第1話 うん、うん。そうでしょう。
「君を愛する気はさらさらない!!」
そうでしょうね。存じ上げておりましたけど?
結婚式前に宣言したことは、褒めて差し上げましょう。
「お、驚かないのか?」
「何をですか?」
「明後日は結婚式だぞ?」
「ええ。そうですね。この結婚はあなたの父上がどうしてもどうしてもと、うちの父にお願いしたものでございます。高位貴族のご命令には逆らえませんのでね。お気遣いなく。」
明後日には結婚式だというこのくそ忙しい時間に呼び出されたと思ったら、そんなこと?親族だけの地味婚だけど、それなりにやることあるのよ。
子爵家令嬢、ローゼマリーは思わずため息をつく。
伯爵家の嫡男、アードリアン。身なりはよろしい。顔も人並み。これといって特徴もないので、久しぶりに会っても、初めまして、と挨拶しそう。
ご両親が一人息子を溺愛した結果、何ともならない大人になったみたいね。下町に家を買って、愛人?恋人?とお住まいらしい。本人はその愛人と結婚する気満々だったが、なにせ平民。どこかに養女に、と、つてを頼るほどの社交もなく、ぼんくら跡取りに恩を売っておこうというほどの投資価値もないと判断されたか、協力者は見つからなかったみたいね。親御さんが手を回したのかもね?
親御さんが慌てて婚約してくれそうなご令嬢を探したが、なにせ、堂々と社交に愛人をお連れになる方に娘を嫁に出したいと思う親もご令嬢もなく…しかもですよ?次の当主はぼんくらときたら、付き合いでも無理よネ。お金を積んで、よっぽどの没落寸前貴族とか?
それも…プライドが邪魔してできなかったみたいね。
そこで…領地にこもって社交にも出てこない娘なら、何も知らないだろうと思われたのかしら?持参金はいらないと、何にもしなくてもいいと…。なんてこと!!好条件!!
しかも!妻としての愛情も期待しないと!!ありがとうございます!!!言質いただきましたーーー!!
「・・・そうですね、2年でよろしいでしょうか?恋人の方に礼儀作法を覚えていただかなくてはなりませんからね。うちの親戚に養子縁組を頼む予定です。そつなく、貴族令嬢を語れるぐらいに仕上げていただかないと。うちも、うちの親戚も迷惑ですのでね。そこはよろしく。その頃にはアードリアン様のご両親もあきらめて下さるでしょう?再婚だし。問題ないかと。」
「え?し…調べたのか?」
「え?調べるも何も…アードリアン様の溺愛なさっている恋人のお話は社交界でも有名ですもの。社交に出ていない私でもよく存じ上げております。カミラさん、燃えるような赤い髪の派手な、あ、あでやかな美人さんでしょう?社交は今まで通り、カミラさんをお連れください。私はほら、ご存じの通り地味で何ともなりませんので。」
「話が早くて助かる。」
ほっとしていますね?
安心してください。そこまでこれから結婚する相手に不誠実な方にこぼす涙もかける情愛もございません。
もともと…そんなに結婚願望もございませんしね。