。

 つまりリンちゃんで乗り入れ放題なのだが、空からいきなり舞い降りたら、お国柄から攻撃されてもおかしくない。

 そういう訳でマクリーム近辺で一旦地上に降り、そこから徒歩でマクリームに入る事になった。


 リンちゃんに設置された吊り籠は車輪が付いていて、歩行形態だと台車のように引くことが可能なのだ。

 籠から出されたセイコとウララにはアーヴィンさん達が騎乗して、その健脚を見せつけている。


 深夜に突如土煙を巻き上げて来訪した、籠を牽くドラゴン一頭と、スレイプニール二頭。

 その上にボク達と言う姿が無かったら、大騒動になっている所だ。

 現に今も街の衛士に包囲されている。


「誰かと思ったら……いつか見た顔だな」

「お、おう」


 そう言えばマクリームに初めて訪れた時も、このオッサンに捕まった気がする。

 確か名前は……


「オッサンの何とかドンだったから……オサンドン?」

「人を飯炊きみたいに言うな、ゴードンだ!」

「そーそー、そのゴードンさん。お久しぶり」


 前の時は、アリューシャが熱を出してアンブロシアを探しに来ていた時だった。

 ロクに挨拶もせず別れたので、少し気になっていたのだ。


「まったく、お前はどうしてそう派手な登場ばかりするんだか」

「いや、リンちゃんに乗ってたら派手な登場しかできないじゃないですか?」

「それもそうなんだが……今度はスレイプニールのオマケ付きじゃないか」


 スレイプニールは決してオマケ扱いできるような幻獣ではない。

 だがドラゴンが半ば神格化されつつあるこのコーウェル王国では、やはり一段下に見られてしまうのだ。

 セイコとウララが不快そうに鼻を鳴らし、蹄を地面に打ち付けて抗議している。

 ガスンガスンと石畳を容赦なく削るその抗議に、ゴードンさんは少し腰が引けていた。


「ほらもう。この子達は対等な立場なんだから、オマケ扱いはダメですよ」

「あ、ああ……どうやらそのようだな。すまなかった」


 冷や汗を滝のように流しながら、ゴードンさんが頭を下げると、セイコとウララも怒りを収めて大人しくなる。

 聞き分けはいい子たちなのだ。たまにボクの事を見くびるけど。今もボクのサイドテールをハムハムしてるけど。


「こんにちわ、オジサン。今日はマンドラゴラを探しにやってきました」

「お、おお? あー、こんにちわ。驚いたな、すげー別嬪さんじゃないか」


 礼儀正しく挨拶したアリューシャを見て、ゴードンさんは目を丸くした。

 深窓の令嬢もかくやと言う気品を誇り、それでいて幼さも残した言動を取るアリューシャは、初対面の人が目にすると、必ずこうやって驚かれる。


「そりゃボクのアリューシャですから。と言うかボクだって、かなりのモンだと思うんですけどね!?」

「お前さんはそれ以前に幼すぎるわ。もっと飯食え、飯」

「食っても太らんのですよ、この身体」

「ぐぬぬぬ……」


 ゴードンさんの誘導尋問で迂闊な事を口にしたボクに、アリューシャが唸り声で反応した。

 確かに世の女性諸氏にとって、言ってはいけない言葉だったかもしれない。

 ゴードンさんと違って往生際の悪いボクは、話を逸らす事でうやむやにしようと足掻いてみた。


「そうそう、ボク達はマンドラゴラを探しに来たんですよ。何か知りません?」

「また珍妙な物を……いや、アレは今じゃアムリタの花より珍しいぞ? あっちは栽培法が確立されたからな」

「それはよかった。で、知りません? マンドラゴラ」

「あー、確かあれも魔力の濃い場所でしか生えないんだったよな? だったら聖域に行けば確実にあるだろうけど?」

「やっぱりそうなりますよねぇ……」


 この世界でも有数の魔草だけあって、マンドラゴラも大量の魔力を吸収する事で成育するらしい。

 だとすればこの世界で最も魔力の濃い地域――すなわちドラゴン達の住処こそ、マンドラゴラの繁殖地としてふさわしいだろう。


「またドラゴンのンコとかのそばに生えてるんじゃないだろうなぁ」

「マンドラゴラは魔力だけじゃなくて、きれいな水も必要らしいから、それはないんじゃないか? そのくせ湿気には弱いっていうわがままな性質だし」

「だとすれば、綺麗な水があって、湿気が少なくて、魔力が濃い所を探せばいいんですね? って、そんな場所あるか!」

「普通はそう思うよなぁ」


 そう言ってゴードンさんが、いくつか近場で目ぼしい場所をピックアップしてくれた。その一つがマクリームから徒歩で一日ほど行った場所にある深い森にあった。

 歩いて一日ならば、リンちゃんなら一時間もかからない。


「でも森の中でしょ? 湿気が凄いんじゃないですか?」

「いや、それがここにある植物の影響で湿気が少ないんだ。クカスの木っていうのが生えてて、そいつが空気中の水を吸収してしまうんだよ」

「へぇ、サボテンみたいですね」

「南にそんな植物があるって聞いたな。ただこの植物は集めた湿気を水に変えて垂れ流しちまうんだよな。つまり純度百パーセントの水だ。変わった習性と言えなくもないが、近隣の住民にとっては貴重な水源になっているらしい」

「なんでまたそんな……」

「そんな訳でクカスの木のある場所に、大抵マンドラゴラは生育しているらしいぞ。まぁ、『らしい、らしい』と伝聞ばかりで悪いがな」

「なるほど。有力な情報、どうもです!」


 そう言って街から出ようとしたボクを、アリューシャとルイザさんが引き留めた。


「ん、なに?」

「ユミルお姉ちゃん、さすがにもう眠いの」

「ゴメンね、ユミル。私も体力の限界だわ」


 そう言えばよい子のアリューシャはいつもならもう寝ている時間だ。

 そして専業魔術師であるルイザさんは、ボク達よりも遥かに虚弱である。

 夕刻からの強行軍で、疲労が限界に達したのだろう。


「それは確かにそうですね。めぼしは付いた事ですし、今日はこの町で宿泊しましょうか」

「そうしてくれると助かるわね」


 フラフラしてるルイザさんの肩をアーヴィンさんが支えている。

 そんな二人を見て、ゴードンさんが町の宿屋を紹介してくれた。ドラゴンもスレイプニールも泊めれる、大きな宿だ。

 さすがは北の迷宮都市。騎獣対策も万全でなのだった。


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