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霊能者


 我が家には庭を囲む形で沢山の植え込みが茂っている。夏には紫陽花、冬にはツツジ、その隙間をプランターや鉢植えの花々が埋めていて、舗装された通路と大きな庭石や砂利道以外のスペースには植物によって演出された恒久平和を思わせる不可侵の空気があった。優しい色合いと和やかな空気が満ちて其処だけが異世界の様な一画は、園芸を趣味にしている祖母ちゃんのセンスが存分に発揮されている。

そんな見慣れた庭が目の端に入るくらいにはウチに近い路上にしゃがみ込んで目線を低く保った姿勢の梅村さんは、俺の言葉を聞くと首を勢いよく上に振りあげて大きな声を出した。


「え!?俺が見えてんのに!?」


何か思っていた事と大きく違ったみたいなのだけど、俺には何も見えない。正直に言うしかない。

「何も無いです。道路があるだけで…。

 …ヒビ割れとか…そういうのは有ります。」


「それはある。ここでしょ?」


木根さんがコンクリートに出来たヒビ割れを埋めた黒いミミズの様な跡を足でなぞった。

「それです。」


「…どうなってんの…。」


梅村さんが口に手を当てて首を傾げている。その間に木根さんが蓬莱さんに声を掛けた。道端に停めた軽自動車の横に立ち、離れて見ていた蓬莱さんは何もかも分かっているみたいな含みのある笑顔で応えて近寄って来た。


「蓬莱さんて、観測出来ますか?」


「出来ません。方法が異なるので、

 観測とは呼べないと思います。

 …他の能力に振ってるのもあって、

 今更戻すと調子が狂うから断っています。」


「…陰陽道でしたよね。

 あれやっぱり技能者なんですか?」


「そうではないという考え方です。

 教えられた通りに話すと、相性が悪いとか。

 …私は陰陽師の先生に止められていることは、

 断るしかないので、技能者ではありません。」


「陰陽師の先生のお弟子さん、ですか。」


「そう呼ばせて貰えるなら、それに近いですね。」


「格好良いですよね、陰陽師。

 霊能者の花形みたいで。」


「先生はそうかもしれませんけど、

 私はまだまだ…。

 木根さんは十分花形でしょう。

 祈祷師も陰陽師も古代から活躍されてます。」


「いや、僕もまだ父についてる見習いです。」


「あら、確りとしてるのに。」


…どこか奇妙な感じだ。双方ともにこやかに会話しているのに、何となく空気が冷え冷えとしていて微妙に怖いのは何でだろう。持ち上げられたはずの木根さんはとても嬉しそうには見えない複雑な表情で口元に笑みを浮かべている。


「ライバル意識を煽るクレーマーみたいな事、

 あまり言いたくないんですけど…。

 こういう時、能力者と霊能者、

 どっちが使えるのかって、

 考えたことありませんか?」


「…解らなくもないですね…。

 でも私には立場がありますから。」


「あ〜…そっか。そうですよね。

 僕にはそれが曖昧で時々嫌になります。

 家を継ぐって、結局無能みたいだから…。

 いえ、すみません。あまりこういう機会なくて。」


「いいえ。…個人的な意見ですけど、

 有能か無能かを判断するのは、

 自分自身ではないと思ってます。

 謙虚に考え過ぎかもしれませんよ。」


「……。意外と大人しい考え方ですね。」


聴こえてきた会話にちょっとびっくりして俺は思わず霊能者二人の方を振り返った。しゃがんだまま道路を見つめて質問を続けていた梅村さんは俺の反応に気が付くと僅かに顔を上げたが、咎めるでもなく軽く笑うとゆったりと肩で息をした。


「木根は厳しいんじゃなくて、

 単純に偉そうな性格してるだけだから、

 普通に言ってる。放っときゃいいよ。」


「……。あ、そうなんスね…。」

 …そうか。六堂みたいなタイプの上位存在か…。

 周りの人達が大変そうだな…。


「それより、松尾君が標準的な能力だとしたら、

 神寄せっていうのは…何か……、

 本当に原初の能力者なのかなと…なるな…。」


先程から梅村さんはボソボソと独り言が多くなっている。俺には深く理解出来る内容ではないので、またもやイメージでしか語れないのだけど、どうやら見えるものと見えないものの境界が俺の場合はかなり特殊らしい。梅村さんにはこの道路上に黒っぽく滲んだ水墨画の様な跡が見えるという。似ているものはヒビ割れくらいかなとか思ったのだが、それは観測能力を持たない木根さんにも見えるごく普通の修復跡だったので、どうやら違ったようだ。


「……。蛇も猫も居ない…。

 や…そうか。光に見えたんだったな、その子。」


「?…あ、はい。」

梅村さんが言っているのは水池の事だろう。


「何処か光ってない?」


「え?」


「道路上、反射光みたいに。」


「??…それって、何処にでもありますよ?」

コンクリートの上が光って見えるのは、この季節なら珍しくもない現象だ。今日は特に日射しも強く、暑い。


「…だよね。……詰まったな。」


そう言うと立ち上がり、両手を腰に当ててまた首を傾げている。梅村さんと木根さんの目的がよく分かっていない俺には手助けのしようもない。

仕方なく蓬莱さん達の方を見てみれば、この道を対向から走ってくる車が見えた。後ろから車来てますよと声を掛けて軽トラを一台通すと、大人達は再び車道に戻る。家の前の畑に入ってやり過ごした俺は何となしに涼を求めて、庭と畑の境界に咲いた白と淡い青色の紫陽花を見ていた。

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