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決定事項


 決定事項は三つ。一つは連盟という存在を深く考えなくても良いから記憶に留めて置くこと。二つめに神様の姿は能力を使いこなすと力の弱い方も見えるようになる反面、慣れると強い方に影響を受けやすくなるきらいがある為、常に注意すること。最後に、蓬莱さんが監督と称して盆と正月に来るのは身寄りのない方だからこそなので、知ったからには今迄の事も含めて感謝するように。

「…身寄りが無いって、家族がいないの?」


「家庭が酷くて逃げてきた人やって。

 たまたま能力があったのか、

 能力があるから虐待されたんか、わからんけど。」


父さんは淡々と話していた。眼鏡の奥で何を考えているのかは読み取れない。別にどうでもいいんだけど。変な関係の女性じゃなかったんなら。堂々と家庭に出入りされてるとかいうド修羅じゃなかったのなら。

「………。施設育ちみたいなこと?」


「実際そうらしい。

 能力のある重紀には先輩やな。

 監督とか、昔は先生呼びされてたって。」

 

「どういう団体なの、連盟ってのは。」


「今は自治体の協力組織。

 国が作った制度を使って運営されてる。」


「昔は無かったんや、そんなもん。」


イラついたように祖父ちゃんが口を挟む。


「連盟自体は大昔から在るやん。

 この辺の"神寄せ"もそうやけど、他にも。

 民間の、善意でやってる活動はあったよ。」


「何が善意だ。

 そんなのは分かる人にしか分からん。

 分からんもんは騙されるしかないやろが。」


「やから法で整備したんやんか。

 事実、分かるやつが目の前におるやん。」


「わかっとるがな!」


「…もう父さんは、黙って聞いといて。

 昔は説明が出来んかったんや。

 証明の出来んものは無いと同じになるからな。」


「今は出来るの?」

素朴な疑問。俺だって証明なんか出来ない。父さんは気乗りしない素振りで暫く思案していたが、俺にはウキウキしているのが解る。理系だから仕方ない。


「専門家程には知らんけど、

 確か大分前に出来るようになってるはずやわ。

 "生命の力"としか語られてなかったものが、

 生物の脳に影響する事が解って、

 オカルトや宗教とは違う事が証明されてる。

 空気中やら地中やら、多分海もな、

 世界の一部として巡っとるんやって。

 ……用語では"浮遊する生命原物質"やったか…。

 …なんか略称あったな。忘れたけど。」


 へぇ……浮遊……セイメイゲン物質…。

「それ、つまり…生き物なんかな…?」


「………。わかるんか。」


「え?」


「…や、なんとなく……。

 連盟は正確には"神衆連盟"ていうんやて。

 …まぁ消防みたいなもんか。近いのは。

 全国に幾つか拠点があるらしい。

 似たような組織や団体は他にもあって、

 自治体はどこと手を組むか自分らで決められる。

 だいたい近くの地域で纏まるんや。

 文吾町含むこの辺りは連盟が主力やな。」


 ?主力?

「…ふ〜〜ん…。

 けどさ、なんで学校で習わんの?」


「まぁな。けど能力が無かったら関係の無い話や。

 制度も教育と直接関係無いないとこの管轄やし、

 専門性の高いことは義務教育では、やらん。」


「でも、知らんと利用出来んやん。」


「親はちゃんと知ってる。

 子の出生時に、制度については一通り聞くから。

 …まぁ、祖父ちゃんの言う通り、悪用を防ぐ為に、

 早いうちに国に把握されるとも言えるな…。

 子供のうちは保護者に判断が任されてるんや。

 相談して適性を見てもらって、

 どうするかも家庭や個人の差で違ってくる。」


「どうするかって、何を?」


「そういう世界に踏み込むか、止めとくか。」


「……お狐様は、英雄みたいなことを…、

 なんか、俺がやってくれると思ったって…。」


「「あ〜〜〜。」」


分かった風に父さんと祖父ちゃんが、そっくりな相槌を打った。祖父ちゃんの方が少しダミ声だ。

「…あ〜って、何?何のこと?」


「それがな、よう説明せんのやわ。俺も。

 …連盟の人やないと…。」


父さんが祖父ちゃんに目線を送ると祖父ちゃんは険しい顔で答えた。


「あっちが言ってる事そのまま伝えたらええやろ。」


「…難しいな。父さん出来るなら父さん話してよ。」


「解るか、急に。何の勉強もしとらんぞ。」


「まぁ、そうやろね…。」


何やら二人でゴニョゴニョと相談していたが、やがて父さんがこっちを向いたと思ったら、よく聞いて、解らなければお狐様に聞くように、と変な前置きをしてから真面目くさって解説を始めた。


「さっき言った"生命の力"は神様だけやなくて、

 実際は妖怪とか精霊?も含まれるらしい。

 そうなると他の、霊力?とかを使う人達と、

 協力していく必要があるんやって。

 よくわからんけど、同じ危険があるらしくてな。

 重紀の持つ、見える、という能力は、

 かなり少ない、貴重な才能らしい。

 親も具体的な活動までよう知らんのやわ。

 個人情報が絡んで紹介するのも難しいんやと。

 …地元のことやから。」


「?」

いつもながら、父さんの話は遠回りで、ちょっと要点がわかりにくい…。


「とにかく、お前の曾祖父さんは、

 連盟で重宝されてる能力者だったんだ。

 同じ能力を引き継いどるなら、

 その、曾祖父さんのやっとった仕事をな、

 お前が代わりにやってくれんかと言う話だ。」


 …はぁ!?

いつもながら、祖父ちゃんは端的に言い過ぎるんだよ。なんでそんな事を押し付けられなきゃいけないんだ。なんだそれ急に。変だろ。

「俺、普通に高校通えないの!?」

驚いて少し反抗したら祖父ちゃんは"誰がそんな事言った!"と怒り出すし、俺は父さんから諌められるしで、やっぱり我が家は腹が立つ。疲れてイライラしてきているのも自分で解ってはいるのだけど、あんまりな話だ。


「そうやない。…お前ももう高校生やろ。

 自分で決める事や。俺等は何もよう言わん。

 英雄ってのは、この町の爺さん婆さんの中には、

 曾祖父ちゃんに助けられた人もおるからや。

 その人等には英雄やろ。間違いなく。」


「人助け?」


「そういう使い道もあって、

 曾祖父ちゃんはそうした。

 聞いた話じゃ、本当に珍しいらしいぞ。

 妖怪を見る子はおっても、

 神様を見る子は少ないって言ってたわ。」


「…なんで教えてくれんかったの?」


「それは、主に母さんの希望。

 普通の子として育てたいってさ。」


父さんに話の水を向けられて、何食わぬ顔で緑茶をおかわりしていた母さんが今日初めて自分の意見を言った。


「…別に、他と大して変わらん子やったから。

 独り言が多いのはそりゃ変わってるけど、

 違った子やとか特別やとか思いたくない。」


「…やとさ。」


「それ…否定してるってこと?」


「…ちゃんと話聞いて。

 普通に学校通えん子は、障害や病気や不調。

 普通に振る舞える子が特別扱いされるのは、

 優遇されるか、事情のある家庭ってことやの。」


「そうなの?」


「そういう風になる。だいたいね。」


「だいたいって…他の人はどうしてんの?」


「それが私、わからんから。

 赤ちゃんの発達から個体差は考慮されてるけど、

 物凄く珍しい体質とかやと情報も少ないんよ。

 住んでるとこで出来ることも限られる。

 ウチは特に優遇されたいわけではないし、

 ケアラーとかの事情があるわけでもないやろ?

 やったら、友達には普通に思われてる方がいい。」


「父さんもそう思う。

 周りの環境や友達関係も変わってくる。

 まだ自分で決められん時に親に決められるの、

 俺なら嫌やからな。絶対、後で暴れるわ。」


「…………。

 連盟でいいって決めたの、お父さんやで。」


父さんは再び母さんから厳しい目線を送られた。今度は何故か勝ち誇ったように鼻で笑ったが、一体何に勝ったのかは、眼鏡のせいか俺の不勉強のせいか、やはり全く読み取れない。


「文吾町は連盟やから。」


「それは、そんなもんや。」


父さんと祖父ちゃんは意見が一致しているようだ。


「祖父ちゃんと同じ能力ならその方がいい。」


父さんの根拠はそれらしい。


「…かもしれんけど、私はわからんから…。」


「まぁまぁ大丈夫。そんな心配しなくても。」


「…だって、な?ひいお祖父さん、

 ちゃんとしてたかって言ったら、怪しいやん。」


母さんが俺に言った。曾祖父ちゃんの孤独死の件が不安を煽ってしまったらしい。そしてどうやらそれが、改めて家族会議を開いた理由のように見えてきた。文吾町という自治体と協力しているのは連盟だけど、もしかしたら、俺は選べるのかもしれない…。

つまりこの会議は不信を抱いた母さんへの説明会だ。俺に決めさせるのが筋であり妥当だという考えは一致しているから、俺に直接聞いているのだ。

それはその通り、俺の決める事だ。但し当人の俺は全くの無知である。無茶だろ。祖父ちゃんじゃないけど、そんな急に言われて、決められると思った?

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