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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第十八話 第一陣の到着

 丸一日、アリューシャとキャッキャウフフしながら過ごして、リフレッシュ。

 更に今日も遊具作りに励むとしよう。


 今日作るのは定番のブランコ。

 丸太を斜めに交差するように打ち込んで、土台を二つ作り、上に丸太を更に渡して、蔓で座板を吊るして完成のお手軽製法。

 それでも遊具の無いこの草原において、娯楽としては充分な働きをしてくれた。


 アリューシャはまさに狂喜乱舞して、『後ろから押して』だの『一緒に乗ろう』だのとせがみ、こちらが疲労したくらいだ。

 いや、ユミルの体力的に疲労はしなかったけど、精神的に。

 気が済むまで遊んだ後、『ゆーね、だいすき!』とハグしてくれた時は、鼻血吹いて昇天しそうな心地になった。


 午前はブランコ作り、午後は食事を取ってハンモックでお昼寝と、ゆったりと時間を過ごす。

 ボクは、アリューシャを寝かし付けてから、自分の手をじっくりと眺めていた。


「本当に……女の子の手なんだけどなぁ」


 白く、肌理(きめ)細かい、どこまでも華奢で繊細な……ほっそりとした指。

 無骨さの欠片も無い、柔らかそうな肌。男の時の手とは大違いだ。


 これが身の丈を越す大剣を振り回し、モンスターを一撃で仕留めて回るのだ。

 しかも昨日今日と遊具作りに励んで判った事は、この手は武器を持たずとも充分な凶器になりうると言う事。

 丸太を素手で地面に叩き込むとか、どこのボクシング漫画の主人公かと。

 しかもそれほどの荒行をこなしたにも拘わらず、傷一つ付いていないのだ。


「もう、人間ってレベルを超越してるよね。いや、ゲームキャラだけどさ」


 二つ並んだハンモックに寝そべりながら、軽く拳を突き出してみる。

 ボッ、と拳が空を切り、女の子のパンチが出していい音じゃない風切り音が鳴った。


「これじゃ、うっかりゲンコツも落とせないなぁ。まぁ、アリューシャはいい子だから、そんな事はあまり無いだろうけど……注意はしなきゃ」


 うっかり『メッ』と頭をコツンとやって頭蓋粉砕とかになったら、目も当てられない。

 獣の解体で大分慣れたとはいえ、スプラッターは苦手なのだ。あれは料理が美味しく食べられなくなるジャンルだ。




 ゆったり癒しの時間を堪能していると、視界の隅に何か動く物が入ってきた。

 藪睨みの表情になって目を凝らすと、それが大勢の人影である事がわかる。


「おっ、ついに来たかな? アリューシャ、起きて。お客さんが来たよ」

「んー、んむぅ……ふにゅあ……」


 彼女は朝は寝起きのいい方だけど、一度寝入るとなかなか目を覚まさない。

 ある意味自分の睡眠時間を頑なに守ろうとするタイプなんだろうか?


「あふ……ゆーね、おはよぅ」

「はい、おはよう。どうやらアーヴィンさんが戻ってきたみたいだよ」

「え、おじちゃんが!」

「…………」


 ちなみにアーヴィンさんは、見た目二十歳そこそこの好青年だ。

 おじちゃん呼ばわりはあまりにも可哀想だろう。元の世界のボクの方が年上っぽいし。

 とにかく、ボク以外の顔見知りが来たと言う事で、アリューシャもそれなりに喜んでいる事は表情で判った。


 次第に近づいてくる人影に、手を振って応える。

 アーヴィンさんたちも手を振り返して応え、ルイザさんが駆け足でこちらに向かってきた。


「お久しぶり! 元気にしてた?」

「はい。ルイザさんも、元気そうで何よりです」

「アリューシャちゃんは少し背が伸びたかしら?」

「ほんと!?」

「一ヶ月じゃそこまで伸びませんよ。そうだ、身長も測っておこうか?」

「測る!」


 ぐいぐいとボクの手を引っ張るアリューシャだけど、どうやって測るか判ってるのかな?

 引っ張っている方角が迷宮なんだけど……『何か探し出すなら迷宮で』と言う常識が、彼女の中に出来つつあるのかも知れない。


「後でね、後で。今はアーヴィンさんをお出迎えしないといけないでしょ」

「あ、そっか。うん」


 ルイザさんと歓談している間に、残りの人たちも随分近くまでやってきていた。

 見た限りではアーヴィンさん達五人に、その他冒険者風の人達が二十人ほど。この人達が迷宮に挑む人たちなんだろう。

 そして――


「あれ、ヒルさん?」

「はい、お久しぶりです、ユミルさん」

「お久しぶり。でもまた来るとは思っていませんでした」

「私も思ってませんでしたよ」


 ハァ、と重い溜息をつくヒルさん。その姿になんだか窓際族という言葉を思い出した。


「今度ここに冒険者組合の支部を置く事になりましてね。私がその支部長を務める事になったんです」

「ええ!? あ、それじゃ一応栄転なのか」

「まぁ、給料は上がるでしょうね。仮にも迷宮のある場所の支部長ですから」

「他には何もありませんけどね、あはは」


 組合がここに支部を置く……それは組合が本気でここに街を作ろうという意思表示ではないだろうか?

 前回聞いた話では、それくらいの権勢は組合にあったはずだ。


「街、作るつもりなんですか?」

「いずれは必要だろうという話です。で、どうせ要るなら早い方が良いという結論が出ました」

「なんというか……ご愁傷様です」


 発見されたばかりの迷宮周辺の支部長。

 確かに、収入は大きく増えるだろうし、組合内での権力も増加するだろう。

 だが、他には何も無い。

 街すら出来ていない状況なのだ。酒場もなければ店も無い。憂さを晴らす場所が無い。


「ストレスで禿げないでくださいね?」

「嫌な事言わないでくださいよ!? ところで……一月しか経っていないのに、もう小屋を二つ建てたんですか?」

「ええ、アリューシャも頑張ってくれたんですよ」

「えへん」


 ボクの隣で幼女が胸を張った。

 その微笑ましい仕草に頭を撫でてあげると、猫の様に目を細める。


「それで、そちらの方達は?」

「ああ、ご紹介が遅れました。こちらが迷宮探索に参加したいと手を挙げた冒険者の方たちです。そしてこちらは大工のアルドさんとそのお弟子さんです」

「こいつぁ嬢ちゃんが建てたのかい?」


 アルドさんはズングリした体型の背の低い長い髭が特徴的な……ってか、ドワーフ!?

 そういえばアーヴィンさんたちのパーティには人間しかいないし、アリューシャもそうだったので、人間以外の種族を見るのは初めてだ!


「あの、もしかして……ど、どわぁふ……ですか?」

「こっちが先に質問したんだがな?」

「あっ、ごめんなさい! はい、そうです。ボクが――わたしが建てました」

「おう、なかなか良く出来てるな。工具無しで作ったとは思えねぇ。それと俺は間違いなくドワーフだよ」


 質問に質問で返した時に不機嫌そうな表情を見せたけど、キチンと答えたらちゃんと返してくれた。

 気難しい印象はあるけど、悪い人じゃなさそうだ。

 昔気質ってこういう人なのかも知れない。


「ゆーね、おこられた?」

「ん?」


 ふと傍らを見ると、アリューシャが心配そうにこちらを見上げていた。

 ボクが叱られたと思って心配しているのだろう。


「大丈夫だよ。アルドさんも小屋、褒めてくれてたでしょ」

「ホント」

「うん、本当」

「お、おう。怒ったわけじゃないぞ。いい出来だと褒めてたんじゃ」


 半分泣きそうな表情を見せるアリューシャに、アルドさんは慌てた様に言い訳を始めた。

 泣く子には勝てないという格言を地で行ってる人だね。

 そんな親方の様子に、お弟子さん達もくすくすと含み笑いをしている。

 それを見て弟子を叱りだし、それを更に見てアリューシャが泣きそうになり、その反応にアルドさんが困り果てた表情をするという、カオスな状況が出来つつある。


「まぁ、それぐらいにして……こちらの五人は輸送を担当してくれた冒険者です。彼がリーダーのショーンさん」

「おう、よろしくな!」

「よろしくお願いします」


 ショーンさんは30を超えたくらいに見えるベテラン風の冒険者だった。

 でも、強さで言うとアーヴィンさんの方が強そうな雰囲気?

 ボクが首を傾げていると、雰囲気を察したのかショーンさんが説明してくれた。


「俺は大成できなかったクチだよ。あいつらは期待のホープだからな」

「そうなんですか?」


 アーヴィンさんが期待のホープ? 迷宮で右往左往してた印象しかないんだけど。

 タルハンの街は意外と人材不足なのかも知れない。


「彼は一週間ほどこちらに滞在して、その後タルハンの街に戻ってもらう予定です。今後も定期的に往復してもらう予定ですので、覚えておいてください」

「はい、よろしくです」

「よろしく、なの」


 ボクとアリューシャが彼と握手してると、なんとも微妙な表情をしてみせた。


「あの、なにか?」

「ああ、いや……悪いな、ヒルからスッゲェ腕利きだって聞いてたモンだからよ」

「ああ、こんな見かけですからね。でもボクはそんなに強くないんですよ?」

「うそだっ!!」


 ボクが謙遜してみせたら、アーヴィンさんたちが声を揃えて否定する。

 やめろ、そのヒグラシが鳴きそうな否定の言葉は。


「だから……いえ、いいです」

「チャージバードの首を一刀で両断するような達人だから、だまされちゃダメだぞ。ショーン」

「マジか……いや、実物を見るとますます信じられねぇんだが」

「過剰評価ですって。一ヶ月も篭ってたから、慣れたんですよ。それに剣も良い物使ってますから」


 ボクの素手の威力は、本来目を覆わんばかりに弱かった。

 よく精錬された武器を持つ魔術師系の方が威力を出せるくらいなのだ。

 普通の魔導騎士なら、素手でもゾンビを爆散させるほどの威力が出せるが、ボクには無理だった。今は違うっぽいけど。


「住居が足りないと思ってアルドさんを連れてきたのですが、もう二つ小屋を建てているとは思いませんでした」

「ええ、多めに作って損は無いと思ったので、頑張りました」

「ありがたいですね。大人数で来たので数日は野宿を覚悟していたので」

「中はだだっ広いだけですけど、うまく区切って使ってください。衝立(ついたて)は用意してます」

「充分ですよ。では、こちらの小屋は?」


 新しく作った来客用の小屋にショーンさんたちが入っていくのを見て、もう一つの小屋を指し示す。


「あちらは警邏を派遣してくれるという話だったので、常駐してくれる方用の小屋を、と思いまして」

「ああ、つまり私やアーヴィン君たちが駐留する場所ですね?」

「そうですね」

「俺達専用の家か……そう聞くと、なんだか感慨深いな!」


 根無し草の冒険者は、自宅という物を持つ人は少ないらしい。

 そんな彼らが仮とはいえ家を持てるのだから、感動があるのだろう。


「ああ、アーヴィン君? 一応、あそこはこの草原支部にするつもりなので、自宅は別に作ってくださいね」

「ちくしょう!」


 ヒルさんの無慈悲な宣言に、アーヴィンさんがマジな感じの涙を流す。

 がっくりと地面に両手を付く彼に、アリューシャがポンポンと頭を叩いて慰める。


「ま、まぁ……土地と木材は腐るほどあるので、また作ってあげますよ」

「マジか! ありがとう……アネキって呼んでいい?」

「ダメよ、どう見てもユミルちゃんの方が年下でしょ!?」


 テンションが上がって変な事を言い出したアーヴィンさんを、ルイザさんが(はた)く。

 こうして、にぎやかな第一陣を受け入れる事ができたのだった。


今日はここまでです。続きはまた明日。

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