序章 ここはどこ?
ラグナロクオンライン、アリアンロッド2E、ソードワールド2.0などをリスペクトしたゲームが登場します。
さらにTS要素もあります。
そういった物が苦手な方はご注意ください。
ミッドガルズ・オンラインというゲームがある。
MGOと略されるこのゲームは、VRMMO全盛期のこの時代において、珍しく2D・3Dを混合した古き良きスタイルのゲームで有名だった。
なぜこんなローテクノロジーなシステムになったかというと、このゲームの寿命の長さが原因である。
かれこれ二十年に及ぶその寿命の長さは、ゲームの主流が変わるに足る長さだった。
古い技術で開発されたこのゲームは、未だ十万人以上のアクティブユーザー数を誇っている。
◇◆◇◆◇
「うんうん、やっぱり、ユミル可愛いよ、マジ天使」
俺はミッドガルズ・オンラインの自分のアバターに向かって、自画自賛の声を上げていた。
このゲームの最大の売りは、外見改変アイテムの多彩さにある。
3Dマップの中をちまっとした2Dキャラが動き回るのだが、その外見バリエーションの多さは他のゲームの追随を許さない。
頭装備や肩装備、鎧に腰に武器に盾。各パーツごとに2Dグラフィックが用意され、装備に応じて外見が変化する。
その他にも騎乗用アイテムなどもあり、データ容量が多いVRや3Dゲームでは対応できないような量を誇っているのだ。
もちろんそれ等を用意する製作側の労力は、相応に多い。
俺が使用するキャラクター、ユミルは魔導騎士と呼ばれる職業で、かつてはこのゲームの花形と呼ばれていた。
高いHPとダントツの攻撃力を誇り、しかもドラゴンに乗って攻撃でき、魔刻石と呼ばれる魔石を使って自力付与を施す。
――だがその栄華は長くは持たなかった。
バランス調整という名の下方修正の煽りを、まともに受けたのだ。
スキル攻撃力を下げられ、他の職と変わらない程度になった。
むしろ、スキルの技後硬直時間の長さのせいで他職に劣るとまで言われるようになった。
トドメはHP係数も下げられたので、前線を維持するというアイデンティティまで崩壊した。
結果、全プレイヤーの二割が魔導騎士とまで言われたその数は、恐ろしい勢いで減少していく。
だが中二心をくすぐる設定は、少数ながら全滅を避けさせ、プレイヤー達はいかに有能な魔導騎士を構成するかなど、別方向の楽しみを開発していったりもした。
つまりは一定数のプレイヤーはこの職を見捨てなかったのだ。
俺はその中でも、特に珍妙な構成をするプレイヤーとして、そこそこ名を馳せていた。
オートキャストと呼ばれる、攻撃命中時に自動で魔法を発動させる武器を好んで使い、その能力を持った装備を集め、能力値もそれに最適化させていた。
本来魔術師系の装備するべきそれ等を、前線脳筋系職業で使いこなす俺は、その職業の稀少さもあって注目を浴びる存在でもあった。
ただし、効率を一切無視したその構成はギルドやパーティに在籍するには非常に難があったと言える。
効率無視の臨時パーティのみしか参加できず、レベル上限に達したプレイヤーが続出する中、トッププレイヤーよりほんの少し低いレベル帯をウロウロする名物プレイヤー、それが俺だ。
なぜそんなキャラクターに固執しているのか?
もちろん『愛』である。
中二心満載の設定。そして、カスタマイズによってロリ化させたアバター。対照的に大きく無骨な武器。
そんなキャラがドラゴンに乗り、両手剣を振り回し、魔法を雨のように落とす。
魔力を剣に這わせ、魔石の力を解放し、敵を打ち倒す。そんな設定に魅了された。
その戦闘スタイルに惚れ込んで、効率無視で楽しんでいるからこそ、高レベル帯までやってこれたのだ。
その日もアイスゴーレム相手に凄まじい速さの連撃を浴びせて、オートキャストの【サンダーボルト】の魔法を息も吐かせぬ勢いで降り注がせ、数秒のうちに一方的に倒したのを見て会心の笑みを浮かべる。
「っし! これで次のレベルまでは後……一万二千匹程度? やってらんねーな」
高レベル故にレベルアップも遠い。最高レベルだと万単位の数の敵の経験値が必要になるとかいう話も聞いた。
正直自分のキャラがそこまで行けるとは思えないけど。
「ま、欲しい装備は一通り入手してるし、あせる必要は無いな。っと、もうすぐ無限氷穴の解除時間か」
無限氷穴とはMGOのダンジョンの一種で、延々と同じマップを潜り続けるダンジョンのことだ。
ただし、出てくるモンスターが各階層ごとに違ううえ、一定階層ごとにボスと呼ばれる強敵が現れる。
もちろん、これを倒すとレアアイテムが落ちる可能性がある。
そして、このダンジョンは一週間に一度だけ、潜ることができるのだ。
「よし、アイテムの準備してから、飯でも買ってくるか」
無限氷穴用に回復剤や武装を持てるだけ持ち、安全な街中で待機させてから弁当を買いに出ることにする。
飯を作ってくれる両親はすでに他界。田舎に祖父母が居るけど年に一度しか顔を出していない。
最近は仕事、ゲーム、寝るという生活しかしていないのも問題があると思うが、私生活で顔を合わせたいような友人もいない。
上司などは『彼女作れよ』とか口出ししてくるけど、正直面倒だ。
「そもそも三次元は勘弁ですっと」
服を着替え、靴を履きながら独り言ちた。一人暮らしだと独り言が多くなって困る。
こういうと気持ち悪がられることが多いけど、実際見て愛でるだけなら二次元で充分だと思う。
寒くなってきたので、外出が億劫になってきている。
仕事以外で外に出るのは、三日振りだ。
軽く伸びをして背中を解す。ゲームをやりすぎたのか頭が重い。
「頭イテェ……さっさと行ってくるか」
冷蔵庫には食材は残っていない。無理にでも買出しに行かないと、明日どころか夕食にも困る。
俺は冷え切ったドアノブを回し、外へと踏み出した。
「……え?」
そこは草原のど真ん中だった。
やや傾いた太陽から日光が燦々と降り注ぎ、暖かな風が足元を撫でる。
俺が居たのはコンクリートに囲まれた日本で、しかも冬だったはず。
だが目の前に広がる風景は、どう見ても初夏。しかも大自然。
「どう……なってる?」
やや甲高い声を引き攣らせて、俺は……甲高い?
「え、声……? あれ?」
俺の声はこんなに高くない。それに、足元に風……?
視線を下げると……ふんわりと微かに膨らんだ胸と、かなり膝上丈の服から伸びた、剥き出しの太股。
手足が細く、まるで女の……っていうか女!?
「な、なんじゃこりゃああぁぁぁぁ!?」
どう見ても日本じゃないその世界で……女になった俺は悲鳴を上げることになった。
本日中にもう一話投稿します。