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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第二百十七話 遠征計画始動

 ボクの超音速のお断りを受け、ルイス君は絶望的な表情をしている。

 だが考えてみれば当たり前だ。ボクは女の身体に馴染んできたとはいえ、心にまだ男を多大に残している。

 よりによって男と『お付き合い』とか『お突き合い』とか、勘弁してもらいたい。

 ボクはまだ、女の子の方が好きなのだ。


「ボクは男性に興味を持てない体質なのです。それにアリューシャがいますからね!」


 そう言って背後を振り返って、ボクは戦慄した。

 あ、あのアリューシャさんが……怒っておられる!?


 そこにはホッペを限界まで膨らませて、憎悪とも取れる視線でルイス君を睨み付けるアリューシャの姿があった。

 これも自然な成り行きで、アリューシャもまたボクに依存してこの世界で生きてきたのだ。

 その片割れたるボクを奪おうと宣言するルイス君に、彼女がいい感情を持つはずがない。

 つまりこの瞬間、ルイス君はアリューシャに宣戦を布告してしまったのである。


「そ、そんな……そもそも女性同士でなんて――」

「おっと、それ以上はいけない。人の嗜好はそれぞれだし、その先を口にすると、君の命の保証はできないよ?」

「い、命の保証!?」

「そ。ボクだけでなく、アリューシャからね。それにボク達二人は、大草原で厳しい環境の中、たった二人で生き抜いてきた経験がある。今の君ではそこに割って入ることなど不可能なのだよ」


 今どころか未来永劫無理なのだが、そこは多少オブラートに包んでおいた。幼気(いたいけ)な少年には、まだまだ甘いボクである。

 それに、互いに命をかけて迷宮に潜り、生活の基盤を整え、気も狂いそうなほどの孤独を癒しあってきたのだ。

 あの時アリューシャと出会わなければ、ボクは数日も持たずに、孤独で狂っていたに違いない。ポッと出の美少年程度では、ボク達の絆に割り込むことなど到底不可能。

 ルイス君には悪いが、ここは今後の事も考えて、早々に諦めてもらうのが吉である。


「大草原で、二人っきりで生き延びたというのですか……ボク、程度では、ダメなんですね」

「ま、そう言う事。君は美少年だから、今にきっといいお相手が見つかるよ。それにボクは教師だからね! 未成年と付き合うのは問題なの」


 このボクの発言に微妙な表情をしたのは、ご飯を食べに来たテマである。

 そう言えば彼もボクにそういう感情を持っていたんだっけ? まぁ、ルイス君ほどはっきりした物ではないみたいだけど。

 彼の場合、ボクとアリューシャの関係を最初から理解していたから、深みにはまる手前で本能的に踏みとどまっていたと思われる。


「ま、そんな訳でお付き合いは無理だけど、ご飯を一緒に食べるのは構わないよ? ちょうど今から夕飯だし食べていく?」

「ユミルさん、振ったばかりの相手に、それはあまりにもムゴイ……」


 ボクのお誘いにジョッシュが呻くように言葉を漏らした。

 彼は実家がこの王都にあるが、パーティの仲間が拠点を持ったと言う事で、お隣に頻繁に出入りし、泊まったりもしている。

 時折差し入れなんかも持ってきてくれるので、ボク的にもわりとうれしかったりするのだ。その日はおかずが一品増えるので。


「あ、りがたい……申し出、ですが……」

「そう? あ、朝は撥ねちゃってゴメンね。どこか痛い所とか出てない?」

「平気……です、から。失礼します!」


 泣きそうな顔で一礼し、そのまま自宅へと駆け戻ってしまった。


「彼は一体何をしに来たのだろう?」


 ここに想い人のボクがいるという事はエルドレットから伝えられる情報だけでは、判断しようがないはずだ。

 彼がしたと事言えば、顔を出して、告白して、玉砕しただけである。

 まぁ、玉砕した相手に食事に誘われたら、逃げ出したくもなるかな?


「いや、引っ越しの挨拶じゃないのかな? そこに想い人がいたと」

「あー、そっか。そだ、エルドレット君はご飯食べてく?」

「いえ……ルイスに恨まれ――いや、弟の様子が心配なので、隣に戻ります」

「確かに様子がおかしくなってたからね。朝、ボクとちょっと衝突しちゃったりしたから、何かあったらすぐに知らせてね?」

「ええ。ですが、そっちの心配はないと思いますので」


 なぜか脂汗を流しながら、エルドレットも帰宅していった。

 

「むー、嫌われたかな?」

「本気で言ってます?」

「わたし、あの子嫌ーい」

「アリューシャがはっきり嫌うのって珍しいよね? でもそんな事言っちゃダメだよ」

「これは生存本能(ホンノー)に根差した感情(かんじょー)の発露だから、制御するのは不可能(ふかのー)なのっ!」


 ぷんすか!と言わんばかりの態度で腕組みして威嚇するアリューシャ。

 珍しく難しい単語を使おうとしているけど、滑舌が追い付いてきていない。

 まぁ、これはこれで子猫が威嚇しているみたいな雰囲気だから、カワイイけど。


「お嬢様方、晩餐の準備が整っておりますが?」

「あ、イゴールさん、お疲れ様です」


 そこへタイミングよく、イゴールさんが食事の用意ができた事を告げてきた。

 よく考えてみれば、室内にはエルダーレイスだとかスライムロードとかが徘徊しているんだから、他所の人呼んじゃダメじゃないか。

 下手したら、悲鳴を上げられて、家が衛兵とかに包囲される事態になっていたかもしれない。

 そんな事態になったらとても安全を保障できない――主にこの街の。


「あ、あぶなかったかも……」

「ユミルさん、妙な所で抜けてますね」

「ラキ、言うようになったね? まぁ、彼等はご近所さんだからそう言った警戒心が沸いてこなかったのは、確かだけど」


 幼少期からタルハンの屋敷に出入りしていたテマ達は、別にイゴールさんに驚いたりはしない。

 この反応を基準として、ボクは考えてしまっていたのだ。


「まぁいいか。それじゃみんな、晩御飯にしよう」

「はぁい!」


 すでにルイス君の事は無かったモノとして、元気にアリューシャが手を上げる。

 その日の夕食は、イゴールさんお手製の非常に美味な料理だった。




 翌日、例によってアリューシャ達を先に送り出し、ギリギリの時間に登校してみると、靴箱に手紙が入っていた。

 いわゆるラブレターである。


「こ、これは……?」


 周囲の人目を気にしつつ中を開けてみると、二年特薦組の男子生徒の一人だった。

 からかわれていると思わないでもないが、昼休みに呼び出された場所に行ってみると、本当に告白だったから困った。

 これもルイス君同様、丁重にお断りさせていただく。


 更に放課後、同僚の若手教師から飲みに誘われた。

 なんだ、これは……モテ期か!? しかも男限定で!

 そんなモテ期はいらん!


「という訳で非常に困ってます」

「いや、それを私に言われても……」


 ボクはこの事態を相談するべく、教頭先生のマニエルさんの個室へ押しかけていた。

 高等学園の教頭である彼は、校長や理事長と同じように、学園内に私室を持っている。

 特にこの高等学園、理事がほとんどいないも同然なので、校長や教頭である彼等に、余計な仕事が回ってきている。

 その事務処理を行うための部屋が必要になるのだ。


「ボクは男性には興味ないんですけどね」

「それを聞いて安心しました。不祥事は勘弁してくださいね」

「しません!」


 何が悲しくて男相手に不祥事を起こさねばならんのか。むしろ暴力的な意味で不祥事を起こしかねない。

 まぁ、管理職である彼からしてみると、ボクは一見『普通の』美少女なので、気が気ではないのだろう。


「高等学園はその性質上男子生徒が多いので、そういう方向に向かいやすいんでしょうね。まあ一時的な事だと思いますので、放置しておくのをお勧めしておきます」

「そう言えばなぜ男性が多いんで?」

「将来的に騎士や宮廷魔術師を輩出するのが目的ですからね。職場的に見ても男性社会ですので。女子生徒の場合は、家格に箔付けする目的が多いでしょうか」


 女子の場合、高等学園卒の才女と言う箔をつけて、政略結婚を有利に進めようという思惑があるらしい。

 それ以外は男性社会への就職がほとんどの為、校内は常に女日照りな状態らしい。


「よく犯罪とか起きませんよね……」

「そこを自制するのも、また教育の一環ですので。将来を捨てて犯罪に走るのはリスクが大きいでしょう? それに、そう言った人材を見極めるのもまた、受験監督の役目です」

「そのわりには、受験会場がピリピリしていましたが」

「むしろ緊迫感があって当然ですよ。戦場でノホホンとはできませんからね」


 そう言って入れたばかりのお茶を啜るマニエルさん。

 好々爺然とした雰囲気をしているが、地味に黒い事も口にしている。


「そう言えば特薦組は、夏までに一度遠征に出てみたいとか?」

「あー、はい。騎士学科だけでもいいんですけど、一度実戦を経験させてみたいと思いまして」

「一年生には厳しいんじゃないですか?」

「むしろ一年だからこそ、早いうちに厳しさを知るべきかと」


 人格、実力ともに優れた人材を集めている高等学園だが、テマ達に比べると、やはりまだまだ甘えがある。

 そういった所が授業からでも感じる事ができるのだ。

 先日、エルドレットが主張した、一般的魔術師としての立ち回りなど、露骨にそういう面が出ていた。

 ここに入れる実力があるのなら、ユミル村は無理でもタルハンの迷宮位なら経験できるはずである。


「ふむ、それは……一理ありますな」

「できれば迷宮を経験させてみたいので、タルハンまで……往復で二週間ですか。それに実戦を経験する期間を入れて三日ほど」

「全部で十七日、およそ三週間の旅行ですね」


 簡単に三週間の旅行と言うが、三学年でおよそ六十人近い生徒がいるのだ。

 それだけの生徒を輸送する費用と食費、宿泊費を考えるとかなりの額になる。

 もちろんボク個人で賄える程度ではあるが……


「結構な額になりますよね?」

「学園側で急遽捻出するのは少し難しいですねぇ」


 元々修学旅行のように、予定されて積み立てられる物ではない。

 ボクの思い付きによる遠征案だ。予算が組まれているはずもなかった。


「六十人ならば馬車とかはこちらで何とかなるかも知れないんですけどねぇ」

「問題は宿泊先ですか」

「それもウチの屋敷を利用すれば……あれ?」


 途中の旅程はほぼ野営で済ませるとして、馬車はリンちゃんとセイコとウララがいる。車体は学園の備品があるのだ。

 食材はボクが迷宮で肉や野菜を調達してくればいい。


 宿泊施設は屋敷の空室を使えば、何とかなるだろう。

 元々三階建ての大きな領主館で、空室は山のようにある。一室に四人押し込むとして十五部屋くらいなら何とかなる。

 人目に付くとヤバいアイテムも、アリューシャの倉庫機能があるおかげで大分片付いている。


「あれ、途中の宿泊が全部野営になるけど、実は何とかなる?」

「はぃ? 食料とかはどうするつもりなんです?」

「それはユミル村の迷宮行って稼いでこようかと」


 一層には鳥肉、三層には熊肉に猪肉、五層には牛肉に馬肉もあるのだ。正確にはちょっと違うけど。野菜は……果物や野草が結構生えていた。


「よし、イケる!」

「まさか、本当にやる気ですか?」

「ええ、やれそうですし」


 食料調達も兼ねて、テマ達をレベリングしてもいい。

 それに道中全野営は行軍の訓練と言う事にしておけば、問題あるまい。


「それなら魔術師科の連中も連れて行っては? 生徒同士で協力させるのも、いい経験になるでしょう」

「さすがにそれは、宿泊施設が足りなくなる予感が」

「半数を受け持ってくれるなら、費用は何とか補えるかもしれません」


 帳簿にメモを取りながら、マニエルさんは忙しなく計算を始めた。

 こうしてボク達の春季遠征計画が始まったのである。


少し短いですが、ここで一度章を区切ろうと思います。

来週からポンコツ魔神を再開して、それから遠征の内容に移行しようと思ってます

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