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0 はじまりの挨拶
これから私がするのは昔話だ。
もう十年以上もまえの話。
いつまでも色褪せず、私のなかにある記憶。抜けない刺のような、やわらかい光のような、不思議な一日の出来事。その一日に関する日々。
あのとき、私は中学三年生だった。
ふつうよりも臆病な、それゆえにまじめな生徒。教師の手に余ることなく、必要以上に記憶に残ることもない。
つまらない存在。
押着せの制服に不満をあらわにするでもなく、心のなかでは呑んでもいない。
不満をかかえながら、それでも打算ゆえに外へは出せない、卑怯な子供だった。
侮蔑をしたいわけではない。後悔はしていない。私がそんな「私」でなければ、いまの自分もここにはいない。あれは、己でつけてきた、愚かながらも愛しい足跡のひとつだ。
では、この場所を「彼女」に譲ろう。




