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甘く響く、ふたりの鼓動  作者: ブラックコーヒーを甘くしたい
5/10

宛先違いのラブレター

この作品は、短編として別投稿はしていません。

よろしくお願い致します。

「よし!」僕は昨日書き終えた手紙を手に握りしめ、心の中で気合を入れていた。

何故って?それは憧れの麗先輩へラブレターを渡すためだ。


どうやって渡すかは悩んだけど、結局直接渡すことにした。

以前学校の行事の関係で仲良くさせてもらって、それからたまに話すからどこかで機会はあるはず。


手紙の内容はシンプルに「ずっと好きでした。僕と付き合ってください。」

詩的は僕には無理だったから諦めた、自分の名前も書いてあるのは確認したし、後はタイミングを見て渡すだけ。


そう思っていると、後ろから声をかけられた。


「おーい、早く移動しないと、次の授業始まっちまうぞ?」


その声に驚いた僕は、手に持っていた手紙を後ろ手に手紙を机の中に入れた。


「い、今行くよ」


―それが、自分の席ではないとも気付かずに。


**********


学校のチャイムが鳴り、皆が帰宅の準備を始める頃

「あれ?」私は、ふと机の中に何かが入ってる事に気が付いた。


「手紙?」


封筒には宛先も、名前も書いていないシンプルな物。


「ラブレターかしら?」


自慢じゃないけど私はそこそこモテる。過去に何度か告白されたことはあったし、手紙を貰った事もあった。自分でいうのもなんだけど、人並みに容姿は整っている方だと思う。


私は、トイレへ向かうとそっとその手紙を開いた。


「え?」


そこに書かれていたのは、思いも寄らない名前だった。


「うそ、だよね?」


一瞬何かのいたずらかと思った。だって、彼は麗先輩の事が好きで…

私がアプローチしたって素っ気ない態度をとるばかり。


暫く考えた結果、この手紙を彼に返すことにした。


教室に戻ると、そこには、自分の周りをウロウロしながら何かを探している彼の姿があった。

それを見た瞬間、私は先ほどまで思っていたのとは違う言葉が口から出ていた。


「ねぇ、何さがしてるの?」


「え、何ってそれは、手紙」


彼は誰が声をかけたのかのかも気付いていないくらいに慌てているみたいだった。


「その手紙って、これの事?」


少し緊張しながら差し出すと、彼はようやく慌てたように


「え?あ、それ…ってなんで君がそれを!?」


「何でって、私の席に入れてくれたのはあなたの方じゃない?」


私がそういうと、彼は「え、いや、それはあの」なんて言っている。

その反応で分かっちゃった。やっぱりこの手紙は私に宛てたものじゃないって事…

でも、こんな機会はもう一生訪れないかもしれない。


私は少し照れながら続けた

「いいよ?付き合ってあげる」


彼はその後も曖昧な返事をしていたが、私は少し強引に


「これからよろしくね。」


とお付き合いを始めるのだった。


-----

そうして彼と付き合う事にした翌日の早朝、私は台所で格闘していた。


「出来たー」


昨日の夜から練習して、お母さんにも手伝ってもらって、何とか彼の分のお弁当を作る事が出来た。

彼がいつも購買でパンを買ってるのは知っていたから、一緒に食べたくて作ってみたけど。今日に限って…なんてことはないよね?


もしそんなことになったらちょっと立ち直れないかもしれない、そんなことを思いながら、私は学校へ向かう。


「おはよう」


「お、おはよう」


私が声をかけると、彼は少し目を逸らしながら返事をしてくれた。


「ね、今日、お弁当作ってきたんだけど一緒に食べない?」


「え!?」


彼の驚いた声が教室に響く。心なしかざわつきが大きい気がするけれど、いつもの様に私が彼にちょっかいをかけたと思ったのか次第に静まってゆく。


「ねぇ、いいでしょ?私たち、付き合ってるんだし」


私は、周りに聞こえないような小さな声で、彼にささやいた。

彼は、少し逡巡したあと、「わかった」と返事をする。



-中庭-


「はい、あーん」

そういって彼女が卵焼きを差し出してくる。


「どうかな、一応味見もしたからそれなりに美味しくできたと思うんだけど」


上目遣いで照れながら聞いてくる彼女を横目に、僕は考える、どうしてこうなったのかと…


あの日、僕は先輩にラブレターを渡そうとしていた。

なのに、なぜかその手紙を彼女が持って現れて?

確かに僕はあの時、机の中に手紙を仕舞ったはず…なのになぜ?


そんな考えが頭の中をグルグルと駆け巡る間も、彼女はお弁当を僕に食べさせてくる。


「あ、これはどうかな?タコさんは難しくてできなかったから普通のなんだけど、ウインナー、次は頑張って練習してくるからね?」

「この御浸しなんかどうかな?口に合うと良いんだけど」


グルグルと考えていた僕は、彼女の言葉に「うん」「そうだね」なんて、適当な返事を返しつつご飯を食べていた。


そんな日が暫く続いたある日、私はいつもの様に彼にお弁当を持ってきていた。


「ねぇ、今日のお弁当はどうかな?最初の頃よりは結構上達したと思うんだけど」


「うん、美味しいよ」


「ホント?良かった、今日はこれが自信作でね」


そんな風に会話をしつつも彼はどこか上の空、私から話しかけなければ返事は返してくれないし、何か別の事を考えている様に感じる。


理由は分かってる、多分、ラブレターの件だろう。


彼のことはずっと好きで見ていたから、彼がどんな性格なのか知っていたから。私があの時勘違いした振りをしていなければ、こうはなっていなかっただろう。


「今日」(一緒に帰らない?)

そう続けようとした瞬間


「御馳走様!ありがとうね、また後で」

彼はそういうと走り出していく


その先には、彼が本来手紙を出そうとしていた先輩の姿があった。


伸ばしかけた手が力なく膝に落ちる。

(待って、行かないで)

そう言いたいのに言葉が出ない。


私はそのままお弁当箱を片付けると、ベンチを後にした。



翌日のお昼も、私たちはいつものベンチに居た

最近のいつもの光景、私が彼のお弁当を持ってきて、殆ど私が一方的に話しかけて


―変わると思っていた。

続ければ振り向いてくれると思っていた、だけどもう、やめよう


「あのさ」お弁当を食べ終わると、私は彼に話しかけた。


「どうしたの?」彼はいつも通り返事をしてくれる。手紙をくれる前と一緒。

―この縮まらない距離が辛い


「もう、やめよう?」


「え?やめるって、何を?」


彼は少し驚いたみたいに返事をした。


「この関係のこと、ほんとはあのラブレター、私にくれた訳じゃなかったんでしょ?」


そういうと、彼は気まずそうに目を逸らした。彼の沈黙を無視して私は続ける。


「最初から知ってたの、私宛じゃないって、だってあなた、麗先輩の事が好きなんでしょ?ずっと見てたから、私」


そういうと立ち上がり、言葉を続ける。


「ありがとう、付き合ってくれて」


そういって私は立ち去る。彼の方を見ることは出来なかった。

だって、彼の前では常に笑顔でいたかったから。


**********

―さようなら

あの日から、僕の生活はいつも通りに戻った。


彼女とお昼にお弁当を食べる事は無くなって、購買でパンを買う日々に戻り、先輩を見かけては話しかける。そんな日常だ。


でも、なんでだろう?

前ほど先輩と話していても、心がワクワクしないのは―


そう思い、彼女の方を見ると、クラスの女子と楽しそうにご飯を食べていた。

お弁当のサイズも相応だし、中身も僕と一緒に食べていたものよりもきれいに見える。

トマトもある、僕、トマト嫌いなんだよな…


その時、ふと彼女が僕に食べさせてくれていたお弁当の事を思い出した。

―あれ?そういえば、あのお弁当、僕が好きな物しか入っていなかったような―


そんなことを考えていると、横から

「なぁ、彼女とは別れたのか?」なんて隣の席の友だちが聞いてきた。


「え?」と、僕は聞き返す


「いあ、だって前まで一緒に弁当食べてたのに、最近食べなくなったから何かあったのかなって、クラスの一部でちょっとした話題なんだぞ?」


そんなことになっていたのか、と僕は戸惑いつつも反論しようとする。


「幼馴染のお前には分からないかもしれないけど、彼女って結構モテるよなー」


僕の様子もお構いなしに友だちは続ける。


「知ってるか?その断りの文句がさ、『私には他に好きな人がいるから付き合えません』だとよ」


その言葉を聞いた瞬間、僕の口から何も出ることはなかった。


誰だろうな、彼女にそこまで想われてる幸せ者は―なんてセリフを残しながら友だちが去ってゆく。


僕がもう一度彼女の方を見ると、ご飯は食べ終わったのかお弁当は片付けてあって、普通に談笑する彼女の姿があった。


でも、僕にはどこか、その笑顔が少し無理している、そんな気がしたのだった。


----------

その友だちの話を聞いた日から、僕は、気付いたら彼女を目で追うようになっていた。


彼女の僕に対する態度は、ラブレターを受け取る前と変わっていない。

何かあれば話しかけてくるし、それに対して僕が返事をするだけの、今まで通りの関係のはずなのに…

時々彼女と過ごしたお昼の事を思い出しては、この前聞いた友だちのセリフが頭の中を過ぎる。

―誰だろうな、彼女にそこまで想われてる幸せ者は


僕だって彼女の幼馴染だ、彼女が他の男子から告白されたことがあるのは知っていたし、何より彼女本人から聞いたこともある。


『ねぇ、私、今日告白されちゃった、どう思う?』


『どうって、どう答えたのさ?』


『つれないなー、普通に断ったわよ』


たしか、こんな会話だった気がする。

でも、その時の断り方が『私には他に好きな人がいるから付き合えません』だって?

なのに、僕が間違えて手紙を渡した時にOKの返事をくれたって事は…


僕は先輩が好きだ。いや好きだったはず。

でも、今はそれ以上に彼女のことを考えている自分がいる。


僕は、バカなのかもしれない―

彼女のことを目で追いつつそう考える、そんな日々が過ぎていくのだった。



**********

ある日、僕は風邪を引いた。


ピピピピ

「うー、39℃か、頭痛い…」


両親は仕事に出かけていて家には僕独り、一応母さんが風邪薬は用意してくれてるけど


「とりあえず、寝て休もう」


僕は、布団に包まり寝ようとするが、頭が痛くてそれどころじゃない

「暇だ」


短く発せられた言葉と共に、頭を駆け巡るのは何故か最近の彼女のことだった。


――憧れていた先輩に渡すはずだったラブレターを照れくさそうに持って現れた彼女

その後付き合う事になって、お弁当を持ってきてくれた彼女

どうかな?なんて感想を求めてきたりもした


そんな彼女に対して、僕はどうだっただろうか?

会話の途中で、先輩の方へ行ったこともあった気がする


あの関係が終わる直前の彼女はどうだっただろうか?

いつもだったら僕が先に席を立っていたのに、あの時だけは違った

彼女の去った後のベンチはどこか、ぽっかりと穴が空いたようで―


ピンポーン

チャイムの音と共に目が覚める。

いつの間にか寝ていたのだろう。もう陽も傾いていた。


熱も引いたのか、体調も良くなっている気がする


「はーい」僕は返事をしながら、インターホン越しに様子を見ると、そこに居たのは彼女だった。


「あ、もしもし?今日休んだって聞いて、迷惑だったかな?」

そんな彼女の様子はどこかいつもと違って見えた。


「いや、大丈夫だよ、体調も良くなったし、ただ今起きたばっかりだからちょっと待ってて」

僕は簡単に上着を着て、部屋の窓を開けると彼女をリビングに通した。


「お邪魔します、体調、大丈夫?」


「うん、おかげさまで、寝たら良くなったみたい」


「そっか、なら良かった、休んだって聞いて心配したんだから」

ふっと安心したように彼女が笑う


そんな彼女の笑顔を思わず見つめる僕に、彼女は「どうしたの?」と尋ねてきた。

僕はなんでもないよ、と慌てて答えつつ、彼女は本当に様子を見に来ただけみたいで、すぐに帰って行った。


彼女を見送った僕は、その後ろ姿に、あの時ベンチを去っていた彼女の後姿を重ねていた。


その日の夜、昼間ぐっすり寝たせいで眠れない僕は、今日の彼女のことを思い出していた。

少しの時間だったけど、それが楽しくて、まるで…

そう、まるで一緒にお弁当を食べている時のような


気付かなかっただけだったのだ、最初は僕が間違えて始まった関係だったけれど、彼女と過ごす内にあの時間がどれだけ僕にとって大事な物になっていたかが


―僕は馬鹿だ

八つ当たりの様に枕を壁に投げつけつつそう思う。


「本当に馬鹿だ」

彼女は今、どんな気持ちでいるんだろうと思いながら呟くのだった。


**********

それから暫く、僕は彼女に何も言えない日々が続いた。

それでも、以前の様に先輩を見かけて話しかけることは少なくなったし、何かあれば彼女のことを目で追うようになっていた。


そんな折の放課後、僕がいつも通り帰ろうとすると、彼女が屋上へと向かうのが見えた。


なんだろう?彼女の行動が気になってしまった僕は、気付かれない様に後を追った。


屋上に何の用だろう?と思いつつ覗き込むと。そこで聞こえてきたのは


「-さん。手紙にも書いたんですが、俺と付き合ってくれませんか?」


「ごめんなさい、気持ちは嬉しいけれど、私、他に好きな人がいるの」


「それって、幼馴染っていう?最近別れたって聞きましたけど」


「…っ!勘違いだから、勝手な事言わないで!」


彼女に告白する男子と、それに対して何かを言う彼女の姿だった。

その姿を見た瞬間、僕の中で彼女の存在が大きくなるのが分かった。


暫くして男子が屋上から出て走り去ってゆく、告白の場面に遭遇してしまった罪悪感を感じながら去ろうとすると、ちょうど彼女が出てくる所に出くわしてしまった。


「や、やぁ」気まずさを感じながらそうあいさつすると、彼女は少し照れたように「見てたんだ?」と短く返してきた。


少しして「帰ろっか」と踵を返す彼女の腕を、僕は思わず手に取っていた。


「待って」


驚いた顔をした彼女がこっちを見つめている。


「伝えたいことがあるんだ」そういって僕は屋上へと向かうと、彼女は小さく「分かった」と言った。


「何?伝えたい事って」そういう彼女の瞳はどこか不安げで今にも泣きそうだった。


「僕の気持ち」そういって続けようとした途端、彼女は僕の言葉を遮るように言った。


「うん、知ってる。先輩の事が好きなんでしょ?この前のラブレターの件だって、本当は私じゃなくて彼女に渡すつもりで…それを私が無理やり」


「そうじゃない!」


僕は彼女の肩を掴むと、ゆっくりとそして一気に伝えた。


「始めは、確かにそうだったかもしれない。憧れていた先輩に渡すつもりのラブレターをなぜか君が持っていて、最初は何がどうなったか分からなくて、混乱したまま君との時間を過ごしていた。でも、あの後、何故だか先輩と話していても前ほど楽しくないんだ、気付けば君のことを目で追ってるし、この前お見舞いに来てくれた時に気づいたんだ、いつの間にかあの時間が大事な物になっていたって事に」


何を言われたのか分からなかったのか、最初は頭が追い付いていない様子の彼女だったが、徐々に内容を理解した様だった。


「え?じゃあそれって」


「うん、改めて言わせて欲しい。僕と付き合ってください」


そういうと彼女は瞳に大粒の涙を浮かべたまま「うん」とうなずくのだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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