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回想。

「白石が事故にあった」


朝のホームルームで担任からそう聞かされてから、今日でちょうど三週間が経った。


最初はすごく驚いたし、ショックを受けた。


たまに一緒に話すこともあった彼女が、今まさに病院の手術台の上で生死の境を彷徨っているらしい――。

最初はちょっと信じ難い話だった。


しかし一週間たっても、二週間たっても、教室の一番前にある席には、彼女が来ることはなかった。


昼休み。

掃除の時間。

部活動。


ただでさえ教室にいることが少なかった彼女は、学校にも来なくなってから完全に姿を消してしまった。


彼女の不在という事実は、段々と、そして着実に現実味を帯びてきていた。


白石さんと僕、藤村宗平とは、一応同じ写真部の部員である。


彼女は部活にあまりこないことが多かった。

というのも、廃部寸前の写真部は事実上僕しか活動をしておらず、彼女は来ないことが多かったからだ。

金曜日、全員強制の六時間目だけ彼女は来て、一時間ほどで帰ってしまうことがほとんどだった。


なぜ僕が突如見舞いに行くことになったか。

結論から言えば、ほかに誰も行く人がいなかったからだ。


今日の午後、五時間目の授業でのことだった。


「白石が今日から面会可能になったんだけど、クラスの誰かでお見舞いに行ってくれる人いないか?」


古文の授業で狭山先生が、いつものように黒板にチョークで板書しながら背を向けたまま言った。


何の前触れもなく切り出された彼女の話題に、いったん教室が水を打ったように静かになる。


だが静寂はつかの間で、ノートテイキングに興じる生徒たちは、誰一人、先生の言葉に耳を貸さなかった。

いや、黙殺した、というのが正しかろう。


――やはり。


ペンが机をたたく、雨のような音。

ノートや教科書をめくり、まるでそ知らぬ顔をする彼ら。

声をあげるものは、一人もいなかった。



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