表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
223/272

第二百二十一話 前夜

 夕食を終えた後は各グループに分かれてミーティングを行う事になっている。

 中庭に十人ずつ、四つのグループに分かれて、それぞれの引率者と打ち合わせするのだ。

 この十人をさらに五人ずつに分けて二グループ作る。このグループごとに午前と午後に分かれてダンジョンアタックするのだ。


 戦力の均等化や戦術の打ち合わせなど、前もって決めておかねばならない事は多い。

 アリューシャは引率に回るので、彼女のグループにテマ達三人を放り込んでおいた。

 まだ年若い彼女の負担を少しでも下げておこうという配慮である。


 センリさんやレグルさんはそれぞれの方法でパーティを分けて、ミーティングを開始していた。

 センリさんは自作アイテムを渡して安全性を上げ、レグルさんは模擬戦などを行い、戦力を確認している。


「ユミル先生、僕達もそろそろ始めましょう」

「ん、そうだね」


 ボクの担当するグループにはカルバートとエルドレットがいる。

 うっかりミスの多いボクのサポートとして優秀な生徒を配置したのだとか。実に失礼な話である。

 そしてそれを聞いた生徒達の『さもありなん』と言う表情も忘れないぞ!


「とりあえず、最初は口を出さないから、自由にパーティを組んでみて?」

「はい!」


 そう言って生徒達は各々の好みで仲間を集めていくのだが、やはりそこはそれ、騎士学科と魔術師学科で集まり、バランスの悪いパーティが出来上がっていた。

 

「そっちのパーティ、魔術師ばかり集まってるね。騎士学科の人ともっと協力しなさい。騎士学科の子ももっと積極的に自分を売り込む」

「あ、はい」

「その組み合わせだと、盾役が二人になってるでしょ。攻撃力が不足するよ?」


 完成したパーティを微調整して、戦力を整えていく。

 レグルさんと違って、ボクは生徒達の実力を把握しているので、模擬戦をする必要はない。

 そうやって別れたパーティを検分しつつ、ボクも持ち込むアイテムを脳裏にリストアップしていく。


 ボクはアリューシャほどの補助能力はなく、センリさんのようなアイテム開発力もない。

 手持ちのやりくりだけで生徒の安全を守らねばならない。

 そういう面ではレグルさんが一番きつい仕事になるだろう。


 その後、戦力に応じたコンビネーションや、迷宮に入る上での注意点を指摘してお開きになった。





 かつてミッドガルズ・オンラインには、ムスペルヘイムマップという場所があった。

 なぜミッドガルズ(人間の世界)の中にムスペルヘイム(火の国)があるのかと、実装当時はユーザーからツッコミを受けた物である。

 なんにせよ、そのマップは火属性のモンスターしか登場しないため、対策を取りやすく、しかもそこそこ出てくる敵の経験値も高いとあって、それなりに人気の狩場になっていた。

 単一属性の敵しか出ないので、その属性に特化した装備を集めやすかったのだ。


「あ、暑い……」


 なぜかボクはそこにいて、溶岩の流れるマップの中を歩いていた。

 顔面に吹き付ける熱風が、呼吸すら妨げていく。


「息が……できな……」


 じっとりと湿気を帯びた大気が粘る様な感触を残して、鼻先を掠めていく。

 本来なら焦げ臭いような臭いが漂ってくるはずなのに、微妙に花のような甘い香りが混じる。


「なんで……?」


 そこでボクは自分が身動き取れない状態にある事に気付く。

 そこへゆっくりと近付いてくる、溶岩製のゴーレム。

 防御力と攻撃力に優れたその敵の攻撃は、ユミルにとってなかなかに厄介な存在だった。

 この状態で殴られたら、タダでは済まないだろう。


「う、うわ……うわぁ!?」


 身動きできない身体で、ボクは叫び――そこで目が覚めた。


 目の前には深い深い谷間。

 そこに首の後ろに腕を回され、ボクの顔がその谷間に埋め込まれるように押し込まれていた。

 そして足はふかふかの太股が絡められ、身動きできないようになっている。


 そう、ここはボクのベッドの上で、ボクを抱きすくめて足を絡めているのは、アリューシャである。

 季節は初夏に入ろうかと言う時期なので、彼女はほんのり汗をかいている。


 ボクより背の高くなったアリューシャだが、今でも時折、こうしてベッドの中に潜り込んでくるのだ。

 今まではボクが抱き竦めて眠っていたのだが、いつの間にやら立場が逆転していた。

 じんわり暑い気温に体温高いアリューシャに抱きしめられて、ボク自身も火照ってしまい、あんな夢を見たのだろう。

 窓から見える景色から察するに、まだ夜は明けていない。


「もう、さすがに抱き着くのは嬉しいけど、きつい季節になって来たからって言ってるのに……」


 少し涼みたいので、名残惜しいがアリューシャの腕を解きにかかる。

 だがボクに次ぐ能力値を持つアリューシャのホールドは、なかなか外れてくれない。


「くっ、この……」


 彼女を起こすのは可哀想なのでゆっくりと解こうとしたのだが、彼女のホールド力も負けていない。

 外す端から絡め捕られ、抱き竦められ、なかなか抜け出す事ができなかった。


「んぅ~、ゆーねぇ」

「ぐえぇ……」


 甘い寝言を漏らしながらも、アリューシャの攻撃は結構激しい。

 胸で顔をしっかりと保持しつつ、首元に絡めた腕に力を入れる。

 そのおかげでボクの首がグキリと捩じられ、ヤバい感じに締め上げられた。


「ちょ、これはマズ……死ぬ、死ぬって! 萌え死ぬかもしれないけど!?」


 なんというオッパイホールド。いつの間にこんな高度な攻撃を覚えたのだろう。

 この状況から抜け出すのは、ボクにとって激しく厳しい。

 感触で抵抗の意思を()ぎ取ろうとする危険な技を、ボクはかろうじて解除し、脱出した。


「いつもならそのまま楽しむところだけど、今日はね」


 今日は他に生徒達も宿泊している。

 スラちゃんやリンちゃんだけでなく、今日はレグルさんとセンリさんも宿泊している。

 特に問題は無いと思うけど、涼みがてら少し様子を見て回ろうと思ったのだ。


 さすがにそのまま外を歩けないので、パジャマの上にサマーカーディガンのような服を羽織って外に出る。

 ドアを出た所でイゴールさんが後ろに忍び寄ってきた。

 ここに住み始めた当時は、夜に彼を見るたびに尿漏れの危機を覚えていたが、今では慣れたモノだ。


「ユミルお嬢様、どちらへ?」

「あ、イゴールさん。いや、ちょっと生徒の様子を見に、ね。こっそり抜けだしたりする生徒はいませんでした?」

「スライムたちが四人ほど捕獲しておりますが、抜け出したものはいないと思われます」

「挑戦したのはいたのかよ……」


 まぁ、こういう遠征と言う名の旅行でテンション上がるのは、ボクも理解できる。

 ボクだって学生時代はよく抜け出そうとしたモノだ。そして発見され、廊下で正座させられたのも良い思い出である。


「で、その不届き者はどうしました?」

「引率者に報告の上、同じパーティの面々に引き渡しておきました」

「ま、それでいいでしょ」


 ボクやアリューシャに報告が来ていないと言う事は、レグルさんかセンリさんの担当かな?

 まぁ、無理に説教する必要もあるまい。彼等も高等学園の生徒である。善悪の区別は自分で付けられる。

 引率者が軽くお説教すれば、自力で反省するだろう。


「それじゃボクは少し見て回るから、引き続き監視よろしく」

「心得ました。お任せください」


 そう言って壁の中に消えるイゴールさん。死霊である彼は、眠る必要が無い。

 徹夜で生徒を監視するのは、朝飯前である。

 ボクはイゴールさんと別れた後、二階、三階へと上がっていく。元々領主館として作られたこの屋敷は、各階層にテラスのような物が作られている。

 風の気持ちいい高層のテラスに出ようと思ったのだ。


 だが三階のテラスには、既に先客がいた。

 そろそろ夜も明けようかという時間なのに、二人の男子生徒がテラスの手摺にもたれかかり、何か論争をしていたのだ。


 窓を開けて、ボクはその二人へ近づいていく。

 手摺を使ってパーティのシミュレーションを検証していたのは、エルドレットとカルバートの二人だった。

 彼等はそれぞれパーティを率いる立場だ。


「おはよ。早いね」

「あ、ユミル先生」

「おはようございます。先生も早いですね」


 三階とは言え、屋敷の高さはかなり高い。十メートル以上の高さにあるテラスなので、吹き抜ける風が気持ちいい。

 風に乱される髪を押さえながら、二人に尋ねた。


「眠れなかったの? 言っとくけど寝ないと体がもたないよ?」

「それは判ってるんですが、やっぱり気になっちゃいまして」

「そしたらカルバートがやって来たので、それぞれの生徒の特長とか聞いて、打ち合わせを……」


 バツが悪そうに後頭部を掻いて誤魔化すエルドレット。二人共責任感の強い生徒だから、心配で仕方ないのだろう。


「二人共、実家は貴族でしょ。私設の騎士団とか持ってるんじゃなかったっけ?」

「そりゃありますけど、実際に率いた訳じゃないので」

「実戦は初めてですから、どうしても……」


 二人は特薦組の中でも優秀な成績を残しているが、逆に年齢は最も若い層に入る。

 彼等より年下なのはラキやジョッシュ、アリューシャくらいである。

 そんな彼等が最も責任あるリーダーに選ばれている訳だから、プレッシャーを感じているのだ。


「ユミル先生はどうしてここに?」

「アリューシャのオッパイホールドで殺されかけたの」

「ああ、あれは破壊力ありますよね」


 未知のサイズを思い出し、エルドレットはさもありなんと首肯する。

 彼の弟の件もあるし、少し釘は刺しておこう。


「言っとくけどアリューシャに手を出したら死ぬよ? 主にボクがコロス。念入りに」

「判ってますよ!」


 すでに学園中にボクがアリューシャに首ったけである事は広まっている。

 それでもボクもアリューシャも、告白を受け続けている。さすが男社会の高等学園である。


「眠れないんだったら子守歌でも歌ってあげようか?」


 からかうような口調でおどけて見せる。こういう行為で緊張が解れるなら安いモノだ。

 それにボクには元の世界の歌の知識がある。彼等の知らないフレーズも多数記憶しているのだ。


「遠慮しますよ。僕達は子供じゃないんで」

「遠征前に興奮して眠れないとか、充分子供だよ。男ならドンと構えておきなさい」

「ぐ、痛い所を……」

「責任感が強いのはいい事だけどね。眠れなくて判断ミスする方が危ないんだ。これは本当に。目を瞑って休んでいるだけでも体力は回復するから、もう部屋に戻ってなさい」

「はい、ご心配かけて申し訳ありません」


 そう言い残すと、二人は一礼して部屋に戻っていった。

 心配と興奮が入り混じった状態では、おそらく夜が明けるまで眠る事はできないだろう。

 それでも身体を休める重要性を知るにはいい機会だ。眠れずとも体力を回復させる訓練と思ってもらおう。


 ボクとしては、彼等が眠れなかったという事実を知る事ができただけでも、収穫だった。

 彼等の睡眠不足を知らずに迷宮を引率したら、何かミスしていたかもしれないのだから。


おっぱいほーるど……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ