第十六話 移動手段を確保します
性的な表現があるので、苦手な方はご注意ください。
第二層の森で、アリューシャの力も借りてL字型の木材を集めまくる。
他にもY字型の木材も色々役に立つだろうから、確保しておく。
こうして夕方には小屋に戻り、夕食の仕込までに背負子を作り上げる事にした。
表面を削って整え、釘で固定し革紐で背負い紐をつける。
要所を更に革紐で縛って補強し、腰を掛ける場所には羽毛を詰めた皮袋をクッションに取り付けておく。
最後にアリューシャ自身のシートベルトや、体を固定するための肘掛なども付けて完成させた。
頑丈さや安全性を重視した結果、予想より重い代物になってしまったけど、背負えない事は無い。
「うーん、少し重いかなぁ? アリューシャ、乗ってみてくれる?」
「うん、やった!」
新しい玩具とでも思っているのか、楽しそうに背負子に腰掛ける。
背負子は背負ってない状態では、簡素な椅子のような形状である。
「こことここを縛って……あ、団子結びにしちゃダメだよ。すぐ解けないと困るじゃない」
「んっと……こうでいい?」
「うん、それでオッケー」
シートベルトの条件は衝撃で簡単に解けない事、そして対照的にいざとなったらすぐに解ける事が挙げられる。
団子結びにしてしまうと、簡単には解けないが、敵と遭遇して彼女を下ろす必要性が出た時にすぐ下ろせなくなってしまう。
確か消防や漁師が使う舫い結びなどはその条件を満たしているはずだけど、一般人のボクは覚えていない。
異世界人が何でも知ってると思うなよ、コンチクショウ!
本当は六点ハーネスの様な形状で固定すると頑丈なんだろうけど、あまりややこしいと、いざという時に面倒になってしまう。
肩と腰の四箇所に紐を取り付け、X字に結ぶ事で固定する事にしておいた。丁度胸の下の部分にで結ぶ為、革紐のリボンが出来ているみたいだ。
「ま、蝶結びでも体は固定できるし、すぐ解ける方が多分重要だろうから、良しとしよう」
「ん、でもこれでわたし、うごけないよ」
ガコガコと背負子ごと体を揺らして、強度を確かめるアリューシャ。
天使羽をつけた幼女が椅子に縛り付けられてゴトゴト蠢く様を見てると、なんだか背徳的な気分になってくる。
特に固定された紐で平たい胸とか、ぽっこり出たお腹が強調されて……思わず椅子ごと抱きしめてしまった。
「んー、アリューシャ可愛いよ」
「えー、わたし、しばられてるだけじゃない」
「いいの、ボクが可愛いって思ってるんだから」
頬擦りしてからほっぺにキスしておいた。
女の子同士だからできるスキンシップって奴だね。いや出来ないかも知れない? まぁいいや、役得役得。
「それじゃ背負うから、しっかり掴まっててね?」
「はぁい」
背負い紐に腕を通し、ヒョイと立ち上がってみせる。
アリューシャの体重が十数キロ、背負子自体の重さが五キロ以上ある為、もっと苦労するかと思ったけど、そうでもなかった。
むしろ背負い紐の部分がミチミチと音を立てている気がする。
「ん、この紐の強度が足りないかな……一旦下ろすよ」
「うん」
普通の革紐では強度が足りなそうだったので、建築に使っていた太目の革紐を持ち出して付け替える。
ついでにアリューシャを見て思ったのだが、肩を通すランドセルタイプの背負い肩ではなく、X字に固定するタイプにしよう。
胸とか強調されて、セクシーな雰囲気だし! パイスラッシュって奴? あれは斜めに掛けるだけだから違うか。
「ふむ……悪くない」
「じょーできぃ?」
ユミルの体格は十代前半なので、胸はあまり膨らんでいないけど……それでもこうして強調するように縛っておくとそれなりに存在感がある。
アリューシャは後ろ向きに固定されているので、こっちは見れないはず……ちょっと触って感触を確かめる。
「んっ、あぁ……」
「どーしたの、ゆーね。くるしい?」
「あ、いや! なんでもないよ、大丈夫」
意外と敏感な感触に思わず声が漏れてしまったけど、流石にこれ以上は無理だった。自重しよう。
「よし、それじゃ軽く動いてみるから、乗り心地を聞かせて」
「わかったー」
まずは軽く歩いてみる。
がっちりと固定されているので、アリューシャが大きく揺れることはないはずだ。
その証拠に背後から鼻歌が聞こえてくる。
「なかなか余裕じゃない」
「歩いてるだけだもん」
「じゃ、駆け足いってみようか」
「ごーごー!」
草原の中を軽く駆け足。
腰元まである草が邪魔になるけど、ユミルの筋力でも充分掻き分け引き千切れる範囲だ。
ボクとしては鼻歌交じりの速度だったけど、アリューシャには結構な速度だったらしい。
背中から聞こえる鼻歌が歓声に変わる。
「すごい、はやーい!」
「サラマンダーより?」
「ずっとはや――『さらまんだー』ってなに?」
「いや……ドラゴンの一種かな?」
思わず元の世界のネタが口を突いて出たけど、サラマンダーをアリューシャが知らないって事は、この世界にサラマンダーは居ないのかな?
「あー、あれ……はねがはえたトカゲだ」
「まぁ、そんな感じかな?」
どうも似た様な生物はやはり居るらしい。
良く考えたらリンゴやレモンだって名前が変わってた訳だし、別の呼び方があるのかも知れないな。
「それじゃ少しずつスピードを上げていくよ?」
「はぁい!」
本格的に走り出す前に革紐を確認。
緩みもなくしっかりと固定されているのを見て、一定の成果は出たと満足する。
その後速度をぐんぐん上げていくと、後ろの歓声が徐々に悲鳴に変わってきた。
「ゆ、ゆーね……すこしはやい」
「そうだね、速度上げてるから」
「あぅ、むりしてない?」
「そうでもないよ、もっと上げられるから」
なんだか怯えの入った声が聞こえてきたので、微妙に嗜虐心を刺激される。
良い所を見せたいという心境も相俟って、更に体を前傾させ、速度を上げた。
この辺りになると、身体は四十五度近く傾き、顔に草が当たりだす。
そこで片腕を顔の前に出してカバーしておく。
駆け抜ける風音が轟音に変わりつつある。戦闘機動まであと少しというところかな?
「きゃああぁぁぁ! ゆーね、はやい、こわい!」
「そう? ボクはもっといけるよ?」
「だめぇ、こわいから! もうやだぁ」
悲鳴がマジ泣きに変わりつつあったので、足を止めた。
背中から聞こえてくるのは嗚咽のような声になっている。
「ゴメンゴメン。アリューシャ、大丈夫?」
「ふぇ、ふわぁぁぁぁぁん!」
まずい。ついに号泣に変わった! 急いで機嫌とらないと!?
背負子を下ろし、固定紐を外してアリューシャを抱き上げる。
すると手に湿った感触があった……あ、もらした?
「本当にゴメンね。謝るから。そうだ、果物とか食べる?」
「ゆーねなんかきらいー」
「あぅ、それはやめて!? 本当にごめんなさい! 調子に乗ってましたぁ」
土下座する勢いで謝罪する。
調子に乗ったボクが悪いので言い訳のしようがない。
結局、晩御飯にハンバーグを作るという事でようやく許してもらえたのだった。
あれ、挽肉を作るのが大変なんだよな……
その夜はふてくされたアリューシャの機嫌をとるため、必要以上にベタベタとじゃれついた。
彼女は子供らしくスキンシップが大好きなので、いつもはむしろボクの方が照れが出るくらいなのだ。
だけどこの時ばかりはそうも言ってられない。
いつも以上に抱きつき、頬擦りをし、撫で擦り……それはもう、事案が発生しそうなくらい節操なくスキンシップに励む。
そこまでしてようやく機嫌を直してくれた訳だが、予定していた二つ目の予備の背負子の作成は翌日回しとなってしまった。
噴水に【ファイアボール】をブチ込んで簡易の風呂を沸かし、アリューシャの体を洗ってあげる。
お漏らししてしまったので、いつもより丁寧に肌を磨いてあげたのだ。
「本当にゴメンね。もうしないから」
「しょーがないなぁ、ゆーねは。ゆるしてあげます」
むふん、と薄い胸を張り、ボクの頭をその胸に掻き抱く。
ぷにぷにの肌の感触と、体の柔らかさが心地いい。
抱き返すと、これまた手がお尻の辺りに当たって、一層ふにっとした感覚が返ってくる。
なにこの子、全身搗き立てのお餅みたい。
「ふみゅう……」
なんだか、こっちが子供みたいな声が出てしまった。
アリューシャの全身をぷにゅぷにゅと撫でさする。元々が男なので、ぬいぐるみの抱き枕とかの存在意義が良く判らなかったが、今なら判る……この感触は至高だ。いや、至福だ。抱いて寝たい。
「まずい、変な気分になってきた……」
裸で抱き合うという行為に少し興奮してしまったのだろう。少しだけ、性的に。
流石にこのまま突っ走るのはイケないので、身体を離し、湯に浸かる。
するとアリューシャが膝の上に乗っかってきた。
「ふぉっ!?」
「んぅ? なぁに」
「ななな、なんでもありませんよ!」
このままではいけない。膝の上のお尻の感触とか、さっき以上の破壊力だ。早急に頭を冷やさないと。
頭に昇った血を下げるために、ズリズリと身体の位置をずらし、噴水の水を頭から被る。
「ゆーね、つめたいよー」
「うん、必要な事なんだ。ほんとに」
「えー、わたしもしないといけないの?」
「アリューシャは別にしなくてもいいよ。ボクだけ」
そもそも、胸の敏感なところにアリューシャのサラサラしっとりの髪が当たって、色々と刺激的なのだ。
男のままだったら、絶対やばい状態になっていただろう。
無自覚にこちらを挑発するなんて――アリューシャ、恐ろしい子!
視覚的なものではなく、触覚的に攻め立てる幼女から逃れるように、風呂から上がる。
帰り道にチャージバードの群れが現れたが、これは接近される前にこちらが【ファイアボール】の先制打を撃ち込んで焼き払っておいた。
死骸はアイテムインベントリーに放り込んでおけば、明日の朝でも処理できる。
香草もあるし、タンドリーチキン風の鳥の燻製にでも挑戦してみよう。
毛皮を縫い合わせた毛布をかぶってアリューシャと一緒に眠る。
いつもはそんなに意識しないのだが、今日は必要以上に肌を触れ合わせたせいで、妙に興奮している。
――これはどうにか静めないといけない!
ボクはこっそりと小屋を抜け出し、目的の場所に駆け出した。
アリューシャは一度眠ると朝まで、ぐっすり眠るいい子だ。ボクが抜け出したことには、きっと気付かないだろう。
それに色々静めるとなると、後始末の問題もある。身体とか洗っておかねばなるまい。
そんな訳で全力で噴水広場に向かったのだった。
モノの数分で噴水広場まで到着する。
距離にして数百メートルだが、暗い通路と小屋からの距離を考えたら、やはりそれ位は掛かる物だろう。
暗い噴水部屋に、頭装備の天使の光輪の光が満ちる。いつもと変わらぬ部屋の様子。
そして目的の物を発見した。
壁際にある、彫像。
その股間に飾られた、天を衝く部位。
ボクはゴクリと息を呑んで、その部分を……斬り落とした!
流石に部位の目的通りの使用は勇気がいるけど、雰囲気程度にね?
翌朝。
ボクは、いつもよりスッキリと目を覚ます事ができた。
続きはまた明日投稿します。