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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百十話 メンバー集め


 射撃大会の開催枠はあと一つしかない。

 これを確保するために、ボクは仕事が上がってからすぐに組合に向かう事にした。

 給仕服のままで。


「いらっしゃいま――きゃあぁぁ! ユミルさんがついにお洒落に目覚めたあぁぁぁ!」


 まてこら。

 エミリーさん以外もいつの間にか染まってやがる。


「ユミルお姉ちゃん、待ってぇ」


 受付嬢たちは、続いて入って来たアリューシャを見て、更に絶句する。

 アリューシャもついて来ていたのだ。

 給仕服のままで。


「――はぅっ!」


 何人かが鼻血を噴いて卒倒した。

 もうダメなんじゃないか、この組合支部……?


「何の騒ぎだと思ってきて見れば……よう、ユミル。今日はまた特に珍妙な服を着ているな」

「あ、ヤージュさん。お久しぶりです」


 冷静な支部長の反応がありがたい。

 彼はもはや、この組合唯一の良心かも知れない。

 ボクと並んでアリューシャもぺこりとお辞儀をする。怪獣着ぐるみのままで。

 それを見たヤージュさんはなんだか微妙な顔をしたけど、特になにも口にすることなく、こちらに向き直る。


 素敵です、そのスルー力!


「聞きましたよ。水鉄砲の射撃大会をやるんですって?」

「ついに聞きつけられたか……」


 今度は苦虫を噛み潰したような表情。どうやらボクには知られたくなかった模様。

 公平を規する組合長にしては、珍しい対応だ。


「いや、確かに知らせないと言うのは不公平だったかも知れんけどなぁ」

「なぜ知られたくなかったんです?」

「そりゃ……お前が出れば、優勝確定じゃないか?」


 確かに銃弾すら弾き返せるボクが、水鉄砲ごときに被弾するはずもない。

 街中とは言え、狭い路地なら壁も看板もあるので、立体的な機動は可能だ。

 そうなると照準すら付けらられるか怪しくなる。


「あー、遠慮した方がいいですかね?」

「まぁ、組合としては、派遣したチームが優勝するのは歓迎するべき事なんだが……圧倒的過ぎると祭が盛り上がらんだろう。だから遠慮してたんだ。それについては謝ろう」

「いえいえ、そんな考えがあったのなら、理解しますよ。じゃあ今回は遠慮――」

「知られたからには出るなとは言えん。参加を認めるさ」


 これまた鮮やかなほどにクルリと手の平を返すヤージュさん。

 この素早さ、なにか裏があったな?


「ヤージュさんとしては、ボクに出て欲しかったと?」

「最初は出そうとしたんだよ。だが商会側から、お前達が出ると圧倒的過ぎて盛り上がらなくなると苦情が入った」

「さもありなんです」

「で、連絡ミスと言う建前で、知らせない事で組合が泥をかぶる事になった訳だ」


 些細な連絡ミスで参加できないと言う風に持って行こうとした訳だ。

 組合としては優勝の可能性が減るが、本命である事には間違いない。

 それにこれで商業組合に貸しを作れるなら、美味しい取引だったかもしれない。


「でも、どっちみちセンリさん――は引き篭もってるから誤魔化せるかもしれませんけど、アリューシャは無理でしょう?」


 学校行事で参加するのだ。ボクに伝わらないはずがない。

 その言葉に対してヤージュさんはにやりと笑って見せた。


「だから、口先三寸でお嬢ちゃんを丸め込んだのさ」


 あ、アリューシャが妙に悪巧みしてると思ったら……ヤージュさんの入れ知恵か!


「ヤージュさんが学校側に協力を持ちかけた、と?」

「校長は喜んで引き受けてくれたぜ」


 ボクは確かに子供達が楽しみにしてるお祭をブチ壊す存在になりうる。それを排除できるのだから、あの人なら進んでやるかも知れない。

 しかし、そんなに自重しないと思われてるのかな、ボクは?


「ボクだって祭を壊したいと思ってる訳じゃないのに。ヒドイですよ」

「悪い。これは組合の借りにしといてくれ。で、だ。知らせないことで参加を抑制しようと思ったのだが、知られちまったら仕方ないよな?」

「不可効力で知られたから、参加を認めてくれる、と?」

「あー、仕方ないよなぁ」


 まるっきり棒読みの口調で、ヤージュさんは頭を掻いている。

 この人、なんだかんだで組合長の仕事に慣れてきてるな。腹芸が上手くなってる。


「組合としては、組合員のチームが優勝してくれる方が宣伝になってありがたいですものね」

「出るんだろう?」

「出ますよ。でも、商業組合の顔を立てるため、ここの組合ではなく、草原支部の組合から派遣と言う事でどうです?」


 すでに冒険者組合からは三チーム出している。

 ボクが参加すれば四チームだ。八チーム中半分が冒険者組合となると、出来レース感がでてしまう。


「そうだな……それでも冒険者組合である事には変わりないから、ユミル村の代表として出るのならいいか」

「げ、そっちですか」


 外部の組織も今回チームを送ってきている。

 新しくできた、タルハンが後援している村の代表としてなら、冒険者組合の色は出難いかも知れない。

 ユミル村、と言う呼び名に少し拒否感が出てしまったが、ボクとしては参加できるのならば、別にどこからでもいいのだ。


「まぁ、いいです。じゃあそれで」

「おう、今回は悪かったな」

「そう言う事情があるんでしたら、別に構いませんよ。でも貸しですからネ!」


 彼としても、やむを得ない理由があった訳だし、ここは譲歩しておく。

 出来るだけ気にしてないと言う印象を与えるため、軽めの口調でウィンク一つ飛ばしておいた。

 これを受けて、ヤージュさんは心底驚いたと言う表情を見せる。


「どうしたんです?」

「……いや、初めて会った頃は男か女か判らんような有様だったのに、すっかり女っぽくなって来たなと思ってな。外見は変わらんが」

「一言余計ですよ!?」


 確かにこの身体になって、もう五年だ。

 女性っぽい仕草と言うのも、板に付きつつある。

 センリさんと言うお手本が傍にいたのも大きい。


「これ、帰ってから苦労しそうだな……」


 だが無意識でこなしている以上、元の世界に戻って男に戻れば、オカマみたいな行動になるんじゃないだろうかと言う心配は残る。

 それにしても、もう五年かぁ……


「仕事、クビになってるだろうな」


 さすがに五年も無断欠勤では、雇ってくれないだろう。

 というか、そろそろ死亡確認も近いんじゃなかったか? 確か行方不明になって七年だっけ?


「どうした?」

「いえまぁ……どうしようも無い事をつらつらと。なんでもありませんよ」

「ああ、あと【クローク】は禁止な。盛り上げるのが目的なんだから、見えないのは困る」

「見えないって……ああ、ストリートビューやるんでしたっけ?」

「おう。そのための魔道具も用意してあるってのに、被写体が隠れちまったら盛り上がらんだろう?」

「そりゃ、そうか。了解しました、【クローク】と、それに準ずるスキルは使用しない事にします」

「そうしてくれ」


 そんな訳で、ボクの出場枠の確保は成功したのである。




 翌日、センリさんの出場確約はあっさりとできた。

 彼女も最近新アイテムの開発に行き詰っており、気分転換がしたかったとの事。

 世界樹の実、搾るだけじゃポーションにできなかったのである。


 ついでに切り札としてイゴールさんにも参加を要請しておく。

 エルダーレイスである彼ならば、障害物の多い市街戦は圧倒的有利に持ち込めるのだ。


「ユミルお嬢様の要請とあれば、否やはありません」


 とは、彼の言。

 この三年で、ボクにすっかり馴染んでくれたようだ。


 とは言え、これでまだ三人。

 出場の最低人数は十人なので、後七人必要だ。


「で、心当たりあるの?」

「ボクもわりと引き篭もり体質でしたからね。知り合いは少ないのですよ」


 とは言えまったく無い訳ではない。

 特に今回、ボクに引け目のある人材は一人いるのだ。




「それで私ですか……」

「ええ、校長先生になら、必ず受けてもらえるものと思ってますよ?」


 にんまりと悪い笑みを浮かべて、校長先生を脅迫――もとい、協力を要請する。

 彼女が口先三寸でアリューシャを丸め込んだ実行犯なのだから、拒否できるはずもない。


「そうそう、今回の件、ランデルさんに聞かされて実に驚いたんですよ。アリューシャも秘密にしてた様で……」


 冷や汗を流して、返答に困ってる校長先生に、すかさず畳み掛ける。

 彼女が実戦派である事は、大氾濫の時の話ですでに承知済み。足手まといにはならないだろう。


「そ、それは――」

「いかがでしょう? せっかくのお祭です。『ボクと一緒に』参加して見ませんか?」

「…………ハァ、判りました。もう、ユミルさんってば、すっかり腹黒くなってしまわれて」

「誰のせいですかっ!」


 校長先生とヤージュさんが裏工作しなければ、普通に参加できたのだ。

 ボクのせいにされては、困る。


「では、このプラチナ。ユミルさんの陣営に加わる事をお約束しましょう」

「プラチナ……意外と可愛い名前だったんですね」

「そこは放って置いてください!?」


 顔を赤くして机を叩く。実はトラウマだったのか、あの名前?

 とにかく、ついでに教頭先生も巻き込んで、これで五人を確保したのであった。




 続いてやってきたのは、カザラさんのところである。

 腕はいいが珍しい物を作りたがる彼は、水鉄砲の製造の第一人者でもあった。

 そして、実際に使う感触を調べるため、そこそこの実戦経験がある事も知っている。


「俺に祭に参加しろと?」

「ええ、いかがです?」

「あまりそう言うのは興味なくてな。商業組合からも要請が来たんだが、断ってる」


 確かに鍛冶も戦闘も腕が立つ彼は、戦力不足な商業組合サイドからすれば、ぜひ欲しい戦力である。

 一度断った物を別の勢力で、というのは確かに外聞が悪いかもしれない。


 だが、その要請を出したのがボクであるならば?

 (そり)を実用化し、水鉄砲を持ち込んだボクは、彼の生計にとって大きな影響力がある。

 それはボリスさん達商人にも、周知の事実なのだ。

 そしてもう一つ、ボクには切り札がある。


「それに今回、センリさんは新しい武器を開発するそうでして……」

「ほう?」


 ほら、食いついた。

 もう、カザラさんってば、チョロいんだから。


「え、考えてないわよ?」 

「ボクにアイデアがあるのでいいんです。作るのはセンリさんですし」


 後ろで交渉を台無しにしかねない発言をしたセンリさんを、一刀両断で黙らせる。


「まぁいい。アイデアがあると言うのなら、俺も興味がある。今までの恩もあることだし、参加するだけでいいなら協力しよう」


 こうして六人目も確保できた。

 この調子で後四人集めれば、条件達成である。

 ボクやセンリさん、プラチナ先生にカザラさんがいれば、大抵の敵は蹴散らせる。

 適当に募集しても何とかなるだろう。




 戦力は大分整ってきている。

 後は一般公募でも、埋まるだろうけど……

 そんな思案をしながら、センリさんとアリューシャを連れて。お昼を食べにランデルさんの店へ行く。

 彼にも事態を説明しておいた方がいいと判断したのだ。礼儀として。


 ここは給仕服が特に目立っているが、実は料理の腕も悪くない。

 ランデルさん、縫製の腕前だけじゃなく、料理もこなせるオールラウンダーなのだ。

 一家に一台ぜひ欲しい。


 それはともかく、お昼のパスタ――ボンゴレロッソ風の貝がごろごろした奴――を(つつ)いていると、唐突に声を掛けてきた人がいたのだ。


「よっ、ユミル! なんか祭のメンバー集めてるんだって?」

「もへ?」


 丁度パスタを口に咥えったところなので、変な声が出てしまった。

 慌てて顔を上げると、そこにいたのは……


「クラヴィスさん! それにルディスさんも!?」


 三年前、冒険者を寿引退した二人が、そこにいたのだった。


寝過ごしてしまいました。

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