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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百十七話 大会開始

 ポンポンと打ち上げられる花火。

 タルハンの街の中央、迷宮前広場には今、数千と言う人が集まっている。

 もちろんこれが全てではない。

 入りきれなかった人達が、四方の街道に溢れだすくらい盛況なのだ。


「それではこれより、タルハン射撃大会、子供の部を開催します!」


 広場の南には射撃大会のフィールドを表す特設門が設置され、そこより南は戦闘領域になるのだ。

 魔法によって拡大された主催の声が、街中に響き渡る。

 そう、今日は祭の当日である!


「アリューシャちゃん、優勝できるといいわね」

「できるでしょ。アリューシャだもん」


 そう答えながらも、隣に立つセンリさんと、ストリートビューを喰いいるように眺める。

 魔法によって投影された巨大スクリーンには入場する学園の子供達が映されていた。


 このスクリーンもこの日のために開発されたもので、送信側の組合の斥候職達が、水晶を持って街中を駆けずり回る事で、各メンバーの動向が画面に提供されるのだ。

 これにより観客であるボク達は、リアルタイムで選手の動きを楽しめ、同時に選手は隠れるという事ができなくなる。


 ボク達の試合は午後からなので、午前中は学園の前座の試合を堪能している。

 初めての運営とあって多少ぎこちなさは残るが、そのトラブルすらも祭の熱気でかき消されてしまう。


 栄えある射撃大会の第一陣は、初等学年からのスタートだった。

 まだ六、七歳の子供達が、体に似合わぬ大きさの水鉄砲を持って南門と広場の特設門から駆け出していく。


 この年頃だと行動範囲が余り広く無いので、南大通とその随道だけがフィールドとなり、ほとんど南北正面からの撃ち合いになっていく。


 だが、どの世界にも捻くれ者はいる。

 ほいほいと道を外れ、戦闘領域からはみ出ようとする子供が斥候に注意されたり、迷子になって泣きだす子供も居たりと、微笑ましい光景があちこちで展開され、観客の笑いを誘った。


 学園は一学年ごと六つのチームに分けて、三チームずつ対戦する。

 最初は奇数学年、次に偶数学年の登場である。

 そして前後半の優勝チームが最後に対戦して、優勝を決めるのだ。


 全部で三戦行われるため、戦闘時間が長く取られそうなのだが、参加者がまだ子供なので、戦闘時間は三十分と短く設定されている。

 アリューシャ達は四年生チーム。ラキは五年生、テマは六年生チームだ。

 年齢的に、偶数学年が有利と思われているが、アリューシャというモンスターの存在がそのバランスを覆している。

 試合前のトトカルチョでも、四年生が一番人気の三倍だった。

 なぜアリューシャの運動能力が知れ渡ってるし……?




 結果、アリューシャはダントツの機動性を発揮して、たった一人で半数近くの敵を仕留めると言う離れ技を演じて優勝した。

 うん、もう圧倒的過ぎて、解説する余裕すら無かったよ。


 装弾数限界の六発をびしびしとぶち当て、弾切れになると屋根の上に逃げ込んで、水袋から貯水槽に充填。

 敵の攻撃の届かない場所で安全に給水するのはどうかと、運営側から疑問が出るほどの機転だ。

 さすがボクの相棒である。


 壁を走り、街灯を飛び渡り、看板によじ登る。

 その動きは凄まじく、撮影の斥候達が置いていかれるほど、俊敏であった。

 ボクはそのアリューシャの勇姿を恋する乙女のように見惚れていたのである。


 早々に子供の部が終わって、優勝メダルをアリューシャが受け取ってから、お昼を食べる事になった。

 広場のそばでシートを敷いてお弁当を広げる事にした。

 今回はユミル村チームの参加者に加え、テマとラキの家族も一緒だ。


「アリューシャ、優勝おめでとー!」

「えへへ、ありがと、ユミルお姉ちゃん」

「くっそ、今度は負けないからな!」

「何言ってんの、アンタ来年は卒業でしょ」


 アリューシャに負けて、リベンジを誓うテマだったが、彼はすでに六年生。

 来年からは一般部門でないと参加できないのだ。


「う、来年は一般参加かぁ……」

「うふふ、次はボクが相手してあげるよ?」

「うわ、勝てる気がしねぇ!?」


 一般部門のトトカルチョだが、実はボク達は八チーム中三番目の人気だった。

 ボクの強さは冒険者内でしか知れ渡っていないため、冒険者の二チームが上になってしまったのだ。

 


「いや、それにしてもあの狡さはさすがユミル仕込みだわ……」

「やねに登るくらい、普通だもん」

「だよねー」

「ねー」


 ボクとアリューシャは抱き合って同意を示しているけど、ルディスさんは屋根でのリロードがお気に召さなかったようだ。

 彼女は貴族の生まれだけあって、潔癖なところがあるのだ。

 よくクラヴィスさんと引っ付いたな……あの人はどっちかというとボク寄りな考えなのに。


「それでお姉ちゃんはどうなの? 初戦ってアーヴィンさんのチームが相手なんでしょ、勝ち目あるの?」

「お、ラキ君は心配してくれるの? いい子だねー、テマと違って」

「なんでそこで俺の名前が出るのさ!」

「わたしも! わたしも心配してるよ!」


 アリューシャとテマが腕を振り回して主張する。

 子供をからかうのは楽しい。

 ボク達の初戦は大本命となっているアーヴィンさんのチームが相手である。

 なかなか運営もドラマチックに盛り上げてくれるじゃないか。


「ユミルってば、子供にモテるタイプなのね……そういえばカロンも昔は――」

「強さに憧れる子はチョロいですからね」

「悪女の様で情け無いセリフかも知れないわね、それ」


 お昼が終われば、一時から怒涛の七連戦が待っている。

 射撃大会の終了は、なんと八時予定なのだ。

 そんな訳で、早めにお昼を済ませてお腹に余裕を持たせておかないと、戦闘中に痛くなるかも知れない。




 午後からの一般部門はルールが更に変化する。

 参加者が多彩な技能を持つため、煩雑なルールが必要になるからだ。


 まず、冒険者が多く出るので、盾の使用は不可になる。

 盾を有効にすると、いつまで経っても戦闘が終わらなくなるからだ。


 続いて魔法の使用は直接ダメージを与えないものに限り可となる。

 これは魔法使い系冒険者の不利を補うためだそうだ。

 だが、水を作り出してぶっ掛けても、死亡扱いにはならない。

 あくまで水鉄砲でダメージを与えた場合のみ、有効打とされるのである。


 フィールドは市の南地区全域。

 ただし地下や屋内は不可。

 フィールドが広がるため、ストリートビューで相手の位置を確認する手段が認められている。


 だが、これは諸刃の剣でもある。

 自分達が確認に行くと言うことは、相手も来ると言う事。

 下手をすれば、ストリートビュー前で交戦が始まる可能性がある。というか、高い。

 もっとも強力なレーダーでもあるこの地点を、如何に確保するかも戦略の要なのである。


 そしてここは観客も多いため、正に肉の壁を巻き込んでの大狂乱となる予想。

 それも含めて楽しめと、運営側は言っているのだろう。

 もちろん観客にダメージを与えるのは禁止行為なので、魔法などで薙ぎ払うと言う訳には行かない。


 情報をどう取得するか、安全をどう確保するかが鍵となる。

 もっともボクにはそんな心配は必要無いのだけどね。




 運営の誘導に従い、ボク達のメンバーは南門へと移動した。

 今頃、アーヴィンさん達も街の中央の特設門に待機しているはずだ。

 センリさんは巨大な荷車を牽いていて、そこに今回の新兵器が搭載されているという。

 ボクもセンリさん謹製の新型水鉄砲を抱えて、戦闘態勢を整える。


 ボクのはライフル型の水鉄砲をタンクに繋いだタイプで、背中に背負ったタンクから水を送れる様になっている連射型だ。

 他のチームが使うところてん方式の発射機構と違い、引き金を引く現代日本でもよく見られるタイプなのだが、送水量が少ないため射程距離が短いのが難点。

 その代わり、一発辺りの水が少ないので、連射が効くのだ。


 この背中にタンクを背負うタイプは一般部門のオーソドックスで、水の消費を大幅に増やすことができる。

 問題はタンクに水を給水するのが手間と言うところだ。

 これは街の各所に備えられた井戸や川の水を利用する事で、対応している。


 この時、チームに対応したインクも混ぜ込まないと、色水にならない。

 色水以外の水を相手に掛けても有効打になら無いので、注意が必要になる。


「ふむ、インクを狙うという手もあったなぁ」

「またアンタはそういう(こす)い事を……」


 インクさえ潰してしまえば、敵は給水できなくなる。

 そこを突くというのは面白かったかも知れない。


 その時、中央広場の方で、大きな歓声が湧き上がった。

 きっと出場チームであるボク達が紹介されたのだろう。

 こう言うとき南門スタートは少し不利だ。改善点として組合に報告しておこう。


 しばらくして南通りの中央付近で、【ライト】の魔法が打ち上げられた。

 光量最大にして一瞬で消えるタイプだが、非常に高い位置に打ち上げられたので見逃す事は無い。


「それでは第三試合開始です、御武運を!」


 そう一声掛けて実況役の斥候達が通路の端へと駆け寄って行く。

 この段階ですでに気配が消えているのだから、大した腕である。


「よし、それじゃ行くわよ! 私とカザラは通りを北上して、中央突破を狙ってくるから!」

「センリさん、脳筋過ぎですよ? ボクはそうですね……北西の井戸を確保してきます」

「じゃあ、俺とハンスは東の井戸を確保に」


 センリさんは北上して敵と交戦、その荷車にはカザラさんと教頭先生が乗っている。

 道具の使用は許可されているが、動物の利用は許可されていないので、荷車はセンリさんが牽くことになっているのだ。


 その間にボクとドイル、ハンスが給水ポイントの井戸を確保しにいく。

 ここを押さえておけば、敵を待ち伏せすることが可能だ。

 もちろん敵もそれは予想しているだろうから、早い者勝ちである。


「私とプラチナ先生はイゴールさんの護衛に付くわ。それにしてもよく参加できたわね……」

(わたくし)としても不思議でなりません」

「クラヴィスは北上して広場で敵の位置情報を集めてきて?」

「任せとけ」


 各人に通信用の魔道具は配布されているので、離れていても戦闘中の会話くらいは可能である。

 もちろんこれは、後で返却せねばならないけど……これ、便利だなぁ。


「イゴールさんは防御に優れた拠点構築を。イゴールさんはリーダーだから、くれぐれも気を付けて」

「お任せください、ユミル様」


 リーダーが倒されれば、その段階で試合終了である。

 イゴールさんにはその役割を果たしてもらう事になったのだ。


 各人が指示を出し、それを受け、街中へと散って行く。


 給水ポイント制圧にボク、もう一方にドイルとハンスのコンビ。

 正面制圧にセンリさんとカザラさん。

 中央広場の情報収集にクラヴィスさん。

 拠点作りにプラチナさんとルディスさん。


 それぞれの局面で、戦力はバランスよく配分されているはずだ。

 いくらアーヴィンさんのパーティとは言え、これを撃ち崩すのは容易くないはず!


 こうして、ボク達の射撃大会が始まったのだ。


活動報告でも書きましたが、月曜に母の手術がありますので、火曜の更新は飛ばさせていただきます。申し訳ありません。

手術と言ってもボルトを抜くだけのものなので、すぐに復帰できると思いますが、ひょっとしたら木曜も飛ぶかも……

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[一言] 色水の色が付かないイゴールさんは負けない、反則では?
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