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防衛対策


「………。痕跡が残るのって、何でですか?

 エフは変化し続けるんじゃないんですか?」

何だか急に疲れてきて、その場にしゃがんで溜め息をついた。真面目に路上に戻る梅村さんを見上げながら素朴な疑問を投げかけてはみたが、こんな初歩的な内容に答えてくれるかは分からない。勉強しろと言われるだけのつまらないものの様に思う。

梅村さんはまた笑っている。今迄言えなかった理由を笑っているのか身の程を知らない俺を笑っているのかは解らない。ひとまず気まずく思っているのが俺だけなら良かった。


「そう。…俺は専門じゃないけど、

 なんだっけ、楔?蓬莱さんが言ってた例え…。

 高密度とか高濃度みたいな解釈されてる処とか。

 そういうのが動くと均一化に時間がかかる、

 みたいな説明をされたな。昔。

 そもそも俺に見えるレベルって強いんだよ。

 表象を持つものはだいたいソレだから、

 残ってるとは思った。

 けどまさか松尾君に反応が無いなんてな…。」


「そんな強い蛇だったってことですか?」


「そんなわけない。猫の方。ぶち猫の跡。

 …あ、蛇がまだ心配なんだ?」


「や、心配というか…本当に蛇なのかも…。」


「なんでもいいよ。元は似たようなものだから。

 兎に角ここの神寄せが警戒した以上、

 ソイツがのさばるのは難しい。

 本当にぶち猫に敵対するものなら、まず無理。

 文吾町はいわば本拠地だから、

 神寄せ本人の意識が味方するなら、

 その瞬間に…とっくに消えててもおかしくない。

 ぶち猫に見つかった時点で、

 敵は尻尾掴まれてまな板の上ってこと。

 ただ、規模を確認しないといけないのと、

 被害が続く可能性は残しちゃ駄目。」


「規模…。」


「変化し続けるモノだから、

 大規模だとそれだけで大問題。

 …予測も難しいから一大事だろうな。

 だから大小構わず規模の確認は欠かせない。

 俺達の家業は基本的に後手だからさ…。

 何かが起きてから把握してそれを断つ。

 予防は難しいんだけど断つことに関しては、

 今も昔も神様の力ほど完璧なものは無い。

 後は日頃の防衛対策くらいだけど……。」


急に珍しい物を見るように梅村さんの表情が変わった。何故か此方に近付いてくると、同じ目線の位置まで屈み込む。

「?」


「あのさ、そこらのおまじないの謎アイテムとか、

 御守りとか御札が本当に有効かは保証ないよ。

 あれはまた違った…、つまり偽物が多過ぎる。

 悪徳宗教が混ざって素人には区別つかない。」


「…梅村さんのとこではやってないんですね。」


「分家がやってる。分家とは仲良くなくて、

 やってけない。あんなの新興宗教だって…。

 …まぁ、ウチも色々あるんだよ。

 本物も勿論あるんだけど普通は見分けられない。

 結局は日頃からよく知ってる処じゃないとね。

 大体やたら万能を語るのは無責任な悪党。

 普段から其処に居て助けてくれる小さいのが、

 本物だと思った方がいい。お節介だろうけど。」


「……。わかりました。」

多分解っていないことが自分でも分かる話なのだけど他に返しようがない。俺が理解するにはこの世界の経験値が圧倒的に足りない。そんな気がする。


「まぁ助け合って生きてる実感なんて、

 そうそう解んないもんだよね…。

 ウチも色々って言ったけど、

 木根んちは家名が有名だから、尚更複雑でさ。

 この手の話は地雷だから避けた方がいいよ。

 …興味が無いならそれが一番いい。」


「…はい。」

木根さんの性格の話を聞いたら、その木根さんが自分よりたちが悪いと梅村さんの事を言っていたのを思い出したのだけど、取り敢えず怖い人ではなさそうだ。…単に酒癖が悪いのかな…。


「つか痕跡は分からないのに末端が見えるって、

 本当にどうなってんだろ…?

 ぶち猫は神寄せの眷属なのに…。」


「………。」

なんて言えばいいのか分からない。独り言だと分かっていても、自分の能力が他人を困らせているようで申し訳ない。一通り話し終えると梅村さんは立ち上がって伸びをした。そのまま肩を反らせて首の運動をしている。


「何か分かった?」


木根さんの声が聴こえて、道路と畑の境界で体操していた梅村さんの動きが止まった。

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