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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百七十五話 パワーレベリングへの挑戦

 祝、少年競馬大会開催決定。

 と言う事で、ボクがまずやるべきことは、アリューシャの売り込みである。


「で、参加資格は成人以下である十五歳以下で」

「それは全然かまいませんよ。むしろ歳が低すぎると橇の扱いに不安があるので、参加の最低年齢も設定しましょう」


 意外にもヒルさんはノリノリで企画に参加してくれている。

 彼もこの村の娯楽の少なさは危惧していたのかもしれない。


 いまだ発展途上のこの村では、子供はもちろん、大人ですら娯楽が少ないのだ。

 冒険や伐採などの仕事をし、宿で食事を食うか、組合の配給をかっ食らう位しか娯楽が無いのが問題である。

 最近はドワーフ直伝の芋酒と言う娯楽が増えたが、それでは子供は楽しめない。


 地域の活性化に、子供たちの元気は切っても切り離せない問題である。

 この村の発展に全てを掛けている彼が、人知れず頭を悩ましていてもおかしくはないのだ。


「最低年齢……確かにそれはありますね。上手く扱えるようになるのは十歳くらいでしょうか?」

「それくらいが妥当ですかね?」

「それじゃ、アリューシャも参加資格有りますよね? ね?」 

「スレイプニールに参加資格はありませんけどね」

「ぐはっ!?」


 バカな……このボクの思考を先読みされただと!


「そもそも『競馬』大会に幻獣を持ち込もうとしないでください」

「うぅ、アリューシャの雄姿を見る機会が……」

「もう、迷宮内でいつも見てるでしょ?」

「ボク前衛だから、アリューシャはいつも背中側にいるし」


 前衛のボクはいつもアリューシャを背中に置いて戦っている。それは、彼女を視界に収める事が出来ない事を意味するのだ。何たる悲劇!

 気配で位置くらいはいつも把握しているけど。


「ではそんなアリューシャさんの活躍の場を作る栄誉をユミルさんに与えましょう。コースの設営は任せました」

「ええっ! ボク一人でですか!?」

「センリさんも手伝ってくれて構いませんよ?」

「障害物とか設置していい? セントリーガンとか……」

「ダメに決まってるでしょ!?」


 セントリーガンとは、設置型の無人迎撃兵器だ。

 回転架(ターレット)の上に機関銃などを設置し、自動で敵を追尾し攻撃する兵器である。

 そんなものを子供の運動会の障害物に設置しようとしている辺り、彼女もかなり壊れた発想の持ち主である。


「どれだけ修羅場を作りたいんですか……ダメですよ。今回は穏便な大会にしたいんです」


 ヒルさんも溜息を吐きながら、センリさんを嗜めている。

 その手は休みなく青椒肉絲もどきに伸ばされ、絶え間なく料理を口に運んでいる。

 もしゃもしゃ咀嚼しているにも拘らず、その発音は全く濁らない。この人の口はどういう構造をしているんだ……?

 そしてアリューシャ、こっそりピーマンをヒルさんサイドに寄せるのはやめなさい。


「とりあえず村の周囲にロープでコースを作る程度でいいでしょうね。どうせなら観客席も設置したい所ですが」

「じゃあ、それをセンリさんにやってもらいましょう。トラップ作るよりもはるかに実用的です」

「それはおもしろくないなぁ」

「単純なレースのコースと障害競走のコースの二種類作るのもいいですね」


 それは日本の競馬でもある。芝レースとダートレースと、障害レースの三種類だ。

 この草原では問答無用に草が生えまくるので、ダートレースは不可能だが、草原と障害の二種類は作れそうである。


「でも障害レースだと、橇で挑むのは難しいですよ。子供だと馬を跳ばせるのも危険ですし」

「それもそうですね、ではそちらはまたの機会と言う事で。問題は馬の少なさですが……」


 村には多少なりとも家畜の類を輸送してきており、その数は増加傾向にあるとはいえ、レースをするにはやや物足りない。

 だがこれは、アリューシャの転移魔法を使えば、即座に補充できる問題でもある。


「タルハンで馬を二十頭ほど買ってきましょうか? 費用は組合持ちにしてもらいますが」

「それはいいですね。転移魔法については表立って公表する訳には行きませんけど、こう言う時は便利ですね」

「馬ゴーレムとか開発するのも面白そう――」

「センリさんはしばらく黙ってましょうね! 世界が変わりそうな発言をポンポンしないで!?」


 そして気が付けば大皿料理の三分の一が消えている。

 ヒルさん、実はかなりの健啖家だったのね……あと残ったピーマンの山も、皿を回転させてアリューシャの前に戻しているのもさすがです。

 目の前に突然現れた緑の山脈に、呆然として死んだ目をしてるアリューシャの顔でご飯三杯は行けますよ、ボク。


 そんな訳でヒルさんは組合に戻っていった。

 イベントの時期を詰めて広告を打たないといけないとか言っていたので、その打ち合わせを行うのだろう。

 大規模なイベントとなればアルドさんも忙しくなるだろうし、根回しは大変そうだ。





 ヒルさんに付いて組合に行き、少年競馬大会の詰めを行っていく。

 とりあえずはコースと観客席の設営ができてからと言う事になったので、これは後日行う事になった。


 この後はセンリさんとアリューシャを連れ、馬を三頭ほど買い出しに行く予定だ。

 村には労働家畜が足りないので、どのみち必要になると言う事で組合が出資してくれることになったのだ。

 三頭だけなのは、まず品質のチェックなどを行う必要性と、受け入れる側の設備の問題もあるからである。


 会議室を出てロビーに入ったところで、後ろから声を掛けられた。

 ボクは冒険者としてはかなり小柄だし、付き従うアリューシャやセンリさんも冒険者らしく見えない。

 だからこういう場合は大抵、因縁を付けられ絡まれるパターンが多い。


「あの……」

「あぁん?」

「ひぃ!?」


 そんな先入観もあったせいで、返事が些か殺伐としてしまったのも、無理はない話なのだ。視線も半眼になって、やや鋭くなってしまったが……この組合にはそれがいいと言ってくる変態も多い。

 いや、ボクだってアリューシャにゴミを見るような目で見られたらと思うと、ゾクゾクしちゃうのは否めない。それはそれとして……


 落ち着いて相手を見てみると、そこには十代半ばほどの少年少女達の姿があった。

 傷一つない革鎧からして、まだ冒険者に成りたてと言う雰囲気が漂っている。


「あ、ごめんなさい。何か用?」


 絡まれた訳ではないと察して、にこやかに愛想笑いなど浮かべて見せる。

 こう見えてもボクは、()()()()()()美少女と名の通っている冒険者である。外面は良い方なのだ。

 いまいち褒められている気がしない……


「あ、うん。えと……君たちも冒険者だよね? 僕達も最近冒険者になったばかりでさ。パーティに術師系が足りないし、一緒にどうかなって思って……」

「……ふむ?」

「あ、お姉さんもできれば一緒にいてくれると助かるけど」


 視線を辿ると、お姉さんと言うのはセンリさんの事かな?

 この中で最年長なのは、名実共にボクなんですけど。


 見たところ彼らは、十代の少年二人と、少女一人。

 少年二人は全員が革鎧だが、剣を持った者に短剣が一人ずつ。おそらくは前衛と斥候役だろう。少女は弓を持っているところを見ると、後衛を担当する役回りか。

 確かに魔法火力や回復を担当する人間が不足している。

 今のボクは剣を装備している剣士風の格好だが、アリューシャは片手杖を装備した、明らかに術師風な格好をしている。奴ら狙いはアリューシャと見た。


 背後ではセンリさんがニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。

 どう見ても、ボク達を知らない新人に『仲間にならないか?』と誘われた反応を楽しみにしている様子だ。

 意地が悪いったら無い。


「そうですね……構いませんよ。今日は用事があるのでご一緒できませんが、明日以降から一週間ほどなら」


 なんとなく、素直に名前を出して断るのも癪だったので、申し出を受けてみる事にする。

 アリューシャも今日から長期休みだし、彼らをパワーレベリングするのも悪くないかも知れない。

 最近の彼女はお姉さん振りたいお年頃なのだ。


「え、いいの? ユ――」

「シー、その名前は出しちゃダメ」


 ボクの名を呼ぼうとしたアリューシャの口を、素早く手で封じる。

 いくら彼らが新人とは言え、村と同じボクの名を聞いたら、正体に気付くだろう。


「ユ?」

「あー、えーっと……ボクの名前、ユ……そう、ユーリと言います。よろしく」

「あ、これは失礼しました。僕はザックと言います。剣士を目指してます」

「俺、ティルク。斥候役」

「わたし、ルカですっ。シューターやってますっ」


 過剰な位丁寧なザックに、凄く人見知りそうなティルク。それに無駄に力んでいるルカちゃんね。


「はいはーい、わたしはアリュ――むぐぅ」


 問答無用で名乗ろうとしたアリューシャの口を、もう一度塞ぐ。彼女の名前もこの村では有名なのだ。


「アリューシャ、ボクはこれから新人を育成しようと思うんだ。そこに有名人であるボク等の名前を出したら、委縮させちゃうでしょ?」

「あ、うん。嘘の名前を名乗ればいーんだね!」

「せめて正体を隠すとか……」

「はぁい! わたしの名前はアリスでっす! 治癒術も攻撃魔術も使えるよ!」


 ボクの意図を素早く察したアリューシャは、スラスラと偽名を名乗って見せた。

 確かに本名に近い名前だけど、よくとっさに出たものだ。


「私はマリよ。ルカちゃんと職業が被っちゃうけどシューターかな? 生産がメインだけどね」


 センリさんは千里をもじって万里からマリに変えたのかな? 二人ともよくスラスラと偽名が出てくるものだ。

 ロビー全体を窺ってみると、ボク達以外にも居合わせた冒険者達は、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。みんな性格悪いったら……彼らのトラウマになるんじゃないかな、これ?


「よかったぁ。前衛がボク一人だし術者は足りないしで、冒険者を目指したはいいけどどうなる事かと思ってたんだ。ユーリって呼び捨てにしてもいいかな?」

「仲間になるんだから、それはオッケー。でも、見切り発車が過ぎるね」

「それに関しては面目ない。でもおかげでユーリ達に出会えたからラッキーかな?」


 この野郎、何気に嬉しい事を言ってくれる。これがいわゆる天然タラシか?

 三人それぞれと握手を交わし、自己紹介を終える。


「マリさん達が入ってくれた事で、前衛が三人に後衛が三人。バランスは取れたかな?」

「斥候役の彼も前に?」

「うん。こう見えてもティルクの短剣術は凄いんだよ」

「ユミ――ユーリお姉ちゃんの剣だってすごいんだから!」

「それは頼もしいな。期待して――え、お姉ちゃん?」


 アリューシャのお姉ちゃんと言う一言に驚愕するザック。確かにボクがこの中では一番幼く見えるけどさ。まだそれほどアリューシャと変わらないはずなのに。


「一応ボクの方が年上なんです。マリさんよりも」

「ええっ!?」

「嘘、全然見えない!」

「驚愕の事実」


 お前ら、後で見てろよ……コンチクショウ。


「多分君達よりも上だよ。今年で二十歳だし」

「ええええっ!」

「嘘、妖怪!?」

「年増か」

「ティルク君は死にたいようだね?」

「嘘です、ごめんなさい」


 日本での年齢では、はっきりしないが多分ボク>センリさん>アリューシャだろう。

 こちらの世界でも、顕現した時間ではボク=アリューシャ>センリさんだから、ボクが最年長で、問題ないはずだ。

 組合章に記載された年齢ではおそらく、センリさん>ボク>アリューシャなんだろうけど。

 ボクは疑問の目を向ける彼らに、組合証の年齢欄を見せて納得させた。もちろん名前の所は巧妙に指で隠しておく。


「うわぁ、本当だ」

「ユーリさん、ちょっとアンチエイジングの方法についてお話しましょうっ!」

「ロリコン御用達か」

「ティルク君は一言多い性格と見た」

「ごめんなさい」


 素直なのは良い事だが、謝る前に注意しよう。それとルカちゃんはアンチエイジングなんて気にする歳じゃないでしょ。


 こうしてボク達は、新人冒険者と迷宮に潜る事になったのである。


ユーリ、それはポンコツを誘発する名前。

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