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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百九十八話 パワーレベリング第二弾

再開します。


 異世界に転移してきて七年半。

 ボクは今、最大の危機に瀕していた。


 理由は簡単。目の前に座って食事するアリューシャが本気で怒ってしまったのだ。

 それはもう、マジ怒りである。『ヒドイ』の一言以降、まったく取り合ってくれないのだ。


 そりゃボクだって悪かった。

 ジョッシュは言うなれば、アリューシャの最初の友達の一人である。それを忘れたなんて言われれば、怒っても無理はないのだ。

 それにボクだって放火事件の時、命懸けでラキを救っている。

 あの三人組を忘れると言うのは少し難しい。


 食事時のちょっとハイテンションな感じで心無い冗談を漏らしてしまった。

 これはボクの反省点である。


「ゴメン、ホントは忘れてなんていないって! ほら、美味しい料理の前でちょっとテンション上がっちゃってさ」

「センリお姉ちゃん、これ食べさせてあげる。あーんして?」

「え、いいの? じゃあ、あーん――」

「あぁん、ボクの目の前で二人が見せつける!?」


 これ見よがしにセンリさんに懐いて、ボクの嫉妬心をあおってくるアリューシャ。

 これはもう、拷問に等しい仕打ちだ。


「いや、ほんっと謝るから! お詫びにアリューシャの言う事なら何でも聞いちゃう!」

「え、じゃあ私の嫁になって?」

「センリさんには言ってません! っていうか、旦那さんが怒るのでやめてください!?」


 最近、カザラさんのボクを見る目に何か黒いモノが混じり始めているのだ。

 いや、ホント寝取ったつもりはないんです。そんな事実も無いんです。


「ユミルお姉ちゃん、本当に反省してる?」

「ほんっとうに反省してます。もう『誰だっけ?』なんて言わない」

「本当に言うこと聞いてくれる?」

「何でも聞きます! っていうか、今の状況でもほとんど聞いてるけど」


 ボクは自覚はあるけど、アリューシャに関してはダダ甘である。ちょっと上目遣いで『お願い』されたら、もう全力で言う事を聞いてしまうのだ。

 アリューシャもそれは自覚しているので、できるだけボクに『お願い』はしない事にしているらしい。

 なにせボクのやる事だから、時と場合によっては斜め上の方向にカッ飛んで行ってしまうからだ。


「じゃあ、わたし、赤ちゃん欲しい!」

「まだ捨ててなかったのね、その野望……でもさすがにそれは生物的に不可能――」

「願いの泉ね。私も便乗していいかしら?」

「いいよー」

「ダメです!」


 嫁が男になったなんて聞かされたら、それこそカザラさんが全力でボクを抹殺しに来てしまう!

 それに冗談はこれくらいにしないと、本当に話が進まない。

 ボクはそばで給仕してくれるイゴールさんに、涙目で助けを求めた。


「イゴールさんも黙ってないで、何か言ってあげてください」

「麗しい姉妹の他愛ない喧嘩も、実に微笑ましいですな」

「ダメだ、この人も!」


 助けの手は腐っていた。ええ、名実共に。


 前領主ほどではないにしても、レグルさんを認めつつある彼は、以前のような険が取れて実に……抜けた性格になりつつある気がする。

 ボクに襲い掛かってきた時の迫力はどこへ行ったんだ。


「それはともかく、アリューシャは王都に行きたいんだよね? それはジョッシュに会いに行くためだけ?」

「んぅ? どういう事?」

「今日ね、校長先生からお話があって、アリューシャに『王都の高等学園に進学しないか?』って言われたんだ」

「わたしも王都の学校に行けるの?」


 アリューシャは驚いたような目でボクを見ているけど、この世界でアリューシャを拒否できる学園なんてあるのだろうか?


 草原のど真ん中でサバイバルできる知識と経験。

 アーヴィンさんすら物ともしない個人戦闘力。

 タモンの……多分、砲撃? すら弾き返す防御魔術。

 死亡していない限りは、ほぼ一瞬で傷を癒しきる回復魔法。

 そして、世界で一番愛らしい容姿と性格。


 学園どころか、国の軍隊が喉から手が出るほど欲しがる人材と言えよう。

 ボクだって手放したくない。奪う奴がいたらムッコロス。


「あ、でも王都って事は寮生活になっちゃうのかな?」

「えー、それはヤダ」


 またぷっくり膨らむアリューシャの頬。

 彼女もこの七年、ボクと一緒に暮らしてきたのだ。

 そこに急に寮生活とか持ち出されても、拒否感しかないだろう。


「まぁ、その辺は校長先生に聞いてみないと分からないけど、王都に自宅があれば必要ないかも?」

「なに、また家買うの?」

「アリューシャが王都に行くなら、それも考えないといけないですね。あ、ちなみにセンリさんはお留守番です」

「なんでよ!?」


 アンタ、一応彼氏持ちなのを忘れないでくれ。

 ボクの都合で王都まで連行したりしたら、カザラさんが本気で泣き出してしまう。

 彼が細々と結婚資金を貯め込んでいるのを、ボクは知っているのだ。


「まぁ、アリューシャがいるなら、いつでもこっちに戻ってこれるわよね? なら、それで納得してあげる」

「そうしてくれると助かります。たまにはカザラさんにもかまってあげてくださいね?」

「あら、私はユミルと違ってちゃんと相手してあげてるわよ? 聞きたい?」

「聞きたくありません」


 何が悲しくて他人の惚気話を聞きたいモノか。

 とにかくアリューシャが進学に興味があると言うのならば、ボクにそれを妨げる道はない。

 詳しい話は後日校長先生に聞きに行くとしよう。




 翌日、アリューシャを送迎したボクはその足で校長室に向かった。

 そしてアリューシャにその意思が少なからずあるという報告を聞いて、彼女は非常に喜んだのである。


「そうですか! それにしてもジョッシュが高等学園に……あの子はあまり学問の方は芳しくなかったのですが」

「この街を離れた後、すごく頑張ったんでしょうね、きっと」

「ええ、そうだと思います。勉学に関してはラキの方が優秀でしたが、あの子はテマに引き摺られて冒険者になってしまいましたし」

「まぁ、あの悪ガキと友達なんだから、さもありなんという感じです」


 ラキは火事の時も感じたが、非常に頭の回転が速い子だった。というか機転の利く子という感じだ。

 だが彼はその思考力を、冒険者として使う道を選んだのだ。

 これにはさすがに少なからず両親も反対したものだが、結果として彼は友情を押し通し、冒険者デビューしてしまった。


 一見華々しい冒険者だが、その実態は根無し草の個人事業主である。

 老後の保障も無ければ、保険も無い。組織の後ろ盾だって組合の最低限度に過ぎない。

 そんな実はハードな職業なのだ。


 だが一獲千金の夢があるのもまた事実。

 特にユミル村のダンジョンは収益率が高いため、冒険者の生活は劇的に改善されつつある。

 ただし、あそこに潜れる実力者のみ、なのだが。


 とにもかくにも、テマとラキは独自のルートでジョッシュと連絡を取り合い、彼の進学という情報を持ち込んだのだ。

 これに関しては報酬を払ってもいいくらい、感謝している。


「あれ? そういえばジョッシュはアリューシャより一つ年上だったはず……?」

「まぁ、高等学園ですから留年する子も多いそうですよ。それに学費を稼ぐために入学時期が遅れる人もいるそうです。正直、アリューシャさんのように十二ですんなり入れそうと言う子の方が少ないでしょう」

「そんなに難関なんですか? アリューシャ、大丈夫かな?」

「彼女の知識なら問題ないはずですわ。それにあの魔法力と運動能力、これを落とすと言うなら、試験官の視力を疑う必要があるでしょうね」

「ま、それもそっか。だってアリューシャですし」


 ボクは自信満々、鼻高々に校長先生に宣言して見せた。

 それを聞いて彼女は、納得しつつも呆れた表情を返してくる。


「相変わらず、すごい自信ですね。彼女に関しては」

「そりゃもう、ボクのアリューシャですから! ええ、ここ大事です。『ボクの』!」

「はいはい、ユミルさんは『いつも通り』と言う事ですね」


 溜息を吐いて肩を竦める校長先生にボクはもう一つ聞かねばならない事があったのを思い出した。


「そうだ、先生。その……高等学園って全寮制だったりします?」

「え? いいえ、そのような事はありませんよ。全寮制だと王都在住の生徒も入らないといけないじゃないですか。それは無駄な出費をする事になりますから」


 考えてみれば王都に住む生徒まで寮に入れるとなると、その生活費は学園が負担する事になる。

 その金額を学費に上乗せするとはいえ、これは余計な手間を増やす行為に他ならない。

 個人の自宅があるのなら、そちらで生活してもらった方が学園としても家庭としても余計な手間は増えないのだ。


 人を一人預かると言う事は、食事と寝床だけでなく明かりや風呂などの面倒も見ないといけないと言う事になる。

 ましてや王都ならば貴族も多いだろう。

 そうなれば、用意しなければならない部屋や食事にも気を使わなければならなくなる。

 それは寮を運営する側からしたら、とんでもなく負担になるだろう。


「そっか、じゃあ王都に自宅かアパートメントでも借りれば、アリューシャは寮に入らなくてもいいんですね?」

「ええ、まぁ……自宅があるなら入寮の規則はありません。けど、いいんですか? アリューシャさん一人のためにもう一つ家を購入する事になるんですよ?」

「そこはそれ。迷宮にちょっと深めに潜れば家賃の一ヵ月や二ヵ月分くらい――」

 

 そう簡単に言えるのは、猛者揃いのユミル村でもボクとアーヴィンさんくらいだろう。

 迷宮の深層にいるちょっとお高めな素材でできたゴーレムを狙えば、一体で平均的家庭の一ヵ月分くらいの収入にはなる。

 ただし今まではアーヴィンさんなどは一体倒す都度、武器が壊れると言う羽目に陥っていたので、あまり大きな儲けには繋がっていなかったのだ。

 それも世界樹の木刀のおかげで一気に改善され、彼の生活はかなり余裕が出てきている。

 もちろん、そんな心配のないボクにとっては、良いカモなのだ。


 そのあと受験のための書類一式と推薦状を書いて貰って、ボクは屋敷に戻る事になった。

 ついでにアリューシャの教室に寄ろうとしたら、ボクを知らない新任体育教師に授業をサボっていると勘違いされ、生徒指導室に連行されたのは余談である。

 あの体育教師、後で覚えてろ……





 屋敷に戻り、その夕食の席でアリューシャに寮に入らなくてもいい事を告げ、進学に何も問題はない事を知らせた。

 彼女もことの外これを喜び、ボクに抱き着いて感謝してくれたのである。ぐへへ……役得、役得。


「ユミルお姉ちゃん、ありがとう! これでまた皆と一緒に学校に通えるんだね!」

「ただし、それは試験に受かったらだからね? アリューシャだけでなく、ジョッシュも」

「うん、わかってる!」


 まぁ、アリューシャの事だ。よほど油断しない限りは何も問題はないだろう。

 問題はジョッシュの方だな……平民出身で、元々学力的にはあまり優秀ではなかった彼だ。資金的な問題で一年入学が遅れてしまったそうだが、学力的にも不安はあるだろう。


「……これは、ジョッシュもパワーレベリングが必要かな?」

「え?」

「ほら、迷宮に拉致――もとい連行――じゃなくて、育成したら知力の能力値(パラメータ)も大幅に伸びるじゃない?」

「あ、そっか! じゃあジョッシュも迷宮に連れていくんだ?」

「そうだね。そうなると……テマとラキも連れてかないと不公平だよなぁ」

「みんなで潜ろうよ!」

「結局そうなるかな?」


 こうしてボク達のパワーレベリング計画、第二弾が発動されたのである。

 ボク監修の元、強制的に鍛えられるとなれば、彼等の両親も否はあるまい。


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