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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百八話 依頼完了

 その日はもう暗くなったので、組合に進捗を報告してから、一旦屋敷に帰る事になった。

 だが、その報告で一悶着が起きた。


「ユミルさん?」

「はい」


 カウンターでエミリーさんが汗を流しながらこちらに告げてくる。

 よく見ると、こめかみには血管が激しく浮かんでいるのが見て取れた。


「バートンさんは警告程度って言ったじゃないですか! 彼、『もう冒険者辞めます!』って言って飛び出していったんですよ!?」

「さもありなん」

「何悟ったような事を言ってるんです!」


 エミリーさんには、事の次第を詳細に報告して行く。

 よく考えて見れば、ボクは彼等になにも手を出していないではないか。なぜ怒られているのだろう?


「という訳で、彼等には何もしてないんですよ。ホントです」

「と言うか、通りすがりの冒険者を瀕死に追いやるって、何やってんですか……」

「アリューシャに手を出したんだから、自業自得ですよ」

「最近過保護が過ぎるとか言われません?」

「校長先生に、何度か」


 むしろ顔を合わせるたびに過保護が過ぎると苦情を言われている。

 まぁ、そのたびに聞き流しているボクも悪いのだが。


「それはそれとして、次のクロード君は全力でやっていいんですよね?」

「ええ、正直殺さないなら、なんとでも」

「そこまで酷いんですか……?」


 組合的に殺してしまうのはさすがに都合が悪いだろうけど、逆にそれ以外ならなんとでもと言い切らせてしまうほど、素行が悪いのだろうか?


「ええ、レベル上げと称して、冒険者を大量に抱え込んで迷宮に潜り、他人の獲物を横取りしたり、禁止されている奴隷を買って『使用人』と主張して使い潰したり、商業組合の女性店員にかなりキツ目のちょっかい掛けたり……」

「あ、もういいです。やっぱ殺しちゃってもいいよね?」

「それはダメです」


 仮にも子爵子息。死んじゃうと色々厄介な事になるらしい。

 面倒くさい奴ほど権力を持ってるのは、どこの世界でも同じらしい。


「殺さない程度に冒険者の恐ろしさを実感させるとか、凄く難しくないですか?」

「今日それを、いとも簡単にやらかしてきたでしょ」

「あれはボクのせいじゃないしー」

「明確にユミルさんのせいです」

「ユミルお姉ちゃん、わたしの出番取ったぁ」


 本当に何もしてないのに、ヒドイ……

 ボクは涙ながらに彼等の明日の予定を聞き出し、計画を立てるのだった。




 翌日、迷宮内部でクロードを待ち伏せることにした。

 彼等はレベル上げと言う目的があるので、ほぼ毎日のように迷宮に入る。

 パーティの構成は本人以外に、それなりに腕の立つ冒険者三人と、使用人という名の奴隷が二人の六人構成。

 奴隷の一人は斥候の技術を学ばせ、もう一人はタンクの役割を背負わせる。

 つまり一番危険なところに配置するやり口だ。


「なにそれ、ひっどい話よね」

「うんうん」

「そのような者が領主に選ばれず、僥倖にございます」


 ついてきたセンリさんが憤慨し、アリューシャがこくこくと同意を示す。

 イゴールさんも怒りを隠せないようだ。

 今回センリさんについてきてもらったのは、引退を決めるほどの恐怖を与えないといけないと言う条件のせいだ。

 彼女の持つ『銃火器』は、恐怖を与えるのに丁度いい。


 更に恐怖を与えると言う事で、イゴールさんにもついてきてもらっている。

 本人(?)は屋敷を離れるのを少し渋っていたが、代わりにレグルさんに留守番してもらうと言う事で妥協してもらった。

 アリューシャの倉庫機能が解放されているので、見られると危ない物は倉庫に隠しておける。


 それと、迷宮に無理矢理押し込んできた、リンちゃんがいる。

 この子の火力も、充分に脅威を与えることが出来るはず。

 外見のインパクトも抜群だし。


「っと、前方に敵影発見」


 もちろん迷宮内での待ち伏せなのだから、こちらがモンスターの攻撃を受ける事もある。

 だがここの迷宮は、草原のそれと比べると、確かに敵の強さが格段に落ちる。


「ワイルドボア、ね」

「もう三層なのにその程度ですか」

「今日の晩ご飯?」


 センリさんが敵を識別し、ボク達の敵ではないと判断した。

 ワイルドボアは大型のイノシシで、突進攻撃は確かに目を見張る物があるが、それ以外は多少打たれ強いだけの雑魚だ。

 草原の迷宮のチャージバードにすら劣る。


「数は四匹。それがちょっと厄介かな?」

「そうでもないですよ」


 確かにボク単体が前衛を受け持って四体を足止めするのならば、ちょっと面倒だったかもしれない。

 だが今はリンちゃんがいるのだ。


 ボクはリンちゃんに跨って、首筋に手を当て、魔力を多めに流し込む。


「さ、行こうか。放て、【ドラゴンブレス】!」


 雑魚相手なので、かなり絞った出力でブレスを放たせる。

 【ドラゴンブレス】のスキルは最大で十段階の出力調整が可能になるのだ。


 轟と地響きすら伴って吐き出される、赤熱の猛炎。

 それが迷宮の通路に殺到し、埋め尽くし、焼き滅ぼしていく。

 威力を絞って、なおこの威力である。


 炎が引いた後には、黒焦げになったイノシシの死体だけが残されていたのだった。


「上手に焼けました!」

「焼きすぎー」

「皮は使えないわね……今後はそれ禁止で」

「がーん」


 高すぎる火力に素材が駄目になってしまうため、センリさんから禁止令が出されてしまった。

 仕方ないので、肉の確保だけにとどめておく。

 外側は炭化しているが、中の方はまだ食べれそうなところが残っていたのだ。


 こそぎ落として、アイテムボックスに仕舞い込んでいると、遠くで人の声が聞こえてきた。


「おい、本当にこっちなんだろうな?」

「はい、さっき凄い地響きみたいな音が……」

「よし、お前は前に出ておけ。絶対敵を後ろに回すな。命に換えても、だ!」


 なるほど、声からして高慢が(にじ)み出ているってのは実に判りやすい。

 こちらはリンちゃんがいるので、隠れると言うのはほぼ不可能。

 なので、通路の角の所で待ち伏せる事にする。

 出会い頭にドラゴンのフェイスをズドン、だ。これは怖い。


 しばらくして、みすぼらしい服の男が盾だけ持って、角を曲がってきた。

 そこに突然ドラゴンがでんと居座っていたので、驚愕し、硬直してしまった。


「おい、一体何が――ひぃ!?」


 標的のクロードが続いて角から顔を出す。

 そのタイミングで、ボクはリンちゃんに魔力を注ぎ【ドラゴンブレス】を発動させる。もちろん、最小威力で。


 リンちゃんはドラゴンなので、自力でブレスを吐く事は可能である。

 だけど、スキルで魔力を注いでやり、威力や範囲を詳細に制御してやる事で、より効率的なブレスが吐くことができるのだ。


 ただし全力だとクロードまで消し炭になってしまうので、魔力は最小限、しかも方向は通路の天井付近に放って、ダメージを与えないように工夫しておく。


「ゴアアアァァァァァァアアアアッ!」


 リンちゃんの威嚇の一声と、ブレスの威力に腰を抜かすクロード一行。

 そりゃそうだ。三層の雑魚が相手と思っていた所に、最強の魔獣が降臨したのだから。


「ひぁ、お、おい! お前あいつを足止めしろ!」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」


 可哀想に奴隷達は声も出せないほど震えている。

 ごめんね、もう少し我慢して。


 腰を抜かして動けない奴隷を放って、冒険者とクロードが一目散に逃げようと背を見せた。

 その瞬間、今度はイゴールさんが動いた。

 念動力で足を繋ぎとめ、地面を通って回りこむ。

 そして地面からゆっくりとそのデスフェイスを表して行く。


「貴様達……仲間を捨ててどこへ行くつもりだぁ」


 怒りを含んだその声は、まるで地の底から噴き出すような圧力を感じさせる。


「わぁ! うわぁああぁぁあぁぁ!?」

「ひゃあああぁぁぁぁ!」


 ドラゴンインファントにエルダーレイス。

 高位のモンスターが立て続けに現れ、クロード達は混乱の極みに陥った。

 狂ったように悲鳴を上げ、剣を振り回して暴れ回る。

 その剣が仲間の冒険者の腕を斬り裂いてもお構い無しだ。


「ぎゃあああああ!」

「どけ、お前等俺の邪魔をするな!」

「聞いてねぇ! こんなの聞いてねぇよ!」


 もちろん剣はリンちゃんやイゴールさんにも当たっているのだが、何の付与も行っていない過剰装飾のゴミ装備ではダメージを与えることができない。

 リンちゃんは鱗で弾き返すし、イゴールさんに到ってはすり抜けるだけだ。


 混乱したクロード達の足元に、今度はセンリさんがMP5SD5の銃弾を撃ち込んで行く。

 減音機(サプレッサー)が効いた銃声は、悲鳴を上げ続けるクロード達の声にかき消され、まるで音も無く地面が弾けたような印象を与える。


「な、なんだ! なんだよこれ!?」

「やめろ、押すな。俺はもう嫌だ! こんな依頼受けるんじゃなかった!」

「なんだと、てめぇ!」


 喚く、叫ぶ、怒鳴る。

 これではセンリさんの銃弾を聞き分ける事などできない。

 そろそろトドメに行くべきかな?


「アリューシャ、計画通りに」

「はぁい」


 ボク達の姿はリンちゃんの影に隠れて、向こうからは見えていないはず。

 それを利用してアリューシャはリンちゃんの後ろで【エクソシズム】の詠唱に入る。

 もちろん、これでダメージを受けるのは、この場ではイゴールさんだけだ。

 なので彼は、念動力を維持したまま姿を消してもらう事にする。


 あいつ等から見れば、リンちゃんが魔法陣を背負い、何らかの魔法を発揮しようとしてるように見えただろう。

 そして全員が魔法陣を認識した直後、ボクは【スマッシュ】を使って、地面を全力で叩いた。


 バギン、という金属音が響き、石畳の地面が盛大に陥没する。

 それが魔法の予備動作のような印象を与え、クロード達の表情は更に引きつった。


 そして直後にイゴールさんが念動力を解除。

 突然自由を取り戻したクロード達は、尻に火が付いたように、逃走を図ったのだった。

 



「という訳で、今回は上手く行ったのですよ」

「そうですねぇ、クロード氏からも迷宮でドラゴンが現れたと泡を噴いて報告がありましたが、やはりユミルさんでしたか」


 ボク達は一度帰投し、カウンターでエミリーさんに首尾を報告している。

 イゴールさんとリンちゃんはさすがに組合に入れないので、先に帰ってもらった。

 特にイゴールさんは屋敷の事が心配そうだったので。


「それで、なんて答えたんです、エミリーさん?」


 この人が普通に返事をしたはずがない。

 こんな事件が起きたのなら、必ずその状況を利用しようとするはずだ。


「ええ、迷宮内は最近階層にそぐわないモンスターが出ているので、危険なんですよって」

「それ、他の冒険者が聞いたら勘違いしますよ……」

「クロード氏以外は今回の依頼は周知されてますので」


 しれっと答えて、舌を出してみせる。


「街の外では大氾濫が記憶に新しいですし、今回の件で迷宮には入れなくなったでしょうし、まぁ一件落着でしょう」

「でも、温くないですかね?」


 バートン達よりインパクトは薄くなった気がするのだ。


「大丈夫ですよ。今回の件で雇われの冒険者達は辞めるみたいですし、彼の行状はみんな知ってます。それに、脱糞しながら駆けこんできた姿はみんな覚えているでしょうし」

「あ、そですか……」


 ボクが脅していた所では、まだそこまでではなかったのに、逃げ帰る途中で耐えられなくなったのかな。

 その醜態が知られてしまっては、冒険者を続けるなんて、そう出来るものじゃない。

 悪評は結構尾を引いて残るものだからだ。


 こうしてボクは新人冒険者達に警告を与えると言う任務を完遂したのだった。

 なお、アリューシャのレポートは、センリさんのポーション作りに変更されていた。

 なぜか聞いたら、『ざんぎゃくなシーンが多すぎるから』だって……理不尽だ!


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― 新着の感想 ―
今回はパーティーに入ってるだろうから、ドラゴンがレッドドラゴンとかに、エルダーレイスがリッチとかに、ランクアップしたりしないかなあ?
[一言] りんちゃんをパーティーに入れ、しゃべれるようにならないか。
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