act.3 いきるいみ
僕はエリートだった。父親に言われて今まで勉強を沢山してきた。小学校から高校まで成績は常にトップクラスだったし、大学の時の受験戦争にだって勝利し一流大学に入った。
そのまま父の言うとおりエリート街道まっしぐらで順調にすべてがいくと思っていた。
それなのにどこで間違えた?
社会に出たら学生時代に詰め込んだ知識なんてほとんど使わなかった。特に今の僕の職業の警察官なんかは実力主義だ。頭の良さなんか関係ない。
勉強勉強勉強に生きてきた僕には友人の作り方なんてわからなかった。
そうしているうちに仲間うちに馴染めない。上司からの重圧。部下からの重圧。同僚からの重圧。重圧重圧。すべてが僕への圧力に感じられた。
学生の時は勉強さえできたらよかった。だがいまの社会ではそうはいかなかった。今になって後悔しても遅かった。あの頃は青春を謳歌する同級生に目もくれず、父親に従って勉強ばかりしていた。今になって後悔だ。
日に日に僕は痩せていった。辛さからだ。
痩せて、次には目の下の隈がとれなくなった。心なしか髪が細くなった気がする。
ある日髪がごっそり抜けた。叫んだよ。目の前の現実に。
トイレの鏡で自分を見れば、典型的な病人のようにやつれていた。過去の自分からは想像できない姿がそこにあった。
この頃からかな。どこかおかしくなったのは。自分でもわかるんだ。おかしくなったって。
担当地区の見回りの時も、ただ徘徊するように見回った。きっと端からみたら僕が犯罪者だろうな。
そうだ、死のう。突然そう思った。
その日からできるだけ苦しまずに死ねる方法を考えた。
手首を切る?失血死でじわじわ死ぬのはごめんだ。
首をつる?死んだ後に糞尿が垂れ流しになると聞いたからやめだ。
電車や車で轢死?当たる瞬間を想像するだけで痛い。
飛び降り自殺?前に何十階から飛び降りても生きてた人がいたって聞いたからだめだ…。
………どうしよう。考えた末、変電所に飛び込み感電死する事を思いついた。これなら感電死で一瞬だし、停電する事で僕の名前も残る。まぁ悪い方面でだけど。
いつ結構するか考えながら日々町の見回りをしていた。もちろんボルトカッターを隠し持ってだ。
そして今日やることにした。
夜、最後に女の子と話しをした。女の子は毎日がつまらないとか言っていたので、彼女に手伝ってもらう事にしてボルトカッターを手渡した。僕も死ねるし、彼女は刺激を得れる。一石二鳥ではないか。
ふふふ……
笑いがこみ上げてくる。やっとこんな辛い現実からおさらばできる。
風が吹きすさぶ。高いな…。
前を見れば町明かりの絶景。
下を見れば高圧電線が沢山。飛び込めば即死だろう。
ふぅ…。僕には何もない。思い残す事だって何もない。父親は勉強勉強勉強。母親はだんまり。友達はいない。趣味はない。
…僕は……何のために生まれてきたんだろう………。
考えたら涙が出てきた。意味のない25年間。
さよなら。世界。
僕は旅立つ。新たな世界へ。
一歩踏み出すと僕の体は重力に引かれて真っ逆様に落ちていった。
風が気持ちいい。
ふわっとした…それでいて………
僕は死んだ。感電死だ。体は黒こげとなり電線はショートし、町の灯りはすべて闇に消えた。
僕の意識も。
闇に消えた。