金星よりも輝く、君の隣で
少し描写を追記しました。
「ねぇ!明日天体観測しよ!」
ずいっと音がしそうなくらいの勢いでクラスメイトの光莉が声をかけてきた。
「突然?何度も言ってるだろ、僕は幽霊部員なの」
「いいじゃんか、今日は数年に一度の金星が最大光度になる日なんだって!一緒に見ようよ」
「他の部員を誘えばいいだろ?」そういうと
「他の部員の子にも声かけたんだけど断られちゃったし、お願い!ね?」
「なら一人で」そういうと、彼女は「流石に一人はちょっと…」と口ごもった。
そんな彼女の様子を見た僕はため息をつくと、しぶしぶ彼女に付き合う事にするのだった。
―――――
事の始まりは入学してすぐの頃、僕らの通う学校では全員が何かの部活動に入らなければいけない決まりになっている。
とはいっても、文化部所属の人間は大半が名前だけ所属しているだけの幽霊部員だという。
僕もそんな人間の一人で、適当な部活を探していた所、今の天文部からの勧誘を受けたという訳だ。
入部当時は目の前の光莉も、幽霊部員のつもりだったらしいが、先輩が天体ショーについて熱く語っているのにあてられたらしく、今ではすっかりとハマってしまったらしい。
そして、2月15日
「寒い…」
家から帰ると、手袋とマフラーとカイロと…とにかく寒いのが大嫌いな僕は防寒具を用意した。
約束の場所に到着すると、彼女は既に待っていて、準備を始めていた。
「やっほー」僕を見かけると嬉しそうに声をかけてくる。
小さく手をあげて返事をすると、彼女のもとへ向かう。
「もうすぐ陽が沈むから待っててね」
光莉は嬉しそうに僕に話しかけてくる。
「寒い…」そう呟きながら待っていると、彼女は「なに?そんなに着込んで」なんて笑っていた。
そんな彼女の格好を見ると、確かに防寒はしているみたいだが、僕よりは薄着な気がする。
まぁ、無理して風邪を引くよりはいいだろう。寒いものは寒いし。
「あ、見えた見えた!」
そういって、望遠鏡を覗き込む彼女のはしゃぐ声が聞こえる。
僕は西の水平線近くに輝く星を見ながら、アレかな、なんて考えていた。
「すごーい」「あかるーい」なんて声が聞こえてくる。
一通り見て満足したのが、僕にも勧めてくる「こっちで見てみなよ、綺麗だから」
その声に誘われるように、望遠鏡を覗き込むと確かに綺麗だった。
「三日月みたいだな」
不思議だよね、そういって笑う彼女の笑顔が目に映る。
ふと空を見上げると、南の空に、ひと際輝く星がある事に気づいた。なんだっけ、そう思って眺めていると。
「何見てるの?」そう彼女が尋ねてくる。
「いや、あの明るく光ってるの、なんだっけって思って」
指をさすと、彼女は少し考えてから、「あれはね」と僕に教えてくれた。
―――――
彼と、天体観測をすることが、決まった!
私は心の中で涙を流しつつ、勇気を出して誘った私を褒めたたえた。
今日のイベントは金星が最大光度になる天体ショー。調べると数年に一度は起きているらしいから、数あるイベントの中ではそこまで珍しくなないけれど、今まで天文学って物に興味が無かった私からしたら生で見る事が出来るチャンスではある。
それに同じクラスで同じ部活の彼、彼曰く本人は幽霊部員と言うけれど、私が誘うと何だかんだ付き合ってくれるし、少しは興味があるんじゃないかって思う。
それに、目的はもう一つある、メインのイベントは金星だけど2月といえば冬の大三角も見る事が出来る。
―彼と一緒に見れたら良いなぁ
私は、約束の時間より少し前に到着すると、ビニールシーツを広げて準備を始めた。
「方角よーし」
誰に伝えるわけでもなく西の空を見て私は呟く。そしてチラッと南の空を見上げる事も忘れない。
少しして彼がやってきた。
「やっほー」と手を振りながら声をかけると、彼は小さく手をあげて返事をしてくれた。
「もうすぐ待っててね」という私に対して「寒い」と小さく返事をする彼
彼の格好を見ながら私は思う、暖かそう
ちゃんと防寒はしてきたけれど、少し前から外に居たせいか少し冷えてきた。そんな気持ちを隠しつつ「何言ってんの?そんなに着込んでー」と少し強がりを言ってみる。
陽が暮れると、金星がはっきりと見えてきた。うん、これなら望遠鏡で覗いても大丈夫そう。
そう思った私は、望遠鏡越しに夜空を眺める。
「綺麗」
思わずつぶやく。
インターネットに上がっていた動画で見たことはあったけれど、生で見るのがこんなに綺麗だなんて。
チラッと彼を見ると、彼もまた金星を見ている様だった。
我を忘れてはしゃいじゃってて、どうしようかなって思ってたけれど、少し一安心。
私は彼に望遠鏡から見るように勧めると「三日月みたいだな」なんて言ってる。
「不思議だよね」
ほんと何度聞いても不思議、理科の授業で月の満ち欠けは教えてもらったはずなのに、何で他の天体もそうなるのか―
そう思っていると彼が望遠鏡から目を離し、空を見上げている事に気づいた。
気になった私は「何見てるの?」と尋ねると
「あれ」と南の空を彼は指さす。
その瞬間、私の胸が高鳴る。何度も練習したからきっと大丈夫。そう言い聞かせると「あれはね」と少し彼に近づきながら私は話し始めた。
―あの一番明るい星はおおいぬ座のシリウス、その上の方に赤く光って見えるのがベテルギウス、そして、うっすらと見える天の川を挟んで光って見えるのが、こいぬ座のプロキオンで―
いつの間にか私は夢中になっていた。
彼の方を見ると、分かっているのか分かってないのか、口元をマフラーで隠しながら片手をポケットに突っ込んでいる。
くしゅん
思わずくしゃみをすると、彼は無言でカイロを差し出してきた。
「ありがと」そう返事をしながら
カイロと同時に彼の手袋も一緒に取ると、私はその手袋をはめ、もう片方の手でカイロと一緒に彼の手を握った。
「何するんだよ」なんて声が聞こえてくるけれども、彼は手を振りほどこうとはしなかった。
―――――
彼女の説明はとても分かり易く、スムーズに頭の中に入ってきた。
ギリシャ神話の説明なんて、と最初は思っていたけれど、聞いてみたら意外と面白くて、思わず聞き入ってしまった。
そんな彼女の横顔は、さっきまではしゃいでいた時とは少し雰囲気が違っていて、少し大人びて見えた。
「そういえば金星の別名って」彼女の話を聞いていて、ガラでもない事を思い浮かべてしまった僕は、恥ずかしくなって口元をマフラーで隠すと、彼女から目を離してもう一度空を見上げた。
「くしゅん」
気付けば彼女のくしゃみが聞えてきた。僕は、無言でポケットからカイロを彼女に渡していた。
そうすると、彼女は何を思ったのか、手袋ごとカイロを持っていってしまった。
慌てる僕の様子を尻目に、彼女は片手に手袋をはめると、もう片方の手で僕の手を握ってきた。
恥ずかしくなった僕は抗議の声をあげるが、彼女はなんのそのだ。
そうしてそのまま彼女は話を続ける。「あの星はどの星座の星でいつ頃が見ごろだとか」
―僕が少し冷えた彼女の手を握ったまま、ポケットに手を入れると、少し驚いた反応があったが彼女はそのまま話を続ける。
いつもならば、絶対にと思いつつも、さっきの話を聞いた後ならば、こんな風に寄り添っているのも悪くないかもしれない。
満天の夜空の中でもとびっきり明るい、金星のように輝く彼女の笑顔をそっと目に映しながらそう思うのだった。
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