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「……ふん」


先生は、咳払いをして少し黙り込んだ。


いつも燥いでいるお調子者の男子も、おしゃべりな女子も、みんな能面のように無表情で俯いている。

誰もが気まずい空気の中で、無視を決め込んでいた。


不自然な沈黙――。

僕にはそれが、自分には関係ない、と大声で叫んでいるようにも聞こえた。


先生は何事もなかったように、相変わらずチョークを叩きつけるように字を書いていた。


が、しかし。


「――そうだな、じゃあこうしよう」


急に動きを止めた先生。


次に何を言うのか、クラスメート全員が先生の言葉に耳を傾けていた。


でも、直後に言い放たれた言葉はあまりに意外だった。


「おい、藤村」


皆が一斉に睨みつけた先、そこにいたのは僕だった。

痛いほどの視線が僕に集中する。


「ぼ、僕ですか?」


他の生徒以上に、まず驚きを隠せないのは僕自身だった。


「お前、部活一緒なんだから行ってやれ。他に行く人もいないし」

「はぁ」

 

 僕は急なことで答えに窮した。

 衆人環視の中、どうしていいか分からず逃げ出したくなってきた。

 

 どうする。

 どうすればいい。

 胸の鼓動が、周りに聞こえるのではないかというほどに大きくなる。


「いいだろ? お前で」


 先生は体を反って、半身だけ生徒側を向いた。

 振り向いた先生の顔は、いつにも増して真剣だった。

 そして先生は、僕の目をじっと見つめた。

 

 有無を言わさず了解を求めている――ように思えた。

 もう心臓が爆発しそうだ。


「……分かりました」

 

 結局、僕は訳が分からないまま、承諾してしまった。

 僕は目を合わせられることが苦手で、ドギマギしてしまうのだ。


「分かったらこの話は終わりだ。授業続けるぞ」


 他の生徒たちはざわつきもせず、もくもくと機械のように問題を解く作業に戻った。

 周りの雰囲気といえば、何もかもが嘘のよう――。

 さきほどの出来事をなかったことにしようとしていた。


 一方で僕は、全く授業に集中できていなかった。

 頭の中を風船のように膨らんでいく疑問。

 渦巻く感情。

 そして、亡霊のように浮かび上がる白石さんの姿。


 いったい先生は何を考えているのだろうか。


 

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