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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第二百六話 試験開始


 結局、王都での拠点は決め手に欠ける物件ばかりだったので、微妙に決めかねたまま受験日当日になってしまった。

 アリューシャの取り成しで、ジョッシュだけでなくテマとラキも高等学園を受験する事になっていた。

 王都にいるのはジョッシュの両親だけなので、テマとラキの引率にボクも学園へ顔を出して、世話するようにお願いされたのだ。


 子供四人を連れて――まぁ、みんなボクより大きいのだけど、会場へ向かう。

 彼等も実力的にはベテラン冒険者並にまで強化してあるけど、まだまだ経験が足りない。しょせん促成栽培の新人冒険者だ。

 こういう見知らぬ街で目を離すのは、少しばかり心配なのである。

 

 その点ご両親や校長先生からのボクの信頼は大きいので、彼等の世話をボクが仰せつかったのだ。

 高等学園に入るのも、冒険者よりは安全だということと、この二週間のパワーレベリングで獲た素材の販売額で賄えるとあって、反対する理由はなくなっていた。

 普通の冒険者ならばこれほどの収入は得られないのだが、そこはボクが草原の迷宮で通常以上の深度まで連れ回したので、想定以上の額を稼ぎ出すことが出来たのだ。クリスタルゴーレム、美味しいです。


 その額が学園の学費を賄えるほどになっていると聞いて、テマ達の両親は受験にGOサインを出したのだった。





 高等学園の正門で四人が受験票と推薦状を提示し、受験のための部屋に案内されていく。

 途中でアリューシャがこちらを振り返って、満面の笑顔で手を振っていた。

 おそらくは余程自信があるのだろう。そして再び三人と学園に通える事が嬉しいのだ。

 その無邪気な笑顔を見て、ボクも釣られたようににっこりと笑う。


 ラキとテマも別の係員に各教室に案内されていく。

 この高等学園の受験は貴族や資産家の子息も多く受験することが多いので、教室までエスコートしてくれるらしい。

 それぞれの戦場に向かうその後ろ姿を見送ってから、ボクは保護者達が待つ為の待機場所へ向かおうとして、係員に呼び止められた。


「どこへ行こうというのかね? 君の受験場所はこっちだ」

「はぁ? あの、ボクはこう見えても彼らより年上で、保護者なんですけど?」


 ボクの説明を聞き、係員は再び『アリューシャから受け取った推薦状』に目を落とす。

 何度か熟読して、またしてもこちらに話しかける。


「君の名前は『ユミル』で間違いないね?」

「ええ、そうですけど」

「なら間違いじゃない。この推薦状には『アリューシャとユミルの両名を、タルハン初等学園校長プラチナの名の元に、貴校に推薦する』とある」

「うえぇぇぇ!?」


 ボクは係員も反応できないほどの速度で推薦状を奪い取り、その内容に目を通す。

 そこには間違いなく、ボクの名前も併記されていた。


「どういう事なの!? これは、どう・いう・事・なの!!」

「いや、私に言われても……」

「そういえばさっきのアリューシャの笑顔! あれは『無邪気な笑顔』じゃなく、『悪戯を企んでる笑顔』だった気がしないでもない」

「ハハァ、どうやら騙されたのだね? まぁ、ここは推薦を受けたからといって簡単に受かるような場所じゃない。気を楽にして受けてきなさい」

「いや、そういう問題でもなく!」


 というか、ここの受験くらいなら何の問題もなく受かれる自信がボクにはある。

 この二週間、アリューシャたちの勉強会の出題役兼監督として、付きっ切りで勉強していたのだ。

 もともと半端なく高知力なボクは、彼等の勉強内容もあっさりと記憶している。


「ふむ、先程の四名のうち二名が魔術師学科、二名が騎士学科に行っているな。君の推薦枠は……特別推薦枠?」

「なんだそれぇ!?」


 おそらくは魔術師学科にアリューシャとラキが、騎士学科にジョッシュとテマが向かっているのだろう。

 問題は、そのどちらも入っていないボクである。

 訳のわからない特例枠を押し付けられ、いつもの丁寧語すら忘れて叫んだ。

 どちらにも入っていない。これはつまるところ、ボクは騎士と魔術師、どっちの枠も受けろという事なのだそうだ。


「魔術師は午前中に魔力測定と実技試験。騎士は剣術試験と騎乗試験。午後は共同で学力試験を受ける事になっている。それぞれ時間はあまり気味だから君が両方を受ける事は可能だな」

「可能か不可能かじゃなく、そんな横紙破りが通用するのかってのが問題なんです!」

「べつにいいんじゃね?」


 案内係の人もついに投げやりな態度で返答するようになっている。


「こういった特例推薦の申請は、数年に一度はあるものだ。故郷で天才と持て囃されて、剣も魔法もこなせると自信を持って出てくる井の中の蛙が多いけどな」

「いや、ボクは自分から望んだ訳じゃないんですが?」

「推薦者の目がくらんだだけだろう? そういう例も何度か見たことがあるよ。タルハンの校長というのは珍しいが」

「そうなんです?」

「慎重な人柄で有名だからな」


 もはや問答は不要とばかりに、ボクの襟首をつまみ上げて、ネコの子を運ぶように連行していく案内係。

 いや、さすがに自分で歩くから、この運び方はないと思う。


 まずは魔術師学科の試験場に連行され、待機している受験生の群れにポイッと放り込まれた。

 そこには悪戯成功とばかりにニヤニヤしている、アリューシャの姿があった。

 驚愕の表情を浮かべているラキは、今回の一件には関与していないようだ。


「アリューシャアァァァァ! 騙したな! よくも騙してくれたなぁぁぁぁぁ!」

「あはは、ごめーん。でも校長先生もユミルお姉ちゃんなら特例枠でも問題ないって太鼓判を押してくれたし。わたしもユミルお姉ちゃんと一緒に学校に通ってみたかったしぃ」

「かわいく首を傾げても許しません! 一晩中抱き枕の刑にするからね?」

「むしろドンと来い」


 自分の胸をポヨンと叩いて、胸を張るアリューシャ。最近ボクのオシオキがゴホウビになっているような気がしないでもない。


「それより、もっと声を落とさないと、ユミルお姉ちゃん注目の的だよ?」

「うっ!?」


 アリューシャに注意されて周囲を見ると、迷惑そうな視線が四方から突き刺さっていた。

 午前中は魔力測定と実技試験なので、いまさら勉強してどうにかなるものではないが、実技試験には集中力が必要になる。

 それを掻き乱されては、溜まった物ではないのだろう。気持ちは判る。


「まったく、これだから野卑な連中は……」

「あはは……す、すみません」


 ペコペコ頭を下げて指定された席に着く。

 そこはアリューシャの一つ後ろの席だった。ちなみにアリューシャの一つ前はラキである。

 推薦状の提出順からすれば、当たり前なのかもしれない。


 育ちの良さそうな数人が、ボク達を見て鼻息一つ吐いてから、再びそれぞれの集中に戻る。

 おそらくはキルマール王国の貴族達なんだろう。

 その態度にムッと来るものが無いでも無いが、悪いのは一方的にボク達なので、何も言い返せない。この時間、少しでも復習したい気持ちはわかる。そこで騒いでいたら機嫌を損ねて当然だ。

 バツが悪い顔で席に座っていると、しばらくして数人の教師が会場に現れた。

 なにやら大きな板状の石版を運び込んでいて、その手前には細い水晶柱が設置されていた。


「静かに。それではただいまより、魔力値の測定を開始する。これはあくまで素養を計るために過ぎないので、合否には影響は少ない」


 微妙な発言だな。

 合否には『関係が無い』ではなく、『影響が少ない』なのだから、無視出来るようで出来ないニュアンスが有る。

 順番に手前の水晶柱を手に握ると、石版にさまざまな数値が表示される。

 その数値は生徒には理解できない暗号化されたものばかりだが、淡々と記入していく測定員の様子を見ると芳しい物ではなさそうだ。


 しばらくして、先程毒付いていていた少年の番が回ってくる。

 さすがに上から目線をしただけあって、自信満々で水晶柱を手にした。

 そこに現れた文字列――測定結果を読み取り、測定員がレポートに書き出していく。

 小さな声で相談する様子が、ボクの耳に届いてきた。知力が感知能力に影響するからこそ、聞き取れたのだろう。


「これは魔力値の大きさが凄いな」

「閾値の広さも注目物だな。対応属性の数も三種と広い」

「炎と水、それに風か。攻撃魔法の適正が高そうだな」


 その声はボクだけでなく、少年にも届いていたのだろう。鼻息荒く胸を反らして席に戻っていく。

 やがてラキの番が回ってきて、彼が水晶柱を握ると、石版に今まで以上に多くの文字が浮かび上がった。

 それを見て、測定員の表情が凍りつく。


「対応属性が四属性だと――」

「基本値の閾値が通常の十倍以上……」

「これは逸材だぞ」


 さわさわと囁き合う彼らを見て、ラキの素養がかなり高い事に気付いた。

 ボクの目からすれば、彼の魔法能力はまだまだヒヨッ子なのだが、ここではかなり高い数値が出たようだ。

 測定員は一息吐いてから測定を再開し、次はアリューシャが水晶柱を握る。

 そこに現れたのは石版から溢れ出さんばかりの文字の羅列。

 それを見て、測定員は今度こそ腰を抜かした。


「全属性持ちだと!?」

「しかも基本魔力が一般人の数百倍――いや千倍すら超える!」

「宮廷魔術師級……いや、そんなレベルじゃない!?」


 そうだろうとも。

 賢者系と侍祭系を極めたアリューシャは、魔力の高さと魔法のバリエーションでは他の追随を許さない。

 鼻高々でアリューシャにサムズアップを送ると、彼女も恥ずかしげに返してきた。

 これだけ高い素養を示した以上、国が彼女を野に放つことはありえない。

 おそらくはキルマール王国は、今後アリューシャの囲い込みを始めるだろう。


 だが彼女の身分はすでに組合によって保護されている。

 というか組合に保護されているボクによって保護されている。

 もしこれを強行に確保しようとしたら、今度はキルマールがケンネルの二の舞になってしまうのだ。


 先に組合の庇護下に入っておけ。

 レグルさんが主張した身柄の立ち場を明確化する意味が、ここで出てきたのだ。

 もしボク達だけだったら、国による勧誘合戦に対抗することは出来なかっただろう。

 そしてそれを前もって察知したボクは、アリューシャを高等学園に入れるという選択肢を選べず、彼女の未来を狭めていた結果になったはずだ。

 その危険に思いが到り、思わず胸を撫で下ろしたのであった。


「君、早く次を」

「あ、はい」


 アリューシャの未来に思考を飛ばしていたら、ボクの番が回ってきていた。

 急いで水晶柱を握りこむ。

 すると体の内側から何かが吸い出されるような感触がして、ボクの測定結果が石版に刻まれる。


「おいこれ……」

「魔力値は先程の少女より高いぞ」

「だが、対応属性が無い。しかも閾値が低すぎる。これでは魔法を発動できないんじゃないか?」


 漏れ聞こえる反応から、微妙な結果である事は理解できた。

 それはそうだろう。だってボクは魔術師系のジョブには就いていない。いや、一つだけ、交霊師(チャネラー)以外には就いていない。

 知力が高いからMPは高いのだけど、スキルとしての魔法はほとんど使えないのだ。


 魔力がMPの多さだとすれば、ボクのそれは一般人の遥か上に存在する。だがボク個人では魔法はほぼ使えないのだ。

 これは、この世界では本来ありえない現象であり、測定員が困惑するのも無理は無い。


「ま、まぁ……これはあくまで素養を計っただけだから……」

「おう、そうだな。問題は実技だ、実技」

「次に行こう。これで全員終了したね? それでは受験生はこちらの会場へ」


 次は実技試験ということなので、ボクはフレイムブレードをこっそり装備しておく。

 これは【ファイアボルト】が低レベルで使用できるので、魔術師の真似事くらいはできるだろう。

 一応交霊師には攻撃魔法が存在するけど、見栄えのする魔法を用意しておいた方がいいと判断したのだ。


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