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領収書


 西校の最寄り駅付近まで戻ってくると、適当な路上の端に寄せた車から降りた俺達は、それぞれが帰宅する為に駅前の閑散とした砂利道を同じ方向に歩くことになった。梅村さんと木根さんは其処で蓬莱さんに丁重な挨拶をして別れ、俺は少し待って貰って駐輪場の領収書を持って帰ってくる予定である。二人の目指す駅舎はすぐそこに在り、俺が自転車を預けた駐輪場は駅を通り過ぎて直進した先に在った。さっきまでの木根さんとの会話が頭に残っているから、ほんの少しの合間とはいえ気が抜けない。


「………。やっぱり畏れは大事だと思うけど。」


「しつこいな。マイナスイメージのこと?

 畏れは当然の感性だよ。それ以上に要らない。」


無言の空気に気を遣ったのだと思うけれど、話を蒸し返す梅村さんが木根さんに嫌がられている。このタイプの人間に嫌がらせが出来るなんてのは、ある種の才能にしか思えない。天然なのか狙っているのか、単に相性の問題なのかは解らないが、やはり普通ではない。

「……。梅村さんてお酒強いんですか?」


「え?何イキナリ。」


「や、なんか…木根さんが言ってたから…。」


「!…よく覚えてるね。」


木根さんが普通に驚いている。普通の反応がむしろ新鮮に感じるから不思議だ。


「呑むのは好きだけどね。」


「強い。強いのに酔ったフリするからたちが悪い。

 …来た時に言ったな。俺。そういえぱ。」


「今日は帰る。赤沢に念押しされてるからな。」


「酔ってもないのに酔ったフリして、

 プライベートやら言いにくい事まで、

 根掘り葉掘り聞き出そうとするから最悪。」


「別に他で喋る訳でもないし。」


「あ〜〜〜、思い出した。あ〜〜。

 …ほんっと、後でケロッと話すから、最悪。」


酷い頭痛を訴える様な苦い顔の木根さんに対して梅村さんは悪びれる様子もなく相変わらずの笑顔である。なかなか出来ない事を平然とやってのける人とはこういうものか…。そういえば元々見た目が抜群なのを忘れていた。それを意識させない人物でもある。絶妙なセンスの持ち主なのだろう。多分。


「じゃあ、松尾君。お疲れ様。」


軽く右手を挙げて最後まで元気よく他人を労う梅村さんと、ドライに流し目で一瞥する木根さんが改札口へと向かう。一応はお辞儀をして"お疲れ様でした。"とだけ返すと、急いでその場を後にした。路上駐車で蓬莱さんを待たせたままだ。

 ……………疲れた……。

長い長い一日だった。



 一年で最も日の長い時期だけあって直に午後の五時になろうというのに、まだまだ日射しは陰る程には弱りもしないで辺りを明るく照らしていた。大した荷物も入っていないリュックサックを肩に背負い、駅を通り過ぎて駐輪場の建物が近付くと、窓口にある透明の仕切りの向こうには既に例のブチキレ婆さんが座っている。真剣な面持ちで何かの紙をめくり上げては作業をしているのが見えた。めくり上げる指に唾を付けているのが個人的に気になった。


「もう帰りかね。あらまぁ〜、真面目か。

 今時の子は遊んで帰るのも早いなぁ!」


「あ…はい。…あの、領収書貰えますか?」


何となくこの婆さんが解ってきた。一言多い感じは否めない。会話は殆どこれだけしか覚えていないが、作業をしながらずっと婆さんは喋っていた。半分は高校野球の話で、半分は何を言っているのかよく聴き取れなかった。西校野球部は地域住民にも期待されているのだなぁとしみじみ思う気持ちだけを持って帰る事にした。あと領収書と。

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