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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百五十九話 保護者暴れる

 翌朝、一日遅れで旅団は宿場町を出発した。

 ユミルお姉ちゃんが護衛に参加したことにより、戦闘力が格段に上がったので、セイコとウララも馬車を引いて保存食を運んでいる。

 リンちゃんは非常時にユミルお姉ちゃんを乗せないといけないので、フリーだ。


 冒険者も男子たちも、間近で見るドラゴンに興味津々という体である。

 そりゃ、タルハンならともかく、他の街じゃ滅多にお目に掛かれない、最上級幻想生物だからしかたない。


 修学旅行にまでついてきて、他の生徒や先生からどう思われるかと心配したけど、ユミルお姉ちゃんはまったく違和感なく生徒達に溶け込んでいた。

 と言うか、私服を着て背中を向けていると、どこにいるのかが本当に判らない位、自然に埋もれるのである。

 キラキラサラサラの髪ですぐ判っちゃうけど。


「これが盗賊系暗殺者の隠密能力(のーりょく)!?」

「違うと思う」


 わたしの最大の発見をソフィーちゃんがあっさりと流してくれる。しかも速攻で。

 馬車の中でも三人は並んで座っている。同じ班というのもあるが、わたし達は仲良しなのである。


「ソフィーちゃん……意外とツッコミ、キツいよね?」

「そーかなぁ?」


 首をかしげて?マークを浮かべているが、ふわふわほんわり系箱入りお嬢様風なのに、要所で飛んでくる言葉が針のように突き刺さるのだ。

 彼女もきっと、暗殺者の素質があるに違いない。


「でも、いいなぁ。わたしもユミルさんみたいなお姉さんが欲しい」

「……あげないよ?」

「けちー。じゃあ、アーちゃんちょーだい」

「わたしはユミルお姉ちゃんのお婿さんになるの」

「お嫁さんじゃないんだ……?」


 わたしの決断に、ソフィーちゃんは冷や汗を流して突っ込みを入れてきた。

 だが、ここは断固として、その認識を正しておかねばならない。


「わたしがお嫁さんで、ユミルお姉ちゃんがお婿さん。ユミルお姉ちゃんがお嫁さんで、わたしがお婿さん。そこに何の違いも無い様に聞こえるだろうが――違うのだ!」

「そ、そう?」

「だって考えてみてよ。料理が上手で、生活力があって、可愛くて、強くて、美人さんで、ちょっとドジッ子のユミルお姉ちゃんだよ? これ以上お嫁さんに向いている人なんていないよ」

「それは……そうかも。でもアーちゃんも結構なモノだと思うけど?」

「ドジなのは『ちょっと』じゃないねー」


 こんがり焼けたワイバーンの首肉部分をあぐあぐ食べながら、カルネちゃんも参戦してきた。

 その肉はわたしがオヤツにと思って取っておいた奴だ。

 わたしの攻撃で炭化した首回りの肉は買取不可になってしまったため、食べられそうな部分を譲ってもらったのだ。


「それはユミルお姉ちゃんが『えんたーてぃなー』だから、しかたないの。わざとウケを取ってるんだよ?」

「それは判るんだけどね。なんとなく天然でやってる部分もあるなーって」

「そこは否定(ひてー)しない」


 少し虚ろな視線をユミルお姉ちゃんに送ると、そこにはテッドにスカートめくりされて、反撃のシャイニングウィザード(膝に飛び乗って首筋に膝蹴りを叩きこむ技)を決めている姿があった。

 この揺れて狭い馬車の上で、そんな大技をいとも容易く決めてしまう辺りはさすがの戦闘力なのだが、技術の無駄遣いのような気がしないでもない。

 テッドは倒れこんでぴくぴく痙攣しているが、息をしていると言う事は、きちんと手加減していたのだろう。

 ユミルお姉ちゃんが本気で蹴飛ばせば、テッドどころかわたしだって命が危ないくらい、威力があるのだ。


 後、命知らずのテッドは後でシメておこう。こう……キュッと。


 そこでユミルお姉ちゃんの視線が、ふと宙を彷徨った。その目はわたしも何度か見たことがある。迷宮内で。

 接近する敵を見つけた時の目だ。


「ユミルお姉ちゃん?」

「うん、アリューシャ達はみんなとここに居て。ボクは護衛の人たちと相談してくるよ」

「一緒に行かなくていいの?」

「今日のアリューシャはお客さんだからね!」


 ビッと親指を立ててから、馬車を飛び降り先頭へと走っていく。

 そういう姿はとても颯爽としてかっこいい。


「どうしたの?」

「うん、敵」

「なんですって!?」


 わたしの答えに担任の先生が驚きの声を放つ。

 その頃には、わたしの感知範囲にも敵の気配を捉える事ができていた。

 この感知能力の範囲は、知力に由来する能力らしく、わたしやユミルお姉ちゃんのそれは桁外れに広い。

 もしユミルお姉ちゃんが『一般的なビルド』だった場合、索敵ができずに酷い目にあっていた可能性だってある。


「だ、大丈夫なんですか?」

「ユミルお姉ちゃんがいるなら、だいじょーぶです」


 わたしもユミルお姉ちゃんの真似をして親指を立ててみるが、どうしてもあんな風にカッコよく決まらない。

 なんだか子供が劇の主役の真似をしてるような風情が漂っているのだ。


「……うぬぅ?」

「アーちゃん、心配事でもある?」

「あ、ううん。そういうのじゃなくて……わたしも行かなくていいのかなぁって」

「アリューシャが行っても足手まといだろ?」


 復活したテッドは早速憎まれ口を叩いている。

 あれだけの攻撃を受けて平気だとか、実はかなり打たれ強いのじゃなかろうか?


「しっつれいな! わたしは七年もユミルお姉ちゃんの相棒やってるんだから!」


 腰に手を当て、仁王立ちになって頬を膨らませる。わたしの精一杯の威嚇のポーズである。

 これをやるとユミルお姉ちゃんは心にダメージを負うそうである。萌え狂って。


「でも心配だからわたしもちょっと行ってくるー」

「あっ、あっ、アリューシャさん!?」


 ユミルお姉ちゃんのようにぴょんと飛び降りて、先頭に向けて駆け出して行った。

 これはユミルお姉ちゃんへの風評(ふーひょー)被害を改善するいい機会なのかもしれないのだ。





 先頭では護衛のハウエルとユミルお姉ちゃんが話し合いをしていた。

 どうやらお姉ちゃんの感知能力が広すぎて、他の冒険者が発見できず、その報告を疑っているらしい。


「どうしたの?」

「あ、アリューシャ。馬車にいなさいって言ったのに」

「えへ、心配になっちゃって」


 ワイバーン退治の一件で、冒険者さんたちのわたしへの信頼は厚い。

 わたしも敵を感知したことを告げると、一気にその緊張感を高めたのだった。


「敵の数は判るか?」

「前方に半包囲する形で展開してるね。前に五、左右に各五匹の計十五ってところ」

「種類とかはどうです?」

「移動速度は結構早い。大蛇(バイパー)じゃこうはいかない。多分狼系かも」

「飛んでないなら、どうとでもなるな」


 冒険者達とユミルお姉ちゃんが相談している間、わたしが敵の動きを感知しておく。

 後ろからの奇襲がない分、それほど深刻な事態ではない。

 だけど一般市民である生徒たちはそうはいかない。

 にわかに慌ただしくなってきたわたし達の動きに、不安を隠せていない。


「ここらで出没するモンスターって何がいます?」

「本来、街道沿いはモンスターは少ないものなんだ。交易の商人たちが頻繁に往来するし、その護衛が安全を確保するためにきちんと処理してるからな」

「もしいるとしても、せいぜい岩狼(ロックウルフ)くらいですかね」


 岩狼というのは別に体が岩でできた狼ではない。

 表皮が岩のように固くなった狼で、その分動きのしなやかさが失われ、動作が鈍い。

 ただしその防御力はかなりのモノで、刃の付いた武器では皮膚を切り裂くことは難しいとされている。

 討伐の難易度的には並程度で、直線の動きは速いが、回避が下手なので、鈍器などでタコ殴りにできる敵だ。

 ユミルお姉ちゃんは鈍器系の装備も持っているので、まったく問題にならないはず。


「迷宮の影狼(シャドウウルフ)より弱い?」

「そりゃ、格が違うな。せいぜい三分の一だ」

「ならボク一人で余裕だね。新入りの仕事として最初はボクが相手してくるよ。みんなは馬車を守っててくれる?」

「は、一人?」


 ユミルお姉ちゃんは自信満々に胸を張って見せる。

 表情は満面のドヤ顔。もう、可愛いったらありゃしない。


「いくらなんでも十五匹は……それに護衛もありますし――」


 スリングのお姉さんがおずおずとそんなことを口にする。

 ロックウルフの強さは中級の冒険者一人と同じくらい。十五もの群れを単独で相手取るなんて、普通なら自殺行為だ。


「あ、でもドラゴンがいるから……」


 確かに幻獣最高峰のドラゴンであるリンちゃんがいれば、ロックウルフの十五匹程度、敵にはならない。

 だがユミルお姉ちゃんはその提案をあっさりと却下した。


「ん、リンちゃん? リンちゃんは今回は置いていくよ。機動性が必要だから」

「へ?」


 信じられない話だが、ユミルお姉ちゃんの足はドラゴンよりも速い。

 だから局所的に瞬発力が必要な場面では、リンちゃんに乗らないのだ。これも普通ではありえない。


「じゃ、行ってくるね。万が一、撃ち漏らしがこっちに来たら、護衛よろしく」

「え、ちょ、待っ――ええ!?」


 あっという間に駆け出し、背中の両手剣を引っこ抜く。

 ロックウルフを相手にするというのに、だ。


「あの人、人の話を聞いてたの!?」


 信じられないという表情で、頭を抱えるスリングのお姉さん。

 その気持ちは充分に理解できる。でもユミルお姉ちゃんには常識は通用しないのだ。欠片すら。


 突如駆け込んできた剣士の姿にロックウルフは驚き、反射的に藪から飛び出し、待ち伏せをバラしてしまった。

 その姿が遠目から、かすかに判別できる。

 その敵影をユミルお姉ちゃんの剣が何事もないように斬り飛ばす。


「ええっ!?」


 ロックウルフを両断するという、普通ではありえない光景に冒険者が驚愕の声を上げる。

 更に追い打ちのオートキャストが発生。魔剣『紫焔』による【隕石召喚(メテオクラッシュ)】が発生したのだ。

 最初は隠していたオートキャストだけど、オックスやらキシンが召喚者の非常識能力をぶち撒けてしまっているおかげで、隠す意義が薄れているのだ。

 なのでユミルお姉ちゃんは、最近人前でもオートキャストを利用している。


 その余波で前方のロックウルフの群れはあっという間に駆逐された。

 そして爆炎が収まる頃にはユミルお姉ちゃんの姿はない。

 すでに右の群れへと移動しているのだ。


「ええぇぇぇ!」


 影さえ見えぬその移動速度に、冒険者たちの顎が落ちる。


「あっちだよ」


 姿を見失った冒険者に、わたしが移動先を教えてあげる。

 今度はたった二振りで右の群れを殲滅。

 そして跳躍。

 馬車の車列を飛び越え――距離にして二十メートルくらい――反対側の群れへと突入する。


「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 着地と同時に【マキシブレイク】を発動。

 広域に巻き起こった剣風が深い藪ごとロックウルフを刈り取ったのである。


「………………………………」


 冒険者たちはもう、言葉もなかった。

 こうしてユミルお姉ちゃんは、わたしのお手伝いなど全く必要とせずに、魔獣の群れを殲滅したのである。


 所要時間、わずか十秒にも満たない出来事であった。


次の話で章の前半が終了します。

そこで一旦の区切りとして、ポンコツ魔神の方の連載に移ろうと思います。


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