表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
116/272

第百十四話 どらごんすれいやー?

 かなり澱んだ瞳で、男は答えを返した。

 キーヤンと名乗った男は、どう見てもドラゴンを倒した腕利き冒険者には見えない。

 だが、転移者はどんな奥の手を隠し持っているのか、判らないのだ。油断はできない。


「アナタはドラゴンスレイヤー、で間違いないですね?」

「あ? ああ、あれね……確かに倒したよ、ドラゴン」

「じゃあ、なぜこの村のドラゴンを倒して――」

「無理なんだよ!」


 ボクの詰問を遮って急に激昂し、キーヤンはグラスをテーブルに叩きつけた。

 中の酒が飛び散り、テーブルを汚す。

 だが彼はそんなことお構い無しに、言葉を紡いだ。


「あの時は運がいいだけだった。切り札もあった。だが今は何もないんだ……もうドラゴンは倒せない」

「なぜです? ドラゴンを倒せば、皮や牙と言う優秀な装備の素材も手に入ったはず。経験値だって大量に入手して、レベルだって上がったでしょう?」


 ドラゴンほどの大物となると、その経験値はキングベヒモスに匹敵する。いや、超える。

 更に素材を使用して防具を作れば、ブレスなどの耐性だって持てる。

 二度目は、前回より遥かに難易度は下がっているはずなのだ。


「お前達……転移者か?」


 そこでキーヤンは声を潜めて、ボクに確認を取ってきた。

 これを口にするという事は、かなり確信があっての事だろう。


 もちろん、ボクもその確信を持たせるために、『経験値』なんて言葉を使っている。

 組合証にはレベルは表記されるが、経験値なんて物は表示されないのだ。


「――そうです。あなたと同じ、ね」

「なら教えてやろう。俺がどうやってドラゴンを倒したかを、な」


 そう宣言して、キーヤンは三年前の事を語りだした。




 マクリームの街にドラゴンが降りてきたのは数年振りの事態だった。

 これを受け、市政側は冒険者を招集、百人単位の討伐隊を編成しようとしていた。

 だがドラゴンの翼は、そんな動きを軽々と飛び越える。

 その時ドラゴンの前に立ちふさがったのが、このキーヤンと言う男だ。


「俺はこの世界に流れ着いたばかりで、右も左も判らない状態だったんだ」

「それはよく判ります。ボクもそうでした」

「突如飛来し、襲いかかってくるドラゴンに、俺は必死で逃げた。逃げ惑った」

「そりゃ逃げるでしょう。ボクだって逃げる」


 今なら返り討ちにしてやるけど、心構えも何もない状態で怪獣に襲われたら、そりゃ逃げるよ。


「逃げて逃げて、逃げ疲れた俺は、もはや逃げ切れないと悟って……ようやく反撃する決意を決めたんだ」

「うんうん」


 なんだか少し楽しくなってきた。

 言うなれば、これは実際に起きた英雄譚。

 目の前にいる男がドラゴンを倒した、知恵と力の物語。

 面白くないはずがない。現にアリューシャなんかは目を輝かせて聞き入っている。


「教えてやろう、俺がどうやって反撃したのかを……」


 そこでキーヤンは言葉を区切り、目を光らせた。

 ボク達は知らず、ゴクリと喉を鳴らし、次の言葉を待つ。


「まず――核弾頭を用意します」

「あ、もういいです」


 ガックリとうなだれるボク。

 そうか、そう言えばこの男がどのゲームから来たか聞いてなかったが……あのゲームか。


 緑色の髪のエルフにいきなりチュートリアルハラスメントを受ける、有名なフリーゲームだ。

 やろうと思えばなんでもできる、ただしユーザーの斜め上方向にできてしまう、あのゲームだ。


 差し出された肉を食ったら人肉食の加護が付いて、村の幼女を喰らって飢えを凌いだりもできる、訳の判らないアレなあれである。

 男同士で結婚して子供を作ったり、幼女をペットにしたり、通行人に毒や酒を投げつけ中毒にして強盗したりできるアレだ。

 売春だってできる。男同士でも。


「仕方ないだろう! 俺はゲームを始めたばかりだったんだ。ドラゴンなんて相手にできるか!?」

「でも、核弾頭は用意してたんだ?」


 核弾頭とは、そのゲームでテロリストと会話すると手に入る、アレな爆弾である。

 首都を爆破してくれと依頼されて入手できるのだが、どこで使おうとプレイヤーの自由。

 これを嫌がらせしたエルフを殺すのに使用するのが、このゲームの最初の目的とまで言われている。


「なら判るだろ! もう無理なんだよ。核弾頭なんてこの世界じゃ手に入らないし!」

「核核言うな、物騒だな……」

「まぁ、あのゲーム出身なら仕方ないわね。ドラゴンを倒せない理由も判ったわ」


 センリさんは溜息を吐いて、現状を把握した。

 確かに核弾頭があれば、ドラゴンくらい倒せるだろう。だがそれは一発限りだ。

 補充の利かない武器ゆえに、二匹目に対応できない。

 今の彼にドラゴンを倒せと言うのは、無茶な話だ。


「ハァ、判りました……なるほど、そういう理由なら確かに……」


 こうなったら、彼はまったく期待できない。


「判りました、ドラゴンはボクが何とかしましょう」


 ハンスの命が掛かっている以上、ドラゴンはどうにかしないといけない。

 そして彼が役に立たないなら、ドラゴン相手に戦えるのはボク達だけである。


「お前……消えるのか」

「うるさい、消えないよ! 勝手に殺すなよ!?」


 不吉な事を口走るキーヤンの頭を叩いてから、立ち上がる。

 そうと決まれば、ここに長居する意味は無い。


 店の入り口で振り返り、キーヤンに宣言しておく。


「戦えないからと言って、酒に溺れるのは感心しません。戻ってくるまでに酒抜いておきなさい!」


 さて、これから本格的に、ドラゴン退治だ。




 ドラゴンが住み着いたのは村の外れの山の山頂付近。

 その麓にハンスが監視に着いている。

 山の村側にドラゴンが降りてきた場合、彼が村まで駆け下りて、警告を発するのだ。


 そんな生活を、彼は一年も送っている。

 途中で足が止まってしまえば、そのままドラゴンの餌になってしまうのに、だ。


 明日……いや、今日、今この瞬間にでも、彼の限界は訪れるかもしれない。

 それにドイルが子供達を連れてタルハンに訪れるのは、二日後だ。

 できるだけ早く、ケリを付けねばならない。


「センリさんとアリューシャは地上でウララ達に乗ってボクを支援して。多分空中戦になるから」

「わかったー」


 空を飛ぶドラゴンと戦うのなら、ボクもリンちゃんに乗って空を飛ぶ必要が出るだろう。

 そうなると飛行手段のないアリューシャやセンリさんは対抗手段がなくなる。

 遠距離攻撃系スキルで地上から支援する事はできるが、主戦力にはなれない。

 ならばドラゴン戦は、ボクとドラゴンの空中での一騎打ちになる可能性が高いのだ。


 山の中にウララとセイコに乗ったアリューシャとセンリさんが入って行く。

 スレイプニール達に乗っていると、魔法やスキルで足が止まる事が無いので助かる。


 同時にボクはリンちゃんに乗って、山頂を目指して飛び立った。

 これは意図的に目立つ行動を取っているのだ。

 ドラゴンを釣りだすため


 ドラゴンは習性上、縄張り意識が強い。

 群れる事はほとんど無く、卵を孵す時に限り親子が群れる程度だ。

 リンちゃんが縄張りに入り込めば、野生のドラゴンとしては見逃せないはず。


 山頂付近をしばらく旋回してると、どこからともなくドラゴンが一匹こちらに上がってきた。

 大きさは十メートルを遥かに超える成竜。

 小柄なインファントのリンちゃんとは、迫力が違う。

 濃い緑色の鱗がオーソドックスな印象を受ける。


 上がってきたドラゴンを見て、ボクは意図的に高度を落として行く。

 これはアリューシャの魔法範囲内に入っておくためでもある。


「グルルルルルルルル……!!」


 腹に響く重低音の威嚇。

 こちらが地上付近に誘い込んでいるのを悟られない様に、リンちゃんも威嚇を発しておく。

 相手のドラゴンはこちらを逃がすまいと、さらに下へと回りこんだ。

 そこは山頂のすぐ近くでもあった。ここなら地上からでも魔法が届く。


 空中戦の定番として、まずは牽制のブレス合戦。

 ボクはありったけの魔力をリンちゃんに注いで行く。

 クロード相手に撃った手加減版ではなく、最大の魔力を込めた全力全開である。

 リンちゃんの周囲に魔法陣が輝き、内包魔力が限界を超えて高まって行く。


「ゴアアアァァァァァァ!」


 ドラゴンがこちらに向かって胸を膨らませ、ブレスを放ってくる。

 そのブレスを迎え撃つように、こちらもリンちゃんにブレスを放たせる。


「放て――【ドラゴンブレス】!」

「ガアアアアァァァァァァァ!」


 込めた魔力をブレスに乗せて、正面から撃ち返す。

 リンちゃんのブレスは魔力を帯びて青白い閃光を纏いながら、ドラゴンのブレスを飲み込み、敵影に殺到して行く。


 ゴッ、と空間そのものが揺れ、ドラゴンを飲み込んだブレスはそのまま山頂部分を消し飛ばし、大地に突き刺さる。

 そのまま災害レベルの地震を引き起こし、山の反対側にクレーターを作り上げた。


 ドラゴンは――居ない。


「……………………あれぇ?」


 跡形もなく蒸発したドラゴンのいた空間を見て、ボクは間抜けな声を上げたのだった。




「ちょっと、私達の出番は?」

「ユミルお姉ちゃん、ひどーい」

「いや、その……まさか、最強種族が蒸発するなんて、ね?」


 今になって気付いたのだが、この【ドラゴンブレス】と言うスキル……火属性の魔法ダメージを与えるのだが、魔導騎士は基本魔力が低い。

 そこを考慮したのか、ダメージの算出式はキャラクターの魔力ではなく、()()()()がダメージの基準値となるのだ。

 そしてボクのレベルは、レベル製MMOであるミッドガルズ・オンラインのレベルキャップである二百を大きく超えて、三百レベルになっている。

 更にレベルアップに応じて生命力も少し伸ばしている。


 その結果、最大HPもそれに応じて大きく伸び、なんと十万を超えているのだ。


 通常の魔導騎士だと、五万から七万程度しかないのに。

 このHPでブレスを放てば、そりゃ大惨事にもなろう。


「このスキルは使いどころを考えないと、本当に危ないね」

「前に迷宮で放ったときは手加減してたのね……」

「当然です。それにあの時はHP強化装備を付けてませんでしたから」


 あの時は戦闘を行う気がなかったので、私服姿だった。

 今は、ドラゴンと戦うとあって、HPを強化する装備をてんこ盛りで装備してたのだ。

 最大HPがおよそ二割は伸びている。


 たった二割、されど二割。

 その結果が、あのクレーターである。


「と、とにかくこれでドラゴンは倒しました! 安心して村に報告に行きましょう」

「村を出て、まだ一時間かそこらしか経ってないのに……信じてもらえるかしら?」

「そういや、死骸も残りませんでしたね」


 倒した証拠まで消してしまったのだ。

 緑色のドラゴンか……黒いドラゴンのリンちゃんの鱗では誤魔化せないな。


「ま、まぁ……戦闘の痕跡は色々残ってますし、リンちゃんを連れて行けば、何とか説得力を出せる……かな?」

「どうだろ? あの村長親子の性格からすると、認めそうにない気がするけど……」

「考えて見れば、別に認められる必要なんて無いんですよね。ハンスの安全さえ確保されれば良い訳ですし」


 ぶっちゃけドラゴンを倒さず、ハンスを拉致しても問題は無いのだ。

 ボクはこの村には何の義理も無いのだから。


「でも倒したって確証が無いと、ハンスを連れ出すのに反対しそうなのよねぇ」

「それは大丈夫ですよ。言質は取ってます」

「いつ?」

「息子が言ってましたよ。『コイツはよそ者なんだから』って」


 よそ者なのだから、村から出ても問題ないじゃないか。

 それを引きとめる権利は村長達には無いと言うことだ。


 後はハンスをタルハンに連れ出し、祭に参加させればミッションコンプリートである。


キーヤン、実は初期アイデアではカタツムリピアニストでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] イルヴァはまずい…… [一言] ちなみにelonaの核MAP全域に1000点無属性固定ダメージなので、あの世界のドラゴン相手にはギリギリ倒せる程度の威力です。上位のドラゴンや『』付きの強化…
[良い点] >キーヤン、実は初期アイデアではカタツムリピアニストでした。 elonaまで出てくるとかは、さすがに斜め上どころじゃなかった(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ