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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百二十八話 竜退治

 三頭のドラゴンを相手に『殺さず』に制圧する。

 正直無駄に難易度が跳ね上がった気がするけど、リンちゃんの気が進まないなら仕方ない。

 それに成竜と幼竜では飛行速度も少し違う。逃げ切るのは難しいだろう。


「おい、マジでドラゴンを気絶させるだけで済ませる気か!?」

「ま、できない事は無いです、たぶん」

「無茶苦茶だ!」


 背後のキーヤンが少々うるさいけど、とにかくボクの間合いに入らない事には戦いにならない。

 しかし、ドラゴン達だって不用意に近付かれるのは、嫌っている。

 向こうは遠くからブレスを吐き掛けているだけで勝てるのだから、そこは仕方ない。


「リンちゃん、まずは懐に入ろう! 行くよ!」

「がぅ!」


 今度は力強い返事が返ってきた。

 ボクが気絶までで済ますと聞いて、ようやく本気を出したのだろう。


 もちろんドラゴン達も牽制のブレスを吐き掛けてくる。

 しかもそれぞれがタイミングをずらして、牽制が途切れない様にローテーションを組んで、だ。


「くっ、あんにゃろ共……無駄に頭いいじゃない」

「当たり前だ、ドラゴンっつーと生物の頂点だぞ。頭だって悪くない」

「そういやリンちゃんも、それなりに頭いいですしね」


 直後、ボクの『それなり』発言が気に入らなかったのか、リンちゃんの機動がいきなり大雑把になった。


「うわわわ、ゴメンゴメン! リンちゃん賢い! ボク大好きだよー?」

「がるる――」


 リンちゃんは不機嫌オーラを発散しながらも、操縦の主導権をこちらに渡してくれる。

 どうやら納得はしてくれたようだ。


「お前等、この状況で余裕あんな?」


 ボクの腰に必死にしがみつきながら、キーヤンが苦情を言ってくる。

 鞍や首に捕まるところが少ないので、彼はボクにしがみつくしか無いのだ。

 下手に転げ落ちると命綱一本でぶら下がったまま戦闘機動である。必死にもなろう。


「当たりはしないし、当たったところでボクとリンちゃんなら耐えられるからね。キーヤンは知らないけど」

「俺は蒸発するから、ぜひ当たらない様にして頂きたい」


 あっさりヘタレモードに突入しながら、キーヤンは手の平を返した。

 もちろん、ボクも最初から当たるつもりなんて無いけど――


「でも、このブレスの雨は正直面倒だなぁ」

「目くらまし程度でいいなら、なんとかなるかも知れんぞ?」

「お、何か手があるんです?」

「俺の切り札を使う」


 そう言ってキーヤンはインベントリーを開く。

 彼のインベントリーはボクの物と同じく、メニュー選択式なので、すぐに操作できるものでは無い。

 しばらくゴソゴソと動いて、そこから取り出した物を見て、ボクは思わず奇声を上げた。


「うへぁ、なんですか、それ」

「ん、これか?」


 キーヤンが取り出した物は……強いて言えば人形である。

 ただし、大きさが人間より一回り小さいくらいの……ボクと同じ位のサイズの、やたら肌の質感の良い人形だった。


「これは……『俺の嫁』だ」

「うわぁ、ドン引き」

「誤解するな! そういうアイテムなんだよ」


 ざっくり説明されたところでは、これは彼のやっていたゲームであった『願いの泉』というボーナスステージで入手したアイテムだそうだ。

 この泉に欲しい物や能力を願うと、ゲーム的な解釈を加えたアイテムが手に入るという。

 もちろん対応しきれないものは出てこないのだが、彼はその泉でこう願ったのだ。


 ――嫁が欲しい。


 そして出てきたのが、これだ。

 空気を入れて夜のお供に利用する……俗に言うところの空気嫁である。


「で、この緊迫した状況で一人上手でも演じるつもりですか?」

「女の子が一人上手とか言うんじゃありません! この『嫁』はな……こう見えても武器、それも投擲武器なんだ」


 さすが、フリーダム極まるあのゲーム。たまにトンでもないアイテムが武器になっていたりする。

 人形のようなゲーム的に存在しないアイテムを願うと、それが装備品として出てくるパターンがあったりする。

 冗談で定番の『ギャルのパンティおくれ』と願うと、本当にパンツが出てくるのだ。

 しかも武器として。そこらの魔法武器よりも強力な。

 ボクがやった時は、近接武器で属性『片手剣』のパンティだった。どんなんだよ?


「これは投げると標的まで飛んで行って、着弾点で爆発する。目くらましにはなるはずだ」

「でもたった一発じゃ……」

「この投擲武器、弾数が無限なんだ……」


 なんだか切なそうな表情で答えるキーヤン。

 つまり彼は、投げても投げても消えない空気嫁を抱え込んでいる事になる。

 しかもそこらの射撃武器よりも強力な、ビッチなワイフを。


「呪われた武器じゃないですか、それ?」

「別に呪われてなんて無いぞ。処分しようと思えば処分できる……性能良すぎて、できないだけだ」


 手榴弾染みた弾数無限の投擲武器――そりゃ、処分できないだろうな。

 外観さえ気にしなければ便利極まりない。


「いくらこいつでもドラゴンを倒せるほどの威力は無い。前は傷一つ付かなかった。それは実践済みなんだが……」


 前にドラゴンに襲われた時にすでに試していたのか。

 そりゃ、当時の彼の持つ二番目に高威力な武器なんだから試すか。


「とにかく、爆発すれば結構な爆炎が広がってた。それで視界を塞ぐことくらいはできるはずだ」

「でも――いや、いけるか」


 脳裏に過ぎったのはダークエルフの姿だ。

 あのダークエルフが持っていた暗視能力は、正確に言うと『熱を見る能力』だった。

 ドラゴンも暗視っぽい能力を持っているかも知れないが、それがエルフと同じく熱を見る能力である可能性もある。

 ならば爆炎を撒き散らすこの武器は、視界を奪うには最適だ。


「よし、任せます! 懐に入るまで、撃ちまくってください!」

「おうよ!」


 キーヤンは威勢よく答え、人形をブン投げた。

 投擲された、ボクと同じくらいの大きさの全裸少女人形は、股間から煙を吐いて加速し、ドラゴンへ向かって一直線に飛び去っていった。

 なんてヒドイ光景だ……


 ドラゴンとしてはこの状況は想定外もいい所だ。

 ゲームの神様謹製の非常に出来のいい人形は、遠目には普通の人間にしか見えない。

 それがお尻から火を吹いて飛んでくるのだから、驚くなと言う方が無理だ。


 一瞬の驚愕がブレスの連射を止める。

 その隙が致命傷となった。


 人形はドラゴンの鼻っ柱に激突し、そこで盛大に爆発した。

 はたから見てると、まるで自爆テロのごとき様相だが、広がった煙が視界を覆い、ドラゴン達の動きが一瞬止まる。


「グギャアアアァァァァ!」

「今だ、リンちゃん、行けぇ!」

「グルアアアァァァ!」


 ボクのGOサインに、リンちゃんが雄叫びを上げて突撃する。

 煙の向こうのドラゴンもこちらの動きを察知したのか、ブレスを吐く体勢に入った。


 だがブレスとは、そのまま吐息という意味だ。

 これを吐き出すには、一度大きく息を吸い込まねばならない。

 鼻っ柱に爆弾を叩き付けられたドラゴンは、うっかり悲鳴を上げていた。それはつまり、ヤツの肺の空気が吐き出されている事を意味する。


 ブレスをすぐさま吐き出す事は――できない!


 今だ煙る爆炎の中を、問答無用に突っ切り、一気に懐へ潜りこんだ。


「【マキシ――ブレイク】!」


 使用したのは火属性範囲攻撃スキル。

 リンちゃんと共に放つ【ドラゴンブレス】よりはいささか威力は落ちるが、その起動の早さとクールタイムの少なさは非常に使い勝手がいい。

 そして、ドラゴンを気絶させるという目的に、程よい威力でもあるのだ。


 ゴッという破裂音が響き、衝撃波が周囲に広がる。

 パーティに組み入れられたリンちゃんとキーヤンには、その威力は伝わらない。

 だがそれ以外のドラゴンには容赦無く破壊の力が降り注いだ。


 十メートルを超える巨体が、鞠のように跳ね飛ばされる。

 弾き飛ばされ、大きくねじれた首と頭。

 その瞳に意思の力は――宿ってはいない。


 ドラゴンは完全に気絶し、そのまま地上へと落下していった。

 まぁ、タフな生物だ。この高度から落下しても平気だろう。


「よし、まずは一匹目。キーヤン、次!」

「応!」


 ボクの叫びにキーヤンが呼応し、人形を飛ばす。

 仲間を倒された事に衝撃を受けたドラゴンは、ほとんど木偶の坊のように突っ立っていた。

 そこへ人形爆弾が飛び込んで、視界を奪う。


 仲間の危機に、ようやく残るドラゴンが牽制を放つが、一匹が放つ牽制なんて、リンちゃんの敵ではなかった。

 ヒョイヒョイと躱して、視界を奪った一頭に近付き、再び【マキシブレイク】で撃破する。


 今回はやり過ぎない様に、武器は一つしか装備していない。

 だがその武器はミッドガルド・オンライン最大の威力を持つクニツナだ。

 いかなドラゴンといえど、そう耐えれる物では無い。


 これが【パワーアーム】を使って、もう片方の手にピアサーを持っていたりすると、本当にとんでもない威力になるので注意が必要になる。

 ピアサーの持つ装甲透過能力と、純粋ダメージ最強のクニツナが合わさるのだから。


「これで――残り一匹!」


 ギロリと残ったドラゴンに視線を流す。

 そこには相次いで仲間を失い、呆然とした表情がありありと窺える、珍しいドラゴンがいた。


 ボクは威嚇の意味を込めて、そのドラゴンへクニツナを振り向ける。

 その行為に怯えたのか、ドラゴンはビクリと震え、まるで小動物のように逃げ出したのだった。




 地上に落ちたドラゴンが再び上がってくる気配は無い。

 戦闘を終えたと判断し、残心を解く。


「ふぃー、なんとかなった」

「がぁぅ」

「マジか……あのドラゴンを追っ払っちまった……」


 今になってキーヤンは自分が成した事に驚いている。

 以前は逃げ惑うしか出来なかったドラゴン、それを三匹も相手取って、生き延び、勝利した。

 その事実が、彼の負け犬根性を払拭できれば、きっと今後の成長に大きく影響するはずだ。


「勝った――ドラゴンに……?」

「ま、ボクがいるからトーゼンの結果ですが。でも、キーヤンもなかなかやるじゃない? あの支援は助かったよ」

「お、おう……はは、ははは――やった! 俺ドラゴンに勝ったぞ!」


 ガバッとボクを背後から抱きすくめるキーヤン。

 この行動は予想して無かったので、完全に不意を突かれてしまった。

 もっともこのリンちゃんの背には、逃げるスペースなんて無いけど。


「おいこら! それはさすがにセクハラだぞ!」

「わりぃ、あんまりにも信じられなくてよ。そっか、勝てたのか……」


 もっとも状況が揃ってたからこその楽勝である。

 リンちゃんの飛行能力とボクの殲滅力、そしてキーヤンの援護。

 これらが揃って、初めてドラゴンと対等の土俵に立てるのだ。

 それは忘れちゃいけない。


「この世界は基本的に基準値が低い。だから戦い方さえ工夫すれば、やり様はあるんだよ」

「そうだな、俺一人ならまた逃げ惑うだけだっただろうな」

「それをきちんと理解してるなら、良いです。調子に乗ってソロでドラゴン退治に向かわないように」

「判ってるって」


 キーヤンに釘を刺しておいてから、進路を目的地に向ける。

 そこでリンちゃんがビクリと震えた。


「ん、どうしたの?」

「ガルルルルルルルルルル……」


 リンちゃんが漏らす、本気の威嚇の声。

 それは自身が怯えている証でもあった。


 そして、リンちゃんの視線の先。

 そこにぽつぽつと浮かぶ、黒い点が急速に拡大し――数十もの巨影へと変化する。

 それは高速でこちらに向かってくる、ドラゴンの群れだった。


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