アドバンテージ
今日の留奈さんの服装は大きめのサイズのTシャツとデニムで全体的にダボついている。何故か髪型をポニーテールにしてキャップまで被っていて、野球の応援に来た人みたいに快活なイメージと慎重に此方を値踏みするような顔の表情がちぐはぐな印象を与えた。何と言おうか迷っているようだった。
「……分かるか分からないかで言ったら、分かる。」
考えた末に出た言葉は曖昧で要領を得ない。これは俺も身構えた。蓬莱さんのするように、また何か難しい事を言われそうな雰囲気がある。
「…てことは、アレやな。
次郎右衛門の猫の話やろ?昨日の。」
「!あ、知ってんの!?」
「分かるからね。ただ、何したかは知らん。
キツい感じやったから、多分何か還した。」
「?かえした?」
「そう。…そう言うべきと思うよ。
神様の力やから。これは人の子も分かるやろ?」
「あ…あ〜。何か、技能者がやってる感じ?」
バイトの時のことを思い出した。こびりつき汚れの様な何かを散り散りに拡散していた。アレが、かえる…帰る?…還した?ということだろうか。
「重くんらの能力で言うとそうやね。
それの数億倍ヤバイやつと思ったらいいわ。」
「ヤバイんや。…まぁ、神様の力やもんな。」
よく解らないが何となく同意してみる。
「そうやな〜、そろそろ自分の力も解るかな。
大体は聞いて来たんやろ?神寄せについて。」
「…大体は。」
そうなのだ。俺の最大のアドバンテージはこの人だ。留奈さんはfsや神様について恐らく誰より理解していて、深く正しい知識がある。あちら側の人なのだから。俺達人間は、連盟もアヤシヤもそうだが、神様の方からは教えて貰えないか、自分達には理解出来ないから手探りで研究しているに過ぎない。…そういうことになると思う。
「でもよく解らんことばっかりやった。」
「そらそうやわ。解るなら次元を超えてる。
きちんと話すと宇宙を理解するより難しいよ。
真面目な話するとね。」
「……。そうなんや。」
「そもそも解るわけないから話さんし。」
「え?…そうなんや…。」
「人の言葉の限界もあるしね。概念とか哲学とか。
…この辺はまだ話しが通じるから話すけど。」
「?…この辺て?文吾町?」
「まぁそう。…うん、それでいい。それでいい。
昔から人の子とはそんな感じでやってるから。」
「…フゥン…。」
昔からと言われても俺は知らない。六堂や大門なら少しは知っているのだろうか。フンワリした考え方に思うけれど、そんなものらしいから、それでいいと言うのならそれでいいのだろう。
「やからまぁ、人の子は人の子のやり方で、
私等のことを知っていってくれたらいいわけ。
こっちから様子見て合わせる。
逆は無理やから。どう頑張っても。」
「……。」
「無理って言われると反発したくなるの解るけど、
重くんももっとちゃんと大人になれば、
無茶は無茶やって解る。
私も人間の常識くらい知ってるよ。
人間は道理と摂理は超えん方が幸せやで。」
むっとしたのが顔に出てバレた。子供扱いする歳でも体格でもないだろうと思っても、確かに世の中については解っていない。
「…幸せは本人が決めるもんやろ。」
「そら当たり前やん。私が解るわけないし。
常識を覆して生きるのも自由。
ただ私の言ってる常識は筋道と科学やから、
外れるなら相応の覚悟がいるし、
既存のそれらが間違ってて、改めたいなら、
そういう主張の人間として闘わんと駄目やわ。
今迄と違う世界に幸せがあると言うなら、
闘うことは避けられんよ。これは人間の話。
科学でも社会でも闘ってきた先輩はいるから、
勉強するといいかもしれん。」
「先輩って?」
「新しい理論とか、価値とか、差別是正とか、
たくさんいるよ。そんなん人間の歴史そのもの。
…けど道理を否定するのは重くんの場合、
よく考えた方が良いと思うけどね、私は。」
「……。多様性って難しいな…。」
なんとなく多分そういう話だと思う。多分。なんとなくだけど。
「ふ〜ん?…何か知らんけど、そうなの?
重くんはこの辺の常識の範囲の子に見えたけど、
…そうやな。これでいい。これで。
違うなら違うと言わんとね。其処からや。」
「や、別に…。違わんけど。」
「本当に?…まぁいいけど。
てか、今の子は多様性とかいう話なんやな。
人間は神様とは違うんやけどなぁ…。
もう大分理解されなくなってきたかなぁ…。
変に攻撃される前に考えるのもアリかな〜?」
溜め息混じりに独り言を始めた留奈さんは薄く目を開いているものの、何処を見ているのか読み取れない。俺が目の前に居ることなど忘れているようなものの言い方だ。既に正体がバレているので遠慮が無いのだろうが、常識を知っていると言いながら平気で宙を浮いている。テレビで見たことのある宇宙飛行士みたいに、まるで一人だけ居る場所が違う。場所というよりもう異空間だ。存在する世界の理屈が異なることを見せつけるかのような振る舞いで、自由自在に宙空を移動していた。




