第14話 番外編 人生のパートナー。(ローレンツ)
それからどうなったかって?
僕の店は、好奇心で目をキラキラ(ギラギラ?)させた奥様方で賑わうことになった。一瞬にして侯爵家の次男坊と伯爵家の嫡男を袖にした女は何者なのか?みんな興味津々。
うふふっ。僕のビジネスパートナーですよ。
もちろん、あの日着けていったチョーカーと髪飾りはかなり売れた。
今度立ち上げる、国産の眼鏡屋の宣伝も忘れなかったしね。
国内での国産眼鏡の普及を目指したローゼを補佐しながら、本来の宝飾品店の経営をし、駆け抜けた3年間。
ローレンツ眼鏡店。どうしたことか、僕の名を冠してくれた。
「だって、私ひとりじゃ、ここまでできなかったもの。」
そう言って笑うローゼは、いまだ独身。もう離婚も成立しているし、自分の名前だっていいのに。
「さて、支店も各主要都市に一つは作りたいわね。今はまだ三店舗ですもの。地方の方まで行き渡らないわ。」
「とりあえずね、座って。」
閉店後のローレンツ眼鏡店本店。
大きな鏡の前の椅子に、ローゼを座らせる。
「ねえ、店舗拡大の話は置いておいて、とりあえず僕たちの話をしない?」
「ん?」
ローゼは今日も相変わらず、制服の白のブラウスに黒のスラックス。ほんのりと化粧。髪は高いところで結んである。僕が選んだ国産の眼鏡。
「ねえ?僕を人生のパートナーと言って連れ出した割には、人生は共にしていないよね?」
「ん?だって、ローレンツといつも一緒でしょ?ローレンツは家業もあるから大変だと思うけど、いつもありがとう。」
鏡越しに柔らかく笑う。大きな深いブルーの瞳がほそくなる。・・・真意が…良く読み取れませんが??
一緒に映る僕は、仕事帰りでまっすぐ来たから、ミントグリーンのブラウスにタイトスカート。今日もローゼに褒められた。・・・その辺かな?
二人きりで事務所に閉じこもっても、フールに視察に行っても、何の違和感もなく、警戒感もなく過してきた。なんなら同室でもいいと言いやがった。断ったけど。
こいつは教授と視察旅行にほいほい付いて行くような奴だから、もともとそっち方面の危機感がないのか?前の旦那が一切手を出さなかったから、そんなもんだと思っているのか???
ど…どうしたらいいんだろう?
「お前たち、まだどうせ何もしていないんだろう?くくっ。奥手同志は大変だなあ。僕が教えてあげようか?」
今日、久しぶりに店に来た教授が、奥様に耳を引っ張られていた。この人は来るたびこうだ。からかって楽しんでるのか、あおっているのか…前者だろうな。
そう…あの日以降人生が変わったのは僕たちだけじゃなく、教授も。ご両親に人妻にプロポーズして玉砕したところを目撃され、有無を言わさず、結婚させられた。教授の10歳も下だが、教授の耳を引っ張るくらい気が強い方みたいね。
「痛いでしょ?マリア?」
「は?あなたはまた…そんなに他人のものばかり欲しがるもんじゃありません!!子供ですか?」
そう言って、教授を引きずって帰っていった。もちろん、結婚記念日のお揃いのブローチはお買い上げいただいた。
教授に…教えていただくわけにはいかない。
椅子に座ったローゼの髪を下ろして撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
髪の手入れも、顔の手入れもここ3年、僕が完璧にやってきた。ほっておくとこの子は何もやらないから。
撫でていた手を、あごに。
ほんの少し持ち上げて、覆いかぶさるようにキスをする。
「え?」
目が真ん丸だね。唇に僕の口紅が少しついた。
「ま、待って、待って…あなたが好きなのはエルヴィン教授なんでしょ?」
「は?」
「いや、まあ、私は、その…嬉しいけど。」
そこ?
「君が自分で言ったんでしょ?僕が人生のパートナーだって。責任は取ってもらうからね。」
「え?あの、その…。」
真っ赤になっているローゼの耳をかむ。
眼鏡をそっと外して、さっきより深いキス。僕の髪がローゼを鏡から隠すようにかかる。
点々と脱ぎ散らかした服が、店の奥のローゼの寝室まで続く。
教授、安心してください。
やることはやりましたから。ご心配なく。