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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百四十七話 戦乱の後始末

 とりあえず、トラキチの要望としては『アリューシャを返せ、さもなくば話相手になって』と、『迷宮の成長のためにもっと人集めて』の二点。

 ボクの要望は『アリューシャを返さないけど、話相手にはなるよ』と、『トラキチを助け出すために迷宮をクリアする』の二点。


 これは迷宮を育てたいトラと助け出すが相反しているように見えるけど、迷宮を育てないと別の召喚者を呼び出されかねないので、適度にバランスを取る必要がある。

 トラキチを早く助け出すには迷宮を育てない方がいいのだけれど、そうするとトラキチは役立たずとして処分されかねないのだ。

 更に別の召喚者を呼び出されて、それがトラよりも話の判らない、オックスのような人間だった日には目も当てられない。


 ここ等は被害拡大しない程度のバランス感覚を要求されるだろう。


「冒険者の増員に関しては、まず問題ないでしょう。これは村が存続できればという話になりますが」


 この点を要求するために、この場にヒルさんを呼び出したのか。

 だが、センリさんの話では、村の周囲はすでに植樹を済ませており、いつ森に沈むか判らない状況。

 まずは、この森林をどうにかしないといけない。


「んー、話すポイントが終わったならボクも戻って良い? 森を放置しておくと、村が消えちゃうかも知れないから」

「それは確かにあるな。なんだったらこちらから伐採用員を送り出すか? ゴーレムとか――」

「いや、そこに関してはボクにアイデアがあるよ。まぁ見てて」


 そろそろリンちゃんも村へ辿り付いている頃だ。

 森林破壊に少しばかり力を借りることにしよう。


「そうか? ならかまわんが……ああ、俺が話をできるのはこういう安全圏だけなので、一層か六層まで来てくれ。できれば週に二回は……」

「地味に寂しがり屋さんですね、あなた」

「禁固二十年というのがどれほど苦痛か、試してみるか?」

「盛大に遠慮します」


 二十年という月日を一人で過ごしたその精神力は、尊敬に値する。

 そもそもこの男は、それなりの理由があってボクを攻撃してた訳だし、アリューシャ絡みでなければ攻撃する意思もなかっただろう。

 意思疎通できるのならば、無理に敵対する存在ではない。

 下手に敵慨心を煽って迷宮の難易度を全力で引き上げられるよりは、遥かに良い。


「では三日後くらいにまた来ます。今は外の事と――それにセンリさんやアリューシャのことも心配ですので」


 アリューシャはいまだに目を覚まさない。

 体力を使い尽くすまで戦わされたのだから、これは仕方のないことだろう。おそらくは後数日は目を覚まさないはず。


 問題なのはセンリさんである。

 自身が作り物であると知らされたショックというのは、意外と大きい。

 これは記憶のないアリューシャや、性別に至るまで根こそぎ変えられてしまったボクよりも遥かに大きいはずだ。


 そもそもボクは元の世界に戻っても疎外感を感じる一人暮らし。

 待っている家族も居ないし、故郷に祖父母がいる程度である。


 対して、おそらくは学生であるセンリさんは家族と共に暮らし、医学部を目指すという事は医者か、それに近い裕福な家庭だったのだろうと推測される。

 成績も悪くなかったのだろうし、それなりの努力もしてきたはずだ。

 それを根底から失ったのだから、そりゃショックも受けようってものだ。


「こればっかりは口でどうこう言って慰められるものじゃないけど……」


 と言ってもボクにこれほどヘビーな失意に陥った人を慰めた経験なんてない。

 せいぜい女に振られて泥沼に落ちた同僚の自棄酒に付きあった程度である。

 こんな時は何か言うより、誰かが根気良くそばに居てくれるだけで、救いになる事もあるのだ。


「ま、今はとにかく、外の事ですね」

「自分で指示しておいてなんですけど、アレを処理する方法とかあるのですか?」


 ヒルさんはいまだに森の処分に懐疑的だ。

 この草原では植物は一夜にして生育するので、森を消すには一晩で全てを伐採する必要がある。

 それには膨大な人手が必要になるのだ。

 キシンとやらの能力ならば可能かも知れないが、ボクや――センリさんの範囲殲滅力でさえ足りるかどうか判らない。


「とりあえずは一晩現状を維持できれば、打開策はあります」


 そう言って懐から水晶柱を取り出す。これが問題の解決策だ。

 扉を開いて中央の広場に戻ると、早速カロンが飛びついてきた。

 もちろん男に抱きつかれて喜ぶ趣味は無いので、顔面に前蹴り入れて防御。


「お帰りなさい! 交渉はどうでした?」


 鼻血を流しながらも笑顔で問いかけてくる。尻尾があれば、子犬のように振り回していたことだろう。


「なんとか平和裏に解決したよ。ボク達自身の問題に付いてもね」

「ボク達? そうだ、センリさんなんですが……一体どうしたんです? 周囲の様子とか一切目に入ってないようで、ブツブツ言っててかなり危ない様子なんですが……」

「かなりショックな事があってね。今は一人にしないで。誰かがそばに付いててあげるだけでもマシなはずだから」

「判りました。引き続き女性冒険者の方にお願いしておきます」

「よろしく。ボクは外の状況をなんとかして来るよ」

「外って森ですか? あれはもう、どうにかなる状況じゃ――」

「そこはそれ、色々とね。で、かなーり危ない事するから、もう少しみんなをここで待機させておいて」

「はい、アリューシャちゃんもこちらで預かりますね」


 他にも確認しないといけない事はある。

 次にヒルさんとリビさんにも用事があるのだ。


「外に出ていた斥候職の人達は全て戻ってきてますか?」

「リビさん、どうでしょう?」

「ああ、全員揃っている。戦死者も無しだ」

「それは重畳。それじゃ、ボクが戻ってくるまで、みんなをここで待機させて置いてください」

「構わんが……一人で?」

「いえ、一人じゃないですけどね」


 そう言って転移装置の元に戻り、一層へと移動する。

 泉の部屋周辺にあった冒険者の死骸はすでに迷宮に食われており、いつも通りの様相を見せていた。


「装備とか剥げたらお金になったかもしれないのにな」

「迷宮内からあれだけ持ち出しておいて、何を言う」

「ひょあ!?」


 気が付けばボクのそばにはトラキチの映像が存在していた。

 そういえばここは安全圏なので、彼の通信が有効になるのだったか。


「外の森はかなり繁殖しているぞ。本当に一人で大丈夫なのか?」

「まぁ、一人じゃないですけど」


 取り出した水晶柱に魔力を込めて起動する。

 薄く光を発した所で、ボクはそっと声を掛けてみた。


「もしもーし、ガイエルさん、お元気?」


 そう、これは古竜王ガイエルへの通信アイテムだ。

 彼の火力ならば、森を一夜にして焼け野原にする事など朝飯前のはず。


『おう、ユミルか? 早速使ってくれるとは……さては我が恋しく――』

「なってないし。そうじゃなくて少し力を貸して欲しくて。ぜひお願いしたいんですよ」

『おぬしの力でも足りんと申すか? それはそれで(たぎ)ってくるのぅ』

「いや、そんな大層な事じゃないです」


 やってもらう事は森を焼くことだけだ。

 古来より焼畑農法などで、森が消失した事例はかなり多い。

 根こそぎ焼き払えば、これ以上の繁殖は防げるはずである。


『ふむ、それはストレス発散になってよさそうじゃの。どれ、暇な若い衆を連れてそっちに向かうとするか』

「軽っ!? いや、来てくれるのはありがたいんですけど……じゃあボクはこれ以上森が広がらないように押さえておきますので――」

「いや、それも必要ない」


 背後から急に聞こえてきたガイエルの声。

 振り返るとそこには、人間モードになったガイエルの姿があった。


「ふぉ!?」

「我が空間系の魔法を得意とする事は承知であろう。何を驚く?」

「いや、あまりにもいきなり登場したから……」


 よく見ると背後にはズタボロになった数人の人間の姿――あれもおそらくはドラゴンの【変化】した姿なのだろう。


「後ろの方たちは?」

「暇潰しに付き合ってもらっておった若い衆じゃよ。最近の若者は軟弱だな」

「ちなみにそちらの方、年齢は?」

「七百から先は数えてない」


 ドラゴンの最近って一体……いや、まぁドラゴンが多いという事はこちらとしてもありがたいけどね。


「がぅー!」


 そこへリンちゃんが通路を疾走して現れた。

 幅十メートルの通路の半分近くを埋める巨体が迫ってくる姿は、実に圧巻である。

 正直言ってコワイ。


「よーしよし、置いて行ってゴメンねー」


 首元を抱きかかえて撫でてあげると、ゴロゴロと猫のように喉を鳴らす。

 猫ならば可愛いのだけど、それが十メートルを超えるドラゴンとなると、自分が餌になった気持ちになるから不思議だ。

 とにかくこれで役者は揃った事になる。

 できればセンリさんにも参加して欲しかった所ではあるが、今の彼女に何かしろというのは酷だ。


「おい、そいつら……」

「あ、紹介します。こちら、古竜王エンシェントドラゴンロードのガイエルさん」

「よろしく頼む、誰か知らない人」

「あ、俺はここの迷宮主のトラキチっす。よ、よろちく」


 トラキチはガクブル状態で挨拶を返す。

 握手もしようとしてたけど、そこは映像である事を思い出して、留まっていた。


「それじゃ外の森だけ焼き払ってもらえますか? 後、念のため森の外輪も二十メートルほど」

「村が一つあるようだが、これも焼いて良いか?」

「ダメ、絶対」


 その村を守るための行動だってのに、ストレス発散が先行して、目的を早くも忘れてやがる。

 数えてみると、ドラゴンが七匹、古竜王一匹、リンちゃんと、計九匹のドラゴンが勢揃いである。


 しまったな、これをケンネルの連中に見せておくと良い牽制になったのに……

 もっともボクが間に合わなかったのだから、これは仕方無いか。


「とにかく今は森の拡大を阻止するのが第一目標です。こちらの準備ができ次第、村に被害が出ない範囲で盛大にやっちゃってください」

「準備とは?」


 ヒルさんに斥候職の人達が戻っているのを確認してもらったが、それ以外にもユミル村の住人は居る。

 森に迎撃に出たスラちゃん達が戻っているか確認を取らねばならないのだ。

 ボクは俊足を飛ばして村に戻り、井戸のそばに待機していたメルトスライム達に指示を出す。

 全てのスライムは村に帰還するように、と。


 更にドラゴン達にお願いして、周辺に人影が無いか確認も取ってもらう。

 これは避難した冒険者や村人が戻ってきていないかを危惧しての事である。


「それじゃボク達は外に戻ります。トラキチさんはまた三日後に」

「おう、待っているぞ」


 そういって、ボク達は迷宮を出たのだった。




 一層に転移して、香箱座りで待機状態のままのアジ・ダカーハがいた。

 待機命令を出されたモンスターはその場に留まり、積極的な攻勢には出ない。

 だが、攻撃を受けると、自衛のために反撃に出るらしい。


 トラキチの話では、召喚はできても撤去はできないので、このモンスターは倒されない限りはここで待機したままになるという話だ。

 問題はこいつを一層レベルで倒せるなんて――ああ、いたか。


「トラキっつぁん、このアジ、捌いちゃっていい?」

「魚みたいに言うな。だが、むしろそうしてくれるとありがたい。さすがにこいつはオーバースペックだからな。階層のポイントを一体で全て使い切ってるから、倒してくれんと他のモンスターも配置できないし」


 めでたくトラキチの許可が出た所で、本日二回目のお願いタイムである。


「という訳でガイエルさん。なかなかいいストレス発散の的じゃないですか、これ?」

「そう来たか。いや、確かに歯応えはありそうだけどな」


 こうして第一次ドラゴン大戦が泉の部屋で開催されたのである。

 その光景は正直言って、どこの世界の終わりだってくらい、コワイ。


 結果はガイエル率いるドラゴン軍団が圧勝。増殖する数が売りのアジ・ダカーハだったが、人型とはいえ八体のドラゴンズには勝てなかった。


 その後は迷宮の外に出て、ドラゴン達に元の姿に戻ってもらい、周辺を検索してもらう。

 これは、避難した住民や冒険者が戻ってきている可能性を危惧しての事だ。


 その間ボクとリンちゃんは、森の外輪をちまちま焼いて、拡大を防いでおく。

 こう言う細かい作業はドラゴン達には任せられないのだ。


 三十分ほど掛けて念入りに検索した後は、お楽しみの焼却タイムである。


「それじゃ、思う存分焼いちゃってください」

「おおー!」


 ドラゴン達は意気軒昂である。

 実はこう言う、ただひたすらブレスを吐き散らす機会というのは、なかなか無いそうだ。

 ボクとリンちゃんは、村の中央で彼等の仕事振りを見学するだけでよかった。

 むしろ手を出すと怒られるのだ。


「おい、そこは俺が焼く予定の場所だぞ!」

「早い者勝ちだぞ。俺のブレスの方が強いってことだ!」

「なにを! なら勝負だ!」

「望むところだ」

「こら、こっちに飛び火してんじゃねーか! やめろよ、大人気無い」

「我の領地に手を出すとは、良い度胸をしておるな」

「サーセンっしたぁ!?」


 なんとも賑やかなお祭気分で、森は駆逐されたのだった。

 さすがドラゴンの火力、半端ない。




 なおこの光景は遠目でも見る事ができたようで、ユミル村はケンネルの攻撃を受け壊滅的被害を(こうむ)ったが、そこにドラゴン達が来襲し、ケンネル軍を殲滅。

 ユミル村は首の皮一つ残す幸運で、生き延びたという噂が広がったのである。


次の話で一区切りになります。

次の章を始める前にポンコツ魔神の方を1章分進めたいと思いますので、開始は10日ほど開くと思われます。ご了承ください。

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