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天秤の上


 解らない事は山程あるけれど、不思議な現象を説明しようとする時に自分自身が最も厄介な能力を持っているとしたら、自分を納得させられない大人達を強くは責められない。不思議で不可解な現象の原因になっちゃってスミマセンという気持ちと、だからといって俺が悪い訳では無いはずなので何とか誠実に対応して欲しいという気持ちとが天秤の上で揺れている。

本当に正直に思っている事を打ち明けるならば、自分が大した疑問も無くこの状況と能力を受け入れていることがまず不自然だ。俺という人間はそんなに柔軟でも寛容でもなかったはずである。これは別に排他主義だとか硬派な思想があるとかではなく、もっと自分は頑固で、曖昧な概念や非常識な行いには反発するものだと考えていた。それが正しい所作であるくらいの常識というベースがあった。しかしそれは実のところ自分が当事者にならないと考えるのも面倒臭いという性格の持ち主だったからに他ならない。今回の件で得た気付きである。本腰を入れて考えないと適当なストーリーを想像して勝手に納得するまでをセットで行ってしまう癖すらも発覚した。流石にちょっと不味い気はしている。けれど気付きさえすれば現実に拒否反応は無い。なんだか変な感じだが、自分で考える程に自分は考えの堅い人間ではなかったのかもしれない。こうして落ち着いて振り返ってみると、周りの影響が大きかっただけの様な気がしている。

 ……真面目か。

駐輪場の婆さんの言葉が頭の中で繰り返される。言い当てられたようで奇妙に嫌な気分だ。嫌な台詞ほどなかなか忘れられないものだが、まさか自分の意志で思い返す事があるとは思わなかった。あんな婆さんが自分の何を知っているわけもないのに。



 市街地の広がる平野部との境には砂利と砂地に囲まれた幅広く浅い河が流れている。要所ごとに橋のかかった背の低い堤防は文吾町から坂島市の方向に出るためには必ず越えなければならないもので、まるで田舎と街を分断するが如く、長くしつこくクネクネと曲がる河川に沿って頑丈に造られている。堤防を過ぎると今度は山手に向かう緩やかな坂道を登り続けることになる。行きはよいよい帰りは怖い。体力が無いと自転車を漕ぐだけでも息が切れるくらいだから夏の暑い時期の帰宅は汗だくだ。文吾町に住む高校生の多くはこうして毎日強制的に体力作りをさせられているわけである。

考え事をしながら眺める帰宅途中の光景が少しだけ新鮮に映るのは、多分自分の中で何かの情報がアップデートされたからだろう。意識が変わったとでもいうのだろうか。そんな大した事でもないとは思うけれど。

夕方らしい湿った空気がやっと感じられる頃には何時も通りの生活感漂うコンビニが見えてきた。ここまで来るともう勝手知ったる我が住処である。色んな人達に会って話をして一日をやり過ごした疲れがどっと押し寄せてきた。同時に何とか切り抜けたという達成感のようなものもある。自分へのご褒美じゃないが、何か飲み物でも買って帰ろうかと駐車場の一角に自転車を停めた。

店内に入って彷徨いていると気が抜けて自然と頭が軽くなった。軽い頭なりに今度はまた別の疑問が湧いてくる。


 疑問に思うのは自分の能力よりも周りの反応だ。大人達はともかく、水池が不思議に思えてならない。正体不明の光に対する水池の反応は謎だらけだ。会話の意味するところもはっきりしないが、あのタイミングで見えていたのならば蛇が消されるところを見ていた事になるのではないだろうか…。

 ……光…光??

水池の飼い猫は光を追いかけた。光は消えたのか。見失ったのか。其処の処は何も聞いていない。水池が見ていた光が蛇だとすれば、ぶち猫に関しては何も見えていなかったということだろう。俺が見たぶち猫は庭を歩いていたし、茂みの中に消えて行った。角度的に水池からは見えなかったのかもしれない。

 …もう一回、ちゃんと話を聞いてみたいな…。

俺に取り憑いているかのように世話を焼くお稲荷さんの御使いに話してみたら何とかしてくれるだろうか。神様らしく運を左右するのではないかと思ってはいるものの、余りにもそれらしくないので敢えて今迄通りに振舞っている。むしろ正体を知ってからは常に暇人のイメージが俺の中で定着してしまった留奈さんの不敵な笑みが頭に浮かんできた。

 …………あ。

そして報告を怠っている事を思い出した。大門はやっぱり田端を振ったらしい。偶々学校の廊下で見かけた時に野球部の話をしていた事があった。兎に角時間が無くて忙しいと言うから留奈さんからの頼まれ事をここで聞くのはアリだなと考えて、彼女とかは作らないのかと聞いてみたのだ。"はぁ??"と、しょうもない事を聞くなとでも言いたげな勢いで大門は答えた。照れ隠しなのかもしれないが、それどころじゃないという返事だ。つまり田端はそれどころじゃなくなるから断わられたという事だろう。成程だ。解る。なぜならアイツは野球バカだからだ。本気でそれどころではなくなると考えたからだ。十分に有り得る。何と言っても、大門だからな。

…余り認めたくは無いが、そもそもアイツはモテるのだ。格差は仕方がないものだけれど、しょうもない事のように語るのは割とガチでムカつく。あのリア充めが。

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