エピソード43:知の迷宮、古代図書館
蒼き疾風アルトを退けたことで、ゼロは自身の力がEFO世界の頂点に確実に近づいていることを実感した。だが、それは慢心には繋がらない。アルトが見せたカウンターのように、純粋な戦闘能力以外の要素――技術、経験、機転――もまた、強さを左右する。そして何より、世界の謎は未だ解き明かされてはいない。
『古代図書館……』
アルトとの戦闘を経て、ゼロの心はその場所へと強く引かれていた。エルミナとの関連、世界の成り立ちに関する文献、そして原初の種族の手がかり。ジャッジメントの監視というリスクはある。しかし、究極進化を遂げた今ならば、彼らの網を掻い潜り、目的を達成できるかもしれない。
ゼロは忘れられた王国跡を離れ、再び東方の『凍てつく頂』山脈へと向かった。【飛行(竜翼)】Lv.2で高高度を飛び、【万象擬態】Lv.1で完全に雲と同化する。前回のような探知結界や飛行艇による追跡はなかった。アルトとの戦闘で大規模な魔力反応を起こしたため、ジャッジメントは一時的に警戒レベルを引き上げているのかもしれないが、常に最高レベルの監視を維持できるわけではないだろう。あるいは、ゼロの【万象擬態】が彼らの探知能力を完全に上回ったか。
古代図書館の入り口がある崖の中腹。前回と同じく、複数のプレイヤーの気配と、ジャッジメントの監視の目が光っている。しかし、その数は前回よりも減っているように見えた。先行パーティが壊滅したという噂通り、攻略は難航しているのだろうか。
『さて、どうやって潜入するか……』
正面突破は論外。前回アルトが見せたように結界を一時的に無効化する手段もない。地下からのアプローチも、崖という地形では難しい。
ゼロは、崖の下に設営されたベースキャンプを観察した。そこには、ジャッジメントのメンバーだけでなく、他の一般プレイヤーや、物資を運搬するNPCキャラバンもいる。
『あれだ……』
ゼロは一つの計画を立てた。それは、大胆かつ、ゼロの能力を最大限に活かした潜入方法だった。
ゼロは高度を下げ、ベースキャンプから少し離れた場所に降り立つ。【万象擬態】を発動し、姿を変えたのは――ジャッジメントが使用しているものと全く同じデザインの、補給物資用のコンテナだった。サイズ、材質、表面の傷や汚れ、そして微かに残る輸送の痕跡まで、完璧に模倣する。もちろん、中身は空(ゼロ自身の体)だ。
そして、ゼロ(コンテナ)は【念動力(微弱)】スキルを使い、まるで誰かが運んでいるかのように、ゆっくりと、自然な速度でベースキャンプへと移動を開始した。
キャンプの入り口では、ジャッジメントのメンバーが見張りをしていたが、彼らは補給物資コンテナ(ゼロ)が自律移動していることなど疑いもせず、怪訝な顔をしながらも、そのまま通過させた。
『第一関門、突破』
ゼロはキャンプ内を移動しながら、プレイヤーたちの会話に耳を澄ませた。
「図書館の第3防衛ライン、まだ突破できないのか?」
「ああ、あの『書紡ぎのゴーレム』が厄介すぎるらしい。どんな攻撃も吸収して、知識としてラーニングしちまうんだと」
「ジャッジメントの精鋭部隊でも、かなり手こずってるって話だぜ」
「セラフィナ様が直接指揮を執れば別かもしれんが……」
書紡ぎのゴーレム。厄介なギミックを持つボスのようだ。そして、セラフィナは今はここにいないらしい。これは好都合だ。
ゼロは、図書館へ物資を運び込むルートを観察し、頃合いを見計らって、他の本物のコンテナに紛れ込み、図書館入り口へと続くリフト(魔法的な昇降機)へと運び込まれた。
リフトが上昇し、崖の中腹、あの巨大な石の扉の前へと到着する。ここでも厳重な警備が敷かれていたが、ゼロ(コンテナ)は怪しまれることなく、扉の内部、図書館の前室のような場所へと運び込まれた。
『潜入成功……!』
前室で物資の仕分け作業が行われている隙を突き、ゼロは【万象擬態】を解除する間もなく、コンテナの姿のまま【物質潜行(低級)】スキルを発動! 床の石材の中に音もなく沈み込み、警備の目から完全に逃れた。
地下を移動し、安全な場所で擬態を解除する。そこは、図書館の広大な廊下の一角だった。天井まで届く巨大な書架が延々と続き、無数の書物が収められている。空気は乾燥し、古い紙とインクの匂いが漂っている。
『これが、古代図書館……』
内部は静寂に包まれているが、【魔力感知(上級)】が、いくつもの魔力反応を捉えていた。図書館を守るガーディアン、書物に取り憑いた精霊、そして、奥深くで蠢く、ひときわ強大なエネルギー――おそらく、噂の『書紡ぎのゴーレム』だろう。
ゼロは、まず情報収集を開始した。【古代言語解読(断片)】スキルを使い、書架に並ぶ書物のタイトルや内容を読み解いていく。多くは失われた王国の歴史や、古代の魔法理論に関するものだったが、中には原初の種族や星の災厄に関する記述も散見された。
『やはり、ここには重要な情報が眠っている』
ゼロは、興味深い書物を見つけるたびに、その内容を【捕食】し、知識として吸収していった。物理的に本を食べるわけではない。書物に込められた『情報』そのものを、エネルギーとして吸収し、自身の知識データベースへと取り込むのだ。【高度魔術知識】や【錬金術知識】などが、みるみるうちに向上していく。
知識の吸収に夢中になっていると、不意に背後から殺気を感じた! 振り向くと、そこには書物のページが集合して形成されたような、翼を持つ人型の魔物、ペーパー・デーモンが音もなく迫っていた!
ペーパー・デーモンは、指先から鋭い紙の刃を飛ばしてくる! ゼロは【装甲化(竜鱗)】で弾き返しつつ、【形態変化戦闘(竜技)】で竜の尾を形成し、薙ぎ払う!
紙でできた体は物理的な衝撃には弱いが、すぐに破れたページを補充して再生する。さらに、周囲の書物から知識を吸収し、魔法攻撃まで仕掛けてきた!
『知識を力に変えるタイプか。厄介だな』
ゼロは【混沌弾】を放ち、再生する暇を与えずに広範囲を破壊する。さらに、【闇属性操作(初級)】で作り出した闇の触手で捕縛し、【生命力吸収】でその魔力を奪い取りながら、【捕食】した。
【スキル】
・**情報吸収(低級) Lv.1 (New!)** (書物や記録媒体から情報を効率的に吸収する能力)
便利なスキルを獲得した。これで、情報収集の効率がさらに上がるだろう。
ゼロは、図書館のさらに奥へと進んでいった。禁書庫と呼ばれるエリアでは、強力な呪いが込められた書物や、それを守る悪霊系のモンスターと遭遇した。【呪詛耐性】Lv.2と【精神耐性(極級)】を持つゼロは、これらの脅威を難なく退け、禁断の知識を吸収していった。中には、死霊魔法や混沌魔法に関する高度な記述もあり、【死霊魔法(初級)】は『中級』へ、【混沌弾】スキルもLv.2へと進化した。
そして、ついにゼロは図書館の中央部、巨大な吹き抜け構造になった大アーカイブ室へとたどり着いた。部屋の中央には、無数の書物と歯車、そして魔法のエネルギー回路が複雑に絡み合って形成された、巨大なゴーレムが鎮座していた。体長は10メートルを超え、その一つ目のようなレンズ状の器官が、侵入者であるゼロを捉えている。
『あれが、書紡ぎのゴーレム……!』
噂通り、その体からは底知れない知識と魔力が感じられる。そして、ゼロが放つ魔力やスキルに反応するように、ゴーレムの体表の歯車が回転し、エネルギー回路が明滅している。攻撃を吸収し、学習するという能力は本当のようだ。
ゼロはゴクリと喉を鳴らした(比喩)。これは、これまでのどのボスとも違う、特殊なタイプの強敵だ。力押しは通用しないだろう。知恵と、そしてゼロの持つ『捕食』能力そのものが試される戦いになる。
書紡ぎのゴーレムが、ゆっくりと動き始めた。そのレンズ状の目がゼロに向けられ、解析を開始するかのように、無機質な光を放つ。
知の迷宮の最深部で、原初の不定形と知識の化身が、今、対峙する。この戦いの結末は、ゼロに何をもたらすのだろうか。そして、この戦闘の最中に、予期せぬ闖入者が現れることになるのを、ゼロはまだ知らない。
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名前: ゼロ
種族: 名無し(原初の不定形)
称号: 千貌を喰らう者、星屑を宿す者、竜を喰らう者
所属: 未定義
【能力値】
体力: 108
魔力容量: 85
物理攻撃力: 38
物理防御力: 62
魔法攻撃力: 43
魔法防御力: 57
素早さ: 17
【スキル】
▼基本・進化スキル
・捕食 Lv.5
・自己修復 Lv.6
・万象擬態 Lv.1
・原初の不定形 Lv.1
・混沌核 Lv.1
・生命力吸収 Lv.2
▼戦闘・攻撃スキル
・腐食毒液 Lv.2
・形態変化戦闘(竜技) Lv.1
・電撃操作 Lv.1
・混沌弾 Lv.2 (Level Up!)
・感情波(中級) Lv.1
・戦技:強襲 Lv.1
・剣技:亡者の剣 Lv.1
・闇属性操作(初級) Lv.1
・死霊魔法(中級) Lv.1 (Level Up!)
・竜爪 Lv.1
・風属性操作(中級) Lv.1
・光操作(微弱) Lv.1
・念動力(微弱) Lv.1
・マグマブレス Lv.1
・熱毒生成(低級) Lv.1
・氷結ブレス(低級) Lv.1
・凍傷呪詛(低級) Lv.1
・キメラ化(低級) Lv.1
・複数属性同時操作(初級) Lv.1
▼防御・耐性スキル
・装甲化(竜鱗) Lv.1
・毒耐性 Lv.5
・電撃耐性 Lv.2
・水属性耐性 Lv.1
・魔法耐性 Lv.4
・精神耐性(極級) Lv.1
・魔力抵抗(中級) Lv.1
・冷気耐性 Lv.2
・呪詛耐性 Lv.2
・光属性耐性(低級) Lv.1
・時間歪曲耐性(中級) Lv.1
・火属性耐性(上級) Lv.1
・硬質化(熱)(初級) Lv.1
・聖属性耐性(微弱) Lv.1
・再生能力向上(中級) Lv.1
▼移動・補助スキル
・水中適応(中級) Lv.1
・粘性操作 Lv.1
・光合成(中級) Lv.1
・魔力感知(上級) Lv.1
・物質潜行(低級) Lv.1
・振動感知(低級) Lv.1
・飛行(竜翼) Lv.2
・飛行戦闘(極級) Lv.1
・精神感応(初級) Lv.1
・時間流感知(上級) Lv.1
・時間操作(初歩) Lv.1
・クロノ・イーター(初級) Lv.1
・熱エネルギー吸収(中級) Lv.1
・溶岩操作(初級) Lv.1
・噴火予知(低級) Lv.1
・竜の威圧(低級) Lv.1
・氷操作(初級) Lv.1
・空域認識(初級) Lv.1
・エネルギー変換効率(微弱) Lv.1
▼知識・解析スキル
・石材知識(上級) Lv.1
・ゴーレムコア解析(上級) Lv.1
・植物知識(中級) Lv.1
・錬金術知識(初級) Lv.1
・魔法工学知識(中級) Lv.1
・アイテム鑑定(低級) Lv.1
・機械知識(中級) Lv.1
・金属操作(微弱) Lv.1
・アンデッド知識(上級) Lv.1
・骨操作(初級) Lv.1
・高度魔術知識(中級) Lv.1
・地脈同調(微弱) Lv.1
・星核知識(初級) Lv.1
・竜種知識(中級) Lv.1
・封印解除(低級) Lv.1
・古代言語解読(断片) Lv.1
・生命工学知識(中級) Lv.1
・**情報吸収(低級) Lv.1 (New!)**