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ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ  作者: 鏑木ハルカ
本編 ゲームキャラで異世界転生して、大草原ではじめるスローライフ
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第百四話 三年後

いきなり時間を三年ブッ飛ばします。ご注意ください。

「奥さん、ちょっと凄いザマスわよ?」

「どこ向いて言ってんのよ、アンタは」


 海賊騒ぎから、早くも三年の月日が流れた。

 こちらがヤバ目の情報を握ったのを察知したのか、ブパルスからのちょっかいはぴたりっと止まっていた。

 ボリスさん達も水鉄砲の人気を足がかりに、順調に業績を伸ばしつつある。

 おしなべて、平穏な日々。


 三年の間に大きく変わった事がある。


「まずアリューシャが凄く美少女になりました。早く嫁にしたいです」

「そんな事はどうでもいいでしょ! そっちの工程はどうなの?」

「あ、はい。貯水タンクは出来ました」


 時季は春先。

 そろそろ日差しも暖かくなってくるこの時期。水鉄砲はこれからが本番である。

 今ボク達は、ボリスさんの所から受けた外注で水鉄砲のタンクを作っている。

 これは予想外に水鉄砲がブームを巻き起こし、供給が滞りだしたからだ。


 その理由は簡単。

 子供というのはあらゆる面でこちらの想像を斜め上に超えていく。今回もその結果だ。

 つまり、水に色を付けて撃ち合うサバゲーモドキのルールが開発されたのだ。

 これによってより大きい水鉄砲が、より大きなタンクが、大量に発注される事になった。


 しかも子供だけに留まらず、大人までもこの遊びに熱中しだしたから、性質(たち)が悪い。

 あふれる資金力をつぎ込んだオリジナル水鉄砲が大量に開発され、職人の手を煩わせ、結果的にボク達にお鉢が回る事となってしまったのだ。


 しかもこの水鉄砲、他にも用途が開発されてしまった。

 遊びだけでなく、畑の肥料撒きや水やりに活用されるようになったのだ。

 大きなタンクを背負い、ポンプで水を吸い上げ、撃ち出す。

 今まで桶に肥料を貯め、柄杓で撒いていた液肥が手早く簡単にこなせる様になったのが大きい。


 この結果、水鉄砲は農業用、遊具用、競技用と枝分かれをし、大きな利益をボリスさんにもたらしたのである。


「まぁ、このくらいの文明進歩は許容範囲よね?」

「そうですね、楽になるに越した事はありません」


 そして話が飛んでしまったが、ボク達にも大きな変化がある。




 まずアリューシャだが、背が大きく伸び、とても美しくなった。

 そして職業が大司祭から魔術師、賢者、探求者、精霊使いへと変化したのだ。

 これで彼女は剣も使え、回復魔法も攻撃魔法もこなす万能キャラへと進化した。


 賢者系職業は短剣や聖書、杖、片手剣を使いこなし、基礎攻撃魔法を応用的に使用する事で高い攻撃力を放つ。

 ボクと同じようにオートキャストしたいという要望から選んだらしいが、おかげですさまじく万能なキャラへと進化したのだ。




 次にセンリさんだが、なんと銃士ガンスリンガーをチョイスしている。

 これはミッドガルズ・オンライン側の職業だが、このクラスは上位職が無いため、非常に扱いにくい。


 だが、彼女はオックスの遺した武器の数々がある。

 これと開発師としてのスキルを合わせて、銃弾と投擲弾をばら撒く戦法を覚えたのだ。

 はっきりいって範囲殲滅力では、ボクより上かもしれない。怖い。


 心配な銃弾の補充も、開発師のスキル【複製】で量産できるので、心配は無い。



 最後にボクだが……

 ボクは逆に、マギクラフト・オンラインのヘビィナイトというクラスを経由して、再び魔導騎士へと戻った。

 ヘビィナイトには少し気になるスキルがあったので、寄り道させてもらったのだ。

 そして、魔導騎士に戻った理由は――やはり倉庫である。


 魔刻石の在庫の心配が無くなり、ドラゴンという騎竜も手に入れた。

 今のボクはまさに全力以上。

 ゲーム当時よりも遥かに高い攻撃力を発揮できるのだ。


 そうそう、ドラゴンといえば、あの卵は回収して一ヶ月くらいで孵化した。

 黒い鱗をした、中二心をくすぐる可愛いドラゴンだったのだが、孵ったドラゴンは……それはもう、暴れに暴れた。

 屋敷の敷地内で無ければ、街に被害が出ていたかもしれないくらい。

 だが、全力が解放されたボクの前では、その力もミジンコみたいな物だ。


 ちょっと(カノ)の魔刻石を三発くらい使用してブン殴ってやったら、あっという間におとなしくなったのだ。

 以来、ドラゴンのボクを見る目が涙目になってるような気がするのは、きっと気のせいである。


 ドラゴンは今、リンドブルムという名前を付けられ、厩舎の脇で眠っている。

 ちょっとした小屋ほどの大きさがあるので、中に入れないのだ。

 ちなみに、たまにセイコとウララを相手に喧嘩しては、ボクにブッ飛ばされている。

 愛称はリンちゃんである。




 そんなわけで、戦力も充実し、ちょっかいを掛けてくる相手もおとなしいとあって、ボク達は平穏に三年を過ごす事ができたのだった。

 いや、平穏とは言い難いか……


「おう、ユミル! 今日も修行すっぞ!」

「レグルさん、問答無用で侵入してこないでください」

「いらっしゃいませ、師匠」


 ヒョイと、どこからともなくイゴールさんが現れる。

 その背後にはお茶の入ったポットが宙に浮いていた。


 レグルさんは組合長を引退したあと、町長に専念していたのかと思ったら、なぜか子爵位を引っさげて戻ってきたのである。

 そしてイゴールさんが斥候術の師匠を探していると聞いて、すぐさま名乗りを上げたのだ。


「ボクはもう魔導騎士ですから。斥候は適当でいいんです」

「そう仰いますな。私一人で修行と言うのも侘しい物です。よろしければご一緒してください」


 大きく変わったと言えば、イゴールさんもかなり変わっている。

 さすがに物をほとんど触れないのは、斥候として不便と言う事で、例外的にパーティに加入させてモンスターとして進化させた。

 その結果がエルダーレイスという上位アンデッドになってしまったのは、ちょっと躍進しすぎだと思うけど。

 進化に伴い、念動力と言うスキルが発生し、物に触れなくとも操作できるようになったのは非常に便利だ。


「レグルさん、ユミルは内職が残ってるから、修行は後でね」

「ええっ、もうすぐアリューシャが帰って来るのに、それじゃ遊べないじゃ無いですか!」


 アリューシャも、もう十歳になった。

 その手足はすんなりと伸び、人形のような愛らしさから妖精の様な可憐さを纏いつつあり、街中と言う事で衣装も充実。ふわふわのひらひらで実に目に楽しい。

 そして、そろそろ身長が追い付かれそうである。

 オッパイは……うん、まだ勝ってる。かろうじて。


 とにかく、そんなアリューシャと戯れるのはボクの日々の癒しである。

 これを削ると言う事は断じて許されない。そう、断じてだ!


 目の前には背負うための貯水タンクの材料である丸太。

 これの中をくり抜き、さらに蓋を作るのがボクの役目。


「よし、本気で行くよ。【ポゼッション:ナイトヒーロー】!」


 ほとんど使った事の無い、交霊師のスキルを起動する。

 ぞくりとした感触と共に、体内に不可視の力が満ちるのを感じる。

 過去の英霊を身に宿し、その潜在能力を一気に開花させるスキルなのだ。

 これにより、片手での攻撃速度を一気に加速する事ができるのだ。

 ちなみに英霊を取り憑かせるスキルなので、ちょっと怖い。


「どりゃあああぁぁぁぁぁぁ!」


 どががががが、と削岩機のような勢いで木を抉るボク。

 ここで【オーラウェポン】とか使ってしまうと、真っ二つに断ち割ってしまうので、加減が難しい。

 とは言え秒間十回の攻撃速度で内部を削り抜き、三十分ほどでタンクを二つ作り上げることができたのである。


「さすがユミル様。お早い」

「いや、お前の方も大概だろう? この錠前、上級者用の訓練錠なんだがな」


 イゴールさんは物質を透過し、内部構造を直接目で見れるのが非常に反則である。

 目で見て罠や錠の構造を確認し、念動力で解除するので、失敗する事がほとんど無い。

 そんなイゴールさんに、レグルさんは自慢の訓練錠を事も無く突破され、しょんぼりとした顔をしていた。


 そこへ響く馬の嘶き。

 同時にイゴールさんも顔を上げ一礼してから告げてきた。


「アリューシャ様がお戻りになられましたね。私は失礼してお迎えに参ります」

「うん、ボクも行くよ」

「ではスラちゃん殿。氷室に果汁を冷やしてますので、それをお持ちくださいますか?」

「――――――」


 みょいんとオッケーサインを出して、ぽよぽよ跳ねながら庭へと飛び出していく。

 窓には鉄格子が嵌っていて、そう簡単に出入りできない様になっているのだが、粘体生物の彼らには無いも同然だ。


 ボクもアリューシャを出迎えるべく立ち上がったところへ、彼女の方から部屋へと駆けこんできた。


「あ、ユミルお姉ちゃんがお仕事してる!」

「お帰りアリューシャ、ってか酷い!?」

「ただいまー」


 確かにボクは迷宮権利で働かずに食べていける固定収入はある。

 だがまったく働いていない訳では……ない、はず?


「ほら、水鉄砲の開発とか?」

「百ギルのうち二十ギルを特許として徴収してるだけじゃない」


 センリさんが横から口を挟んでくる。

 水鉄砲の遊具版の価格は百ギル。

 うち二十ギルはボク達。三十ギルはボリスさん。残り五十ギルは素材費込みで職人さんが持っていく契約になっている。

 月に百個以上捌けるので、二千ギル程度の収入にはなる。

 お小遣い程度だが、これが意外とおいしいのだ。


 他にも農作業用や競技用だともっと高額になるので、回ってくるお金も多くなる。


「あのね、ユミルお姉ちゃん。今日学校でね?」


 アリューシャは胸の前で握り拳を作ってこちらに話しかけてくる。

 その姿は一生懸命さが出ていて、可愛い。


「ん、なに?」

「おうちの人の仕事をレポートしてきなさいって宿題出されたの」

「…………」


 なんですと?

 それはつまり、ボクの仕事?

 いや、ここはセンリさんの仕事でお茶を濁すか?


「ユミルお姉ちゃん、お仕事何してたっけ」

「ぐはぁ!?」


 まずい、こっちをご指名だ!

 見るとレグルさんは腹を抱えて、声を出さずに笑い転げてやがる。


「いや、ボクは……そう、冒険者! 最近やってなくて忘れてたけど、ボクは冒険者なんだよ!」

「あ、そういえばわたしもカード持ってる!」


 ひょいと肩掛けポシェットから組合証を取り出すアリューシャ。

 そうだ。この三年、ほとんど依頼を受けてなかったけど、ボクは冒険者だったのだ。

 ならば受けねばなるまい……依頼を!


「アリューシャもボクのお手伝いしてくれているからね。今更かもしれないけど」

「じゃあ、久しぶりにお仕事行くの?」

「ぐふぅ……久しぶりとか言わないで……」

「あ、ごめんなさい」


 ガックリと床に両手両膝を付けるボク。

 アリューシャはそのボクの頭をいい子いい子と撫でてくれるのだ。

 これはあれか? 撫でポか! 惚れちゃうぞ、アリューシャ!

 いや、もうベタ惚れだけど。素敵、抱いて!


「ぶふっ、まぁ明日から週末だし、軽い仕事受けてくりゃいいじゃねぇか。薬草採取なら年中無休で受け付けてるぞ」

「そうですね、そうしましょう。薬草採取は受けませんが。エミリーさんも最近顔合わせてないし」

「あれも、いい加減落ち着いてくれりゃな……」


 エミリーさん、二十一歳。未だ彼氏無し記録更新中である。


 それはともかく、窓を見るとまだ日は高い。

 のんびり組合に顔を出しても、日没まで充分間に合うだろう。


 そこへ玄関でぶっちぎられてきたイゴールさんと、ひんやり果汁を取ってきたスラちゃんが部屋に戻ってきた。

 まずは一休みしても罰は当たるまい。


いきなり三年も経過するのはどうかと思われるかもしれませんが、そろそろ時間を進めないと、話が展開できないので。

そういう訳でご了承ください。


ユミルとアリューシャのスキルビルドは、これでほぼ完成形になりますね。

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