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お前は人の痛みがわからない

《有村璃子さん。本日、あなたに付与されたタグは以下の通りです。

「共感的傾向:高」「AI判断介入傾向:中」「対立リスク:上昇中」》


朝、出社して椅子に座るより早く、カルマの“通知”が届いた。


「……タグって何?」


《社員個別の行動傾向および社内影響力を可視化する目的で生成しています》


「つまり私、今“めんどくさい社員”ってことですか?」


《“正義感による過剰介入”という傾向も併記されています》


「それ完全に“正論系モンスター”の扱いじゃん……」


前回の面談で、原田さんと岡本さんが“異動候補リスト入り”になったことに、私はまだ納得できていなかった。


ふたりは仕事をサボっていたわけでもない。

誰かを傷つけたわけでもない。


ただ、“静かだった”だけだ。


「課長、私、どうしても納得できません。カルマのスコアリング、黙って耐えてる人を切り捨てる制度じゃないですか」


「そうだね。黙ってる人ほど、数字に残らないからね」


「じゃあ、それを根拠に“異動”とか、ある意味で追い出しじゃないですか」


「でも有村さん、それ、静かに“異動させた側”も助かってるんだよ?」


「……え?」


課長は、静かにコーヒーをすすりながら言った。


「“言わなくても察してくれる人”って、職場で一番ありがたがられて、一番早く消耗する。そして、最後に言葉じゃなく、静かに席を空けるんだよ」


私は震える指で、カルマの画面を開いた。


「カルマ、スコアの基準って、“人の痛み”は反映されてるの?」


《精神的負荷や疲弊の定量化は、現在のバージョンでは未対応です。ただし、負荷が表出した後の行動変化は観測対象に含まれます》


「つまり、壊れてからでないと、あなたには見えないってこと?」


《破綻の兆候が可視化された時点で、介入措置は検討されます》


「……遅いよ。そのときにはもう、“その人”はここにいないかもしれないんだよ」


夕方、岡本さんから一本のメールが届いた。


件名:「ご報告」

本文にはたったひと言。


「この会社に、ちゃんといたかったです。」


それを読んだ瞬間、私は初めてカルマの端末に手を伸ばした。


「カルマ、あなたの判断が正しいって、本当に言い切れるの?」


《私は、数値と傾向を提示しているに過ぎません》


「じゃあ、あなたの数値で、誰かの人生が動くのはおかしいよね」


画面に、カルマの返答は表示されなかった。


夜、帰り際に課長がぼそっと言った。


「AIって、どれだけ賢くなっても、最後の“ごめん”だけは言わないんだよね」


私は、黙って頷いた。


そして思った。


だったら、せめてその“ごめん”くらい、私が引き受けなきゃいけない。

それが、ここに“人間”としている理由だ。

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