第4話 ちゃらい教官。
「先生!ここがよくわかりませんわ。」
「あら、私が先よ?せんせーい!」
「まあはしたない!私、アリーゼと申します。初めまして…。」
授業が終わっても、先生の周りは女子生徒が詰めかけているみたいだ。
よく見えないけど。
皆さん素晴らしい!!向学心に燃えておりますのね!!
今日はこの授業で終了なので、いそいそとアカデミアに隣接してある王立図書館に向かう。そうなんです!本来なら出入り自由なのは侯爵位以上。あとは事前に申請書を出す必要があるのですが、なんと!アカデミアの学生は学生証で入館できます。
特権ですよね!!
見上げるほどの本、本、本…。おおおおおおっ!!
在学中にどのくらい読めるでしょう。今からワクワクします。
*****
授業が終わって個人の教官室に帰ろうとすると、教官室の前で待ち伏せする女子学生であふれている。めんどくさくなって引き返す。
まあ、ね。教授とはサービス業みたいなものだとは思っているが、毎年毎年この時期は疲れる。他の教授たちから胡散臭そうに見られるし。(あ、羨ましそうに?)
前期の試験までの間に、レポートを書かせるのだが、例年ではそのレポートでみんなおとなしくなる。選択科目を変える子が続出するから。
厳しい?それほどではないけど、ノートを取らずに恋文書いてる子には厳しいかな。
アカデミアに来るくらいなんだから、おりこうさんぞろいのはずだけどね…。
ぼりぼりと銀髪をかきながら、エルヴィン教授が王立図書館に逃げ込む。
首から下げた身分証を受け付けの子に見せる。
「今日も綺麗だね。」
「まっ。」
あいさつ代わりにレディを褒める。
図書館のメンバーはいつもそう変わり映えしないけど…一人、本に埋まっている女の子がいる。へえ。
近くを通り、ちらりと本のタイトルを見てみると、工業系のものらしい。論文集もある。工業専科の子かな?
姿勢も悪い。前のめり、って感じ?ん?この子…この細い目…。
「ローゼ嬢?」
「・・・・・」
「ローゼマリー嬢?」
「え?はあ。どちらさまで?」
「へ?」
その細い目には、僕のこのきれいな銀髪もアメジストのような瞳も…
興味がない???
論文集に頷きながら、ノートにメモを取っている。
へえええ。なんか、新鮮。
ふり、じゃないよね?久しぶりに面白そうな子が来たね。
*****
前期のレポートがようやく揃った。産業再開発講座で学んだこと、学んでいきたいこと、を書いてもらった。後期からのゼミ生の選択基準にもなる。
どういうことか…毎回お菓子が添えられていたり、釣書が挟まれていたり、自分の絵姿まで添える子もいる。そういう子には、にっこり笑ってお返しする。
お菓子とか…うっかり食べてひどい目にあったこともあるし…。
一人一人見ていく。
いや…何がしたいの?
そうか…どうしたいのかな?
これは…十分じゃない?何か問題が?
いや、現実問題、この資金をどこから調達するつもり??
そんなレポートを何枚も見て、赤ペンでコメントを入れていく。
面白そうなのは5人ぐらいかな。
あの、目の細い子、ローゼのレポートはなかなか面白かった。
地元の産業はガラス製品の製造。エトガル子爵家。すんごい田舎だよね。
メインは板ガラス。常に需要のあるものだね。
兄上の代で始めたのが色ガラス。板ガラスを運ぶのに、荷馬車はかなり改良したようだね。なるほど。
使えるのは、ガラス、裏山でとれる動物の皮製品、木材…さあ、何ができるかな?
楽しみだね。
ローゼのレポートを、優、の箱に入れる。