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閑話休題1:ある観測者のログファイル

【ログ記録開始:ウロボロス事変 第75日目】


観測対象名:ウロボロス(コードネーム:ゼロ)

観測者ID:734(自律観測ドローン "シーカー")

所属:EFO運営 非公式情報収集部門


【状況概要】

対象「ウロボロス」による「ジャスティス・フォートレス」完全破壊、及びギルド「ジャッジメント」指導者「セラフィナ」のロストを確認。これに伴い、対ウロボロス連合軍は事実上の瓦解。プレイヤーコミュニティにおける対象への恐怖と混乱は極限に達し、EFO世界の秩序維持は極めて困難な状況。


【プレイヤー動向分析レポート抜粋】


「もうダメだ……ウロボロスは、俺たちプレイヤーがどうこうできる相手じゃない」

(フォーラムID:名無しの剣士A / 書き込み日時:フォートレス陥落後 03:15)


「ジャッジメントですら勝てなかったんだぞ? あのセラフィナ様が……。PKKギルドのトップがやられたってことは、もう誰もアイツを止められないってことだろ」

(フォーラムID:白魔道士リリィ / 書き込み日時:フォートレス陥落後 05:22)


「運営は何やってんだ! GM出てこいよ! これはもうゲームバランス崩壊とかそういうレベルじゃねえぞ!」

(フォーラムID:怒りのタンク / 書き込み日時:フォートレス陥落後 08:40)


「ていうか、ウロボロスって本当にモンスターなのか? なんかもう、世界の法則そのものを書き換えてるみたいに見えるんだけど……。この前、俺のギルドがウロボロスに遭遇した時、メンバーの一人が『時間の流れがおかしくなった』って言ってた。攻撃が当たる直前に、ウロボロスが未来を読んで回避したみたいに」

(フォーラムID:噂好きの斥候 / 書き込み日時:フォートレス陥落後 11:03)


「最近、フィールドボスやレイドボスが異常な行動を取ることが増えてないか? なんか、ウロボロスの影響で世界のプログラム自体がおかしくなってきてるんじゃないかって噂もあるぞ」

(フォーラムID:陰謀論学者 / 書き込み日時:フォートレス陥落後 14:56)


「ネザーヘイムから帰ってきた奴の話だと、あっちもヤバいらしい。ウロボロス級とは言わないまでも、とんでもない魔物がうじゃうじゃいるとか。しかも、ウロボロスがネザーヘイムで何かやらかしたって話もある。あの『知識の番人』が消滅したとか……まさかな」

(フォーラムID:情報屋K / 書き込み日時:フォートレス陥落後 17:21)


【"蒼き疾風"アルト に関する特記事項】

対象「アルト」は、ジャスティス・フォートレス陥落後、一時的に消息を絶っていたが、数日前より再び活動を活発化。目撃情報によれば、以前にも増して鬼気迫る様子で単独行動を続けており、何らかの手段で「ウロボロス」の痕跡を追っている可能性が高い。彼の目的は依然として不明だが、その戦闘能力はプレイヤーの中でも群を抜いており、今後の動向は注視する必要がある。彼は「ウロボロス」に対し、恐怖ではなく、ある種の執着にも似た感情を抱いているように見受けられる。


【初心者プレイヤー "リリア" に関する特記事項】

対象「リリア」は、フォートレス陥落の報を受け、強いショックを受けている様子が確認された。彼女は過去に「ウロボロス」と数度接触し、結果的に助けられた経験を持つ稀有なプレイヤーである。その為、他のプレイヤーとは異なる複雑な感情を「ウロボロス」に対して抱いている可能性が高い。最近は、かつて「ウロボロス」と遭遇した場所や、関連する古代遺跡などを一人で巡っている姿が目撃されている。彼女の行動が「ウロボロス」の今後の行動に何らかの影響を与える可能性は低いと推測されるが、記録として残す。


【システム応答記録抜粋:ウロボロス最終進化検知後の内部アラート】


《警告:存在カテゴリΩ(オメガ)イレギュラー、最終進化フェーズ完了》

《コード:ゼロの存在レベル、予測値を大幅に超過。全パラメータ測定限界突破》

《世界の恒常性維持プロトコル、フェーズ・デルタへ移行》

《緊急指令:全稼働GMユニットは指定座標へ集結。対存在兵器「システム・ジャッジメント」の起動シーケンスを開始。対象の完全排除、または初期化を最優先事項とする》

《警告:対象によるシステムへの直接干渉を確認。情報汚染、法則改竄の兆候あり。これ以上の侵食を許容した場合、EFO世界の基幹システム崩壊の危険性:78.5%》

《優先処理:対象の行動予測アルゴリズムの再構築。対象の「混沌」属性による予測不可能性増大。予測精度低下中》


【観測者734による所感】

対象「ウロボロス」の進化速度と影響範囲は、我々の当初の予測を遥かに超えている。もはや、プレイヤーによる排除は不可能であり、GMユニットによる直接介入、及び「システム・ジャッジメント」の行使が唯一の対抗手段となり得るだろう。しかし、対象が既にシステムへの干渉能力を獲得し始めていることを考慮すると、それすらも決定的な解決策とはならない可能性がある。


対象の行動原理は「捕食と進化」という単純なものに見えるが、その根底には、この世界の真理を探求しようとする、ある種の知的な渇望が存在するように感じられる。そして、その渇望が、対象を世界の法則そのものを喰らう存在へと変貌させた。


我々「観測者」の役割は、情報を収集し、記録すること。だが、この未曾有の事態において、我々にできることは本当にそれだけなのだろうか。対象「ウロボロス」は、このEFO世界にとって、単なる破壊者なのか、それとも……。


ログファイルの最後に、私の個人的な疑問を記録することを許してほしい。

もし、創造主が本当に「新たな神」あるいは「世界の法則」そのものを生み出そうとしていたのだとしたら、対象「ウロボロス」こそが、その最も歪で、しかし最も純粋な『完成形』に近い存在なのではないだろうか?


【ログ記録終了】


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