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甘く響く、ふたりの鼓動  作者: ブラックコーヒーを甘くしたい
4/10

ラブレターとタイムカプセル(オムニバス版)

この作品は、同タイトルで短編として投稿したものを加筆、修正してオムニバス形式として読めるよう連載小説の中に投稿した物になります。


ご承知の上ご一読頂けると幸いです。

2/12 一部春陽の描写を加筆修正しました。大まかな流れは変わっていません。

『はい、こんど皆に「10年後の自分へ」というタイトルで手紙を書いて来てもらおうと思います』


小学校の終礼の時、先生は言った。


何を言っているんだろう?と思って聞いていると、どうやら18歳になると成人になるらしく、その時の自分に宛てた手紙を書いてみよう。との事だった。


タイムカプセル、というのはよく分からなかったけど、どうやら未来の自分が読むらしい?


そんなこと出来るのかな?なんて思いながら、宿題だからと私は頑張って考えた。



『おてがみ


みらいの、わたしへ


18さいの春陽(はるひ)、あなたはまだ(あおい)くんのことがすきですか?


8さいの春陽は、蒼くんのことが、だいすきです。


いまはまだ、すきっていえないけど、


18さいになったわたしは、つたえることができましたか?



げんきいっぱいな、蒼くんのことがだいすきです。


8さいの春陽より』



すごく恥ずかしいけど、お手紙なら、と勇気を振り絞って書いた。


今は一緒に遊んで、クラスの中心になってる蒼君を遠くから見ている事しかできないけど、18歳の私ならきっと気持ちを伝える事ができてるよね?


そんな気持ちを込めて、先生の用意した容れ物にお手紙を大事にいれた。


-----


それから数年が経ち、私と蒼は高校生になった。


「よう、はる、今日一緒に帰らね?」


いつも通りの放課後、帰り支度をしていると、蒼が声をかけてきた。


「あお?いいけど、どうしたの?何時も勝手に帰ってるくせに」


そう、私、春陽と蒼は小学校からの幼馴染で、高校生も同じ進学先になった。

だけど、やはり成長するといくら仲良くても昔ほど一緒には遊ばなくなった。

交友関係が小学生の頃より広くなったのもあるし、男女でならなおさら、一緒にいる事での気恥ずかしさもあったりする。


それでも何かあれば連絡はするし、「はる」「あお」と気軽に呼び合うくらいにはいい関係が続いている。


高校の入学当時はそれが問題で少し周りから冷やかされたりもしたけれど…

それはまた別のお話。


「いや、ちょっと相談したいことがあってな」


「相談?」


めずらしい、良くも悪くもクラスの中心になっている彼が、私に相談だなんて


そう思いながら、承諾すると一緒に学校の帰り道のファミレスにいく事にした。


-----


「それで、何の相談?」


彼にフリードリンクを奢ってもらいながら私は聞いた。


「実は」と前置きをした後に少し躊躇した顔を見せつつこう言った


「俺、好きな子が出来たんだ」


「え?」


それを聞いた瞬間なぜか、私の心の奥が痛んだ気がした。


平然を装いつつ私は答える



「へぇ、どんな子なの?」


昔からの友人の恋バナに興味を示しつつ質問をすると、彼は恥ずかしそうに、それでも少しずつ教えてくれた。


なんでも隣のクラスの女子で、この前の合同授業の時に一緒になった時に気になったのがきっかけらしい。相談というのは、「その子にどうやって声をかければ良いか」とか「誰か共通の知り合いはいないか」とかそんな、平凡な恋の悩みだった。


私はそれに対して「普段はコミュ力高いのに、あおもこういう時はどうしていいか分からなくなるんだね」なんて返事をしつつ、応援の言葉を投げかけると共に、心のどこかで蒼が好きになったという女の子に対して嫉妬していた。


それから、度々、蒼から恋の相談という名の名目でドリンクを奢って貰っていた。


最初は軽く「頑張れば行けるって」とか「応援してるよ」なんて言ってただけだったけれど、彼のその子に対する想いを聞くにつれて、私も本気で彼の恋を応援してあげよう。


と思うようになっていた。


「ね、その子の友だちから聞いた情報だと、彼女、猫が好きで色んなグッズ集めてるらしいよ?」


「ホントか?」


「ほんと、ほんと、今度の合同授業の時に頑張って話題にだしてみなよ!」


こんな風に、彼にその子の好きな物の情報を伝えたりして、なるべく話題を作れるように積極的にサポートしてあげるようにもなっていた。


そう、自分の気持ちに蓋をするかのように…


-----


そして時は流れ、大学受験も一区切りついた18歳の冬、突然小学校から連絡が来た。


「春陽、なんか小学校からハガキが届いてるわよ?」


そういう母の声に返事をしてハガキを見るとそこには


昔『10年後の私へ』というタイトルで書いた手紙を返却したいから、欲しい人は期日までに取りに来てほしいとの記載がしてあった。



「10年後の私へ…?」


なんだろう、そんなもの書いたかな、と頭をひねりながら蒼に連絡する。


心の奥に嫌な予感を抱えながら



『小学校からハガキが来てたんだけど、10年後の私へって覚えてる?』


ピロン!

『あー、なんかあったな。内容覚えてないけどタイムカプセルとかなんとか言ってた気がする!覚えてない』


タイムカプセル?その言葉を見た途端、少し動悸が激しくなった気がした。


『そっか、あおは取りに行く?』


『ん-、せっかくだから取りに行こうかな。どうせ俺のことだからヒーローになりたいとか書いてるんじゃないかな、はるは?』


『あおが行くなら私も行こうかな』


そういったやり取りを交わした後、いつ取りに行くかを決め、私たちは小学校へ向かった。


「小学校、こんなに狭かったっけ」


と蒼が辺りを見渡しながら呟く


「まぁ、私たちが大きくなったんじゃないの?」


そう返す私に「そっか」なんてのんきに蒼は応える。


-----


職員室へ着くと、先生たちへ挨拶をしながら


例のタイムカプセルがあるという場所へ案内してもらう。


「これか、俺なんて書いたんだろな」


その容れ物を見ながら私は嫌な予感がどんどん大きくなっていく気がした。


「さぁ、どうだろうね」


生返事を返しつつ私は自分の手紙を手に取りゆっくりと開く。



『おてがみ


みらいの、わたしへ


18さいの春陽、あなたはまだ蒼くんのことがすきですか?


8さいの春陽は、蒼くんのことが、だいすきです。


いまはまだ、すきっていえないけど、


18さいになったわたしは、つたえることができましたか?



げんきいっぱいな、蒼くんのことがだいすきです。


8さいの春陽より』


そこに書いてあったのは、8歳の私が書いた蒼への淡い恋心だった。


読んだ瞬間、胸の奥がじんと熱くなる。

懐かしい気持ちと、どこかくすぐったいような気持ちが入り混じっていた。


「8歳の私、こんなこと書いてたんだ……」


小さく呟いて、そっと手紙を握る。

懐かしさの中に、ほんの少しだけ切なさが混じっているような気がした。


隣では蒼が「お、やっぱり俺、ヒーローになりたいって書いてある!」と笑っている。

その声を聞いて、私はふと彼の横顔を見た。



そんな彼の横顔は、昔とちっとも変わってなくて……私、あの時の気持ち、忘れてしまったんじゃなくて。

ずっと一緒にいるうちに、当たり前になってしまっただけなんじゃないだろうか。

そう思わせる笑顔だった。


「帰ろっか」


短くそう言って、職員室を後にする。


蒼が何か言っていたけれど、今はまだ、言葉にできる自信がなかった。



-----


部屋に戻ってきた私はもう一度ゆっくりと手紙を読み返す。


「懐かしいな、こんな風に考えてた時もあったんた」


そう言いながら、私は今まで蒼と過ごした日々のことを思い出していた。

彼の笑顔、照れた時や怒った時の顔、何気ない癖や仕草、いつもの日々


それを思い出していた私は、自然と涙を流していた。


「『18さいになったわたしは、つたえることができましたか?』…だなんて、今の私にこの手紙は辛すぎるよ…」


彼の恋を応援すると決めてしまった。

色々と相談にも乗った。

でも、相談に乗ってる間どこか嫉妬している自分がいたのも確かだったのだ…


「もっと、自分の気持ちに、早く気づけば良かったな」


こぼれる涙が止まらない。

だって、自分が彼のことをどう想っているのか気付いてしまったから。


----------


翌日、いつも通り学校に通い私は蒼と会話をする。

「おはよ」

「おはよう」


何気ない会話、普通に話せていたと思うけど、緊張している気がする。


(この気持ちをどこにぶつければ良いんだろう…)


ぼんやりしながらそう考えていた時に、彼の相談に乗っている時の自分をふと思い出した。


「悩んだってしょうがないでしょ?自分の気持ちを伝えてみないと相手には伝わらないよ?」


そうだ、私が蒼に言った言葉だ、想いは伝えないと絶対に後悔するって


そう決めた私は蒼に連絡をした


『ねえ、ちょっと会えたりする?』


何度も送る言葉を選びながら、結局こう送った。


『いいよ』


しばらくして、彼から短い返事が来た。


悩んだ末に私はこう送った


『じゃあ、小学校で待ってる』


待ち合わせ時間の少し前、寒空の下で伝える言葉を考えていた。


(なんて、伝えよう…)


頭は冷えて、すっきりしているはずなのに、考えがまとまらない。


そうやって空を眺めていると、先に待っていた私を見つけたのか、彼が小走りにやってきた。


「ごめん、待たせたか?」


「大丈夫、私が少し早く来ただけだから」


そう答えると、二人の間に沈黙が訪れる。

いつものとはどこか違う、彼にそう思わせるそんな空気だった。


「なぁ、何かあったのか?」


微妙な空気に耐えられなくなったのか、彼が口にする。


それをきっかけに、私は意を決して想いを口にする



「あの!私」



思わず言葉に詰まる。

でもダメ、ここで止まったら、もう二度と言えないと思ったから


「私、あおの、蒼の事が好き!蒼が他の子を好きだってのは知ってる。でも、ごめん。今日の手紙で気付かされたの、私は蒼の事が好きなんだって。あれだけ応援しておいて迷惑かもしれないけど、私と付き合ってください。」


そういうと、蒼は驚いた表情をした後、少し困ったようにそして申し訳なさそうにぽつりと返事をした


「…ごめん、春陽のことは好きだけど、それは友だちとしてであって、俺はやっぱりあの子の事が好きなんだ。付き合うことはできない。」


「うん、分かった」


私は、あふれ出して止まらない涙を、手のひらで拭いながら、そう、返事をするのだった。

そして蒼は、私が泣き止むまで、そばでなにも言わずに待っていてくれた。


-----


―春が来た。


クラスの皆も進学先が決まり、私と蒼は別々の大学へと進んだ。


ちなみに、蒼はあの後、意中の子に告白をしたらしいが、その子には既に彼氏がいたとの事で振られたらしい。


写真立てには傷心旅行という名で、仲の良い友だちと行った旅行先の写真が飾ってある。

そこにはバカみたいにはしゃぐ男子の姿があった、勿論、蒼の姿も


蒼のことがずっと気になっていた私は、彼が振られたと知って、旅行の最後の日、もう一度彼に気持ちを伝えてみた。

でも、振られたからって簡単に告白を受けることは出来ない。蒼が言ったその言葉を、頭の中で繰り返しながら、私は少しずつ諦めが生まれていくのを感じていた。


『ねぇ、蒼、話聞いたんだけど、やっぱり私じゃダメかな?』


『悪い、振られたからって、その後すぐに一回振った子の告白を受ける様なカッコ悪い真似はしたくない』


その時の光景を思い出し、ふっと微笑む。


「ばーか、やっぱりカッコいいんだから」


彼に振られたことで、やっと私の中の気持ちも整理がついた気がする。蒼がちゃんと自分の気持ちに正直であることが、逆に私を楽にさせてくれたのだと思う。これからは、彼との思い出を大切にしながら、前を向いて進んでいけそうな気がする。


そんな感じであの後、色々とあったが、どこか晴れやかな気持ちで新しい環境に進める気がする。


私は、書き終えた手紙をそっと机の奥にしまうと引き出しの鍵を閉める。

支度を終えた私は、鞄を持って家のドアを開けた。


「よーし、今日から大学生か!頑張るぞ」


『10年後の私へ

28歳の春陽へ、あなたは今どうしてますか?

お仕事にも慣れましたか?

18歳の春陽の恋は実らなかったけど

28歳の春陽は、誰かに恋をしているのでしょうか?

もしかしたら、結婚なんてしてたりして…?


また10年後、会いましょう

18歳の春陽より』


10年後の彼女は、きっとまた、忘れた頃にこの手紙を読むのだろう。

18歳の私がそうであったように。

そしてその時、彼女は、この手紙をどんな気持ちで読むのだろう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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よろしくお願いいたします。

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