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【完結】学校をサボって駅に行ったら隣のクラスの男子がいたけど、恋ははじまらない(友達になった)  作者: 奏ゆう


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8/8

00 鳥には、ならない



 以降は蛇足になる。

 犬の色覚の研究は昔よりも進んでおり、犬の視界がモノクロに見えているだとか、赤いとかは、誤りだとわかった。

 むしろ、犬は赤が見えない眼をしている。猫もそうだが、二色型の色覚をしているのだ。赤がグレーに見えてしまい、緑との区別がつきにくいそうだ。犬の視界は、青と黄色と、その二色がまじった色で構成されている。

 イカやタコはやっぱり、脊椎動物と似たレンズを持っているけど、レンズだけで、色覚は見つかっていない。

 一方、鳥は、犬どころか人間よりも、よっぽど眼がいい。人間が見えている色だけでなく、紫外線まで見えているという。人間は赤・青・緑の三色型だが、鳥は四色型。人間よりもずっとあざやかな世界にいるのだ。人間が黒に見えているものも、鳥には青く見えていたりする可能性がある。

 鳥のほうが人間よりも、空の青さがもっと深いかもしれないのだ。

 人間には見えない色を見ている。

 やっぱり、うらやましいな、とは思った。

 この情報は、「彼」にも共有した。

 もうどちらも、飛びたいとは、思わないけれど。



   ×××



 私は私立高校の英語科から、やはりおなじ専攻の地元の短大へ。在学ちゅうに短くも留学を経験し、いまは本屋で働きながら、ほそぼそと翻訳の仕事などをしている。兄は大学から一人暮しをしているが、私は二十六になる現在でも、家を出ていない。

 理子は東京の大学へ進み、仕事もそちらで持った。外資系企業のOLさん。響きはいいが、激務だという。愚痴は週に二、三度、携帯やらパソコンやらのメールでやってくる。近くに住んではいても、あまり会わなかった高校時代よりもよほど、いまのほうがよく連絡をとりあっている。便利な時代になったなあと、しみじみ思う。

 「彼」も理子とおなじ高校から、おなじく都内の大学に進んだ。違う学校だが、キャンパスじたいは近く、おなじ沿線だった。たまに電車で顔を合わすと話をするていどの仲ではあったらしい。

 彼からは、いまでもときどき電話がある。彼がメール嫌いな理由は明白だ。話している気がしないから。そんなわけで私からの連絡も電話になる。

 けっきょく彼は、例の親友と、予告どおり違う大学に進みはしたが、なんだかんだで現在は同居している。高校時代には長い休みのたびに会いに行ったり、親友さんから来たり。

 私も紹介してもらったが、何度会っても、その仲のよさには()てられる。恥ずかしいふたりだなあ、というカンジ。失礼な感想だけど。でも、親友さんには、私と彼とがそうに見えるらしい。「仲いいね」と、何度も云われた。私が理子といても、なにもつっこまないのに。

 彼の親友は、じっさい会ってみると、赤城くんとはタイプが違った。落ちついていて、いかにも頭脳派という印象。

 けれど、やはり、明るいところを見ているひとだと思う。私にとっても、好きな相手になった。いまでも、年賀状だの暑中見舞いだの、葉書でやりとりをする。私にも親切で、まめなひとだ。

 あの土曜日から、いいかげん十一年になる。いまや週休二日はあたりまえで、土曜日に学校に行くなんてこともない。ついでにア・テストもなくなったらしい(これについては彼はひとことあるそうだが、周囲は誰も聞く耳を持たない)。

 世界はかなり変動したし、それと関係あったりなかったりで、私たちもずいぶん変わった。でも、確実に変わらないものがあって、それが私たちをつないでいる。

 彼はタバコの替わりに、その指に絵筆を持つようになった。大学も芸術専攻で、いまはバイトで生活しながら油画を描いている。ぽつぽつと展覧会などにも出品しているらしい。

 私の部屋には、彼の手になる四号サイズの絵が飾ってある。何羽ものカモメの翔ぶ、紺碧の海の絵だ。

 白く大きな船が、海原を進んでいる。空はない、俯瞰の構図。あいかわらず彼は、こういった視点の絵が得意だ。悠々と、カモメは宙を翔んでいる。

 いい方向に転化はしても、好きなものはそうそう変わりはしないのだ、という話。無理に憧れを押し込めなくてもいいだろう。彼はうまい吐き出しかたを見つけたのだ。

 私も、海を好きだと思う気持ちに変化はない。海の近くに住みたいとは思わないけれど。私にとっては、遠くにあって想うものだ。

 ただ、憧憬は消えない。この絵のような青さ、広大さに憧れる。たぶん、ずっと動かない気持ちだろう。

 絵に手をかけ、額ごと壁から外す。丁寧にガラスや裏面を布で拭いて、傷つけないように気をつけて箱へと入れた。

 梱包するものは、これで最後だ。あとのものは置いていく。必要なものはすべて、さきに新しい部屋へ送ってあった。

 私はあした、挙式の予定だ。「赤城」姓になる。これの経緯について深く語るつもりは、私にはない。結果だけお伝えしようと思う。

 そして、新居の玄関に、この絵は移動する予定。旦那になるひとの許可ももらってある。くれた彼は嫌がるだろうけど。

 もう決めたことだ。ひるがえしはしない。



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