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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百九十七話 進路相談


 夕刻、世界樹の偵察を終えたボク達は村へと帰還した。

 あれから数回戦闘が起こったが、すべて遠距離からの砲撃で殲滅する事が出来たので、怪我らしい怪我は全く負っていない。

 もっとも怪我したところでアリューシャがすぐに癒してしまうので、重大な事態にはならないだろう。


 だが、村の方はそうはいかなかったようだ。

 帰還して目にした村は、そこかしこから煙が上がり、いくつもの建物が崩壊した、まさに戦場の如き状況だったのだ。

 火が出ていない事が唯一の救いだろうか?


「うぉ、なにごと!?」

「うわー、お家が沢山壊れてる」

「まさか――ケンネルの襲撃? でもそれだったら私達に連絡が入るはず……?」


 こういう時は便利キャラであるヒルさんを訪ねるのが手っ取り早い。

 ボク達は騒然とする村の中を駆け抜け、組合支部へと足を運んだ。リンちゃんとセンリさんのパワードスーツによってボク達は空を飛べるので、往来まで崩れ出した建築物は障害はならない。

 組合支部に到着すると、そこには半壊した建物の外で指揮を執る、ヒルさんの姿があった。


「ここもですか、一体何があったんです?」

「ああ、ユミルさん。危惧していた通りの事が起きましたよ」


 足早に駆けつけたボク達を見て、安堵したような表情を浮かべる。

 ひらりとリンちゃんから飛び降り、彼の前へ進み出た。ヒルさんは手早く状況を説明してくれたが、彼の言葉には聞き捨てならない要素があったのを、ボクは見逃さない。


「危惧していた事?」

「ええ、虫たちの空からの攻撃でしょう。昼過ぎにいきなり芋虫が落下してきたんです。それも数匹まとめて」


 昼過ぎという時間帯に、ボクはなんだか嫌な予感を覚えた。

 ちらりとセンリさんを見やると、彼女もボクと同じ印象を受けたのか、かなり視線が泳いでいる。

 アリューシャは何があったのか判らず、きょとんとした顔だ。ああ、かわいい。


「その芋虫……ひょっとして凍ってませんでした?」

「え、なぜ判るんです? ああ、ひょっとして上空でも同じような戦闘がありましたか?」


 ああ、これは間違いない……その『落ちてきた芋虫』はリンちゃんの【コールド・ドラゴンブレス】によって、枝ごと地上に叩き落されたものだ。

 今度はチラリとリンちゃんに視線を流す。

 リンちゃんも事態を把握したのか、首をそむけて露骨に知らん振りしている。

 唐突に挙動不審な行動を取り出したボク達に、ヒルさんは怪訝な表情を浮かべ、疑問を持った。


「さてはユミルさん……また、なにか――『やらかした』んですか?」

「あの、その……実は、ですね?」

「わ、私は何もしてないわよ? きちんと跡形も無く吹き飛ばしたし!」

「ああ、センリさん一人だけずるいですよ!?」


 即座に責任逃れの手を打つセンリさんに、ボクは死なば諸共とばかりにしがみ付く。

 このままでは、彼女だけ逃亡しかねないと感じたからだ。


「えっとね、ユミルお姉ちゃんすごかったんだよ! リンちゃんのブレスでどかーんって。芋虫達、全部凍って枝から落ちてっちゃったの!」

「へ、へぇ……すごいわねぇ……」


 ボク達がヒルさんの対応に追われている間、アリューシャはいつものように受け付けのお姉さんからお菓子を貰いながら、ボクの武勇伝を誇らし気に話していた。

 アリューシャよ、いつもならともかく、今は不味い!

 話を聞いていたお姉さんは何かを察し、能面のような表情で受け答えしていた。もちろんその声は、ヒルさんにも届いている訳で……


「なるほど、だいたい理解できました」

「いや、ボク達に悪気は全くなく――!」

「あってたまりますか! まったく、『何かやってくれ』と頼めば、無駄に被害を広げてくれますね、あなたは……」

「面目ない」

「この賠償は報酬から天引きしておきますよ?」

「御意のままに」


 正直、今回の報酬から天引きされる以上の被害は、村に出ている。

 それを天引きできる程度に収めてくれると言うのだから、これはかなりの温情と言えるだろう。

 まぁ、ボクの口座には、村をもう一つ作る程度の貯蓄はできている訳だが。


「幸い、人的被害は全くありませんでした。昼と言う事で皆仕事に出ていたのが功を奏したのでしょうね」

「け、計画通り……」

「なら今度は落ちないように計画してください」

「ウソです、ごめんなさい」


 ボクは平身低頭の態でヒルさんに謝罪する。

 彼はこれから村の立て直しに、それこそ東奔西走する羽目になるだろう。全てはボクの詰めの甘さのせいである。


「まあ、依頼を出したのは私の方ですから、多少の被害は甘受しますけどね。さすがにこれは……」

「いえ、新しいスキルを覚えて有頂天になって詰めを誤ったボクのせいです。本当にごめんなさい」

「村人の方には私から報告しておきますので、今は自宅に籠っておくのがいいかもしれません。なんだったら、例の『会議室』に泊まり込むのも悪くないですね」


 家を破壊された村人にとっては、今回の被害はとんだトバッチリである。

 なので、しばらくは村人の視線も鋭い物になるだろうという、ヒルさんの配慮だろう。


 タルハンに戻るか、家に籠るか、迷宮の会議室に逃げ込むか。

 なんにせよ、しばらく『ほとぼりを覚ませ』と彼は言っているのだ。

 その意見に関してはボクも賛成である。


「判りました。アリューシャの休みもそろそろ明けますので、タルハンの方に向かう事にします」

「そうですね、そっちの方がいいでしょう」

「あの、壊れた家の補填とか、ボクの方に回してください。できるだけ援助させていただきますので……」

「仕事でしたから、そこまで気を使われる事も無いと思いますけど……そうですね、その方が村民の印象も良くなるでしょう。なにせ『怠け者(アイドル)村長』という呼び名もあるくらいですから」

「ぐぬぅ」


 ヒルさんに仕事を投げっ放しにして、タルハンと村を往復しつつ週末冒険者として迷宮に潜るボクは、村人からすれば全く仕事をしていない怠け者として見られている。

 実際村の運営には全くタッチしていないので、彼等の陰口も実は正しい。

 そんな少しばかり悪い印象を払拭するのに、今回の出来事は丁度良いとヒルさんは判断したのだ。


「では、『壊れる前より、固く大きく立派に』をモットーによろしくお願いします」

「固く? まぁ、了解しました。本当にいいんですね? 結構な額になると思いますよ?」

「稼ぎはあるので大丈夫でしょう」


 村で唯一迷宮深層に出入りするボクは、結構なレアアイテムを持ち帰っているのだ。

 最近アンデッドのせいで攻略が進んでいないとはいえ、その収益は他の冒険者を遥かに凌ぐ。

 しかも、最近は宝箱なども設置されている影響で、マジックアイテムや武具なども入手できている。

 村の家を全部立て直してもお釣りがくるだろう。


 こうしてボク達は、村の再建に援助を約束しつつ、タルハンへと戻る事になったのである。





 タルハンへ帰還したボク達は、間もなく学園の校長先生に呼び出しを受けた。

 曰く、アリューシャの進路の事で相談があるとのお話らしい。

 翌日即座にボクは学園に足を運び、校長室に押しかけた。


 考えてみればアリューシャも学園最高学年。あと半年もすれば卒業が待っているのだ。

 今のままでは彼女は冒険者一直線。それも悪くないとは思うが、いかんせん彼女はボクと同じく通常の人間とは違う。

 迷宮産の身体を持っている以上、アリューシャの成長もある程度の所で止まるはずなのだ。


 そうなれば、同じ場所に長く居つく事はできなくなる。

 それをごまかす為には根無し草の冒険者はいい隠れ蓑になる……とは言え一生冒険者というのも、あまりにも酷だ。

 ならば一定期間でローテーションする感じで住処を変えるのも、悪くない。


「という訳で、卒業後は冒険者で糊口を凌ぎつつ、別荘を物色する予定です」


 アリューシャの秘密をごまかしつつ、校長先生に今後の展望を語って聞かせた。

 すると彼女は大袈裟なほど溜息を吐いて、ボクに非難の視線を向ける。


「冒険者が悪いという訳ではありませんけど、アリューシャさんの才能は他に類を見ない程優秀なんです。ここは王都の高等学園に入学すると言う展開も視野に入れてみませんか?」

「王都、ですか?」

「ええ。別に王都でなくても構いません。いえ、この国でなくてもいい。彼女なら、より高いレベルでその才能を活かせるはずです」


 校長先生はアリューシャやボクの事については全く知らない。

 その存在自体がトップシークレットの塊であるボク達が、タルハンを離れ庇護者のいない別の場所に定住するのは、ある意味危険である。

 事情を知らない彼女が、進学を進めて来るのも無理はない話なのだ。


「それは……少し考えて……いや、もうそんな時間は無いんですね?」

「ええ、受験の受付はすでに始まってますので」

「こればかりはアリューシャの意見もありますので、即答はしかねます。が、おそらくは冒険者を志望するんじゃないでしょうかね?」

「私もそう思ってます。ですが、それではあまりにも勿体ないと思うんですよ」


 アリューシャの能力値(パラメータ)は一般人のそれを遥かに超えている。

 その才能を彼女が惜しむのも、非常に判る。

 だが表立ってそれを誇示する事は、ある意味危険なのだ。特に最近はケンネルだの転移者だのがちょっかいを出してきている状況である。

 迂闊に街から離れる事はできない。


 タルハンとユミル村の間にはホットラインが敷かれているので、即座にその情報はこちらに流れてくる。

 だが他所の村に行ってしまうと、そのコネが無くなってしまうので、村の近況が把握できなくなってしまうのだ。

 もしボクが目を離した隙に再び侵攻されたらと思うと、安易に提案に同意する事はできない。


「先生の提案は理解しました。ボクとしてもアリューシャを閉じ込めておくつもりはないのですが、やはり事が事ですので、本人の意思を確認しないと」

「ええ、それはもちろんですわ。それに私としても無理強いはしたくありませんので……ですが、そういう選択肢もあると言う、提示だけはさせてくださいな」

「はい、それでは今日の問題はそれだけで?」

「ええ。ご足労、感謝いたします」


 アリューシャの進路か……そう言えば、彼女もそういう歳になってきたのだと、感慨深い思いで、ボクは学園を後にしたのである。





 その夜。

 久しぶりの屋敷での夕食に、ボクは驚愕していた。

 なぜなら、夕食の準備を幽霊執事のイゴールさんが担当してくれたからである。


「なん……だと……!?」

「ユミルお嬢様、私が料理しては何かおかしいですか?」

「イゴールさん、物に触れなかったんじゃないんですか?」

「アリューシャお嬢様のおかげで、念動力を使えるようになりましたので。味見はできませんが、昔取った杵柄です。味に狂いはないと思いますよ」


 むしろ念動力のおかげで複数の作業を並行して行えるので、彼の調理速度はボクよりも早いと言える。

 しかも味見できないが故に几帳面にレシピを守るため、その出来栄えの均一性は目を瞠らんばかりだった。


「おおー、すごい、イゴールおじさん!」


 トウモロコシを裏漉しして作ったポタージュに、アリューシャは目を丸くして賛辞を送っている。

 センリさんは……つまみ食いを敢行しようとして、スラちゃんにガードされていた。


 とにもかくにも、夕食の心配はこれでなくなった訳である。今後は彼に存分に活躍してもらう事にしよう。

 決してボクが楽したい訳じゃないのだ。


 そんな訳で、三人揃って夕食である。

 スラちゃんにはリンちゃん用のお肉を渡して厩舎へと戻ってもらった。

 最近は厩舎地下の冷蔵室から勝手に食料を持ち出して給餌してくれるので、大変便利である。


「そうだ、ユミルお姉ちゃん。あのね、お願いがあるんだけど……」

「ん、なに?」


 イゴールさんに給仕してもらいながら、唐突にアリューシャが切り出してきた。

 彼女にしては珍しく、すごく言い難そうにしている。


「なに? 言ってごらん。アリューシャのお願いなら、大抵の事は聞いてあげるよ!」

「それはそれで過保護が過ぎるわよね。さすがユミル」

「センリさんはお静かに!」


 ボクの駄保護者宣言にすかさず茶々を入れる彼女を黙らせつつ、アリューシャに先を促した。

 アリューシャは珍しくもじもじしつつ、ボクにお願いしてきた。


「ジョッシュがね? 王都の高等学校に入学するって、今日テマから聞いたの。だからわたしも、王都に行きたい」


 ボクはその言葉を聞いて、少し驚いた。

 まさに今日、校長先生から聞いた事を彼女から切り出してきたのだ。

 だが、その前にボクは彼女に確認せねばならない事がある――


「アリューシャ……」

「ダメ、かな?」

「まず最初にこれは聞いておかなければならない」

「うん?」


 ボクは真剣な目でアリューシャを見つめ、こう口にした。


「ジョッシュって……誰だっけ?」

「ヒドイ!?」


 アリューシャはテーブルに盛大に突っ伏しつつ、そう叫んだのだった。


田舎から戻ってきました。

少しばかり切りが悪いですが、ここで一旦章を区切ろうと思います。

次はまたポンコツ魔神の連載に移ります。

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