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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百十八話 あっさり終了

「負けました……しょんぼり」

「当たり前だ」


 見事一回戦で敗退してしまい、ボク達はヤージュさんに説教されている。

 そのヤージュさんは現在、頭を抱えて書類と格闘中だ。


「お前等、よくもまぁ次々とルールの裏を掻こうとしてくれるものだな」

「えへへ……」


 ボクとセンリさんが並んで頭を掻く。

 チームの半数が失格という結果に、どうにも居心地が悪い。




 失格祭の開幕はセンリさん達からだった。

 彼女は南通りを北上し、アーヴィンチームの二パーティと遭遇した。


 そこで彼女は荷車を止め、戦闘体勢を取る。

 荷車の幌を外し、そこから伸びたノズルをカザラさんと共に手に取った。

 荷車の上には巨大な樽と、大きな機械が一つ。

 機械からは棒が一本伸び、そこから繋がったホースがセンリさんとカザラさんの手元に続いていた。


 更に荷台に乗った教頭先生が機械から伸びた棒を激しく上下させ、機械内部を加圧していく。

 そしてセンリさんが手元のグリップを握りこむと、加圧された水が激しい勢いで噴出したのだ。


 つまり――放水機。


 その射程の長さは、竹筒式水鉄砲とは比較にならない。

 それは正に、棍棒で迫る原始人に装甲車から重機関銃で銃弾の雨を浴びせるかのような光景だった。


 射程の違い、放水量の違い。

 それが薙ぎ払うかのように敵チームに降り注いだのだ。


 この時点でセンリさんとカザラさん、教頭先生に失格が言い渡された。




 ヤージュさんは頭を抱えながらも、センリさんに交渉を申し出た。


「そっちはまあいい。センリ、後でその設計図組合に提出してくれるか? それは大会では使用不可だが、他の場面では使い道が多そうだ」


 放水機は確かに使用用途が多そうだ。

 農地での放水、火災での使用、船や建造物の清掃。

 ざっと考えるだけでも、それだけあるのだ。


「三年前の火災の時にこれがあればと思うな。魔法使いはいつもいるとは限らないし」


 火災に際して、もっとも期待されるのは魔法使いの冷却系魔法だ。

 だがこの機械があれば、一般人でも消火に参加できる。


 畑に関してもそうだ。今は桶を担いで柄杓で作物に水を撒いている。

 この機械があれば、最低でも十五メートルはその場で放水できる。

 畦道から挟み込めば、三十メートル前後の畑を楽に水やりできるのだ。


「特許料としてそっちに十パーセント支払おう。組合も多少はピンハネさせてもらうが――」

「トップが堂々とピンハネ言わないで。まぁ、公共で役立ててくれるなら別にいいわよ?」

「ありがたい。今は契約書が無いので、後で用意しておく」

「いいわ。こっちも今は設計図がないし」


 センリさんはそう言っているが、これは嘘だ。

 設計図は倉庫の中に入っているので、人目がある場所で取り出せないだけなのだ。


「じゃあ、こっちはこれでよし、と。次にイゴールさんだったか?」

「はい、この度はご迷惑をお掛け致しまして」

「俺としては、知的生命体であるモンスターとの共存も視野に入れて、あんたの出場を許可したんだがな――」

「柄にも無く、少々はしゃぎ過ぎてしまいました。面目次第もございません」


 丁寧かつ慇懃に応対しているが、イゴールさんとしては特に悪いとは思っていないだろう。

 彼はボクの要請で参加しただけだ。

 そして、彼が倒されると敗北するから、特殊能力を使用したに過ぎない。


 そう、水すらも透過する、透過能力を――


 前線部分で相次いで失格者が出たため、彼が控えていた拠点に敵が殺到する事態に陥った。

 この劣勢に護衛に付いていたルディスさんとプラチナさんは相次いで撃破され、つい使用してしまったのが真相である。


 だが、水が当たらない存在というのはやはり大問題である。

 絶対に負けないのだから、これは反則扱いされても仕方ない。


「悪いが、あんたは次から出場禁止な」

「仕方ありません。心得ましてございます」


 まぁ、ゴーストの参加を申請するのなんて、ボクくらいなものだから、これは問題あるまい。


「最後はお前か……」

「てへ?」


 軽く舌を出して愛想を振りまいてみるが、誤魔化されない。

 問題のシーンを思い出す。

 あの時はたしか、北西部分の井戸を確保しに走っていた時の事だ――




 この街の南地区の井戸は四ヶ所。

 特に北西方向の井戸と東の井戸は南の目抜き通りに近く、この大会においては重要拠点になる。

 東の井戸は南門寄りなのでこちらに有利だからいいとして、北西は特設門寄りだ。

 ここを押さえておけば、アーヴィンさん達敵チームは給水が困難になり、こちらがぐっと有利に展開できる。


 ボクは俊足を飛ばして、井戸のある小広場へ駆け込む。

 まだ誰も居ないのを確認して、小さくガッツポーズをした。

 だがそのタイミングで、駆け込んでくる人が居たのだ。


 言うまでもなくアーヴィンさんだ。しかもリーダーである本人と、ルイザさんに他三人。

 ダニットさんが居ない辺り、単独行動させているのだろう。


「げぇ、ユミル!?」

「アーヴィンさん……ここでであったが百年目です」

「まだ一ヶ月も経ってねぇよ!」


 リーダーである彼がこの場に来ると言うことは――そうか、彼は給水ポイントをそのまま拠点に利用する作戦に出たのか。

 ボクは攻め難い地形を優先するために、リーダーのイゴールさんを拠点の方へ移動させた。


 井戸のそばは広場になっていて、見通しがよく、防御に向かない。

 しかし、ルイザさんがいればその問題は解決する。

 彼女の【ストーンウォール】で地形を操作すれば、攻め難い状況を構築するのは容易い。


 なんにせよ、この状況はボクにとってもチャンスだ。目の前に敵の急所が晒されたのだから。


「アーヴィンさん、覚悟だ!」

「うぉ!?」

「【ストーンウォール】!」


 ボクは()()引き金を引いて、彼等を攻撃する。

 それに対応して、ルイザさんが防御壁を張った。

 不意打ちで倒せたのは、後方の二人のみだった。


 盾の使用は認められないが、この防壁での防御はルールで認められている。

 だが、この魔法はルイザさんのミスだ。

 この魔法でボクの()()を防ぐ事はできるが、同時に彼女達の視界も奪われる。

 防壁を建てるなら視界を塞がない【アイスウォール】にするべきだった。

 今、アーヴィンさんはいくつもの選択を迫られている。


 ボクが回り込んでくるのを待ち受けるか、逆に攻め込むか、壁を解除して迎撃するか。


 だがそれはボクも同じことである。

 しかしアクティブに動ける分、こちら側に主導権がある。


 ボクが選んだのはそのまま直進する事だった。

 相手がこちらの行動を予想している限り、人数的にはこちらが不利だ。

 もちろん銃弾すら回避できるボクなら、水鉄砲ごとき物の数ではない。

 だがせっかく観客がいるのだから、目立った、できるだけ派手な行動を選択したいのだ。


 全力で壁を蹴り砕く。

 その破片が、まるで散弾の如くアーヴィンさん達に降り注いだ。

 破片が当たったとしても、有効打には認められない。

 だが飛び散る破片が視界を奪う役には立っている。


 そのまま射撃して数を減らそうとするが、アーヴィンさんは反射的に回避行動を取り、ルイザさんはその場にうずくまっていて当たらなかった。

 命中したのはたった一人。だがこれで残るはアーヴィンさんとルイザさんだけになった。


 そのまま攻撃を続けるが、今度は【アイスウォール】を建てて防がれる。

 この辺りの学習能力の高さは、さすがルイザさんである。


 そのままお互い泥仕合と化し、無駄に弾を消耗する展開になった。

 装弾数ではこちらが上なのだが、向こうはルイザさんが水袋から充填役を担っていた。

 しかも防壁を自在に建てられるために、ボクとしても攻め(あぐ)んでしまったのだ。

 やがてボクは弾切れになり、攻撃手段を失ってしまったのだ。


「ふ、勝負あったなユミル――ついにお前に勝てる時が来たか」

「まだです、まだ勝負は付いてません」

「無駄な負け惜しみを……」


 周囲はお互いの発射した色水で染まり、足元には水溜りができている。

 下手をすれば足が滑らせそうなこの状況――アーヴィンさんはすでに勝ち誇っている。

 ボクの考えも同じく、詰みだ。


 ――ただし彼等が、だけど。


「本当にそう思いますか? ならば……今です、スラちゃん!」


 ボクの号令に応えて、足元の()()()が壁の如く立ち上がり、二人を包みこんだ。

 そう、ボクの引き金が重かったのは、水の代わりに彼を詰めていたからだ。


「なっ、これはスライム!?」


 スライムに取り込まれながら、驚きの声を上げるアーヴィンさん。

 だが、ボクの攻めはまだこれからだ。


「きゃあぁぁぁぁ!」

「ルイザ!?」


 そこにはスライムに取り込まれ、その水分で服が体にぴったりと張り付き、全身をマッサージされているルイザさんの姿があった。


「ふふふ。さぁ、銃を置いて降伏するのです! でないと、ルイザさんがスライムの禁断の快楽に目覚めちゃいますよ!」

「な、なんだって!」

「スラちゃんの攻めはスゴイのです。ボクはすでに確認済みですから!」

「お前……スライムプレイを!?」

「さぁ、どうでしょうか?」


 この時、すでに少しばかり前屈みにならざるを得なかったアーヴィンさんに、この脅迫は効いたようだ。


「くっ、仕方あるまい……降伏するから、彼女だけは解放してくれ」

「うふふ、降伏すれば解放するなんて、いつ言いましたっけ?」

「ひ、卑怯なぁ!?」

「このまま彼女が成人指定な事をされるのを、そこで見ているといいの――」

「アホかぁぁぁぁ!」


 そこに割り込んできたのは、実況していた斥候役の人だった。


「ユミル、色々な意味で失格!」

「え、なんで!?」

「それを聞くのか!?」


 こうしてボクは大会を失格になったのだった。




 この時にはすでにセンリさんは失格になり、東側の井戸も陥落していた。

 ダニットさんとクラヴィスさんが、特設広場で熾烈なライバル対決を行っていたが、これは大勢にまったく影響が無かった。

 結果、敵兵力がこちらの拠点に殺到し、ルディスさんプラチナさんと相次いで撃破され、イゴールさんが生存のために否応なく透過を使わされた、という訳だ。


「ユミル……この大会は()鉄砲射撃大会と言ったよな?」

「あ、あはは……」

「どこの世界にスライムを撃つ大会があるんだよ!」

「すみませーん」


 これは少しばかり、奇策に頼りすぎた。

 普通にやって勝てるのだから、普通にやれば良かったのだ。

 エンターティナーを意識し過ぎて、目立ちたいばかりに自爆した形になってしまったのだ。


「謝るならルイザにしろ。いまだに部屋から出てこないんだぞ」

「う、わかりました。後で謝りに行ってきます」


 ちなみに今大会で一番盛り上がったのが、彼女のスライムプレイのシーンだったとか。

 ただし、男性限定で。


 そして、優勝したのは結局アーヴィンさんチームである。

 MVPに選ばれたのは、多彩に防壁を組み立て、お色気シーンまでこなしたルイザさん本人であるが、表彰式には出てこなかった。

 これはさすがに悪い事をしたと反省しよう。




 その後――


「ルイザさん、すみません。ちょっとやり過ぎてしまいました」

「ユミルの、バカ……」


 毛布に包まり、涙目で上目遣いの彼女は実に破壊力が高かった。

 これをアーヴィンさんに見せればイチコロなのに。


「何でもしますから許してくださいよー」

「本当に何でも?」

「ボクにできる事なら……」

「じゃあ……私と同じ目に合いなさい!」


 と言うやり取りがあったとかなかったとか……


本筋とは関係の無い大会なので、さっくり終わらせました。

細かく書くと、エタトラップに引っかかりそうな気がしたので!

あっさり敗退も、ユミルならきっと許されると信じてます。

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