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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百九十五話 対策会議


 その日の夜の内に、センリさん達と連れ立って迷宮に潜る事にした。

 世界樹に虫が付いた事は、一刻も早くトラキチに報告すべきだと判断したからだ。

 夜間はモンスターの凶暴性も上昇するが、一層程度ならばボク達だけでも問題はない。


入口付近に設置された会議専用の隠し部屋を訪れ、呼び出し用の水晶球を起動させる。

 このマジックアイテムを起動する事で、水晶球は立像を投影して、まるでその場にトラキチがいるかのように会話できるのだ。

 しかもこの部屋、水はもちろんの事、お茶や茶菓子の用意までしてあり、その上応接セットまで常備されているのである。

 居心地が良すぎて、思わず住み着いてしまいそうなくらいだ。


 なお、アリューシャは夜間と言う事もあり、先におやすみしていた。昼間に撮影で頑張りすぎてしまったのだろう。

 やはり身体は大きくなっていても、まだまだ子供である。


 水晶球を起動すると自動的にトラキチの部屋に繋がり、彼を中心に像を結び、投影を開始する。

 そこには上半身裸のトラキチと、パジャマを肌蹴たラミとキー子が並んでベッドに潜っている姿があった。


「トラキチ、アウトー!」

「うぉっ!? なんだ、誰だよ、こんな時間に!」


 思わず絶叫したボクの声に、トラキチは慌ててシーツを腰に巻き付け、周囲を窺う。

 彼の部屋には、ソファに座るボク達の姿が投影されているはずだ。

 そもそも『誰だ』もなにも、彼と連絡を取れるのはボク達しかいない。


「この外道! ついに手を出したな。こんな幼い子に……薄い本みたいに!」

「いや、違うって。俺は元々寝る時は裸派だし! こいつ等の服が肌蹴てるのは寝相が悪いからだし!」

「テント張りながら主張しても説得力ありません!」

「チクショウ、生理現象だ! 見るなよ!?」


 股間を押さえながら水晶の撮影範囲外へと逃げようとするが、これは自動で彼にピントを合わすように作られているので、逃げ切る事などできなかった。

 右往左往して狼狽する彼に、ヒルさんが咳払いして場を取りなす。


「ゴホン、そちらの方も多少は問題ですが、今回訪れたのはそれが理由ではありません」

「え?」

「至急トラキチさんにご報告したい出来事がございまして」


 そう言ってヒルさんがボクに目配せする。

 その合図を受け、ボクは本来の目的を思い出した。ここはトラキチを弄って遊んでいる場合ではない。

 トラキチもその雰囲気を察したのか、いつものテーブルに着いて居住まいを正す。その背後に寝ぼけ眼のラミとキー子が付き従っている。

 その従順さは、少しばかり羨ましい。昔のアリューシャを思い出すね。今のアリューシャも元気でかわいいけど。


「今日、世界樹の枝の上でこいつに襲われました。今この木は虫にたかられてます」


 そう言って応接テーブルの上に三メートルにもなる巨大な芋虫を、インベントリーから取り出す。

 もちろんテーブルよりも芋虫の方が大きいので、端がデロンとはみ出ているが、そこは問題じゃない。


「これは……虫か? 世界樹に?」

「そうですね。葉っぱをモシャモシャ食べてました」

「さすがに幹は喰えなかったか……いや、葉だけでも大問題だな。芋虫ってことは、いずれ羽化する可能性も有る」

「はい、蝶みたいに無害ならばともかく、蛾になって毒をバラまかれたり、村人に襲い掛かられたりしたら危険です」


 ヒルさんが恐れているのは、その可能性も有るからだ。

 落ちてくる実について来る芋虫が新人を襲うのも恐ろしいが、蛾などに羽化して、村を襲われるのも怖い。

 未知の毒や空から襲撃される恐怖はこの世界でも存在する。特にドラゴンのような飛翔モンスターがいる以上、その脅威は日本人以上に身をもって実感しているだろう。


「即座に対策、と言っても有効な手段は思いつかないな」

「世界樹用の農薬とかありませんしねぇ」

「標的が枝の上となると、冒険者に依頼を出すのも難しいです」

「やっぱりユミルが地道に潰して回るしかないのかしら?」

「簡単に言いますけどね、センリさん。世界樹って……すごく大きいです」

「しかも硬くて太いわね。これを追加してもう一回言ってみて?」

「絶対イヤ」


 いかなボクと言えど、遥か上空に広がる枝葉を見回るのは不可能だ。

 リンちゃんに乗れば可能ではあるけど、その時間は膨大な物になるだろう。

 そうなると迷宮攻略にもパワーレベリングにも支障が出てしまう。かと言って放置すれば、アミューズメントパーク計画にも村の安全にも危険が発生するのは、時間の問題だ。

 早急な対策は必須である。


「そうだな……とりあえず芋虫対策にヒポグリフでも放っておくか? あれならそこそこ強いし、人間相手にも友好的だ」

「おお、それはアリューシャが喜びますよ。ふかふかは正義ですので」

「代わりにそっちのスレイプニールに恨まれそうなんだがな」


 この近辺がヒポグリフの生息地になれば、騎獣に向くあのモンスターの事である。おそらくは人に飼いならされる個体も出て来るだろう。

 そうなればふわふわ大好きアリューシャが乗らない訳が無い。

 アリューシャの愛馬を自認しているウララ辺りが、嫉妬に狂いそうではある。


「それでも何も手を打たないよりはマシですね。それよりヒポグリフって芋虫食べるんです?」

「あいつら性格は温和なくせに、肉食だったりするんだよな。芋虫だって食うだろ?」

「まぁ、食わなくてもヒポなら問題ないですけど」


 モフモフフワフワのヒポグリフなら、村のそばを飛んでいればそれだけで癒しになる。

 アリューシャのテンションも上がって一挙両得なのだ。

 ボクはプニプニ系が好きなので、スラちゃんの上で昼寝するのが好きだけど。

 それより、モンスターをダンジョンの外に配置するのは構わないが、それだとトラキチのポイントにならないんじゃないだろうか?


「トラキチはそれでいいんです? ポイントの無駄遣いになりません?」

「えっと、それは……どうなんだろう?」

「それはだいじょーぶ、世界樹が三層のマテリアルに指定されている以上、その近辺はダンジョンと同じく、意思力吸収領域に指定されている。マスターに損はない」


 ボクの問いにトラキチは口籠り、代わりにキー子が答えてくれた。

 どうやら世界樹の周辺はダンジョンと同じ扱いになるらしい。

 トラキチはキー子の頭を撫でてあげ、それを見て頬を膨らませたラミが膝の上に進出してくる。

 その様子は一見すると、子供が親の膝を争っているようで、非常に可愛らしい。


「でも、この子達……実は意図的にやってるんじゃないかと思わなくも無かったり……」


 あえてトラキチを挑発している気配も無きにしも非ず。

 むしろ今も胸元を肌蹴たまま過剰な接触を試みている。トラキチはよく耐えているものだ。

 いや、手を出したとして、あの子達は本当にアウトなのか?

 よく考えてみれば元はダンジョンコアで、数百年……いや、軽く千年以上この草原に居座っていた存在である。

 ロリババァここに極まっていたりするんじゃなかろうか?

 だとすればセーフ? そもそも子供とかできるの? 生まれてくるのは人間か、それともコアなのか?


「うむぅ?」

「ユミル、なんだかおかしなこと考えてない?」

「いえ、ただ単にラミとキー子がトラキチの子供をつくったらどうなるのかなって。そもそも、できるんだろうか……?」

「ん、解答としてはできる。この身体はあくまで人化オプションで仮想構築(エミュレート)して得たものだから。人ができる事は大半は可能」

「生命を生み出すのはダンジョンコアの本懐。ドンと来い。だからマスターはどんどん手を出すべき。むしろ出せ。限界まで絞り出せ。脳内のエッチな本みたいに」

「出さねーよ! ってか、俺の脳内を勝手に読むな!?」


 やはり肉食系幼女であったか。

 これは、トラキチの理性崩壊まであとわずかかな?

 それにしても脳内までプライバシーが存在しないとは……トラキチも哀れである。

 相手がダンジョンコアなら仕方ないよね。






 翌日から、ダンジョン近辺でヒポグリフが空を舞いだした。

 それを見てアリューシャのテンションが上がる事、上がる事。

 ボクの方が引きずられてしまいそうな位である。


「ユミルお姉ちゃん、ヒポグリフだよ、ヒポグリフ!」

「あー、そうだねー」

「わたしも一匹欲しい!」

「うちにはスラちゃんとリンちゃんとセイコとウララがいるでしょー?」

「リンちゃん以外飛べないもの。それにフワフワしてる子が少ないし!」


 それを聞いて深く項垂れるウララ。子供は移り気とは言え、これは少し可哀想である。

 ここはボクがきちんとアリューシャを嗜め、どうにかしないといけない。


「そんな事言ったらウララが可哀想でしょ! それにウララだってフカフカできるかもしれないし」

「えー、毛、短いよ?」

「センリさんに育毛剤作ってもらいましょう」

「それだー!」


 全然『それ』ではない気がしないでもないが、アリューシャが納得したのならそれでよし。

 うちだってこれ以上ペットが増えるのは困るのだ。主に敷地的に。

 タルハンは広い敷地があるのだが、本宅であるこの村ではあまり大きな小屋は持っていない。むしろリンちゃんの竜舎の方が大きいくらいである。


 それにこれ以上ペットが増えると、アリューシャがそっちに行って寝てしまうじゃないか。

 あの至福の時間は、いかに家族と言えど譲る訳には行かないんだ。断じて。


「そのうちヒルさんが組合で飼育しだすだろうから、その時にモフりに行けばいいと思うよ」

「その手があったか!」


 両手を胸の前で握り込み、ガッツポーズでフンスと鼻息荒く納得する。

 これは組合に結構な迷惑を掛けるかもしれないなぁ……


「とにかく今日は、ヒポグリフに先行して世界樹の探索をするから。あの子達は芋虫を食べてくれるけど、他のモンスターとかいたら危ないしね」

「そうだね。ヒポちゃん、怪我したら可哀想だもん」

「ヒポちゃん……いや、いいけど」


 世界樹の大きさは、まさに天を突くほどの物がある。

 それ程の生息域があるのだから、住み着いた害獣もボクが見かけた芋虫だけとは限らないのだ。

 今日はそれを見回りに、リンちゃんと世界樹ツアーを行う予定である。


 問題はリンちゃんの背には後一人しか乗るスペースが無いため、アリューシャが乗れば他の者は乗れなくなってしまう……つまりセンリさんが置いてけぼりになっちゃう事である。

 またお留守番となれば、彼女の機嫌も少しばかり悪化してしまうだろう。

 そんな事を考えていたら、ボクの背後で重い足音が響いた。


「ん? んなっ!?」


 そこには全長三メートルほどのロボットがいた。

 いや、待て。ここは剣と魔法のファンタジーではなかったのか?

 最近銃とかライフルが出回っているとは言え、いくらなんでもこれは無い。


「せ、センリさん?」

「いえーす! どうよ、この飛行ユニット!」

「どう見てもロボットです。本当にありがとうございました」

「センリお姉ちゃん、カッコいい! わたしも欲しい」

「こら、何でも欲しがるんじゃありません!」


 ロボットというにはやや小振りな、パワーローダーともいうべき物に乗ったセンリさんは胸を仰け反らせて鼻高々である。

 しかも背中には不穏な感じのノズル――というか、巨大な銃身がニョッキリ伸びていた。

 あれ、撃てるんだろうなぁ……多分。


「それ、飛べるんです?」

「概算によるとエネルギーパック一つで一時間は飛べるわ」

「なんですか、その『えねるぎーぱっく』って……」

「世界樹の実の果汁を希釈するのではなく逆に濃縮して見たら、魔力の塊みたいな石になったのよ。琥珀みたいなものかしらね?」

「つまりその石をエネルギー源にしてみた、と?」

「いえーす!」


 そういえば彼女、腕を切り落として付け替える機械の腕とか開発してたっけ?

 あの技術を拡大していけば、こういう物が作れるかもしれない。確かに。


「これなら世界樹の見回りに私もついて行けるでしょ?」

「それ、戦えるんです?」

「問題ないわ。一応ライフルとかグレネードランチャーを外付けしておいたから。戦闘力は下がってないわ。むしろ上がってるんじゃないかしら? ほら、背中の――」

「いや、もういいです」


 なんというか……性能よりなにより、ボクは視線が痛いです。

 村の住人たちが三メートルを超える巨体にぎょっとした表情を見せた後、そばに控えるボク達を見て納得したような顔をして去っていく。


「違うんです、これにボクは関わっていないんです」

「なに言ってるの? ユミルお姉ちゃん」

「聞こえているであろう不特定多数の聴衆に対する、切実なお願いをお届けしてるの」

「ふぅん?」


 明らかに判ってない顔で首を傾げるアリューシャ。

 こうしてボク達はドラゴンとロボットに乗って、空に向かって駆けあがったのだった。

 センリさん、排気音うるさいです。


ふっふっふ、あのロボットアームが伏線だったとは思うめぇ……

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