第11話 承。
先生がブリギットさんという方とバカンスに出かけた。良くやるな。
ローレンツさんの店に行き、図書館にこもり、先生のレポートを読み、フールの雑誌に隅々まで目を通す…夏休み後半はそんな感じ。
ローレンツさんの店からプレーンな眼鏡を買い、厳重に梱包して兄のもとに送る。
もちろん、先生の事務所に山積みだったフールの雑誌も一緒に送った。
先生が上機嫌でバカンスから戻ったタイミングで、ご領地に眼鏡のフレームのサンプル品をお願いする。もう一つ買った眼鏡もお渡しした。
「え?大丈夫なの?金銭的に?まあ、サンプル品の作成は問題ないだろうけどね。木材はあきらめた?」
「ええ。まあ。適材適所?」
初期投資なので。
いつか回収しますので。
資金は…前払いの慰謝料に手を付けた。まあ、仕方がない。
ぼんくら旦那がバカンスから帰ってくるのに合わせて、先生の事務所を引き払う。
乗合馬車で待ち合わせ場所に行って、いかにも楽しいバカンスを送ってきました!って顔で、屋敷に戻る。
(この夏休みは充実して本当に楽しかった。)
ぼんくら旦那は、やはりお土産を買ってこなかった。
やはり、な。
両親とヘラさんにあらかじめ買っておいた海のお土産を渡す。紐に綺麗な貝殻が括りつけられた風鈴みたいなやつ。喜んでいただけて、なによりです。
突然眼鏡を手に入れたのも説明がめんどくさいので、いつもの細い目に戻っている。
ぼんやりみえる旦那は、よほど楽しかったらしく、へらへらしてるし。
「あら、まあ、せっかく帰って来たんですもの、一緒に夕ご飯を。」
とお義母様に誘われたが、
僕もローゼマリーも長旅で疲れたから、と断って、静かーにカミラさんのもとに帰りました。
さあ、通常営業です。
*****
「おい。ローゼマリー嬢。ローレンツが店に来いってよ。お前、連絡先はあいつの店にしたのか?」
11月に入って秋がすっかり深くなったころ、ゼミの講義終わりに細目に戻っているローゼを呼び止める。授業中は眼鏡をかけていたけど。
「はい。今住んでいるところは何かと事情があるもので…。先生の事務所をお借りしようかとも考えたのですが、発注先と公平性が保てないんじゃないかと思いまして。ローレンツさんが全面協力してくれてます。むふふ。」
「そうか。よく考えたな。」
「先生のもとで勉強してますのでね。ゆくゆくはローレンツさんに共同経営者になってもらう予定です。私は、その…名前を出したくない事情がありまして。」
「ふーーーん。まあ、いいんじゃない。」
「しかし!先生!!ここまで考えての紹介ですよね?コネクションですよね?使えるものは使い倒せって言う教えですよね??」
それほどのものでもないけどな。
ローレンツの店もすっかり軌道に乗ったし、使用人の育成もきちんと力を入れている。少し余った時間を社会貢献に使えるだろうな、とは思っていたけど。
そう。金儲けだけだと、どんなにきっちりしていてもやっかみの元になるからな。
順調だとなおさら。変な社会だ。
ローレンツはもともとがバカ真面目だから、こいつと組むぐらいがちょうどいいかな、と。緩くて面白い。
しかし…こいつもローレンツも、色恋には遠いところにいるな。ま、いいか。
パタパタと走っていくローゼマリー嬢の後ろ姿を眺める。