ジャンボパフェの幸福の陰
どうも、緋絽と申します。
今回、いつものリレー小説隊とは別にリレー小説を始めます。
よろしくどうぞ!
俺───佐久間昴は、我ながらわりと社交的な方だと思う。
初対面の人相手に話し掛けに行きづらいなんてことはないし、同じ学部のやつ以外にもわりと話すやつがいるし、先輩ともそこそこ仲がいい。
女の子ともそれなりに話すから、女の子を前にすると緊張するって性質でもない。
そんな俺に、好きな子ができました。
「昂くん、おはよ!」
「おはよ! あれ、今日の服いいじゃん」
「え、ほんと? ありがとー」
話しかけてきてくれた女友達の一人に返事をする。
昂くん、誉めてくれるから嬉しいや、と女友達が去っていった。
その日、この女友達が着てきていた服が似合っていたのは本当。だから俺は思ったことを言ったまでである。
「昂、お前よくぞそんなさらっと言えるよな」
「いやだって、似合ってたじゃん? ていうか、服誉めるぐらいはまだできるだろ」
「みんながみんな、お前みたいに女の子と軽く話せると思うなよ」
なんで怒られるんだよ。
だから、こんな風に言われると少し困る。正直、どこかを褒めるのは、相手とのコミュニケーションのきっかけ作りのひとつにすぎないのに。
「お、昂じゃない。おはよ!」
ぽんと肩を叩かれて、そちらを振り向く。
同じ学科の佐々木桐子が笑っていた。
栗色に染めた髪は長く、くるくるとしていて胸の辺りまで伸びている。一見派手な見た目だが、よく見ればそんなに濃い化粧をしていないのがわかる。そこそこの見た目をしているのを見るに、自分の良さを理解してお洒落をしているのだろう。
さっぱりした性格なので、今のところ一番話しやすい。
「おー桐子。おはよう」
「あんた、今日提出のレポート終わってるの? 昨日遅くまで遊び呆けてたんでしょ?」
SNSで俺があげていた画像を見たらしい。
昨日は急に友達に呼び出されて、カラオケに連れていかれた。追い出されなかったら、きっと一晩中付き合わされていたに違いない。いやカラオケ好きだからいいけど。
「ふっ俺に抜かりはないぜ。この授業中に終わらせる……!」
俺の言葉に桐子が肩をすくめて呆れた顔をする。
「ばーか。この授業が始まったらすぐに回収されちゃうのよ。忘れたの?」
そうだった!
「や、やばい! 桐子! 見せてくれ!」
「ディナー、デザート付きで手をうってあげる」
ふふふと桐子が笑う。
悪い顔しやがって。代償高すぎだろ!
「あめ一個!」
「ディナー」
「チョコ一箱!」
「ランチ」
「スナック一袋!」
「ジャンボパフェ。これ以上は妥協できないわね」
ぐっ……。
ジャンボパフェは、バケツに盛り付けてある大きめのパフェだ。少し値段が高めである。
これぞとばかりに高いのを要求しやがって! お前一人で食うつもりか! 太るぞ!
「わ、わかった。ジャンボパフェな」
しかたない。これは受け入れよう。すべては単位のためだ。
「よっし! 後で時間連絡する! 燈ー! おはよ!」
言うだけ言って去る桐子が呼んだ名前に、俺はドキッとする。
「おはよ、桐子」
村井燈。
桐子に比べたら地味な印象。肩に少しかかるほどの黒髪はストレートで、小難しい髪型が施されているのを見たことはない。
でも印象的なアーモンド型の目をしていて、俺はその目がけっこう、いや、かなり好き。
「ジャンボパフェ、昂がおごってくれるって! いつにする?」
「佐久間君が?」
アーモンド型の目が俺を映す。
心臓が跳ねた。
今この時だけ、俺は奢りの約束をさせた桐子に感謝した。
ありがとう桐子。お前のごうつくばりのお陰で、俺はデート(正確には違うけど)することができる!
「え、なんで?」
燈が首を傾げた。
本気で不思議がっている顔である。
「桐子にレポート写させてもらう代わり。燈も来いよ。どうせこいつ一人じゃ食いきれねえんだし」
ふっ、隠れて俺も名前で呼んでみる。このままずるずると名前呼びで定着させられないかな。
「でも私……関係なくない?」
ぴしっとヒビが入った。主に俺の心に。
そこを突っ込まれると、うまいこと返事できねーよ!
「いいじゃない。奢ってくれるって言ってるんだから、軽く奢られちゃいなさいよ」
桐子が燈を肘で小突く。
ナイスだ桐子。説得してくれ!
「そんなの佐久間君に悪いよ。桐子にお礼なんだったらなおさらだし」
うん、その遠慮は正しい。本当ならな! でも俺、どちらかと言えば燈と行きたい!
「気にすんなよ。人数いるんだしさ。燈と遊びてえし」
よしよく言った俺!!
内心ガッツポーズを決めた俺に向けて、燈はそれでも困ったような顔をした。
俺の頑張りは無視されたようだ。
「でも……」
「もーう頑固ね! 私にこいつと二人っきりで行けって言うの?」
ビシリと指を指される。
ちょっと待て。俺だってお前と二人っきりなんか嫌だわ。
「あ、じゃあ私のぶんは払うよ!」
どんだけ頑なか!
俺は肩をすくめて燈の頭をぽんと軽く叩いた。
「あーのなぁ。奢るって言ってんだから、黙って奢られろよ。俺が払うから、燈は払わなくていい。むしろ財布持ってくんな。いいな?」
俺の言葉に燈は少し迷ったそぶりを見せたが、桐子にアイコンタクトされて、ようやく頷いた。
「わかった。ありがとう、佐久間君」
笑った燈にときめく。
あぁ、この笑顔が見れて幸せだ。
「いやいや、燈のためなら!」
「あ、そういえば、佐久間君いつ私を名前で呼ぶようになったの?」
そんなキョトンとした顔で聞かないでくれよ。
幸せだった俺は、撃沈した。
次はさやさん!