第8話 大収穫。
先方の領主宅で3泊して、オイゲン領内をあちこち見学。
もちろん、早朝の漁港は毎日のように行った。
さすがにお魚料理が豊富で、毎晩楽しみだった。いいわね、海の近くも。
もちろん仕事もした。もっぱら先生と領主と漁業組合長との会話のメモ。時折、意見を聞かれるので正直に答える。
最終日に先生が、
「この先に俺が若いころ手掛けた海沿いのリゾート地があるが、後学のために泊まりに行くか?」
と、誘ってくれたが、旦那と愛人とのバカンス現場に鉢合わせするといけないので、さらっと馬車で通るだけにしてもらった。
様々な色の小さな別荘が等間隔で並び、ビーチには大きなパラソルが立てられている。はあ、リゾート、って感じですね。
昼ごはんに寄った店の近くで、ささっとお土産を買う。ぼんくら旦那が手ぶらで帰るといけないからな。
帰ってからメモをもとに、レポートとしてまとめる。
先生に言われて、軍や大手商社に手紙の代筆。
・・・なるほどね…廃棄する魚を缶詰にするだけではなく、軍用の携帯食にするのか。
「じゃあ、味付けもいろんな土地の料理風にすると喜ばれますよね?軍にはいろんなところから人が集まってますものね。」
「ああ。いい考えだな。こっちでするのは提案までだ。後は、収益性を考えて商社が動く。缶詰工場も必要性があれば、勝手に向こうが建てるし。」
ふむふむ…雇用も増えますね。
「安定供給を目指すなら、商社が生け簀も検討するだろうし…。海洋系の研究員を送り込んでおくか。あとは…。」
なるほどね。実際に先生が魚をさばいて、缶詰まで作ってみるのかと思っていたよ。
自分のノートにメモを取っていく。
相手をその気にして動かす。ここ大事。
何もかもやろうと思わない。得意なところに丸投げ。
「おい。丸投げ、って表現はどうなの?適材適所、とか言えないか?」
「あ。」
人のノートを覗き見て、先生がため息をつく。
銀髪が煌めき、紫の瞳…。女子生徒が騒いでいたのは、この人の講義じゃなくて、この容姿か?…なんか、納得。
そう。この度の先生のお供で、私個人的に大収穫があった。領主の奥様が、自分の母親が使っていたという眼鏡を、眼鏡を、眼鏡を!!!プレゼントしてくれた!!
もちろん、高価なものなので辞退したが、目の悪い人はいないし使わないともったいないから、と。神か!!!
もちろん眼鏡というものが存在しているのは知っていた。
叔父さんもかけていたが、柄の部分を直しなおし、大事に使っていた。なにせ、国内での生産はなく、フールからの輸入品。古道具屋で買っても高い。新しいものだと庶民の月の所得の3か月分ぐらい?当然、庶民には望むすべもなく、私のうちぐらいでも買おうと思うと一大事だ。買ってないけど。
急に視界が開けたので、乗物酔いしそうになったが、ようやく慣れてきた。
世界は美しいものでできてたんだなあ。
「お前がそんなに目が大きいとは知らなかった。」
と、失礼なことを言っていた先生のことも許そう。そんなことはどうでもいい。
本が読みやすい!
自分の顔もよく見える!
「眼鏡かあ…。」
「ん?」
「先生!眼鏡ですね!!」
「あ?」