無知の知
「…神寄せって、何なの?」
留奈さんの気怠い溜め息に反発するつもりは特にないが、勢いよく肩を使って息を吐いた。ブツブツ呟いている内容は一つとして解らないし、話を戻さなくては此処に来た意味が無い。
「其れが何なのかは何時も人間が決めるの。」
「?」
「私等にはそうとしか言えない。
それ以上は私等が決めたことだから。
この世界の人間が理解出来るものは、
私等が決めることじゃない。
世界は人間が決めたものだけで出来てないけど、
人間の世界には人間が見つけたものしかない。
当然話し合って決めると言う子もいるし、
話し合いなんか必要ないと言う子もいる…。」
…あぁ、やっぱり難しい事を言い始めた。嫌な予感は的中した。
「留奈さんは知ってるんやろ?
勝手に決めるより聞いた方が早い。」
「それな。想像出来ると信じるから言うけど、
重くんの知ってることに置き換えられない。」
「……。あぁ…まぁ…そういうこともあるか…。」
無知の知、だったかな。自分が多くを知らないことを自覚していること。留奈さんの言う"想像出来る"の意味がちょっと掴みきれないけれど、知性なんかに自信は無いから認めておいた方が無難だ。知らないものは知らないと言えた方が良いし、自分には知らないことがあるかもしれないと考えていた方が良い。
「色んな意見を聞いてきたんやないの?
合ってることもあるかもやで?
けどまだ…証明?とか、ああいうのはね…。
人間のルールを守って教えてあげられる事は、
あんまり無い。…てか、何て聞いてんの?」
「えっとね…なんか…集合体の神様で、
俺はそのイッチュウ…多分その中の一つで、
あんまり自己中やから自分のしてる事も、
やった事も解ってなくて…反応もしない…。」
…え…怖わ…。
改めて言葉にすると本当に最低な存在じゃない?
…俺は普通に人間なんだけどな…。
「それでも…力を使ったことは覚えてなくても、
技能者の何億倍の力がある…ってこと?
あ、憑依してると記憶が無いとか言ってた。
精神を守る為に、他の人も大抵そうなんやって。
…なんかそんな感じで聞いてる。」
「…………。」
留奈さんの顔の表情は俺が話している間にも無表情から徐々に眉根に皺が寄っていき、最終的には見えづらいものを見るように、大きな瞳はショボくれて細くなった。口はすぼめて梅干しを食べた後みたいだ。
「…違うってこと?」
「…ん〜〜と…それって…。
もしかして………次郎右衛門じゃない?
あの子の性格そのもの。」
「へ?」
「良いところに気が付いたなと思ったら…、
やらかしてんなぁ…。」
「え??あの……俺?」
「違うやろ?重くんなんか子供やから、
アイツ等の事やからマトモに取り合わんやろ。」
「あ…え?そんな感じなんや…。」
アイツ等とは恐らく連盟の事だろう。留奈さんは連盟に協力的な立場ではなかったのか?…確かに、ちゃんと聞いたことは無かった。
「……。少し気の長い話になるけどさ…。
私等はね、正確にはまだ人間に見つかってない。
証明は難しいって言ったやろ?
力があっても人間のような実体が無いから、
人間の世界では私等に人格は有り得ない。
力だけの存在をどう扱うかはアンタ等の自由。
今の人間の世界では幾らでも誤魔化しが効く。」
「え!?誤魔化してんの?」
「あ、違う違う。次郎右衛門はそんな…、
特に何か悪い考えがあったわけやないと思う。
出来ると言ってるだけやから。
それをアイツ等がどう考えるかまでは、
私等は知らんし、正確には初めて聞いた。
人間のする事なんかいちいち口出しせんしな。
どうでもいいから関わらんわ。好き好んで。」
「……。神寄せ信仰の人は?」
「あの子らは信仰なんやろ?宗教やろ?
私等に直接関係無いよ。いい子やとは思うけど。
神社だって言ってしまえば偶然みたいやし。
人間が何かで知ったか、自分で考えて、
考えてることに似たような私等が居ただけで。
そりゃ、知っててくれるみたいで可愛いけど。
…でもな、偶に良くないこともあるからさ。
たま〜に、入れ込んだ人が暴れる時あって、
逆に好かれた人間は巻き込まれる。」
「…あ!暴走するってこと?」
「あ〜。それかもね。知らんけど。
兎に角、そういうものやから、
私等のことを知ることができる人間の話が、
そのまま本当の事ということになる。
まぁ、そりゃそうやろうけど、
…次郎右衛門本人の性格と混ざってるなぁ…。」
「神寄せが集合体の中の一人なんやったら、
本人の性格が、その…それになるのは、
その通りなんじゃないの?」
何て言ったら通じるのかも解らないけど、自分の言っている事にも自信が無い。
「……。人間が主体なのは避けられんかなぁ…。」
斜めに浮きながら腕組みして目を閉じた留奈さんは、そのまま居眠りしそうな静けさで暫く何かを考えていたようだった。




