死ぬ理由2
作品中の出来事には事実も含まれていますが、登場人物等はすべてフィクションです。尚、本作品は実在の人物名を非難および中傷する意図はございませんのでなにとぞ、その点をご了承ください。
「ほぉら、また、やってるよ」と母は言った。
「何が?」とわたしはコタツにくるまりながらテレビを見ている母に尋ねた。
「自殺だよ、自殺。全く性懲りもなく、まぁた死んでるよ」
母はみかんをほうばってぞんざいに言った。
「不謹慎だよ、お母さん。人が死んでるのにさ」
「そうかい?人なんて毎日、世界中で何万人って死んでるのに
不謹慎も何もありゃしないだろ?」母は相変わらず不遜にそう言う。
「それに、これってほとんど発作的に自殺してるんだろ?
誰かがいじめで自殺したら、『わたしもいじめで死んでやるぅ』ってな具合でさ」
「そんなの、お母さんに分からないじゃない。
本人は至ってまじめに、深刻に悩んで自殺してるのかもしれないしさ」
わたしはちょっとムッとしながら言った。
「でもさ、わたしがあんたぐらいの時にもあったんだよ、自殺ブーム。
岡、何だったかなその頃のアイドル歌手が突然、自殺してさ。
そしたら全国の小、中、高で連鎖的に後追い自殺。
もちろんテレビも報道規制したぐらいの大騒ぎさ。それでうちの学校でも
『ユッコがかわいそうとか何とか言って教室の窓から自殺すんなよ』って
担任が苦笑いして注意してまわってたよ。ね?今と変わんないだろ?
その後かな、今度は尾、何とかって言う歌手が死んだ時もおんなじさ。
また、自殺ブーム。そう考えると、この国はおよそ10年周期で
自殺する子供が増えるのかしら?」
「すごい分析だね、お母さん。でも、不吉だからそんなこと言うのやめてね」
「あんたも結構、迷信好きだね。結局、理由はどうであれ、
死んでみせりゃ何だかすごく立派な事したみたいに見えるのさ。
周りがえらく大騒ぎするし、泣いて『あの子はいい子でした』って
歯の浮く文句並べて褒めちぎった挙句、まるで名誉ある死みたいに扱うからさ、
それを子供は真に受けて自殺するんだよ。
かわいそうなのは自殺した子さ、結局、死んだら生き返っちゃこないんだから。
本当にいじめられてたなら、いじめられてた人生しか知らずに
死んでくだけなんだろうね。
先の事なんて誰にも分からないしさ、
生きてりゃ楽しい事も起きるかもしれないのに
さっさとあきらめて死んじまうなんて。
そのうち、誰からも忘れ去られて親が年取って死んだら
墓守りする人もいなくなるから墓もぼろぼろになるだけ。
さびしいね。あんたもわたしにだけは墓守りなんてさせないでね。
できたら、あんたがわたしの墓守りしてよ」
その時、ふと母の顔がまじめな顔をしたような気がしたが、わたしは
「墓、買うお金があったらね」といつものように冗談で返した。
すると、母は何事もなかったように再びみかんをほうばって、
テレビに映っている漫才にケタケタと下品な笑い声を上げていた。
母は知っていたのだろうか?わたしがいじめられていたことを・・・。
だが、母には一度も言わなかったし、母もまた、わたしに聞いたことはない。
ただ、何となく明日もこうして母とコタツにくるまっていたいなとその時、
わたしはそう思った。